ヘッジファンドの売買技術 目次

日本語版への序文                                                              1
謝辞                                                                          9
序文                                                                          11
テクニック1 基本トレード――ギャップの利用                                  15
 システム1 ギャップ埋め/システム2 値下がり日翌日のギャップ埋め/
システム3 5%ギャップ/システム4 マーケットギャップを伴った5%ギャップ/
システム5 ギャップアップの売り/システム6 ギャップのスイングトレード

テクニック2 QQQとSPYのスプレッド差を利用した片側ペアトレード                39
 QQQ−SPYペアを使った片側ペアトレードシステム/例/結論/
付録 片側ペアトレードシステムのプログラム

テクニック3 倒産銘柄を買う                                                  67
 例

テクニック4 TICKの利用                                                      73
 日中TICKシステム/日中TICKシステムの応用――軽度のパニックへの対策/結論

テクニック5 トレードバンドを使ったシステム                                  87
 ボリンジャーバンドシステム1/
利益目標を設定した短期ボリンジャーバンドシステム/空売りはどうか?

テクニック6 5ドル以下の株                                                  99
 例/5ドル以下の株の買い/結論

テクニック7 スロータートル                                                  107
 タートルシステム――筆者バージョン/例/そのほかの応用例/結論

テクニック8 QQQクラッシュシステム                                           123
 例/基本のQQQクラッシュシステムを使ったシミュレーション/株式運用への応用

テクニック9 連銀相関モデル(およびイールドの面白い使い方)                  139
 債券配分トレード/ジャンクボンドを手放してはいけない/結論

テクニック10 指数からの除外銘柄                                              147
 例/データの研究/結論

テクニック11 200日移動平均線について聞きたくても聞けなかったこと             163
 トレーディング・システム/1日〜200日移動平均線システム/結論

テクニック12 四半期末、月末、月足の包み足                                    171
 四半期末の神話/月末パニック/月足チャートの包み足

テクニック13 10%ダウン――パニック初級                                      179
 10%の下落/極端な騰落ライン/結論

テクニック14 オプション満期日の利用                                          187
 OEDシステム1――トレンドに逆らうべからず/OEDシステム2
――トレンドに逆らうべからず(パート2)/OEDシステム3
――ナスダックの空売り/結論

テクニック15 究極の転換社債アービトラージ                                    197
 優先株アービトラージシステム/リスク/例――SEE/SEE-A(シールド・エアー)/結論

テクニック16 日中ボリンジャーバンド                                          205
 5分足ボリンジャーバンドシステム/例/パニックで儲ける/
5分足ボリンジャーバンドシステムの運用結果/結論

テクニック17 吉報には4がつく(「4」はマジックナンバー)                    217
 4日下落/4日上昇したら空売り(推奨しないシステム)/
4日上昇したら空売りして1%の利益を目指す/4%ブレイクアウト/結論

テクニック18 水曜日の反転                                                    229
 水曜日に起こる週なかばの長大線での反転/週なかばの反転を狙ったワイドレンジ・
システムによる株式運用/長大線で水曜日に反転したときの空売り/結論

テクニック19 うまくいかないテクニック                                        249
 直感/確認/ローソク足のパターン/季節性/低PER、高PER/オプションの売買/結論

テクニック20 推薦図書                                                        259

監修者あとがき                                                                272

■日本語版への序文

 本書を執筆したそもそものきっかけは、日本にある。下のようなチャートは、世界中のどのマーケットにも起こり得ることであり、それは経済規模が大きかろうと小さかろうと、株式市場であろうと金属市場であろうと変わらない。そして、このような状況でも利益を上げるためには、アノマリー(異常)を見つけ、それを利用する必要がある。理想の世界であれば、投資家は調査をして有望な会社を買い、十分な引退資金が貯まるまで保有し続ければよい。しかし、日本のチャートは、われわれのマーケットが理想の世界ではないことを示している。
 日経平均は1990年に4万円近くまで上昇したが、そのあと15年に及ぶぶ下げが始まり、現在でも1万〜1万2000円の水準に止まっている。日本のマーケットが反発の兆しを見せるたびに、せっかくのアップティックは跳ね返されて新安値を更新している。もちろん、このわずかな上げを利用して巨大な利益につなげることも可能だが、そのためにはまだ上昇している間に逃げ出すための洞察力がいる。
 もちろん、筆者は世界第2位の日本市場を批判しているわけではない。むしろ、これがマーケットの真実の姿なのだと思う。マーケットは下落する。ときには、すべてのエコノミスト、マーケットアナリスト、テクニカルアナリスト、投資家、退職者、それ以外のマーケットに賭ける人々の期待を打ち砕くほど下げる。
 しかし、ほかに資金を投じる場所はない。日本の金利は史上最低のゼロ%で、米国金利だってそう変わらない。世界中のマーケットでひとつだけはっきりしていることがある。市場参加者の大部分を支配しているのは恐怖と欲望であり、それがもたらす不合理な行動がほんのわずかではあるが利益につながる統計上のアノマリーを生むということである。このようなアノマリーは世界中どこでも共通しているときもあれば、マーケットによって違うこともある。後者の場合は、利用したいマーケットの特性に合わせてシステム開発とテストを行わなければならない。
 ヘッジファンドマネジャーは、このようなアノマリーを利用してトレードを行うために相関性のないテクニックを組み合わせたポートフォリオを作っている。本書が、読者自身のテクニックのポートフォリオを作り上げるための第一歩になることを心から願っている。

ジェームス・アルタッチャー

■監修者あとがき

 本書は、リターンの出力において、互いに相関性をもたないトレード手法を多数取り上げることで、あらゆる局面で収益を上げることを狙った運用の解説を試みた“Trade Like a Hedge Fund”の邦訳である。システマティックリスクを極力取らずして利益を上げることは、多くのヘッジファンドが掲げているゴールのひとつであるが、個人投資家にとっても大変興味ある事項でもある。
 さて、すでに周知のとおり、ヘッジファンドの規模は世界中で近年急激に拡大してきており、さまざまなマーケットでその影響力は無視できないものになっている。もちろん、一口にヘッジファンドといってもその運用手法はさまざまであるが、ほとんどの場合、彼らが実際にどんな運用を行っているのかについては、一部の業界関係者を除いては、厚いベールに被われて知ることができないのが実情である。なぜなら、ほとんどのヘッジファンドは小規模で限られたメンバーで構成され、また伝統的な運用機関と異なり、その詳細を一般にディスクローズする必要がないからである。
 だが彼らに共通して言えることは、どのヘッジファンドも他者にはないエッジ(優位性)をそれぞれ持っているということである。例えば、私が籍を置くヘッジファンドの場合は、メンバーは皆金融機関出身ながら、設立の母体が情報通信関連のベンチャー企業であるがゆえに、マーケットにおける各種情報の取得、分析、加工、トレード戦略の取捨選択と実行、リスク管理、あるいは非線形の人工知能モデルの開発や適用、また、それらを統括して高速かつスムーズに運用するシステム設計がいとも簡単かつ安価に実現できる環境にある。そして、その事実は、計り知れないほどのエッジを私たちにもたらしている。  具体的に言えば、伝統的な運用機関では、想像することすらできなかったエリアにα(超過収益)を求めることが可能になったのである。この圧倒的な力量の差によって、もはや私たちが機動力において他者に遅れをとることはあり得ない。状況の変化に対する迅速な対応は、21世紀の技術革新の賜物である。
 さてこのように、ヘッジファンドにかぎらず、トレードにおいてはだれしも、他者とは違ったエッジを持つ必要があるが、本書ではこれまでの類似書とは視点が異なった解説がいくつかなされている。そのなかには私が自分の運用で実際に使用しているものもあり、読者におかれては繰り返し読み込まれることで、多くのヒントを得ることができると思う。他人と異なったアプローチをとること、そしてマーケットにおいて常に少数派でいることは、個人投資家の場合でも大切なことである。
 最後になったが、本書の翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。井田京子氏、西村嘉洋氏、には、丁寧な翻訳をしていただいた。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が出版される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏の慧眼に負うところが大きい。

