市場間分析入門 目次

訳者まえがき                                         1
謝辞                                              9

序文                                              11
前著で分析した1980年代/日本株バブルが崩壊した1990年/2000年の3回目の株式バブル崩壊/デフレのシナリオ/1980〜1997年のインターマーケットの原則/1998年とその後の状況の変化/原油の役割/金の復活/アセットアロケーションと景気の予測/チャートの重要性

第1章 1980年代の再検討                                23
1980年に大天井を付けた商品/1980年に底入れしたドル/1981年に底入れした債券/1982年に底入れした株式/4つのマーケットの相互関係/1987年の株式大暴落/1987年春の商品高と債券安/8月に大天井を付けた株式/株安をもたらしたドル安/グローバルだった1987年の株式大暴落/それ以降のインターマーケットの相互関係/ドルの遅行する動き/1990年

第2章 1990年と湾岸戦争                                 41
1990年初めに下降した債券/1990年初めから急騰したCRB先物指数/債券と株式の乖離/米株高を確認しなかった世界の株式/8月のイラクによるクウェート侵攻/金と原油の急騰/湾岸戦争勃発後はそれ以前とは逆の動き/1990年に原油と石油株が乖離/原油価格40ドルの重要性/1990年のインターマーケットのトレンド/1991年と2003年の比較/上昇トレンドを取り戻せなかった日本株

第3章 1994年の忍び寄る弱気相場                           61
1990〜1993年の明るい局面/CRB先物指数/CRB先物指数は1993年前半に上昇/工業用金属の動き/JOC−ECRI指数/金と原油も重要な指標/ゴールドマンサックス商品指数/債券は株式の先行指標/忍び寄る弱気相場/1994年の公益株安と金属株高/1995年に逆転したインターマーケットのトレンド/CRB先物指数÷債券レシオ/債券と株式は1998年まで上昇

第4章 1997年のアジア通貨危機とデフレトレンド                   83
1997年のアジア通貨危機/債券と株式の乖離/デフレのシナリオ/1997〜1998年は単なる序章/1997〜1998年のインターマーケットのトレンド/ドルと商品/香港株と工業用金属がそろって天井/商品と債券/債券と株式  1998年に債券と株式が乖離/CRB先物指数÷債券レシオとセクターローテーション/景気循環株と消費関連株  1997年にレシオが急下降/レラティブストレング分析/この2つのセクター指数のレシオ/1997〜1998年のインターマーケットの教訓

第5章 株式の大天井に至る1999年のインターマーケットのトレンド         101
1999年に逆転した1998年のトレンド/1999年に始まった商品の上昇/商品と債券利回り/原油と工業用金属の底入れ/金利上昇が株式に及ぼした影響/NYSE騰落ラインが急落/株式市場の各セクターに対するインターマーケットの影響/原油高は石油株にプラス/手痛い打撃を受けた運輸株/原油高は金融株にも大きな打撃/その他のセクターに対する影響/セクターローテーションと景気サイクル/1999年のグローバルな影響/香港株と半導体株/豪ドルと商品

第6章 インターマーケット分析の再考                          121
序/進化するテクニカル分析/セクター分析の重要性/アセットアロケーション手法/インターマーケット分析の基本条件/グローバルなマーケット/グローバルなセクタートレンド/米市場に及ぼす日本の影響/日本発のデフレトレンドがFRBの努力を無効に/経済的な教訓/インターマーケット分析のテクニカルな性質/チャートのメリットは大局観/景気の予測/景気トレンドを先取りするマーケット/ドルの役割/為替相場のグローバルな影響/多国籍企業に対するドルの影響/ドル安で潤うマクドナルドやP&G/医薬品株に対するドルの影響/小型株は内需株/ドル安はサービス関連株にもプラス/インターマーケットの原則のまとめ

第7章 2000年にはじけたナスダック株バブル                     141
歴史的な年/景気減速を示唆する逆イールドカーブ/チャートに表れた警告のシグナル/物事が起きたときにその意味を理解する/逆イールドカーブ――2000年1月30日付のマーケットメッセージ/またも1969年のような状況が出現したのか/1月の安値をブレイク/現金比率を高めよ/ナスダック株の移動平均ブレイクとNYSE株の低迷/REITが人気化/レラティブストレングを有するREIT/REITの上昇/景気減速――2000年4月21日付のマーケットメッセージ/2000年初めに銅と債券利回りがピークに/景気減速期には消費関連株が有利/消費関連株が上昇/状況は良くない方向に/バリュー株にシフト――2000年8月11日付のマーケットメッセージ/景気サイクルとセクターローテーション/エネルギー株や消費関連株が買われると景気が悪化/景気の減速――2000年11月10日付のマーケットメッセージ/セクターローテーション図の2つの利用法/2000年の教訓

