●目次
 日本語版への序文・・・・・・・・・・・・1
 翻訳によせて・・・・・・・・・・・・3
 謝辞・・・・・・・・・・・・11
 序言・・・・・・・・・・・・13
 イントロダクション・・・・・・・・・・・・17

第1章 資産間の相関に着目した投資・・・・・・・・・・・・21
マーケットニュートラルとは・・・・・・・・・・・・22
基本コンセプト・・・・・・・・・・・・27
相関関係に着目した投資・・・・・・・・・・・・29
マーケットニュートラルにおけるアプローチ・・・・・・・・・・・・31

第2章 ヘッジファンド業界の発展・・・・・・・・・・・・37
ヘッジファンド業界の運用資産・・・・・・・・・・・・38
ヘッジファンドの投資家・・・・・・・・・・・・41
ヘッジファンドの戦略・・・・・・・・・・・・43

第3章 マーケットニュートラル戦略による投資の実践・・・・・・・・・・・・47
リターンの線形分析・・・・・・・・・・・・48
リスク・エクスポージャの低減・・・・・・・・・・・・56
マーケットニュートラル戦略とヘッジ戦略・・・・・・・・・・・・62
  転換社債アービトラージ・・・・・・・・・・・・62
  債券アービトラージ・・・・・・・・・・・・63
  モーゲージバック・セキュリティーズ・アービトラージ・・・・・・・・・・・・65
  買収合併アービトラージ・・・・・・・・・・・・67
  株式ヘッジ・・・・・・・・・・・・69
  株式マーケットニュートラルとスタティスティカル・アービトラージ・・・・・・・・・・・・71
  レラティブバリュー・アービトラージ・・・・・・・・・・・・73
優れたリスク調整後リターンの達成・・・・・・・・・・・・75
リスクの評価・・・・・・・・・・・・75
透明性・・・・・・・・・・・・77
基本戦略・・・・・・・・・・・・79

第4章 転換社債アービトラージ・・・・・・・・・・・・81
転換社債の評価・・・・・・・・・・・・82
  スタティスティカル・アドバンテージ・・・・・・・・・・・・82
  転換社債の価格決定要因・・・・・・・・・・・・83
転換社債アービトラージのアプローチ・・・・・・・・・・・・90
  定量分析に基づくスクリーニング・・・・・・・・・・・・90
  ヘッジの種類・・・・・・・・・・・・91
  マーケットニュートラル・ヘッジの設定・・・・・・・・・・・・92
  ブリッシュ・ヘッジの設定・・・・・・・・・・・・96
  ベアリッシュ・ヘッジの設定・・・・・・・・・・・・97
リスクとリスク管理・・・・・・・・・・・・97
  ファンダメンタルズ分析・・・・・・・・・・・・97
  ヘッジ分析・・・・・・・・・・・・99
  ポートフォリオの構築・・・・・・・・・・・・101
  流動性・・・・・・・・・・・・102
  レバレッジ・・・・・・・・・・・・103
収益の源泉・・・・・・・・・・・・104
転換社債市場の歴史・・・・・・・・・・・・104
最近の成長と発展・・・・・・・・・・・・106
逆境でのパフォーマンス・・・・・・・・・・・・107
過去の実例・・・・・・・・・・・・109

第5章 債券アービトラージ・・・・・・・・・・・・115
債券アービトラージのアプローチ・・・・・・・・・・・・117
  ベーシス取引・・・・・・・・・・・・117
  アセット・スワップ・・・・・・・・・・・・119
  TEDスプレッド・・・・・・・・・・・・120
  イールド・カーブ・アービトラージ・・・・・・・・・・・・122
  レラティブバリュー取引・・・・・・・・・・・・125
リスクとリスク管理・・・・・・・・・・・・126
  リスク・・・・・・・・・・・・126
  金利リスクの計測と管理・・・・・・・・・・・・130
収益の源泉・・・・・・・・・・・・132
  資金調達・・・・・・・・・・・・133
  レポ取引・・・・・・・・・・・・133
  テクノロジー・・・・・・・・・・・・134
  流動性・・・・・・・・・・・・134
  イベント・・・・・・・・・・・・135
  マネジャーのスキルと努力・・・・・・・・・・・・135
最近の成長と発展・・・・・・・・・・・・135