 2004年11月

長尾慎太郎

■序文

 本を執筆していると顧客やパートナーに最初に伝えたとき、ほとんど全員が少なからず憤慨した。自身も優れたヘッジファンドマネジャーである顧客のひとりなどは、有益な調査結果は公開すべきだと聞いて怒り出し、パートナーのひとりはいくつかの章を読んだあと、この本が出版されたら全部買い占めて大きな焚き火をすると宣言した。もちろん、筆者自身も投資本を読むたびに、それほど良いシステムなら自分で大儲けをすればよいわけで、なぜ本など書くのだろうと思ってきた。

 これにはいくつかの答えがある。ひとつは、本書を執筆するために行った研究を通して筆者自身、多くを学んだことだろう。もちろん紹介したシステムは何年にもわたって実際に使用してきたものではあるが、どんなシステムにも新しい調整や工夫が必要になってくる。筆者自身もシステムトレーダーではあるが、どれほど成功したシステムであっても、それに任せておけばお金を生み続けるなどということはあり得ないと思っている。すべてのシステムは、常に点検して新しいロジックを足したり、古くなった選択肢を削除したりしながら開発し続けていく必要がある。本書のために試した新しい工夫は、この数カ月間に実際に新たな利益を生んでいる。恐らくこれほど集中して調べなければ、得ることのなかったお金だと思う。システム開発も、トレーディングも、常に進化している。成功するシステムトレーダーを生むのはシステムそのものではなく、開発を続ける過程なのである。

 本書で紹介したシステムやパターンを規律を持って使用すれば、恐らく成功はするだろう。しかし、これはあくまでさらなる研究の足がかりでしかないということを覚えておいてほしい。マーケットはとても大きな世界で、そのなかには非効率的な部分がたくさん潜んでいる。そして、それらは常に変化している。本書はこのような部分をさらに探し出すためのよいスタートになるだろう。しかし、読者にとっての最終的な成功は、自分自身でこの非効率部分を見つけだすことができるようになることなのである。

 筆者は、システム開発者やトレーダーや研究者との情報交換を好んで行っている。システムを共有するとその価値が下がるという意見をよく聞くが、これには賛成できない。毎年、何兆ドルもの資金がマーケットに投じられる。そして、トレンドフォロー型やカウンタートレンド型(逆張り)のトレーダー、バイ・アンド・ホールドのミューチュアルファンド、直勘で勝負するデイトレーダーなど、何千というタイプのトレーダーやシステムトレーダーがいる。これは、どのようなシステムや手法を使ったとしても、反対取引をしたがる相手が必ずいるということを意味している。共通の関心を持つ仲間とアイデアを交換することは、相手から学ぶチャンスでもあり、まさに「与えよ、さらば与えられん」ということだろう。

 そして、本を書く最後の理由としては、書くのが好きだからということを挙げておく。筆者が書いたものを読んで喜んでくれる人がいれば、とても嬉しい。

 次に、この本の使い方について書いておきたい。どんなシステムもマーケットの聖杯になり得ることはないし、ひとつの銘柄だけでお金持ちになることもできない。バイ・アンド・ホールドの投資家と同じように、ヘッジファンドのトレーダーも分散投資に頼っている。ただ、相関性のない銘柄に分散するのではなく、相関性のないシステムに分散しているという点が違っている。ひとつのシステムの成功がほかのシステムの成績に依存していない、いわばシステムのポートフォリオを組むことが、資産額の変動をスムーズにする最もよい方法になる。

 本書で紹介したシステムのほとんどは、ウエルスラブというシミュレーション・ソフトウエアを使って開発したもので、これは非常にお勧めのパッケージだと思っている。このソフトウエアは、http://www.wealth-lab.com のサイトから入手することができ、付属のパスカルに似た言語で高度なトレーディングシステムを組んだあとは、それを指数や複数銘柄で簡単にテストできるようになっている。質問に対するサポートデスクの対応も迅速だし、開発者で作るウエブ上のフォーラムを覗けば、初めて自分のシステムを組むときの参考になるだろう。

 マーケットに関するテストやリサーチには、科学的なアプローチが欠かせないが、それと同じくらいアート的な要素も必要になる。言い換えれば、結果がすべてではない。500回中500回うまくいったのは、開発者がシステムをデータに合わせてカーブフィットしたのかもしれない。どのようなシステムを使うときでも、必ず「なぜこのシステムはうまくいくのか」「どのような群衆心理がこの結果を生んだのか」ということを考えてほしい。

 マーケットでは、非効率な部分でのみ利益を上げることができる。そこで、大勢の賢い人たちがこの部分を探し回っているうえ、このような部分は発生してもすぐまた消えてしまう。一年を通じて、あるいは何十年にもわたって利益をもたらしてきた非効率部分は、実は投資家やギャンブラーに近い人たちを世界中のマーケットに駆り立てる恐怖と欲望に深く根ざしている。この事実を知っておくことで、データマイニングやカーブフィッティングの罠を避け、自分自身のアイデアを基にしたトレードができるようになるだろう。

