■目次
■訳者まえがき
■はじめに
■謝辞
■第一部 最小のリスクでお金を貯める
■第一章 わたしがそんなに賢いなら、なぜこの本であなたは金持ちになれないのか?
■付録 ボルドーワインで一七七%儲ける
■目次 訳者まえがき 1 はじめに 9 謝辞 11 第一部 最小のリスクでお金を貯める 13 第一章 わたしがそんなに賢いなら、なぜこの本であなたは金持ちになれないのか? 15 第二章 一セントの節約は二セントの儲け 31 第三章 一年一六万五〇〇〇ドルで生活できる 79 第四章 だれも信用するな 101 第五章 憶病者の言い分 117 第六章 税金戦略 169 第二部 株式市場 215 第七章 さあ、リスクを取ろう 217 第八章 あなたのブローカーを(無視することを)選ぶ 263 第九章 確かな情報、インサイダー情報――およびその他の注意点 287 第一〇章 一〇〇万ドル相続したらどうする、しなかったらどうする 335 付録 367 ボルドーワインで一七七%儲ける 369 生命保険はどれぐらい必要か 372 社会保障はいくら受けられるか 379 財政と国家債務について二、三のこと 384 ちょっと気取った気分にさせてくれる、カクテルパーティー用の金融に関するとっておきのセリフ 391 お薦めディスカウントブローカー 394 お薦めミューチュアルファンド 396 非婚カップルへの助言 402 あなたはもう死んでいる――なぜこれを先に読まなかったのか 405 複利の楽しみ 415 複利のさらなる楽しみ――子供たちに貯蓄と投資を教える 417 どうすべきかまだ分からないって? 427
初めて読んだとき、また訳しながら、何回笑ったか分かりません。まさに面白くてためになる、そして健康に良い本です。でもこの本を読んでいて、アメリカ人が羨ましくなりました。ブランド物にお金を使うよりも貯金という頭脳ゲームを楽しみたい人には、創意工夫の余地が日本よりもずっとたくさんあるからです。
コストコでのまとめ買いやネットで飛行機のチケットやホテルを割安に予約するのは日本でも可能になっています。登録したカードで食事をすると二〇%がキャッシュバックされる、こんなサービスがあったら、私だったら必要がなくても外食したくなります。また、超長期の税の優遇措置やインフレ抵抗力があるなどの種々の特典がついた貯蓄国債を、インターネットでカードで買えるのも羨ましいことです。しかもショッピング扱いだからマイルも稼げるし。
中級者向けに著者が勧めているのが、手数料のかからないノーロード・インデックス型株式投信を、時間を分散して買うことですが、これは昨年のETF(株価指数連動型上場投資信託)の登場で、日本でも可能になりました。節約にしろ貯蓄にしろ、こういうシステムは貯蓄好きが大勢いる日本でこそ、より活用されるでしょう。本書を読んだ創意と行動力ある起業家やお役人が、消費者に役立つ商品や制度を開発してくれることになれば大変うれしいと思います。
本書は、自分の判断でリスクを取って儲けたい、あるいはいろいろな投資を楽しみたいという人にも大変参考になります。ジャンクボンドやゼロクーポン債のところを訳しているときには、日本でも転換社債にこの投資戦略を使えるのではないかと思いつき、翻訳の手を止めて新聞の市況欄をチェックしたくてむずむずしました。結局は、金利水準が低いときには良いチャンスはないという著者の言葉を実地に確認する結果になったのですが。株式投資におけるバイ・アンド・ホールド戦略と日本の株式市場の過去一二年間の経験に対する著者の言葉にも、個人、プロを問わず、共感する投資家が多いのではないでしょうか。
本書の訳出に当たっては、多くの方々に助けていただきました。特に著者には、一度に一〇以上もの質問を何度もメールでしましたが、その都度、即日丁寧な回答を頂きました。その親切さと素早い対応は本書を読んで受ける印象どおりですが、初めての翻訳を本にも著者にも恵まれる形でできたのは大変幸運です。この機会を与えてくださったパンローリング、およびアイディの高松有美子氏に心からお礼申し上げます。