第6章 モーゲージバック・セキュリティーズ・アービトラージ・・・・・・・・・・・・145
モーゲージバック・セキュリティーズ(MBS)の構造と種類・・・・・・・・・・・・147
  モーゲージバック・セキュリティーズの発達・・・・・・・・・・・・147
  パススルー証券・・・・・・・・・・・・150
  CMO・・・・・・・・・・・・151
  CMOのトランシェ・・・・・・・・・・・・154
評価方法・・・・・・・・・・・・158
  オプション調整後スプレッド(OAS)・・・・・・・・・・・・159
  情報システム・・・・・・・・・・・・160
リスクとリスク管理・・・・・・・・・・・・160
  デュレーション・・・・・・・・・・・・169
  エフェクティブ・デュレーションとパーシャル・デュレーション・・・・・・・・・・・・161
  イールド・カーブの平行移動と形状変化・・・・・・・・・・・・162
  コンベクシティ・・・・・・・・・・・・163
  プリペイメント・デュレーション・・・・・・・・・・・・163
  レバレッジ・・・・・・・・・・・・163
  時価評価・・・・・・・・・・・・164
収益の源泉・・・・・・・・・・・・164
  評価モデル・・・・・・・・・・・・165
  レバレッジ・・・・・・・・・・・・165
  流動性・・・・・・・・・・・・166
  資金調達・・・・・・・・・・・・166
  ヘッジ・テクニック・・・・・・・・・・・・167
最近の成長と発展・・・・・・・・・・・・167

第7章 買収合併アービトラージ・・・・・・・・・・・・173
買収合併アービトラージのアプローチ・・・・・・・・・・・・176
  現金による買収または株式公開買い付け・・・・・・・・・・・・176
  株式交換による買収合併・・・・・・・・・・・・176
  株式交換による条件付買収合併・・・・・・・・・・・・180
  複数企業競合下の企業買収・・・・・・・・・・・・186
  レバレッジド・バイアウトと敵対的買収・・・・・・・・・・・・192
リスク・・・・・・・・・・・・196
  イベント・リスク・・・・・・・・・・・・196
  ディール・フロー・・・・・・・・・・・・199
  流動性・・・・・・・・・・・・199
リスク管理・・・・・・・・・・・・200
  分散投資・・・・・・・・・・・・200
  レバレッジ・・・・・・・・・・・・200
収益の源泉・・・・・・・・・・・・201
最近の成長と発展・・・・・・・・・・・・202
  ディール・フローへの株価などの影響・・・・・・・・・・・・202
  逆境の時期――1998年第3四半期・・・・・・・・・・・・204
リターン・・・・・・・・・・・・207

第8章 株式ヘッジ・・・・・・・・・・・・209
投資テーマとファンダメンタルズ分析・・・・・・・・・・・・211
  投資テーマ・・・・・・・・・・・・211
  ファンダメンタルズ分析・・・・・・・・・・・・213
株式ヘッジ戦略のアプローチ・・・・・・・・・・・・213
  定量分析と定性分析の比率・・・・・・・・・・・・214
  株式ユニバース・・・・・・・・・・・・214
  投資スタイル・・・・・・・・・・・・215
  流動性・・・・・・・・・・・・221
  ネット・エクスポージャ・・・・・・・・・・・・222
  リサーチ・・・・・・・・・・・・223
  レバレッジ・・・・・・・・・・・・224
リスクとリスク管理・・・・・・・・・・・・225
  銘柄選択リスク・・・・・・・・・・・・225
  マーケット・リスク・・・・・・・・・・・・226
  株式ユニバース・・・・・・・・・・・・227
  分散・・・・・・・・・・・・228
  売却ルール・・・・・・・・・・・・228
  レバレッジ・・・・・・・・・・・・229
収益の源泉・・・・・・・・・・・・329
最近の成長と発展・・・・・・・・・・・・331