■テクニック1 基本トレード――ギャップの利用

 ギャップトレードは、多くのデイトレーダーやヘッジファンドにとって欠かせないテクニックであり、この方法のみ行っているデイトレーダーも少なくない。彼らは9時25分ごろコーヒーとニューヨーク・ポスト紙を手にデイトレーディング会社(高速コンピュータを備えたデイトレーディングの場所を貸す会社)にやって来て席に落ち着くと、ギャップアップ(窓空きの上放れ)かギャップダウン(窓空きの下放れ)になっている銘柄を探し、フェイド、つまり反対トレードを行う。前日の終値に戻すまでギャップアップなら売り、ギャップダウンなら買うのである。5回トレードして4回儲かり、今日はもう手仕舞って映画にでも行こうかと浮かれていると、最後のトレードだけがギャップの方向のまま突き進んでそれまでの利益を吹っ飛ばし、さらに搾り取られることになる。  これから紹介する調査結果とシステムは、ギャップトレーダーの成功率を上げるうえで参考になるだろう。重要なのは通常以上の確率で反対トレードすべきギャップなのかを見極めることで、そのためには1回ごとのトレードについて調査と試行錯誤を重ね、実際に数字に裏打ちされた判断を下せるようになる必要がある。そして、これがほかのデイトレーダー志望者に差をつけ、ギャップトレードで成功するカギになるだろう。  ギャップは、前日の終値より低く(あるいは高く)始まったときに生じる。例えば、2001年10月10日のQLGC(Qロジック)は27.98ドルで引け、翌日、ギャップアップの29.45ドルで始まると、そのまま上がり続けて34.24ドルで引けた。これは、前日の終値には戻らず「ギャップが埋まる」こともなかったケースで、もし寄り付きで売っていれば17%の損失という悲惨な結果になっていただろう(図1.1参照)。

 注 特記していないかぎり、シミュレーションのトレード金額は10万ドル単位になっている。

 ギャップトレードを始める前に、「ギャップは通常、埋まるものなのか?」という質問について考えてほしい。そして、その答えからいくつかのトレード戦略を組み立ててみよう。

 システム1 ギャップ埋め

 まず、基本的なギャップ埋めの手法を試してみよう。

●始値が前日の終値を2%を下回ったら買う。 ●前日の終値まで戻したら売り、戻さなければ終値で売る。  テスト 1999年1月1日から2003年6月30日までの、すべてのナスダック100銘柄(除外銘柄を含む)。

 結果 表1.1参照。悪い結果ではないが、トレードするほどでもない。1トレード当たり0.58%というのはナスダックやS&P先物としては素晴らしい結果だが、手数料やスリッページ(注文価格と執行価格の誤差)の割合が大きい個別銘柄のトレードにおいてはぎりぎりの利益でしかない。  このシステムは下げ日の翌日に限ると、結果がやや改善する。これは恐らく前日の下落である程度利益の出ている空売り筋が、ギャップによって生じた追加利益を確定しようとしたためではないかと考えられる。

 システム2 値下がり日翌日のギャップ埋め

 ルールはシステム1とほぼ同じだが、今回は2%以上のギャップがあるだけでなく、前日に対象銘柄が値下がりしていた場合に限って買うことにする。

 結果 表1.2参照。1トレード当たりの平均リターンは0.58%から0.75%に向上し、まずまずの改善が見られる。ただ、5000トレードの平均リターンが上がれば利益は増えるものの、時には0.40%以上にもなる手数料とスリッページを考えれば、やはり十分とは言えない。  そこで、次は2%のギャップダウンより利用価値の大きい5%を試してみよう。

 システム3 5%ギャップ

●値下がり日の翌日で、始値が前日の終値より5%低ければ買う。 ●前日の終値まで戻したら売り、戻さなければその日の終値で売る。

 結果 表1.3参照。やっと試す価値のあるシステムに近づいてきた。ただ、利益率の高いトレーディングシステムにするためには、もうひとひねり必要だろう。これまでのところ、平均的に見てギャップが埋まることのほうが埋まらないことより多く、状況が悪い(下げ日の翌日で2%ではなく5%のギャップダウン)ほうが若干よい結果が出ている。もし、マーケット全体がギャップダウンになると、どうなるのだろうか。

 システム4 マーケットギャップを伴った5%ギャップ

●値下がり日の翌日で、始値が前日の終値より5%以上低く、QQQが少なくとも0.5%以上ギャップダウンになっていれば買う。 ●ギャップが埋まれば売り、埋まらなければ終値で売る。  例

 RFMD(2002年6月26日)

 この日、マーケットはダブルパンチを浴びていた。前日夜にインテルが収益に対する警告を発表し、当日朝には予想を大幅に下回る消費者信頼感指数が発表されたからである。そもそもこの日は、翌月の7月24日に大安値を付けてクライマックスを迎えることになるデススパイラルの真っただ中だった。しかし、少なくとも6月26日だけはマーケットが反発したため、ギャップダウンでの買いは図1.2のとおり大きな利益につながった。図1.2の日足チャートの中心にある6月26日のローソク足が示すとおり、25日は下げて25.46ドルで引け、26日はそれより約4%低い24.43ドルで始まっている。  図1.3のRFMD(RFマイクロ)は6月25日に6.44ドルで引け、翌朝5.70ドルで寄り付いた。買い方にとっては悲惨な結果で、世界の終わりだと思っていたら、それでもまだ最悪の事態にはいたっていなかったという気分だったろう。しかし、始値で買って前日の終値である6.44ドルまで戻したとき(つまりギャップが埋まったとき)に売れば、12.98%の儲けになっていたのである。

 例――YHOO(2002年7月11日)

 この日、QQQは23.76ドルで始まった(図1.4)。前日の終値が23.90ドルだったので、これは0.5%を若干上回るギャップダウンになっている。一方、YHOO(ヤフー)は前日終値の12.19ドルより下げて11.15ドルで始まった。実は、同社は7月10日の取引終了後に収益予想を上回る決算報告を発表したのだが、株価は上がらなかった。このニュースにマーケットは明らかに失望しており、2002年後半の回復に期待するものの、そうなる可能性は低い。  図1.5から分かるように、7月11日の始値で買って翌日の始値である12.79ドルで売れば、14.71%の利益が出ていた。この日も7月24日まで続くことになる急激な下げ相場の最中ではあったが、正しい機会を探し当てることができれば買いで利益を出すことも可能だったことが分かるだろう。

 5%ギャップのシミュレーション

 1999年3月10日(QQQの開始日)から2003年1月1日まで100万ドルの資金を1トレード当たり資産の10%の金額で運用した結果が表1.4 (除外銘柄を含むナスダック100の全銘柄)に示してある。このシミュレーションの利益曲線(図1.6)を見ると、1999年にはほとんどトレードを行っていないことが分かる。面白いのは、これが買いのみの戦略であるにもかかわらず、マーケットが最も極端に下落したとき(図1.6のバイ・アンド・ホールドのグラフ)に利益曲線が突出していることで、ベアのときは売る以外ないという神話がまったくのでたらめだということを、この戦略は示している。  また、年間リターン(図1.7)は平均リターンが28.32%、シャープレシオは1.29になっている。

 多くのファンド・オブ・ファンズが、ブル相場とベア相場の両方でリターンをスムーズにするためにロング・ショート戦略を採用している。こうしておけば、ブルのときにはロング部分がショート部分およびマーケット全体(想定アルファ値)のパフォーマンスを上回り、ベアのときにはショート部分がロング部分を大きく上回ることが期待できる。しかし、ここに示した戦略は、ロング・ロング戦略でもロングのポジションを分散すればブルとベアの両方に対応できることを示している。システム5はその一例として、ギャップダウン売りの逆に当たるギャップアップの売りを見てみよう。

