訳者まえがき 献辞 謝辞 序文 第1章 主要なテーマ 第2章 アナリストのバイアス 第3章 アナリストのリサーチレポートの分析 第4章 公表利益と予想利益の修正の重要性 第5章 予想利益の修正を利用した有望株の見つけ方 第6章 予想外の公表利益の修正 第7章 公表利益の修正を利用した投資法 第8章 「ザックス・ランク」――有望株を厳選する優れた銘柄選択ツール 第9章 ザックス・ランク投資法を効果的に実践する 第10章 アナリストの投資推奨を効果的に利用する 第11章 不人気株とアナリストの長期予想利益成長率 第12章 株式評価レシオ、予想利益の不確実度、「FedFedモデル」 まとめ 付録1 「www.zacksadvisor.com」の無料体験 付録2 ザックス・スナップショット・レポート 付録3 アナリストのデータの入手先 付録4 予想利益の不確実度に基づくダウ投資法
重要なデータは予想利益
多くの個人投資家は、アナリストのリサーチレポートのなかで最もバイアスのかかっているデータ(投資推奨)だけを重視し、その反対にプロの投資家が利用しているバイアスのない情報(予想利益)には目を向けていない。アナリストのリサーチレポートを正しく利用するには、アナリストが提供するどの情報を重視し、どの情報を捨てるのかを正しく学ばなければならない。重視すべき情報とは、アナリストの予想利益とその修正の推移である。以下ではアナリストのリサーチレポートに含まれている(買い/中立/売りという)投資推奨と予想1株利益について検討する。
投資推奨
アナリストのリサーチレポートの目玉は各株式の投資推奨である。しかし、その投資推奨の表現は多岐にわたっており、証券各社は独自に分類を行っている。一部の証券会社は最高で24種類の推奨用語を使っていたこともあるが、その後は「強い買い」「買い」「中立」「売り」「強い売り」という5つの用語を使うようになった。2001年後半から、大手証券各社の多くが売り推奨を出していないという投資家や関係者の強い批判に応えて、推奨分類をさらに単純化し始めた。その結果、大手証券各社は、最近では、「オーバーウエイト(Over-Weight)」「イコールウエイト(Equal-Weight)」「アンダーウエイト(Under-Weight)」というわずか3つの推奨用語に絞っている。
証券会社の多くは各株式の投資推奨に加えて、その株式(企業)が所属する産業の投資推奨も出している。例えば、同じリサーチレポートのなかで、マイクロソフトの投資推奨を「オーバーウエイト」としながら、同社が所属する「コンピューターソフト」産業を「イコールウエイト」とするケースもある。株式とその産業にはともにこれら3つの推奨用語が使われているが、多くの証券会社ではアナリストに合計9つの推奨用語の使用を認めている。
アナリストの投資推奨では、これらの簡単な用語に広範な調査分析の結果が凝縮されていると考えられるが、ここで問題になるのは、「10ページにわたる素晴らしいリサーチレポートの内容は分かった。ところで、わたしはその株式をどうすればよいのか」ということであろう。アナリストのリサーチレポートのなかでは株式の投資推奨がおそらく最も広範に利用されていると思われるが、その単純な理由は、それが一見して理解しやすく、しかも単刀直入に書かれているためであろう。しかし、だまされてはいけない。アナリストの投資推奨とは実は羊の皮を着たオオカミなのである。アナリストの投資推奨は「単純で単刀直入だが、それは常に間違っている」のである。事実、もし皆さんが2000年4月~2002年7月の2年半に、アナリストが最も強気だった株式を購入していれば、その損失率は何と47%にも達したのである。
キーポイント
アナリストの投資推奨を鵜呑みにすることは大きな損失につながる。アナリストのリサーチレポートのなかで、投資推奨は最も広範に利用されているが、本当はけっして利用してはならないものである。それは百害あって一利なしである。
売り推奨の出し渋りは何も今に始まったことではない
ウォール街の歴史始まって以来、アナリストのリサーチレポートを利用し続けてきた機関投資家にとって、こうしたアナリストによる売り推奨の出し渋りは何ら目新しいことではない。株式の暴落を招いた原因は、何も個人投資家がオンラインで売買したことにあるのではなく、むしろ機関投資家こそが強く批判されるべきであろう。つまり問題は、アナリストの投資推奨にバイアスがかかっていることにあるのではなく、むしろ個人投資家にその事実を知らせなかったということ、またはアナリストの投資推奨に含まれている誇大宣伝をうまく無視する方法を教えなかったということにある。
この問題をさらに増幅させたのは、個人投資家がインターネットを通じて簡単にアナリストの投資推奨を入手し、そうしたデータの正しい使い方も知らずにその内容を鵜呑みにしたことである。多くの個人投資家は、アナリストは弱気の投資推奨をほとんど出さないという事実を単に知らないがゆえに、アナリストの言う「中立」が、実は「売り」を意味することが分からなかったのである。スピッツァー司法長官の調査でも明らかになったように、証券会社のリサーチレポートとその投資銀行部門には本質的な利害の衝突が存在する。これがアナリストのリサーチレポートの性質に色濃く反映されており、その結果がアナリストによる売り推奨の出し渋りにつながっている。