第9章 株式マーケットニュートラルとスタティスティカル・アービトラー 
ジ・・・・・・・・・・・・239
株式マーケットニュートラルのアプローチ・・・・・・・・・・・・242
  銘柄スクリーニング――投資対象銘柄ユニバースの作成・・・・・・・・・・・・242
  銘柄選択・・・・・・・・・・・・245
  ミーン・リバージョン(平均回帰)に基づくアプローチ・・・・・・・・・・・・250
リスクとリスク管理・・・・・・・・・・・・254
  ポートフォリオ構築と最適化・・・・・・・・・・・・254
  マネジャーの投資スタイル・・・・・・・・・・・・258
収益の源泉・・・・・・・・・・・・260
最近の成長と発展・・・・・・・・・・・・261

第10章 レラティブバリュー・アービトラージ・・・・・・・・・・・・269
レラティブバリュー・アービトラージのアプローチ・・・・・・・・・・・・270
  転換社債アービトラージ・・・・・・・・・・・・271
  買収合併アービトラージ・・・・・・・・・・・・272
  株式スタティスティカル・アービトラージ・・・・・・・・・・・・275
  ペア・トレーディング・・・・・・・・・・・・275
  債券アービトラージ・・・・・・・・・・・・276
  オプション・ワラント取引・・・・・・・・・・・・277
  キャピタル・ストラクチャー・アービトラージ・・・・・・・・・・・・279
  レギュレーションD(ストラクチャード・ディスカウント転換証券)アービト 
ラージ・・・・・・・・・・・・279
リスクとリスク管理・・・・・・・・・・・・280
  戦略ミックス・・・・・・・・・・・・281
  戦略のウエート付け・・・・・・・・・・・・281
収益の源泉・・・・・・・・・・・・281
最近の成長と発展・・・・・・・・・・・・282

 あとがき・・・・・・・・・・・・287
 用語集・・・・・・・・・・・・289
 訳者あとがき・・・・・・・・・・・・299

日本語版への序文


 1990年から1999年のデータを分析した結果、マーケットニュートラル投資戦略は、 優れたリスク調整後リターンを達成するという結論に達した。それは、2000年と2001 年の下落相場や不況下においても証明された。株式市場が高ボラティリティととも に、かつてない下落を記録したにもかかわらず、この投資戦略は一貫して良好なリ ターンを記録してきたのである。例えば、HFRIファンド加重平均インデックスで見た 場合、2000年1月以降のヘッジファンド戦略のパフォーマンスは、S&P500を3000ベー シス・ポイント以上アウトパフォームしてきた。本書で扱ったそれぞれのマーケット ニュートラル戦略を見ても、この2年間で、転換社債アービトラージは28%、株式 マーケットニュートラルは20%、債券アービトラージは9%、買収合併アービトラー ジは19%、レラティブバリュー・アービトラージは22%と、すべての戦略が良好なパ フォーマンスを記録した。その結果、こうした戦略を組み入れたポートフォリオは、 そうでないものに比べ素晴らしいリターンを残すことになったのである。
 日本の投資家の方々も、本書によって、伝統的資産運用にマーケットニュートラル を組み入れることがパフォーマンスの向上につながるという事実を知ることになるだ ろう。この投資戦略は、リターンの一貫性や資産価値の維持性、低ボラティリティ、 下落相場でも良好なリターンを達成する能力といった特徴を持っている。この特徴が 相互に作用し、リターンの相乗効果を生むことで、資産はさらに増加することになる。
 慎重に投資を行うためには、投資のメリットだけでなく、避けることのできない潜 在的なリスクについても理解しなければならない。この投資戦略が優れたリターンを 上げることは、すでに世に認められている。そのため、マーケットニュートラル投資 を慎重に行うのであれば、投資家は、運用マネジャー以外の者が投資資産の管理とモ ニタリングを行うように要請しなければならない。こうすることで、運用マネジャー の才能を利用しつつ、第三者のカストディアンに投資資産の管理を委ねることができ るようになり、真の透明性や日次レベルでのリスク管理を行うことが可能となるので ある。
 私は、この日本語版が、さまざまなマーケットニュートラル戦略の性質、つまり収 益の源泉はどこにあるのか、なぜ収益が期待できるのかなどについて、読者の理解の 助けになればと願っている。それぞれの投資戦略の理解を深めることで、投資家はリ スクを減らすこと、ポートフォリオ全体を管理することに集中できるようになるであ ろう。マーケットニュートラル投資戦略を理解し、適切な管理手段をとることで、日 本の投資家の方々もこの投資戦略を投資アプローチに組み入れ、その恩恵を受けるこ とができるであろう。