 システム5 ギャップアップの売り

 2001年10月10日のQLGCのケースでは、ギャップアップの売りはうまくいかなかった。そこで、今回は次のルールでギャップアップの空売りシステムを組んでみることにする。

●値上がり日の翌日に、QQQが最低0.5%、対象銘柄の株価が5%以上ギャップアップになっていれば空売りする。 ●株価のギャップが埋まれば(前日の終値で)買い戻し、そうでなければその日の終値で買い戻す。

 結果 表1.5を見ると、1トレード当たりの平均リターンは−0.56%で、素晴らしい結果とはとても言えない。ベア相場のときでさえ、熱狂の対象(「根拠なき熱狂」などと呼ばれることもある)の空売りは投機家にとって割りの合わないトレードと言えるだろう。

 システム6 ギャップのスイングトレード

 ギャップトレードは、ギャップが埋ったら必ず手仕舞わなければいけないわけではなく、むしろできるだけ保有したほうがよい。スイングトレードとデイトレードにはそれぞれ利点がある。1日以上ポジションを保有すれば、取引コストを抑えることができるうえ、オーバーナイトでギャップアップになれば利益も増える。しかし、夜間のポジションにはリスクも多く、すべて現金にしておいたほうが安眠はできる。  システム4のポジションを翌日まで持ち越すことができるようにするだけで、利益率は大きく改善する。これをシステム6とすると、ルールは次のようになる。

●値下がり日の翌日で、始値が前日の終値より5%以上低く、QQQが少なくとも0.5%以上ギャップダウンになっていれば買う。 ●少なくとも買った翌朝までは保有する。 ●前日の終値より下がれば売る。  例――CIEN(2001年4月17日)

 このCIEN(シエナ)は16日に51.51ドルで引け(図1.8)、翌日はギャップダウンの48.11ドルで始まったあと反転して53.09ドルで引けた。18日はギャップアップで始まり、結局20日まで2日間連続して上昇した。しかし、20日の始値は前日終値の67.30ドルより低い67.09ドルだったため、その価格で手仕舞って38.22%の利益になった。

 シミュレーション

 表1.6を見てほしい。1999年のトレード数はさほど多くなかったが、2000〜2002年になるとマーケットが低迷するほどギャップのスイングトレードシステムの資産曲線は上昇している(図1.9)。

ドローダウン分析(ドローダウンは失敗トレードによる資産の下落額または下落率) ドローダウン(図1.10)は2000年の4月と年末(最初の金利引下げ直前)、そして2001年9月11日直後の週を除けば比較的おだやかに推移している。

 最高資産額分析 資産額は、2つのケースを除いて3カ月以内に最高額を更新している。2つの例外ケースでは、更新するまでに最高で5カ月かかっている(図1.11参照)。

 シミュレーションの年間リターン 平均的な投資家にとって、ギャップは大きな不安の種になる。例えば、収益に関する警告が出たことでギャップダウンが生じると、たいていはまずパニックに陥る。マーケットが開きニュースが浸透してそれが分析される前に、パニック売りをしようとしてギャップを作ってしまうのである。つまり、このような行動は不合理であることが多いため、長期的に見ればこれを利用して利益につなげることも可能になる(図1.12参照)。

■テクニック19 うまくいかないテクニック

 読者の多くは、本書以外にもさまざまな投資関連の本を読んで、そのなかで推奨する「マーケットを打ち負かす」ためのシステムやテクニックを見てきたと思う。筆者にもお気に入りの本があるので、それをテクニック20で紹介しておく。ただ、これをどう使うかは読者の判断に任せたい。人はそれぞれ独自のスタイルやアプローチを持っており、そこには何らかの裏づけがある。筆者自身は、どの分野においてもトップ1%を目指すのであれば、その分野の歴史、科学、技術に関する知識が必須だと思っている。  ボビー・フィッシャーのチェスの腕前は、13歳ですでに平均以上に達していたが、それでも将来世界チャンピオンや史上最強のプレーヤーと呼ばれるようになるほどだとは思われていなかった。しかし、それから約1年間人前から姿を消したフィッシャーは、1800年代末の20年間世界チャンピオンの座にあったウィルヘルム・スタイニッツの試合を徹底的に研究した。なぜそのようなことをしたのだろう。スタイニッツの試合はテクニック面においては、すでに時代遅れで、序盤の指し手はフィッシャーがまだティーンエージャーだった1950年代の試合でさえほとんど使われなくなっていた。それでも、スタイニッツの試合内容を研究し、これまで指摘されていなかった欠陥を探したり、テクニックを細かく分析することで、フィッシャーは15歳にして史上最年少の全米チャンピオンおよびグランドマスターに上りつめる実力を急速につけることができたのだった。さらに彼は(当時の)ソ連で発行されていた『64』という雑誌に掲載されていたロシアのグランドマスターによる最新の序盤理論を読むため、独学でロシア語も習得していた。チェスの歴史の科学的な分析と最新テクニックの徹底的な研究を組み合わせることで、フィッシャーは15歳以降、恐らく現在でもライバルをはるかに凌ぎ、だれにも手の届かない高みに上りつめた。精通するというのは、こういうことだと思う。  チェスはあくまでゲームであり、うまくなっても大して儲かりはしない。それに、大人になるとゲームの楽しさに勝るチャレンジがたくさん出てくることも多い。もし、自分や家族や顧客のためにお金を儲けるのであれば、そこには無限の競争が待っている。世界中にいる何千人という投資家が、日々あなたのお金を狙っているのである。投資がゼロサムゲームかどうかという議論は別にして、ライバルにしてみれば、あなたがお金を失い、自分が儲かることを望んでいる。あなたが破滅したとしてもだれも気にとめず、ほかのだれかが取って代わるだけ、そうやって毎日たくさんの投資家が消えていく。ヤフー!の掲示板は、このような人たちで溢れている。ノーベル賞受賞者やそれ以外の成功者も投資に目を向けるが、結局はうまくいかないことを思い知ることになる。  本書では、これまで筆者が使ってきたテクニックのなかで、これからも自分自身と顧客のために使っていこうと思うものをいくつか紹介した。しかし、これらを採用するまえに、読者自身がこれを徹底的に調べ、実際のトレードを含めてテストするよう強く勧めたい。もちろん、これらのシステムがテストに耐え得るものであるという自信はあるが、同様に読者が自分のアイデアも試して何がうまくいかないかを学ぶのもまた重要だと思う。筆者も、有効なテクニックやパターンのテスト結果を詳細に記録し、目録をつけてデータベース化しているが、うまくいかなかったパターンやアイデアについても記録をとってある。そのいくつかを紹介しよう。