二〇〇二年二月 伊能早苗
『ビギナーのための投資ガイドブック(原題をそのまま翻訳すれば、「あなたに必要なたった一つの投資ガイド」になる)』なんて書名をつけるのが厚かましいとしたら、それを改訂するのはまったくもって鉄面皮ということになるだろう。それでも数年ごとに改訂しないほうがもっと悪い。一つには細かい点がいろいろ変わっていくからだし、もう一つには、とにかく多くの人々がこの本を買い続けているからだ。
この本が初めて出版されてから二四年がたつが、その間、世界は高速で疾走してきた。当時は当座預金には金利がつかなかったし、ニューヨーク証券取引所の一日当たりの出来高は平均二五〇〇万株だった(今日では八億株でも低調な商いだったと言われるだろう)。当時パソコンについて聞いたことのある人は三人ぐらいだった。最大のミューチュアルファンドの会社でも、一五本のファンドしかなかった。今では二七〇本だ。
当時はホーム・エクイティ・ローンも401k年金もロスIRAもなかった。避けなければならない変額年金もなければ称賛すべき529プランもなかった。インデックスファンドもI株もSPIDERSも、「フォリオ」や「個人用ファンド」もなかった。LBO(対象企業の資産を担保とした借入金による買収)もマイレージサービスもなかったし(それは困る!)、インフレ連動貯蓄債券も、自由経済への世界的な移行(や世界的なテロリストの攻撃に対する戦争)も、家計簿ソフトのクイッケンも、CNBCも、インターネットやドットコム・バブルも、さらにはテレビ通販会社のホームショッピング・ネットワークすらなかった(どうやって買い物していたんだ?)。
国の所得税の最高税率は七〇%だった。
個人の資産管理の基本は変わっていない――けっして変わることはない。それにあなたのお金のことで知っていなければならない常識的なこともそれほど多くはない。しかし巷にあふれる金融商品や絡まったやぶのように複雑な専門用語や宣伝文句は、ずっと密生の度を増している。この本があなたのかじになれるかもしれない。
以下の人々に感謝をささげる。初めてこの本を書いていたときに、ニューヨーク・マガジン誌で最も密接に働いた編集者のシェルダン・ザラズニックおよびクレイ・フェルカーに。尊敬するレス・アントマンはこの本の改訂版を出すように説得してくれた――そして何年にもわたり数限りない貴重な支援と洞察とおまけにユーモアまで与えてくれたことに。初版の編集者のキャロル・ヒルと本書の編集者のアンドレ・バーナードに。市場統計を提供してくれたイボットソン・アソシエーツに。コンピューターソフト業界の多くの人々のなかでも、とりわけジェリー・ルービン、バート・バーカーとポール・ハリソンに。ジョンとローシェル・クラウス、ローラ・スロウト、マーティン・ツバイク、バートン・マルキール、アラン・エイバルスン、イェール・ハーシェ、チャーリー・ビダーマン、ポール・マーシャル、ロバート・グラウバー、マーフとナンシー・レビーン、ジェス・コーンブルース、ジャック・イーガン、マリー・ブレナー、ピーター・バンデルウイッケン、ユージーン・シャーリー、ジョン・コーテン、ジョエル・グリーンブラット、ジェーン・ベレントソン、および(担当の)チャールズ・ノーランに。フォーブス誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙およびニューヨーク・タイムズ紙に。わたしが知っていることの多くはこれらの人々および組織から学んだものだが、読者――や彼ら――がこの本のなかに見つけたひどい間違いは、すべてわたしの責任である。
■第Ⅰ部 最小のリスクでお金をためる
収入の範囲で生活することほど感銘を与える尊厳もなければ、独立を保つうえでそれほど重要なこともない。
――カルビン・クーリッジ
■第1章 わたしがそんなに賢いなら、なぜこの本であなたは金持ちになれないのか?