 2001年12月
                    ジョセフ・G・ニコラス


 翻訳によせて


 オルタナティブ投資商品は、日本の企業年金運用の世界においても、ここ数年、 ポートフォリオのなかに組み入れを検討する年金基金などが増加してきた。当社でも 顧客から、その際のアセット・アロケーションの考え方や商品選定についての相談を 受ける機会が増えている。
 米国の企業年金運用におけるオルタナティブ投資は、プライベート・エクイティ投 資と不動産投資が中心となっているが、ヘッジファンドは必ずしも広く一般に採用さ れている状況ではない。しかし、日本においては、財政運営上の理由や年金制度その ものが移行期にあるとの事情から、年金資金本来の長期投資という側面よりも、より 流動性を重視した投資商品選択が行われている。つまり、ヘッジファンドのほうが、 プライベート・エクイティ投資や不動産投資よりも好まれる傾向にある。
 ところで、オルタナティブ投資商品は、名前のとおり必ずしも運用の主役になるこ とはない。その一番の目的は、株式や債券といった伝統的資産と低相関である性質を 利用することにある。従来型のポートフォリオに一部組み入れることによってポート フォリオのリスク・リターン特性を改善できるという効果が期待できるのである。ま た、このような平均分散分析(M-V分析)を行う場合にも、ヒストリカルデータの信憑 性には十分留意する必要があるものの、ヘッジファンドはほかのオルタナティブ商品 に比べると基礎データが比較的そろっており、投資しやすいという利点も備わっている。
 当社では、2001年からマルチ・ストラテジー型のヘッジファンドの商品提供を行っ ているが、このファンドは、異なった運用戦略のファンドを組み合わせたファンド・ オブ・ファンズとなっている。そして、各ストラテジーのパフォーマンス分析にヘッ ジファンド・リサーチ社のインデックスを利用している。そのようなご縁もあって、 このたび同社の社長であるジョセフ・ニコラス氏が執筆した『Market-Neutral Investing』の翻訳をすることになったものである。
 本書は、米国を代表するヘッジファンドのデータベース会社社長が書かれたものだ けあって、マーケットニュートラル戦略の勘所をバランスよく、かつ分かりやすく解 説している。今後、ヘッジファンド投資を検討されている投資家のみなさまにぜひと もお読みいただきたい書である。

 2001年12月
       三菱信託銀行執行役員(投資企画部長) 岡田康


 謝辞


 以下の人々に謝意を表します。

 ベン・ボートン氏の投資戦略の詳細な調査と、本書の執筆に関するあらゆる尽力に。
 ジョン・パグリ氏、ジョン・ザーウィック氏、ジョン・カラモス氏、ベージル・ウ ィリアムス氏、ティム・パーマー氏、ジョン・カールソン氏、ジャック・バリー氏、 マスード・ハイダリ氏、バリー・ニューバーガー氏、ピーター・ドリップ氏、マーカ ス・ジャント氏、ロジャー・リヒター氏、ダン・ナイト氏の投資戦略を詳細に描くに あたっての助言に。
 ジョージ・ベンソン氏、ブレンナ・バーマン氏、ロバート・M・パイン氏、ピー ター・スワンク氏の深い洞察力をもって草稿を読んでくれたことに。  ローリー・ランクイスト氏のヘッジファンド・リサーチ社(HFR)コンサルティング ビジネスへの惜しみないアドバイスと援助に。
 チェンミン・マオ氏、ポール・アレニャーニ氏のマーケットニュートラル投資戦略 に関するシステマティック・リスク低減効果に関する研究に。
 現在、そしてこれまでのヘッジファンド・リサーチ社(HFR)社員のヘッジファン ド・リサーチ・データベース構築にかかわる努力に。
 キャスリーン・ピーターソン氏、ブルームバーグ・プレスのスタッフの文体や編集 に関する、さまざまな進言に。