 直感

 「マーケットはこれから下げそうな気がする」と言われたのに上がると直感して買うと、魔法のように上昇し始めた。投資のビギナーが最高の気分を味わうときだろう。しかし、これが「ビギナー」の話だということに注目してほしい。直感にたよるというテクニックは、けっしてうまくはいかない。これで成功した人はいないし、歴史上最もテープ解読がうまかったジェシー・リバモアでさえ、最後は破産して自殺してしまった。もちろん10回中9回成功することはある。しかし、信じられないほどうまくいったとしても、10回目ですべてを失って、すっからかんになるのは間違いない。もし、投資するよりブローカーとしゃべるほうが多いという投資家がいたら、そのブローカーが直感でトレードしているかどうかを考えてみてほしい。個人的にブローカーに恨みがあるわけではないが、1900年代初期に書かれたエドウィン・ルフェーブルの『ザ・メーキング・オブ・ア・ストックブローカー(The Making of a Stockbroker)』を読めば、その実体がよく分かるだろう。直感でトレードしてはいけないし、そういう人たちの言うことに耳を貸してもいけない。

 確認

 本書で紹介したテクニックの多くは、株やマーケット指数が下げれば買い、上げれば空売りしたり売ったりする。つまり、安く買って、高く売るのである。しかし、価格がさらに下がることはないのだろうか。もちろんある。実は、そうなることのほうが多い。そこで、多くの本がこの方法に代わるアプローチとして「底を打ったあと、上昇し始めたら買う」ことを勧めている。どうして考えつかなかったのだろう!  例えば、ギャップダウンで前日の安値より低く始まったときは、底を打ったあと前日の安値まで戻したところか、それを超えて1〜2ティック上がったあとで買えというのである。このタイミングは、多くの著者が上昇を確認できるポイントとしている。しかし、筆者がこの考えやこれに類似した方法を試してみたところ、これがいわゆる確認になるという結果は得られなかった。むしろ買値が高ければ高いほど、オープンポジション(および損失)も大きくなることが多かった。  もちろん、確認を待ってから買うテクニックを軽視しているわけではなく、「落ちれくるナイフをつかもうとする」よりは慎重だと思う。しかし、適切なテストと調査を行えば数%反発してから買うよりずっとよい結果を得られるタイミングを見つけることができる。多くの優れた投資本で勧めるテクニックがこれまで成功してきたことは、恐らく間違いないだろう。しかし、1990年代後半以降、投資というゲームのプレーヤーの数は大幅に増加した。ヘッジファンドだけで見ても、かつては平均資産500万ドルのファンドが100ファンド程度しかなかったのに、今では平均資産1億ドル規模のものが5000もある。また、何百人ものデイトレーダーが集うプロップトレーディング(自己勘定取引)会社もアメリカ中に出現している。そして、自宅でデイトレードを行っている人はそれよりさらに多い。彼らは確認など待たずに、どんどんトレードしていく。  リアルマネー・ドット・コムというサイトに執筆しているレブ・シャークという素晴らしいコムニストが、優れた資金管理によって調査の足らないシステムによる損失を減らすことは可能だと言っていたが、これは良い指摘だと思う。例えば、テクニカル分析の多くはマーケットのパターンをある程度主観的に判断しなければならない。もし、徹底的に調べつくしていないシステムでトレードする場合は、損失を限定しておくことがなおさら欠かせない。

 ローソク足のパターン

 スティーブ・ナイソンの書いた日本のローソク足に関する本は、非常に面白かった。マーケットのパターンを学びたければ、ぜひ読んでほしい。ただ、これらのテクニックもこれまでは有効だったのだろうが、この先は違う。ローソク足のパターンの影響を予期する人が増えれば、それを利用しようとするプレーヤーも増え、結局パターンとは逆の結果になりかねない。マーケットをより深く理解するためには、自分自身ですべてのローソク足パターンをテストしてみることが非常に有益だろう。

 季節性

 エール・ハーシュとジェフリー・ハーシュによる『ストック・トレーダース・アルマナック(Stock Trader's Almanac)』は筆者お気に入りの一冊で、さまざまなできごとに対するマーケットの反応とそれに関する新しい情報、語録、アイデアなどを更新して毎年発行されている。季節性を利用した戦略は、季節別のパターンをだれより早く見極めることができれば有効だが、これがうまくいくことはめったにない。例えば、毎年戦没将兵記念日(5月の最終月曜日)の前日は株価が上がることに気付いたとしても、そのころにはまわりもみんな気付いている。つまり、季節性を利用したシステムは、同じ予想をする人があまりにも多いと、結局機能しなくなる。良い例が1月効果(過去80年間、1月のマーケットは上昇傾向にあった)で、このことが広まると、人々は12月に買い始めた。そして、これが12月効果を生んだ。最近では10月効果とでも言ったほうがよいくらい、この何年かは10月になると上昇している。本書が発売されることには、9月効果になっているかもしれない。ほかには、「5月に売り抜けろ」というのもあるが、本書執筆中にこの戦略を実行していたら、今年多くの銘柄が100%近い上げ相場になっているメリットを完全に逃したことになる。