ニューヨークとシカゴの間にある枕木の数を教えてくれる鉄道アナリストには注意していたほうがいい。だがペン・セントラル鉄道の株をいつ売ればいいのかを聞いてはいけない。
――ニコラス・ソーンダイク
さあ、小型の分厚い投資ガイドを買ったばかりだとしよう。この本を『ドルとセンス』と呼ぼう。投資ガイドの多くがそんな書名だからね(といってもわたしの念頭にある本のタイトルは違うのだが)。いろんなアイデアを軽く読み進み、「!」マークが出てくるたびにだんだん関心が高まってきて、安心して持っていられそうな投資対象を物色している。年代物の車や未開発の土地、ミューチュアルファンドや金のページをめくっていき――そして貯蓄銀行の項にたどり着く。メキシコの貯蓄銀行だ。
その本は、ドルをペソに換えることで、どうしたらこの国で得られる五・五%の代わりに一二%も稼げるかを説明している。一〇〇〇ドルを五・五%で二〇年間預金してもわずか二九一七ドルにしかならないのが、一二%で運用すれば一万ドル近くにもなるのだ! そのうえ、と本の説明は続く。アメリカの貯蓄銀行は支払利息を内国歳入庁(訳者注 日本の国税庁に相当)に報告するが、メキシコの銀行は報告しないと保証している。ご注目。
本には、もしペソがドルに対して下落すれば、あなたの虎の子も比例して減ると警告はしている。しかし、と言って著者は安心させるのだが、ペソは世界でも最も安定した通貨の一つで、過去二一年間、ドルに対して一定のレートに固定されてきた。それにメキシコ政府は繰り返し切り下げはしないと言っている。さあ、そもそもこういうことが書いてある本を買う必要のあるあなたに、どうしたらメキシコ・ペソの安定性が評価できるというのか。リスクが高すぎると思ったなら、著者は二ページも割いてペソ投資の機会について論じたりしなかっただろうと考えるしかない――それに著者は専門家なのだ(喜んでお知らせしよう。本を書く人はだれでも、そのこと自体によって専門家なのだ)。それに実際どこかで、メキシコには石油――どんな国の通貨を支えるのにも、とても強力な担保――があると読んだのを思い出す。なんにしろ、もしあなたの貯金が国境の南で二倍や三倍になるのなら、ペソが五%か一〇%下がったとしてもなんだというのだ。
そういうわけで、株式市場が怖い一方で、著者のお墨つきに感服したあなたは、思い切って投資する。
そして一八カ月間は女の子にモテモテだ。なぜかって? ほかの人たちが、五・五%の貯蓄預金をしてもらった景品の時計つきラジオを、無駄と知りながらも見せているときに、あなたは一二%のメキシコ・ペソ預金のことを話しているのだから。
九月がやってきて、メキシコ政府がペソを一ドル当たり一二・五ペソに固定するのはもうやめて、「変動相場制」に移行すると発表する。一晩でペソは二五%下落し、数日のうちに四〇%下がってしまう。ドカーン。ニューヨーク・タイムズ紙は次のように書いている。「切り下げで直ちに深刻な問題が起こると予想される。特に問題なのは、高金利のペソ建て債券に何年もドルを投資してきたアメリカ人が被る多大な損失である」。どれくらいかって? ああ、たった六〇億ドルか八〇億ドルさ。
あなたはうろたえる。でも昨日今日生まれたばかりと言うわけでもなし。少なくとも焦って資金を引き揚げるほどバカじゃないさ。「天井で買った」かもしれない――でも底値で売ったりするもんか。ペソもいくらかは戻るかもしれない。戻らないにしても、なくしたものはなくしたもの。一二%も払ってくれる口座から減ってしまった資金を取り出して、アメリカで五・五%の口座に預けるなんて意味がない。
そして実際二週間足らずで変動相場制は終わり、メキシコ政府は非公式にペソをドルに再びペッグした(ただ、今はペソは五セントの価値しかないけど、二週間前には八セントの価値があったってだけさ)。国際金融のことはあまり知らないかもしれない(知っている人なんているかい?)、でもこのことが分かるくらいには知っているだろう。徹底的なリストラをしたときと同様、メキシコ・ペソが四〇%も下落すれば、長い、長い間その水準を保つはずなんだ。実際あなたは友だちにこう言う。心の平安のためには、死ぬまで少しずつかじられていくより、いっぺんに下がってくれてよかったよ。
そして六週間後にペソはまた変動相場制に戻り、五セントから四セント足らずまで滑り落ちる。九月初めのレーバーデー以来、五二%の損だ。
その本を買ってうれしくないかい?