証券会社(投資銀行部門)は取引先企業の株式を上場させ、公募増資を支援し、ディール(買収案件)に関するアドバイスを行うなど、それらの企業との取引の継続・拡大を望んでいる。そのために必要なものが、取引先企業は優良企業であると内外に公表するアナリストのリサーチレポートなのである。問題は、ジャック・グラブマンのような有名アナリストが、投資銀行部門の収益に大きく寄与するリサーチレポートの信頼性を著しく失墜させたことである。同氏は、企業買収を繰り返してきたワールドコムの株価を押し上げて同社がさらに買収をしやすい状況をつくり、それによって多額の手数料を確保しようと、過度に強気のリサーチレポートを出したと言われている。
たしかにそういう面があったことは事実であるが、証券会社のリサーチレポートとその投資銀行部門の利害の衝突が表面化するずっと以前から、実はアナリストの投資推奨には売りがなかったことはあまり知られていない。この問題は実は構造的なものなのである。実際、アナリストのヒストリカルな投資推奨を分類するとかなり一定の比率にまとまっている。ザックスがフォローしている4500以上の株式に対する約3万件のアナリストの投資推奨を分類したところ、何らかの売り推奨(「売り」「強い売り」など)は投資推奨全体の8.3%にすぎないが、この比率はここ10年間で最も高かった。過去10年間の大半を通じて、こうした何らかの売り推奨の比率は驚くほど低かったのである。
しかし、2001年半ば以降の下げ相場では、アナリストはもっと売り推奨を出すべきだとする政治的な圧力が強まって(弱気局面ではアナリストの売り推奨が多くなるのは当然であろう)、売り推奨の件数はわずかに増えている。もっとも、こうした政治的圧力とアナリストの自主性を尊重するという証券会社の言い分にもかかわらず、アナリストの売り推奨がこれから大きく増大するとは思われない。たとえ売り推奨の比率が上昇したとしても、それは一時的なものに終わるだろう。アナリストとバイアスのかかったその投資推奨に対する規制当局の監視の目が弱まれば、再び元の木阿弥になると思われる。証券会社にとって売り推奨を出すことは、失うことはあっても得るものは何もないからである。
キーポイント
証券業界に構造的な変化が起きても、アナリストによる売り推奨の出し渋りという現象はなくならないだろう。その原因はこの業界に深く根ざしたものであるからだ。またアナリストの投資推奨が株価を大きく左右するという状況が続くかぎり、それが証券会社(投資銀行部門)によって利用・操作されるという今の現状もあまり変わらないだろう。
証券会社の買い推奨リスト
多くの証券会社は、自社アナリストが選んだ有望株をバランスよく盛り込んだ15~30銘柄から成る「買い推奨リスト」や「コア銘柄リスト」を公表している。また投資家が実際に投資できるポートフォリオとして、買い推奨リストを出している証券会社もある。この種の買い推奨リストは、そのすべての銘柄を購入すれば適切な分散化が図れるようになっている。
ザックスは、過去10年間にわたってこうした証券会社のすべての買い推奨リストのパフォーマンスを追跡調査したが、その結果は一般に考えられているほど優れたものではなかった。表1.1は、証券大手15社の推奨銘柄のパフォーマンスを示したものである。さらにそれ以外のほぼ全期間について証券会社の買い推奨リストのパフォーマンスを調べたところ、S&P500のリターンを上回ったのは全体のほぼ半分、残りの半分はS&P500のリターンには及ばなかった。換言すれば、証券大手のトップ・アナリストが選んだ有望株のパフォーマンスは、これも運用期間のほぼ半分でS&P500のリターンを下回っている並みのミューチュアルファンド・マネジャーの成績とほぼ互角にすぎないのである。ここから得られる教訓は、アナリストとそのリサーチデータは多くの点で優れてはいるが、それによって株式の売り時や買い時を決めてはならないということである。株式売買の判断はほかの情報に求めなければならない。
キーポイント
アナリストはけっして有望株の優れた発掘者ではない。証券会社の買い推奨リストのパフォーマンスを見ればそれは明らかである。
株式の売買時を決定するときにアナリストの投資推奨を参考にしてはならないが、そのリサーチレポートには有益な情報も含まれている。そのひとつはアナリストの予想利益である。各企業は四半期ごとの業績を発表するが、アナリストの予想利益は、その企業の業績をベースとしているのでかなり客観性がある。つまり、アナリストの予想利益は投資推奨よりもかなり客観的な数字であると言えるだろう。
キーポイント アナリストの投資推奨にではなく、予想利益に注目すべきである。それは客観性が高く、しかも投資家にとって多くの有益なデータが含まれている。
大切なことはアナリストの行動を予測すること