 低PER、高PER

 筆者はけっしてファンダメンタル分析をないがしろにするつもりはない。バイ・アンド・ホールドの投資家にとっては、割安だが成長力のある(ここが大事)企業を見つけて買い、2〜3年に一度見直すのが最もよい戦略だと思っている。第二のマイクロソフトやバークシャー・ハサウェイを探し出して、それがトップに上りつめるまで便乗するのが金持ちへの道であることは間違いない。ばかばかしく聞こえるが(しかもその方法は筆者にも分からない)、これを何度も実現して大金持ちになった人たちがちゃんといる。  2003年のバークシャー・ハサウェイの年次総会で、1976年に同社株を1株当たり約70ドルで200株買ったという男性と知り合いになった。この男性は、買った翌年に株価が2倍になったので半分を売ったという。1年で100%のリターンを上げた素晴らしいトレードといってよいだろう。そして、残った100株にはいまや750万ドルの価値がある。筆者はこの銘柄を買ったそもそもの理由を聞いてみた。当時男性は、社長のウォーレン・バフェットがヘッジファンドで大成功を収めていたことを知っており、保険会社に好感を持っていて上昇トレンドにあるとも思っていた。そこで、これに賭けてみることにしたという。たったそれだけのことで、複雑な戦略など一切ない。もちろん運も味方したのかもしれないが、いずれにしてもバイ・アンド・ホールド戦略がうまくいった好例と言えるだろう。  しかし、この話がどうPER(株価収益率)と関係あるのだろう。実はまったくない。企業の価値を評価するとき、PERは何の役にも立たない。これについて詳しく知りたければ、フォーブス誌に掲載されたケン・フィッシャーの『ザ・P/E・ミス(The P/E Myth)』(PER神話)という記事をぜひ読んでほしい。記事は同誌のサイト(http://www.forbes.com/global/2002/1111/074asia.html)でも読むことができる。  ワールドコム(WCOM)の、のちに破産に至る原因となった数十億ドルもの不正が明らかになったとき、PERは1桁台前半だった。このとき、筋金入りのバリュー投資家の多くが低PERのWCOMを買うチャンスだという記事を書いていた。また、最近のベア相場ではeベイを筆頭に多くの高PER銘柄が収益と株価の両方を謳歌していた。しかし、低PER銘柄を買って高PER銘柄を空売りすることで、ポートフォリオを中立にするテクニックは、個人破産への最も近道であり、勧められない。もし、そんなことで儲かるのなら、みんながお金持ちになっていなければおかしい。  しかし、企業の価値は将来のキャッシュフローで計るべきではないのだろうか。もちろんそのとおりだと思う。しかし、停滞するPERから将来のキャッシュフローを判断してはいけない。それよりも、人口統計学的な傾向を分析して業界別の顧客層を調べてほしい。ウォーレン・バフェットがデイリー・クイーンやプレハブ住宅会社、コンビニエンスストア向け流通会社を買ったのは、株価とキャッシュフローの比率が良かったからではなく、アメリカで増え続ける中下層の人口によって景気に関係なくこれらの企業の顧客が増え続けると判断したからなのである。ボトックス(皺とり注射液)を製造しているアラガンのような企業の株価が今年に入って上昇しているのは、同社のキャッシュフローに期待したのではなく、この製品のターゲット層(45〜55歳の女性)の人口が景気に関係なく毎年100万人ずつ増加しているからなのである(もちろん、同社としてはキャッシュフローが増加することも望んでいる)。  ここで、インターネットが本当にバブルだったのかを考えてみたい。確かにIPO(新規株式公開)の場合は需要のピークを過ぎても投資銀行が株を浴びせ続けてバブルが起こった。しかし、インターネットの場合は過去5年足らずで世界の商用インターネットユーザー数がゼロから3億人に増加し、eベイやヤフー!などの企業は現在だけでなく、将来も引き続きこの恩恵を受けることになる。  これらのトレンドはまだ始まったばかりだが、さらにテクノロジーのアウトソーシングという新しいトレンドも起こっている。アウトソース先は、インド、マレーシア、シンガポール、そしていずれ中国もこれに加わるだろう。アメリカとは違ってこれらの国の出生率は高いため、70歳以上の人々を支える20〜40歳の人口比率は、今後も健全に保たれていく。このことで恩恵を受けるのはだれで、損をするのはだれなのだろう。ぜひともこのパズルを解くことに集中してほしい。ヤフー!ファイナンスで低PER企業を探しても、儲けを上げることはできない。

 オプションの売買

 オプションは、レバレッジを効かせたいときに買い、収入を得たいときに売る。しかし、どちらもすべきではない。もし、いつも正しい銘柄を選ぶことができれば、あとは複利という素晴らしい力によってレバレッジなど必要なくなる。ネイキッド・コールやカバード・コールを売って儲けるのは、著名な投資家が勧めるよりずっと複雑な取引で、よく言われている「オプションの90%は満期までに価値がなくなるから、ゼロになるまえに売って利益を得るべき」などというのは大嘘なのである。正気でいたければ、このような取引はやめてほしい。特にテストも調査もしていない場合はなおさらである。オプションを使った複雑なアービトラージ戦略は確かに有効だが、素人が扱えるものではない。

 結論

 否定的な話しはこのくらいで十分だろう。投資の世界は非常に大きく、適切な規律と資金管理を合わせて実行すれば有効なテクニックは数多くある。また、バイ・アンド・ホールドのヘッジファンド、トレンドフォロー戦略のヘッジファンド、マーケットに流動性をもたらす空売り投資家など、独自の戦略を持ったプレーヤーも無数にいる。つまり、徹底的にテストした結果うまくいくと思えるテクニックが見つかったときは、その反対でトレードしてくれるプレーヤーがマーケットには必ずいるのである。

■テクニック20 推薦図書

 すべてのスポーツ、科学、芸術、ゲーム(そして間違いなくこの4つの要素をすべて含んでいると思われるトレーディングや投資)で、最高の熟練度に達して成功を収めるためには、何年にも及ぶ犠牲と努力を払う必要がある。投資の世界は、得るものも大きい代わりに競争も熾烈で、毎日12時間以上、何年間も何年間も努力をしないかぎりこの報酬を手にすることはできない。  ひとつの分野を極める方法について書かれた本はたくさんある。もちろん才能も大事な要素ではあるが、その重要度は低い。ひとつの分野を極めた人は、たいてい才能とは別のいくつかの要素を成功の理由として挙げている。

●たゆまぬ練習。高校時代にバスケットボールチームの選考にもれたマイケル・ジョーダンは、二度と同じ失敗を繰り返さないと確信できるまで毎日シュートの練習を続けた。チェスの元世界チャンピオンだったアナトリー・カルポフは、グランドマスターに昇格する前の8年間、休むことなく毎日8時間チェスの勉強を続けた。 ●その分野の歴史に関する深い知識。優れた芸術家は、過去10世紀の巨匠たちの作品をよく研究している。優れたチェスプレーヤーは、1800年代半ばに世界チャンピオンだったポール・モーフィーの試合を暗譜で並べ直せる。投資でも、過去のアイデア、マーケット誕生以来の推移、この10年に活躍した偉大な投資家の伝記などを研究することは、現在のマーケットで生き残るための能力を高めてくれる。偉大な先人が辿ってきた道を詳細に学ぶということは、どの分野においても必須で、この基礎がなければ自分自身の意見や考えをまとめ、テストし、洗練していくことはできないと筆者は心から思っている。 ●失敗に対処できる能力。投資というゲームで絶対に勝つことができないのは、途中でやめてしまったプレーヤーだけ。IASG(期間投資顧問サービスグループ)のサイト(http://iasg.pertrac2000.com)には、トップクラスの商品投資顧問業者(CTA)の運用成績が載っていて、筆者も時々競争の行方をチェックしている。このなかに、かつて初年度に22%下げ、翌年も3%しか上昇しなかったファンドがあった。ファンドマネジャーは想像を絶する苦しみを味わったに違いない。しかし18年後、ダン・キャピタルは10億ドル以上の運用資産と約20%の年間リターンを誇るIASGのなかでも最大級のCTAに成長した。同様に、ドローダウンに苦しみながらも自分のシステムを信じてあきらめることなく運用を続け、最後には素晴らしい成功を手にしたヘッジファンドとその顧客の例は数えきれないほどある。

 次に、筆者が面白かった本のなかで、投資の道を究めるために役立つヒントを与えてくれたものをいくつか紹介する。このなかには、投資に直接関連するものもあるが、投資の部分はわずかで読者の好みや興味に合わないものも含まれているかもしれない。そこで、それぞれの本について筆者の助けになった理由を説明してある。これを参考にして、役立つ本を見つけてほしい。