(あらゆるものが変わるし、何も変わらない。この話は一九七六年のことだ。一九八二年にペソはまた切り下げられた――八〇%も。一九九四年から一九九五年の冬には、ペソは五五%下落した。そして……まあ、感じはつかめただろう)
この厚かましいタイトルの本――タイトルは出版社が考えたので、わたしも魔が差して同意してしまったのだが――は、手っ取り早く金持ちになろうとして損した人々のために書かれている。これはあなたが必要とするたった一つの投資ガイドだが、それはあなたをもうこれ以上お金は必要ないというほど金持ちにするからではなく、実際しないのだが、ほとんどの投資ガイドは、あなたには必要のないものだからだ。
金持ちになれると約束している本はいんちきだ。商品や金の投資戦略を扱っている本は範囲が狭すぎる。特定のゲームをどうやるかについては教えてくれるが、そもそもゲームをすべきかどうかについては教えてくれない。百科事典のようにあらゆる事柄について一章ずつ書いてある本を読んでも、読み始める前とほとんど変わらない――相変わらず、ひしめき合う無数の選択肢のなかから選ぼうとしているだろう。
急いで付け加えておくが、この本はあなたが必要とするたった一つの投資ガイドかもしれないが、良い投資ガイドはこれ一つというわけではけっしてない。しかし悲しいことに、良い投資ガイドを一冊ではなく三冊読んでも、投資の成果が三倍になることはけっしてないし、改善することすらないだろう。
投資の変わったところは――そして腹立たしいところは――料理やチェスやその他の多くのものとは違っていることだ。料理の本を多く読めば読むほど、牛肉料理のポットローストをたくさん調理すればするほど――限度はあるものの――料理の腕前は上がっていくだろう。チェスの本を読めば読むほど、より多くの指し手を研究すればするほど――限度はあるものの――相手を出し抜けるようになるだろう。しかし投資ということになると、これらの通常は称賛に値する特質――一生懸命頑張り、たくさん勉強して、興味を持つ――はあまり役に立たないばかりか、実際害になるかもしれないのだ。後で詳しく説明するが、株式の銘柄選択では手にいっぱいのダーツを持ったサルが、高給を得ているプロのファンドマネジャーの大多数とほとんど同じ成果を上げることが十分立証されている。まともな子牛のパルメザンが作れるサルを見せてほしい。
もしサルがプロと同じに、あるいはそれに近いぐらいにうまく投資できるなら、あなたにもできそうだ。さらに、それが快感だというのでもなければ、投資ガイド、特に長い本を読むのに多くの時間を使う必要はないということになる。実際この本の最大の長所は、その短さにあるのかもしれない(わたしとしてはそうではないことを希望しているが)。この本は木ではなく森に関するものだ。なぜなら、もしも正しい森――正しい全般的な投資展望――を見つけることができれば、木についてあまり心配する必要はないからだ。というわけで、この本では一部の人々が一生を費やしてそのなかをさ迷い歩いている投資分野には簡単にしか触れていない。例えば、これは事実なのだが、商品取引をしている九〇%以上の人々が損をしている。あなたも商品取引に関して必要な本はすでに全部読まれたと思うのだが、どうだろう。
この森と木――見通しの程度――に関する話については、もう少し説明したい。特にわれわれの多くは、与えられた状況のもとで「簡単な解決策を取る」ことに罪悪感を覚えるのが第二の天性になっているからだ。例えば本を一言一句読む代わりに、見返しと、最初と最後の章を読んで、要点を知ろうとするときにそう感じるのではないだろうか。
この問題を持ち出したのは、そもそも心配する必要のない投資のことに気をもんで何百時間も無駄にするのを避けられるからだし、また「わが人生最高の瞬間」の話につながるからでもある。
わが人生最高の瞬間は、ハーバード・ビジネス・スクールの意思決定分析の授業の最中に訪れた。ハーバード・ビジネス・スクールでは、その知識を伝授するために「ケースメソッド」を使っている。それは実際には、翌日の授業の分析のために三つか四つの事例を前の晩に研究しておくというものだ。例によって、各事例には途方もない量のデータのガラクタが示されていて、生徒はそれを使ってヒーローやヒロイン――ここでは必然的に戦いのさなかにある部門の管理職やCEO(最高経営責任者)――が理想的にはどのように振る舞うべきかを決めることになっている。これも例によって、わたしは事例研究を十分準備していくことができなかった。
