訳者まえがき

 ウォーレン・バフェットに関する書籍が日本でも数多く出版されるようになり、彼の知名度は徐々に上がってきている。しかし現在、同氏に関して伝えられている情報のほとんどは「大成功を収めた投資家」の側面が強調され、稀有な経営者としての面がその影に隠れてしまっていた感がある。本書は「経営者」バフェットの実像を、彼独自のコーポレート・ガバナンス(企業統治)理論、投資哲学、会計理論の実践的記述を通じて余すことなく伝える貴重な一冊である。バブル経済の勃興と崩壊を経験し、生き残りを賭けた経営課題に直面している日本の企業社会にとって、株主対策などのコーポレート・ガバナンスの重要性は年々高まってきている。そうした問題に取り組むための一つの究極のモデルとして、バフェットの経営手法を研究する意義は大きいだろう。


 「バークシャー・ハサウェイ社には顕著な特殊性があり、その経営手法は一般的な企業には適用できない」とか「情報通信系企業のめざましい発展に代表される産業構造の変化に対応するには、古すぎる手法である」というような批判をなさる方も多いだろう。しかし、資本主義社会において株式会社の形態をとる限り、経営者の究極の使命はオーナーたる株主に最大限の利益をもたらすことであり、ゆえにバフェットの株主指向の考えや企業の内在価値を重視する経営方針は、今後も色褪せることはなかろう。一見バフェットとは対極に位置すると思われている近年の日米の大成功者、孫正義とビル・ゲイツの両氏がバフェットを敬愛しているとの一部報道は、これを裏付けるものの一つといえるのではないだろうか。


 本書は、バフェット本人が書いた「会長からの手紙」をテーマ別に編集して一冊の本にしたものであり、彼自身の著書がない現在においては唯一、同氏の言葉のみで構成されたものである。「会長からの手紙(Chairman's Letters)」は、彼が会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるバークシャー・ハサウェイ社の株主(そのほとんどが長期株主)を対象として継続して読まれるということを前提に書かれたものであり、読みこなしていくことは困難であった。テーマが散逸した二〇余年分のエッセーを、かくも自然な形でまとめ直したカニンガム教授の超人的な労力には敬意を表したい。
 翻訳にあたっては、日米の制度の相違により理解が困難な部分もあえて訳出した。より多面的に理解を深めるために、既刊のバフェットに関する書籍を読まれることをお勧めする。


 なお、「会長からの手紙」はバークシャー株主以外の者には入手しにくいものであったが、現在では同社のホームページ(http://www.berkshirehathaway.com/)を通じて自由に手に入れることができる。「会長からの手紙」以外にも、財務諸表などのインベスターズ・リレーション関係の資料も多数閲覧できるので、本書の理解を深めるには有益である。
 バフェットの思考を理解し、そのエッセンスを新しい時代に向けての経営や投資に少しでも役立てていただければ、バフェットからの手紙の配達人としてこれ以上の喜びはない。

                     二〇〇〇年一月 増沢浩一



 Topへ