■ビクター・ニーダーホッファー著『プラクティカル・スペキュレーション(Practical Speculation)(邦題: 実践的スペキュレーション-失敗と成功の戦略)』と『エジュケーション・オブ・ア・スペキュレーター(Education of a Speculator)』

 この2冊については、いくら書いても書き尽くすことはできない。過去40年間、投資に関するすべての側面にかかわってきた人物のアドバイスを受けられるチャンスはめったにない。そのうえ彼は、このうちの10年間スカッシュの世界チャンピオンにもなっている。ひとつでもすごい成功を2つも手に入れた彼は、それ以外にも、研究者、ピットトレーダー(取引所のフロアトレーダー)、ジョージ・ソロスのトレーダー、ヘッジファンドマネジャー、20年にわたるM&A会社の経営者などさまざまな顔を持っている。また、優れた書き手でもあり、毎週MSNにマーケットに関するコメントも寄せている。もちろん、現在でも新しいアイデアをテストし、機会あるごとにマーケットに課題を投げかけている。  この2冊が教えてくれる最も重要なポイントは、すべてをテストしなければならないという姿勢で、これはけっして些細なことではない。メディアはすぐものごとを大雑把にまとめようとする。

●「PERが高ければ、マーケットは下げる」 ●「XYZ株が200日移動平均を上抜けたから、ブル相場だ」 ●「ヘッド・アンド・ショルダーズが形成されたから、ベア相場だ」

 例を挙げればきりがない。もしこれが本当だとしても(実はどれも間違っている)、すべてテストして確かめるべきだろう。1900年代前半以降の投資に関する本をたくさん読んでいるが、このなかには基本的なテストにすら耐えないシステムがいくつも紹介されている。正直言って、この理由は筆者にも分からない。システム的な方法ではなく、直感でトレードするときでさえ、テストすることで過去にうまくいったこととうまくいかなかったことについての感覚を養うことができる。  『プラクティカル・スペキュレーション』は、疑似相関を見分ける方法から「アラン・アベルソンはブルになったことがあるか」などといった楽しい章まで、盛りだくさんの内容になっている(訳注 アベルソンはバロンズ誌の編集者)。

■ジム・クラマー著『コンフェッション・オブ・ア・ストリート・アディクト(Confessions of a Street Addict)』

 クラマーにはいわれのない非難が浴びせられることも多いが、実際の彼はエネルギッシュなだけで、それはCNBCの「クッドロー&クラマー」という番組を見ればよく分かるだろう。クラマーは、役に立たないブローカーやミューチュアルファンドに利益を掠め取られる代わりに、個人投資家が自分自身で投資できるということを、たったひとりで世間に広めた。また、ザストリート・ドット・コム傘下でクラマーが立ち上げたサイトは、オンライン金融ジャーナリズムのトップブランドに成長している(筆者も寄稿しているので、ひいき目になるのは許してほしい)。  日々のトレード結果でクラマーを上回るのは、非常に難しい。この世界に入って以来、年率30%のリターンを上げ続けるというのは本当に力があるということで、負かすのは至難の技だろう。ただ、クラマーの本のすごいところは、彼の成功談ではなく、失敗の跳ね除け方なのである。投資を始めた最初の週に10%近く下げて廃業の危機に見舞われたあとも、1998年には年初から半ばまででマイナス20%の下落を経験するなど、ヘッジファンドマネジャーとして苦しい時期でも生き残るすべを学んだことが、彼の成功につながっている。1998年について書かれた章は、特にそのことがよく表れている。  ジム・クラマーとビクター・ニーダーホッファーについて特に印象に残っているのは、2人が見ず知らずの筆者のeメールにすぐに返事をくれたことで、これには非常に感謝している。2人の成功に少しでもあやかりたいと思う。

■ジャック・シュワッガー著『マーケットの魔術師』『新マーケットの魔術師』『マーケットの魔術師 株式編』(3冊ともパンローリング刊)

 筆者(アルタッチャー)は伝記やインタビューに目がなく、興味のある人物であればどの分野でも読む。この3冊にはいくつかの素晴らしいインタビューを含め、ほぼすべてに何かしら投資家のヒントになる部分がある。筆者のお気に入りを挙げておこう。

 上の3つはほんの一例で、本当にどのインタビューにも役立つヒントが含まれている。

■アダム・スミス著『スーパー・マネー(Super Money)』と『マネー・ゲーム――情報に賭ける社会』(マネジメントセンター出版部刊)(訳注 『国富論』の著者のアダム・スミスとは別人で、ジャーナリストのジョージ・グッドマンのペンネーム)

 筆者(アルタッチャー)は1970年代の大衆向けの金融書もよく読むが、特にこの2冊はまったく古さを感じさせない。例えば、どちらの本か忘れたが、友人からデリバティブの問題で大手銀行の一つが潰れかけているという電話があったという話が載っている。30年前に書かれた本だが、今でもこの手の噂はしょっちゅう耳にする。  『スーパー・マネー』には、当時まだ無名の投資家だったウォーレン・バフェットとのオマハでの交友が描かれている。このころバフェットは、4000万ドルの資金を前に、将来を決めあぐねていた。あるとき2人がドライブをしていると、バフェットがネブラスカ・ファニチャー・マートを指差して、「いつかあの店のオーナーになる」と言った。その後の経過は周知のとおりである(訳注 ネブラスカ・ファニチャー・マートはバフェットが初期に買った名物企業)。  この次の章には、スミスの投資先で、倒産して創立者が逮捕されたスイスの銀行の話が詳しく載っている。のちにこの創立者のポール・アードマンは、金融スリラー小説の第一人者になった。彼の第一作となった『十億ドルの賭け』(TBS出版会刊)もぜひ読んでほしい。  1970年代の金融書のなかでは、アンドリュー・トビアスの『ザ・ファニー・マネー・ゲーム(The Funny Money Game)』も面白い。これには、トビアスが経営にかかわっていた高PER銘柄のナショナル・スチューデント・マーケティングの繁栄と衰退が詳細に描かれている。(訳注 ナショナル・スチューデント・マーケティングは、学生を多用してこの時代に人口割合が大きかった若者向けのマーケティングで一世を風靡した会社)。1990年代末のドット・コム企業のような存在があったとすれば、まさしくこれだろう。これを読めばインターネットバブルがけっして新しい現象でも最後の現象でのないことがよく分かる。1970年代の本は、年月を経ても物事は何も変わらないということを教えてくれる。

■マーク・ファーバー著『トゥモローズゴールド――世界的大変革期のゴールドラッシュを求めて』(パンローリング刊)

 読むだけで知能指数が上がる本。ファーバーは、存在するすべての国とマーケットの歴史を知り尽くしている。この本は主に新興市場とそれを生むサイクルについて書かれており、インターネット・ブームだけでなく、1800年代の鉄道ブームやそれ以外の技術革命も新興市場の一種である理由を詳しく述べている。そして、グローバルマクロ経済の観点から見た今日のマーケット分析に人口統計と歴史を組み込んだ一貫した投資理論になっている。これを読めば、少なくともパーティーでアジア市場について知的に語ることができるだろう。