クラス討論は、七五人の生徒が、ちょうど国連の代表のように名前を書いたカードを前に置いて半円形に座り、当てられていちばん困りそうな生徒を教授が警告なしに指名して、最初の五分か一〇分間一人で事例の分析を発表させ、残りの時間いっぱいでほかの生徒も討論に加わるというものだった。
あるとき、ある事例を調べるように言われたが、その要点は、XYZ社は同社の製品の鎖止めの値段をいくらにすべきかというものだった。偶然ではないが、同時に教科書の、そういうことを決めるための複雑な計算方法を扱った部分を与えられた。背後にある理論は単純だった――最も儲かるように値段を付けろ、だ。しかし実際の計算は、それをする気があるとしたらだが、ものすごく時間がかかった(ポケット電卓が売られるようになる直前のことだった)。
教授は愉快だけれどもひねくれた人物だったので、明らかにわたしが計算をしてこなかったことに気づくと、正真正銘の意地悪から議論の口火を切るようにわたしに言った。このときはまだ学期が始まったばかりで、みんなの態度もよそよそしく、だれもが人生をとても真剣に考えていたということを言っておかなければならない。
本能的には、反省の気持ちを表して「すみません、先生。予習してきませんでした」と言おうと思った。ものすごい屈辱だ。しかしめったにない霊感が働いて、わたしはどんなにまずくてもはったりをかけることにした。(さあ、やっと着いた。森と木の話だ)。わたしは言った。「はい、先生。この事例は明らかに、価格決定のために与えられた複雑な式をわたしたちに使わせることを目的としています。しかし、わたしはまったくそれをしませんでした。事例によれば、XYZ社のいる業界はとても競争が激しいので、少しでも売ろうと思うかぎり他社よりも高い価格を鎖止めにつけることはできないと思いました。また事例では、その企業は自立した独立企業です。それで他社よりも安い価格を付ける理由もないと思いました。それでわたしは、同社は他社と同じ価格にし続けるべきだという結論に達し、計算はしませんでした」
エヘン。
教授は怒った。だがわたしが予想した理由からではなかった。この事例の主旨は、五五分間お互いの計算をめぐって生徒に堂々巡りをさせ、それから教授がこの事例ではなぜその計算が不適切なのかを生徒に示すことにあった。代わりに、授業は始まってから一二分間で終わった――とどろくような拍手喝さいで、と付け加えたいところだ――もう議論すべき点は何も残っていなかったのだ(ここにハーバード・ビジネス・スクールにおけるわたしのほかの功績の一覧をお見せしよう。卒業しました)。
さて、商品に話を戻そう。
わたしのブローカーはときどき、わたしに商品取引に関心を持たせようとする。大勢の顧客のために商品取引をしていて――自分でもその商品が有利だと信じていることを証明するために――自分の口座でも取引をしているという。彼はニューヨークの大手証券会社に勤めていて、商品部門の部長と直接話すこともできる。さらに回転売買で五〇〇〇ドルを五〇万ドルに増やした顧客のことを話す。
「ジョン、正直に言ってくれ。君は商品で儲けているかい?」
「ときには」とジョン。
「もちろん、ときにはね」とわたし。「でも全体としては儲かっているの?」
「今は儲かっているよ。ポークベリーの五月限で三二〇〇ドル儲かってるさ」
「でも全体としては、ジョン、もし利益をすべて合計して損と手数料と税金を差し引き、君がそのためにかけたり心配して過ごした時間で割ったら――一時間当たりいくらの儲けになるんだい?」
わたしのブローカーはバカじゃない。「その質問には答えないよ」。彼はのどをくっくっと鳴らした。
わたしのブローカーは、四年間の商品取引で約五〇〇〇ドルの税引き前利益を上げていたことが判明した。綿花で一度一万ドル、大豆で五六〇〇ドルの利益を上げていなければ、完敗だっただろう。彼は言う。「でももちろん、それがこのゲームの典型なんだ。小さな損がたくさんと何回かの大儲けさ」。彼は商品取引のために何時間働き、何時間心配したか数えることはできない。ある金曜の午後、砂糖がストップ高で引けた後で、彼は砂糖の売り持ちのポジションを持ったまま家に帰った(つまり砂糖の価格が下がるほうに賭けたのだが、逆にとても急激に値上がりしたので、ポジションを手仕舞う暇がなかった。そして今、賭けたお金以上に損をしそうなのだ)。そして自分と奥さんの週末を、全部そのことを心配することに費やした。というわけで、このとても頭の良いブローカー、とても頭の良い相談相手やとても優れたコンピューターのアウトプットを持っているブローカーは、一生懸命努力して、税引き前で時間当たり二ドルか三ドル稼いだだけなのだ。それなのにわたしにさせたいって? あなたにさせたいって?