 序言


 投資家にとって、株式や債券などの伝統的資産からなるポートフォリオを構築した うえで次に考えるべきことは、分散投資をさらに進めることである。これはベンチ ャー・キャピタルやプライベート・エクイティ、天然資源、不動産などのほか、ヘッ ジファンドやマーケットニュートラル戦略のようなオルタナティブ投資戦略を投資対 象に加えることによって実現できる。
 マーケットニュートラル戦略の魅力は、伝統的資産運用ポートフォリオのパフォー マンス特性を大幅に改善できるところにある。優秀なマネジャーならこの戦略を用 い、市場を上回るリスク調整後リターンを上げることができるのである。これは、こ の戦略においてロング(買い)とショート(空売り)の双方のポジションを建て、ま たレバレッジを効かせることで可能になる。マネジャーには、だれも目を付けていな い市場の非効率性を発見し、それを利用できる手際の良さが必要とされるほか、経験 と才能も必要となる。これらは、あいまいではっきりしないものだが、成功を収める マネジャーの重要な要素である。
 ただし、マーケットニュートラル戦略はあらゆる難題を解決してくれるような万能 薬でもなく、よく誤解されるように、リスクがないというものでもない。マネジャー は、市場の影響を受けることもあり、誤りを犯すこともある。また、投資におけるリ スクを完全にヘッジすることができるわけでもなく、マーケットニュートラル戦略に おけるマネジャーのパフォーマンスも、ベンチマーク対比で変動する。期待できるの は、従来の投資手法に比べてその変動幅が相対的に小さいということである。この変 動幅は、複数のマネジャーでポートフォリオを組成することによってさらに小さくな り得る。このポートフォリオでは各マネジャーがそれぞれ定められたサブストラテ ジーごとにパフォーマンスを追求する。
 「分からないものには投資するな」という格言は、マーケットニュートラル戦略に もよく当てはまる。この投資戦略が伝統的な投資手法と比べて複雑になっているの は、ロングとショート、さらにはレバレッジが組み合わされているからである。それ はまるで、2次元から3次元の世界に移行したという感じに近い。これらの基本要素 を自由自在に組み合わせ、慎重な運用から、投機的な運用まで、さまざまに行うこと ができる。また、マネジャーがこのツールを用いてどのように収益を上げるのかを理 解することも重要である。なぜなら戦略によって、市場の非効率性や投資機会を見つ けだすことは、マネジャーの才覚によるところが大きいからである。
 マーケットニュートラル戦略を理解するのは難しいことではない。この戦略を理解 する最良の方法は、まず戦略を各基本要素に分解し、それぞれの特徴を把握したうえ で、それらがどう相互にかかわり合ってひとつのシステムを構成しているのかを知る ことである。本書もそのような流れで構成されている。これを忘れなければ、あなた はポートフォリオ内の各戦略の役割を評価し、マネジャーの選択を適切に行い、さら にマーケットニュートラル投資戦略の有効性を、自信をもって判断できるようになる であろう。
 ジョー・ニコラスと私は、ここ数年ミシガン州立大学の基金におけるオルタナティ ブ投資ポートフォリオの開発・運営を共同で行ってきた。彼との共同作業を通じて、 私の投資に関する見識は広がったが、彼がその該博な知識を本書のような形で出版し たことは、私にとっても大変喜ばしいことである。
 分散投資のひとつとしてマーケットニュートラル戦略が徐々に認知されてきたこと を思うと、彼が今回、このテーマで執筆したことはとてもタイムリーだと言える。本 書は一般投資家や投資コンサルタント、さらには投資のプロの人々にとっても、この 分野の理解を深めるのにまたとない貴重な本となるだろう。