■ピーター・ガーバー著『フェーマス・ファースト・バブル(Famous First Bubble)』

 チューリップマニア、ミシシッピー会社、サウス・シー・カンパニーなどのバブルについて詳しく書いてある小さな本で、エドワード・チャンセラーの『バブルの歴史』(日経BP社刊)と似ているが、ガーバーはそれぞれの会社のファンダメンタル分析を行って、これがバブルではなかったのかもしれない可能性を示唆している。例えば、サウス・シー・カンパニーには怪しい点も多々あったが、高値はファンダメンタル的に説明のつくものだった。しかし、この成功を見て数多くの一発屋が株を公開して過大な投機を煽り続けた結果、すべては崩壊した。最近のバブルとよく似ている(もしこれがバブルだったのであればの話だが)。  筆者(アルタッチャー)は、本書で紹介した4%システムとタートルシステムの2つを使って1721年のサウス・シー・カンパニーを運用してみた。  4%システムは、日中に前日の終値より4%上げたたら買って終値で売る方法で、日中、投機目的の空売り筋が取引終了時に玉締めにあって値上がりする現象を利用している。運用経過は図A.1のグラフに示したとおりで、結果は35トレード中20勝、1トレード当たりの平均利益は4.71%だった。  テクニック7で紹介したタートルシステムの結果もかなりのもので(図A.2)、たった一度のトレードが1年以内で443%の利益を上げた。なかなか悪くない。

■ロジャー・ローウェンスタイン著『天才たちの誤算――ドキュメントLTCM破綻』(日本経済新聞社)

 ホラー小説といってもよい本。みんなが数十億ドル規模の大金持ちになったあと、そろって転落するのだが、このとき世界中を金融破綻の淵まで追い込むことになる。ここで大事なのは何事においても疑ってみることで、破綻した年だって何も起こらなければLTCMのポートフォリオはプラスになっていたであろうことを覚えておいてほしい。なにしろ、ウォーレン・バフェットでさえ買収に興味を示した時期だってあった。銀行は、LTCMが破綻すれば数兆ドルを失ってすべてが終わってしまうため、パニックに襲われた。ちなみに、メリウェザー(LTCMの会長だった人物)の新しいファンドは、好調だといわれている。  興味深いのは、この本やLTCM事件そのものに対する人々の感想で、この本を読んだ人に事件についてたずねると、ほとんどが嬉々としてノーベル賞学者の失敗や数十億ドルを失う話を語ってくれる。しかし、この本のポイントは天才の失敗や巨額の破産ではなく、LTCMに起きたことは、この仕事をしていればだれにでも起こり得るということである。この運命を避けるには、自己管理を怠らないことと、テストを重ねること、そして『天才たちの誤算』のような本を読んで過去の教訓から学ぶこと以外にない。

■ディムソン、マーシュ、ストーントン著『証券市場の真実――101年間の目撃録』(東洋経済新報社刊)

 勝利とはなんだろう? これは1950年にアメリカ株に投資していればだれでも年間9%の利益を手にすることが可能だった事実を指している。1950年の時点ですでにグレアム・ドッド派(バリュー投資家)の多くが、アメリカ株は割高だと考えていたことからすると、驚くべきことだろう。『証券市場の真実』の著者たちは、過去100年間における主要国すべての株、債券、通貨のリターンを分析している。グローバル投資の分野で最も重要な歴史書といっても過言ではないだろう。この本から学ぶべきことはたくさんあるが、筆者(アルタッチャー)はアメリカのマーケットを過小評価すべきではないという結論に達した。

■エドウィン・ルフェーブル著『欲望と幻想の市場――伝説の投機王リバモア』(東洋経済新報社刊)

 古典ともいうべきジェシー・リバモアの伝記小説で、ルフェーブルの著作のなかでも最も引用されることが多い作品。実は、ルフェーブルの本はすべてが必読の書といってもよく、『ウォール・ストリート・ストーリース(Wall Street Stories)』と『ザ・メーキング・オブ・ア・ストックブローカー(The Making of a Stockbroker)』は特に勧めたい。前述した1970年代の大衆向け金融書と同様、ルフェーブルの本は100年前から何も変わっていないという事実を裏付けている。

■エール・ハーシュ、ジェフリー・ハーシュ著『ストック・トレーダース・アルマナック(Stock Trader's Almanac)』

 季節性を利用した投資のバイブルともいえる一冊。マーケットで毎年どの月、どの週、どの日になにが起こるかをまとめた統計と好奇心にあふれた本で、マーケットの秘密にせまる面白いエピソードも満載されている。日夜マーケットでデータ・マイニング(膨大なデータから特徴や相関性を探し、抽出する作業)を行い、翌年版に備えて最新情報を集めるハーシュ家の人々は、自分たちのために地球上で最も楽しい仕事を開拓したと言ってよいだろう。季節性を利用したトレードは、それほど簡単ではない。例えば、1月に相場が上がることが多いことはだれでも知っているため、人々は12月に買い始める。しかし、そうなるとさらに先に買おうとする人が出てくる。繰り返し起こる季節性の要素を利用するときカギとなるのは、それをだれより先に見つけるということになるが、口で言うほど簡単ではない。

■マイケル・ルイス著『マネー・ボール――奇跡のチームをつくった男』(ランダムハウス講談社刊)

 大リーグのなかでも選手の年俸が最低だったオークランド・アスレチックスとゼネラルマネジャーのビリー・ビーンが、2002年にアメリカン・リーグで最多勝利を上げた物語。彼らはこれを成し遂げるのに、なんと本書で紹介したのと同じテクニックを使っている。マーケット(優秀な選手のマーケット)の中から統計的なアノマリー(異常)を見つけ、それを使って利益を上げる(試合に勝つ)のである。野球の試合中、特定の状況で期待できる得点を示す「期待得点」は、特定のシステムの1トレード当たりの平均利益を示す期待収益と驚くほど似ている。

■ガルリ・カスパロフ著『ガルリ・カスパロフ・オン・マイ・グレイト・プレデセッサース・パート1(Gary Kasparov on My Great Predecessors, Part 1)』

 カスパロフは、恐らく史上最強の世界チャンピオンといってよいだろう。もちろん、ボビー・フィッシャーの全盛期にはかなわないとか、新人類のウラジミール・クラムニックのほうが上だという意見もあるかもしれないが、そんなことはだれにも分からない。筆者(アルタッチャー)は、カスパロフが一番だと思っている。その彼が、自分より前の世界チャンピオンすべてを詳しく研究しているこの本は、一読する価値がある。前述のとおり、何かを極めるためには、その分野の歴史を知ることが絶対に欠かせない。


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