もし商品投機をしている人の九〇%が損をするなら(九八%がより正確かもしれないが)、問題は明らかに、どうやって勝ち組の一〇%(または二%)に入るかだ。もし単なる運の問題ではないなら、最もよい機会に恵まれているのは大企業――ハーシー、カーギル、ゼネラルフーヅなど――の上級幹部で、気候の小さな変化も報告してくれる人が世界中にいて、(ココアであれ小麦であれその他何であれ)市場の感触が刻々と分かっている人々だと言えるだろう。あなたはそのお仲間ではないが、そういう人たちは喜んであなたをテーブルにつかせ、一緒にゲームをしてくれるだろう。
一方もし単なる運で決まるのなら、あなたにもほかの人同様大当たりをつかむチャンスがある。あなたがやっているのはまったくのギャンブルで、ツキがあることを期待して、ブローカーに手数料をつぎ込むのだ。そして友だちであれ義理の兄であれ、ブローカーには適切なアドバイスをすることはできない。ブロイラーの一〇月限やフロリダの霜に関するアドバイスや、なぜかほかの人はまだだれも見ていないというテクニカルアナリストのレポートはくれるだろう。それも喜んで。彼が言わないことは――もし言ったりしたら高くつくことになるが――あなたはそもそもゲームに参加してはいけないということだ。
授業終わり。
クラシックカーやワイン、自筆の原稿や切手、コイン、ダイヤモンド、美術品も同様だ。理由は二つある。まず、どの場合もあなたは専門家と競争している。もしあなたがすでに専門家なら、わたしのアドバイスは必要ないし、気にもかけないだろう。第二に、そういった投資物件の価値が信じられないほど着実に上昇していると話すとき、ほとんどの人が指摘し忘れるのは、あるリトグラフを買うのにかかる金額は毎年急速に上がっていくかもしれないが(そうでないかもしれないが)、素人が立場を変えて売ろうとしても簡単ではないということだ。画廊は通常、小売価格の半分を分け前として取る。だから一〇〇ドルで買った版画が五年後に小売価格で二〇〇ドルに値上がりしたとして、その画廊に売りに戻っても、あなたは一〇〇ドルしかもらえないかもしれない。たしかにネットオークションのイーベイなら買値と売値の差は小さいし、かわいいぬいぐるみのビーニーベイビーズを取引するには良いところだ。だがこれは投資と言えるだろうか? その間(心理的なものは別として)版画もワインもダイヤモンドもロールスロイスも配当を払ってはくれない。それどころか、保険を掛けることであなたが払うことになる。
何年も前、この趣旨のことをオーストラリアで講演したことがある。ちょうど、その当時過熱していたダイヤモンドの市場で、最初の微かな陰りが見え始めてきたころだった。何ものも永遠には続きません。ダイヤモンドの年率一五%の値上がりも同じです、とわたしは語った。講演が終わったとき、口ひげを生やし、もじゃもじゃのかつらをかぶった紳士がやってきて、わたしの意見に大賛成だと言った。「ダイヤモンド!」とバカにする(顔には嫌悪の表情が浮かんでいた)。一分ほど、わたしは気の合う人に出会ったと思った。「オパールですよ! 儲かるのはそれですよ!」。その男はオパールのセールスマンだったのだ。
子供のころ「初日カバー」(色とりどりの、新切手の発行を記念して特別に消印が押された封筒)を集めていた。果たして、毎年その価格は上がっていった。何十年もたってから押し入れの奥に発見して、まだ集めているのを知っていた地元の収集家に電話した(彼のビラをスーパーマーケットの掲示板で見たのだ)。中間業者を省いたほうがいつでも有利なことを知っていたので、彼に直接売ろうと思った。わたしが話しているのは四〇年代から五〇年代に発行された美しい初日カバーで、何百とあった。二五セントから始まって、買った値段はいろいろだった(当時は田舎で一週間暮らすのも、それくらいのお金で済んだ)。