      ミシガン州立大学基金エグゼクティブ・ディレクター
                     ジョージ・ベンソン


 イントロダクション


 1998年秋に前作『ヘッジファンドのすべて――世界のマネーを動かすノウハウ』 (東洋経済新報社)を出版した。それ以来、ヘッジファンド・リサーチ社(HFR)に は、マーケットニュートラル投資に関する質問が多数寄せられた。これは、この年に LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)が破綻したことに加え、マーケ ットニュートラル・ファンドの運用状況から関心を寄せてくれた読者が多かったので あろう。当時はパフォーマンスの良いファンドもそうでないものも、すべて「マーケ ットニュートラル」として宣伝されていたからである。
 今日のような変動の激しいマーケットでは、マーケットニュートラル戦略という、 うたい文句がついているだけで、人々がそのファンドに引かれてしまうのも無理はな い。価格変動リスクからポートフォリオの価値を守ることが強く求められるなかで、 株式へのエクスポージャをヘッジし、かつ債券投資以上の高いリターンを生む投資戦 略を組み入れることを望む投資家は多い。目端が利くブローカーたちは、マーケット ニュートラル戦略の活用をその解決策として勧めてきた。だが、マーケットニュート ラルがまったくリスクのない戦略だと思うのは危険であり、そもそも、リスクがない というのは誤りである。本書の目的は、マーケットニュートラルの本質を明らかにす るとともに、この戦略によってどのような効果とリスクが生ずる可能性があるのかを 示すことにある。
 ここ数年の激しいマーケット変動を受け、マーケットニュートラル戦略に目を向け る投資家層は広がってきたが、そのような投資家でさえ、その特性を正確に理解して いた者はほとんどいなかったと思われる。それどころか、投資している(もしくは投 資を計画している)ファンドもしくは戦略のリスク・リターン特性すら、正しく理解 していなかったのではないか。「マーケットニュートラル」が特定の戦略の名称であ ると勘違いし、さまざまな投資戦略アプローチの集合体であることを知らない者もい た。「マーケットニュートラル」という言葉には「無リスク」という印象があり、ブ ローカーはそれを巧みに利用してマーケティングを行ってきた。しかし、マーケット ニュートラルに含まれる投資戦略は、どれも無リスクではない。しかも、そのリスク の量は、戦略ごとにかなり異なっているのである。
 本書ではこうした疑問に答えつつ、さまざまなマーケットニュートラル戦略につい て詳しく解説している。過去の個別事例を引き合いに出し、一般化して解説すること で、いつの時代においても共通する投資とリスク管理の本質を語るものとした。ま た、HFRのデータベースに収められた3000を超えるファンドの情報や、HFRが管理をし ているヘッジファンドのために行った日次のポートフォリオ分析の結果も利用してい る。加えて、それぞれの戦略の運用マネジャーやマネジャーが提供してくれた実例に ついても数多く記すことにした。
 第1章ではマーケットニュートラル戦略の基本的なコンセプトについて説明する。 つまり、ロング(買い)・ポジションとショート(空売り)・ポジション、レバレッ ジの使用、アービトラージなどについてである。これらの基本コンセプトの次に、 マーケットニュートラル戦略の共通の特徴となっているコンセプト、つまり相関関係 に着目した投資について触れる。市場の方向性にベットしたロングやショートといっ た投資戦略とは異なり、マーケットニュートラルでは関連性のある2種類の対象に投 資して、その価格変動の違いからリターンを得る。このことは、マーケットニュート ラル戦略にはディレクショナル・エクスポージャが存在しないということではなく、 こうしたエクスポージャやリスクの性質が、伝統的な投資手法とは異なっているとい うことを意味している。
 第2章では、マーケットニュートラル戦略の最大の利用者であるヘッジファンドの 運用マネジャーについて、その業界の隆盛ぶり、過去10年間のマーケットニュートラ ル戦略のパフォーマンスを紹介する。
 第3章では、マーケットニュートラル戦略を使った投資の世界について概観してみ る。ここで取り上げるのは、モダンポートフォリオ理論(MPT)、伝統的なポートフォ リオへのマーケットニュートラル戦略の導入、ディスクロージャー、リスク管理など である。さらに、マーケットニュートラルとして一般的に知られている投資戦略をい くつか紹介する。
 これ以降の各章では、マーケットニュートラル戦略を具体的にひとつずつ詳述して いる。ただし第9章では株式ヘッジ(株式のロング/ショート戦略)について扱っ た。この戦略は、方向性にベットしたロングやショート(通常はロング)を行うこと が多いため、マーケットニュートラルには分類されないのが普通である。しかし株式 ヘッジは投資戦略を比較するうえで重要であり、相関関係に着目した投資の原理がこ の戦略にも適用できることから、あえて触れることにした。本書の最後では、マーケ ットニュートラル投資戦略の将来について考えるとともに、このニッチな投資手法と もいうべき戦略を総括する。


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