アナリストのリサーチレポートを利用するベストの方法は、そこに盛り込まれている情報を単に参考にするのではなく、アナリストが今後どのような行動に出るのかを予測することである。この2つははっきりと区別する必要がある。これを踏まえて知らなければならない最も重要なことは、リサーチレポートが発表されてから1~2カ月以上経てば、データはすでに株価に反映されているということである。
モルガン・スタンレーのアナリストが現在の株価でゼネラル・エレクトリック(GE)株を買い推奨したとしても、そのベストのチャンスは以前のGE株であり、現在のGEの株価はこの情報を反映してすでに急騰し始めているかもしれない。アナリストのリサーチレポートに反応するには遅すぎるのであり、GE株はすでに離陸している。そうであれば、アナリストがある株式の投資推奨を格上げまたは格下げしたあとではなく、その前にその株式を買いまたは売りたいと思うだろう。アナリストの投資推奨の修正を予測することは難しいが、(あとで検討するように)けっして不可能なことではない。多くのアナリストが投資推奨を格上げした株式はそれから1カ月間は上昇し、逆に格下げした銘柄は下げることが多い。これについては、「コンセンサス投資推奨スコア」を紹介する第10章で詳しく検討する。
アナリストの投資推奨の修正を予測することはたしかに簡単ではないが、その予想利益の推移を分析すれば、その投資推奨がどのように修正されるのかについてはだいたいの予測がつく。予想利益が上方修正された株式を買い、その反対に下方修正された株式を売ることで、株価を大きく左右するアナリストと大口機関投資家の将来の行動に先回りして株式を売買することが可能となるだろう。
キーポイント アナリストが作成するリサーチレポートとその予想利益の修正を併せて検討すれば、アナリストの将来の行動を予測できる。
キーポイント
アナリストのリサーチレポートを最も簡単にそして最大限に利用するには、その予想利益の推移に注目することである。それにはコンセンサス予想利益の推移をフォローするのがベストである。
アナリストの予想利益は本当に有効なのか
ディスカウント・ブローカーを通じて購入できる約9000のアメリカ株式のうち、約3300銘柄(時価総額が1億ドル以上)については、少なくともひとりのアナリストがその予想利益を公表している(注)。
(注 本書の図表で使われているデータは、企業の存続・消滅などの影響を除去するために調整されている。これにより、ある企業が倒産または他社に買収されても、その株式を購入することが可能であるという前提に立っている。このように、本書の数字には存続企業以外のデータも含まれている)
コンセンサス予想利益の推移を追跡調査するため、毎月この3300銘柄を5つのポートフォリオに分類し、アナリストたちが前月からその予想利益をどのように修正したかの度合いに応じて、各ポートフォリオに同数の株式を組み込んだ。最初のポートフォリオは「予想利益が下方修正された」株式のポートフォリオで、それらはコンセンサス予想利益が前月から最も大きく引き下げられた660銘柄である。コンセンサス予想利益が前月から下方修正されたということは、その企業をフォローしている多くのアナリストがその予想利益を引き下げたことを意味する。このポートフォリオの株式は、コンセンサス予想利益が前月から最大で3%以上下方修正された銘柄である。
これに対し、5番目のポートフォリオは「予想利益が大幅に上方修正された」株式グループである。このポートフォリオには、前月からコンセンサス予想利益が最も大きく引き上げられた660銘柄が組み込まれている。これらの株式はアナリストたちが予想利益を上方修正した、つまりコンセンサス予想利益が引き上げられた銘柄である。このポートフォリオの株式はコンセンサス予想利益が前月から平均で1%以上上方修正されたものである。このポートフォリオに含める条件の1%以上という上方修正率は、最初のポートフォリオの条件である3%の下方修正率より小さいが、その理由は、最近では予想利益の下方修正が上方修正よりも多くなっているからである。
これらのポートフォリオにそれぞれ同じ金額を投資し、毎月そのリターンを追跡調査してみた。1987年10月~2002年9月までの15年間にわたってそのパフォーマンスを調べたところ、最初の「予想利益が下方修正された」株式のポートフォリオのリターンは全期間を通じて-4.2%(年率)となった。これに対し、「予想利益が大幅に上方修正された」株式のポートフォリオのリターンは年率平均で+20.1%に上った。図1.3は、この5つのポートフォリオのリターン(売買手数料は含めない)を示したものである(ポートフォリオの銘柄入れ替えが頻繁に行われると、売買手数料がかなり大きくなるので注意が必要である)。その結果は一目瞭然であり、予想利益が上方修正された株式は前月よりも上昇しているのに対し、下方修正された株式は前月よりも安くなっている。
キーポイント
コンセンサス予想利益の修正はアナリストの投資推奨よりも、将来の株価を予測する大きなシグナルとなる。
こうした事実を踏まえれば、次のルールに従うべきであろう。