「コレクションはどれくらいの重さになるんだい?」。わたしがうまく彼の関心を引くとマニアが言った。
「どれくらいの重さかですって!」。わたしは聞き返した。「あなたのコレクションはダイエットでもしてるんですか? 数ポンドはあると思いますよ」
「二五ドル払おう」と彼が言った。いろいろ調べて、これは不当な値段ではないことが分かった。
フランクリン・ミントが「即席収集家用の品」として嫌になるほど発行している記念用大メダル(などなど)は、同社の既存の株主を金持ちにするのには役立ったが、あなたを金持ちにする可能性はずっと少ない。銀や金やプラチナの含有量は、売値のごく一部でしかない。
金自体は利息を生まないし保険にお金がかかる。インフレに対するヘッジだって? まあ、いいさ。それに大騒ぎされている大崩壊がついにやってきたときに、リヒテンスタインやその他どこであれ避難場所へ行くための切符を手に入れる手ごろな方法だ。だがもしインフレをヘッジしたいなら、株式や不動産のほうが効率がいいだろう。長期的には、それらもインフレと一緒に値上がりするのだから。そして短期的には、配当や賃貸料を払ってくれる(この改訂版を書いている時点で、配当はおおむねはやらなくなっている。税金のせいだ。そしてユーフォリアから株価が高くなりすぎたせいだ。だがまた配当の人気も復活するだろう)。
ブロードウエーのショーに投資するのは楽しいが、後援しているショーが激賞されたとしても、たぶんあなたは損するだろう。ショーがブロードウエーで一年以上も上演され続け、週末には劇場がいっぱいになったとしても、後援者には一銭も戻ってこないこともある。マルチ商法は絶対儲からない。
化粧品会社のように見えるが実はマルチ商法の偽装で、化粧品を売るのではなく(化粧品を売る)販売権を売るという販売権を売って大儲けをしている場合も、うまくいかない。
あなたを金持ちにしようと熱心なセールスマンがかかわっている場合も、儲からない。あなたを大金持ちにしようとしているほど、急いで逃げなければならない。
実際、手っ取り早く金持ちになる方法はそんなにない。合法的にということになればもっと少ない。ここに一つそういうのがある。五〇〇〇ドル持って(必要があれば借りること)、いちばん近くにあるルーレット台に行き、二二に賭けて、一七万五〇〇〇ドル儲けるのだ。笑ってはいけない。多くの複雑な仕組みも、飾りをはぎ取って隠された勝ち目を見れば、大して危険が少ないとは言えない。飾り――お話や宣伝文句――が勝ち目をあいまいにし、五〇〇〇ドルも賭ける気にさせてしまうのだ。ルーレットだったら夢にも賭けようなんて、思わないのに。
ともかく、大してあなたの役に立たないものの話はもう十分したので、役に立ちそうなものの話に移ろう。次の章の目標は一年に一〇〇〇ドルためることだ。もしかしたらもっと。
■付録 ボルドーワインで一七七%儲ける
これからする話は、多少進化を重ねてきている。初めて私がこの例を引いたのは、一九七八年にトゥナイト・ショー(訳者注 NBCでウイークデーの夜放映されている人気トークショー)のなかでのことだった。あなたは毎週土曜日の夜、夕食用に一〇ドルのワインを一本買っているとしよう。だがケースで買えば、代わりに一〇%のディスカウントを受けられる。あなたは余分なお金を先に払うことによって、一〇%「儲ける」ことができる。しかもたった一二週間でそれだけ「儲ける」というわけだ――毎週一本ずつ一二週間買っていくとワイン一ケースになる――それは、と私は説明した。結局「四〇%の年間収益率を上回るのだ」と。
私は「どのくらい」上回るのかは説明しなかった。四〇%でも十分ドラマティックな数字ではないだろうか。いったいほかのどこで、四〇%も非課税で稼げるだろう。
何年かたつうちに、私は人々が、私のこの十八番を理解するのに苦労していることに気がついた。一〇%しか値引きされないのに、なぜ四〇%になるのだろう、と。
そこで私はもう少し詳しく説明することにした。実際にはこういうことだ、と私は説明した。お店に行って一本分の一〇ドルを出す代わりに、一二本分の一〇八ドルを払う(定価から一〇%割り引いた額)。その余分に払った九八ドルがあなたの「投資」だ。たかだかその程度の余分なお金を一年間拘束しておくだけで、あなたはワインで週一ドルずつ節約することができるのだ――一年だと五二ドルだ。九八ドル預けて年に五二ドル「稼ぐ」というのは、五三%稼ぐことを意味する。
さあ、今や五三%まで上昇した。さらに非課税の収益が増えたわけだ。
これを聞いた人々はもっと混乱してしまった。彼らは私に言った。最初の九八ドルはもうなくなってしまったのだから、次の一ケースのワインを買うために、また九八ドル出さなければいけないのではないか、と。
だが考えてみてほしい。もし、あなたが週一〇ドルずつワインに使うことにしていて――年間五二〇ドル――ケース買いすることによって一〇%節約したいのだが、いっぺんにそれだけのお金をかき集めることができなかったとしたら、あなたはいくら融資を受ける必要があるだろう。
購入パターンを変えるために、銀行に行って四〇〇ドルのローンを申し込まなければならないのだろうか。
いや、あなたに必要なのは九八ドルの信用限度だけだ。そして最初の週にその全額を引き出してしまう。それからは、週に一〇ドルずつ返していく(一本ずつ買っていたときに払っていた一〇ドル)。つまり、一二週間後、次のケースを買わなければならないときには、九八ドル全額返し終えているだけでなく、余分な資金が一二ドル手元に残ることになる(ケース買いすることで節約したお金)。だから今度は、信用限度額九八ドルのうち、八六ドルだけ引き出せばいい。
言葉を換えれば、購入パターンを変える資金を調達するために、あなたは最大で九八ドル借りる必要があるのだ。だが、そんなに借りなければならないのは最初の週だけだ。一〇週間で差引勘定はゼロになり、一三週目には次のワインを一ケース買うために八六ドルの借金をする。 九週間でそれを払い終え、また次のケースを買うために七四ドルの借金をする――と続いていく。一年の平均をとれば、あなたが購入パターンを変える資金として使っているお金は、限度額の九八ドルよりずっと少ない。
だから、あなたが最初に九八ドルまとめて払い、それからは次第に少ない金額をまとめて払っていくと決めたことによってもたらされる収益は、実際には四〇%や五三%よりずっと大きいのだ。
もし、私の友人のレス・アントマンが、この情報を彼のヒューレット・パッカード製会計計算機に正しく打ち込んだら――彼がミスをするのを見たことがないが――年間収益率一七七%という数字が弾きだされるだろう(これをトゥナイト・ショーでは四〇秒で説明しようとするのだが)。
あなたの儲けはやはり五二ドルだけだ――一〇%の割引で一週間に一ドルずつだから。だが、普段の買い物のすべてにこれを応用したら、あなたのポートフォリオのなかでも最高の「投資」になるだろう。
次のステップ 同じぐらい口に合う、一本八ドルしかしないワインを見つけること。