第8章 2003年春のインターマーケットの状況                     161
光り始めた金/債券と商品は逆相関の関係/9.11以降の逆転/商品に先行する株式/株式が商品に先行して反転上昇/債券と株式が逆相関の関係/9.11以降にトレンドが逆転/株安は金にプラス/2002年5月22日――ドルが大天井/ドル安は金にプラス/金鉱株の輝き/ようやくデフレの脅威に気づいたFRB/ドル安

第9章 2002年の商品高とドル安                            179
商品の上昇/ドルの天井と商品の底が一致/債券と商品の乖離/「戦争プレミアム」が原油価格を押し上げ/個別商品の乖離した動き―天候と景気/工業用金属と金利は順相関の動き/商品と債券利回りは順相関の動き/アジア発のデフレトレンドが債券利回りを押し下げ/グローバルな弱気トレンド/日本がグローバルなマーケットを押し下げ/デフレのシナリオ―米株式と金利の低下/商品高をもたらしたFRBのデフレ回避策/ドル安で金も上昇トレンドに/実物資産の見直しか

第10章 金融資産から実物資産へ                           195
金の復活/金が15年にわたる下降トレンドラインを上方にブレイク/金と株式/20年ぶりに商品が株式よりもアウトパフォームに/1991年のような状況が2003年に再来しなかった理由/循環的なトレンドと長期トレンド/循環的な上昇トレンドの歴史的な検証/長期の株安は金にプラス/ドル安と他国通貨高/ドル安の影響/ドル安に影響されない中国/資源国通貨の上昇/先物市場の活用/従来のマーケットには有利な代替投資先がない/商品関連株

第11章 先物市場とアセットアロケーション                      211
各資産クラスのレラティブストレング分析/債券と株式/商品と債券/株式÷金レシオ/商品と通貨/アセットアロケーションにおける商品先物の役割/アセットアロケーション/商品先物の買いと売り/マネージド・フューチャーズ・アカウント/先物と債券・株式の低い相関関係/資産クラスとしての商品先物/有効フロンティア  資産クラスとしての通貨/ドル安の影響/各国通貨建ての金価格/各国通貨の上昇率と比較した金の上昇ペース/主要通貨の上昇率を上回るペースで急騰した金/要約

第12章 インターマーケットの分析と景気サイクル                  233
4年の景気サイクル/景気サイクルとインターマーケットのローテーション/各景気局面における債券、株式および商品の動き/カギをにぎる債券/景気サイクルの6つの局面/2000年の教訓/景気先行指標としての債券/先行指標としての株式と商品/JOC指数/2001年の景気後退の到来時期/3つのマーケットが順番に天井/1920〜1930年代の3マーケットのローテーション/1920年に天井を付けた商品/1920年に底入れした債券/1921年に底を打った株式/1928年に反転下降した債券/1929年に乖離した債券と株式そして商品の動き/1930年代初めにそろって底を打った株式と商品/1930年代のリフレーション/1931年に急騰した債券利回り/1940年代初めに底を打った株式と商品/数十年に見る3マーケットのローテーション/3マーケットの長期ローテーションの結論/コンドラチェフの波/4つの季節に分類できる生涯サイクル

第13章 株式セクターに対する景気サイクルの影響                 257
各景気局面のセクターローテーション/2000年のセクターローテーション/景気サイクルのもうひとつの見方/2003年のセクターローテーションは景気拡大初期を示唆/消費嗜好品株とテクノロジー株が人気化/消費支出の回復/小売株の人気化/テクノロジー株の人気化は好材料/2003年のリード役はナスダック株/運輸株の人気化/消費嗜好品株が消費関連株よりもアウトパフォームに/景気の谷では小型株が人気化/セクターローテーション/セクターローテーションと経済データ/金利/イールドカーブ/2003年に平坦化したイールドカーブ/もうひとつのイールドカーブ

第14章 不動産への投資                                277
立地がすべて/これまでとは違う景気局面/ナスダック株の大天井とREITの上昇/2000年の状況/2002年夏に状況が変化/2002年にREITが天井/2002年夏以降のREITのアンダーパフォーム/金利に敏感な住宅/インフレに連動しない不動産/必ずしも金利動向を反映しない不動産価格/株式とも連動しない不動産/不動産価格を左右するロングサイクル/さまざまなサイクル/現在と1930年代の類似点と相違点/1940年以降の不動産サイクルの歴史/住宅株は株式全体または金利のどちらに連動しているのか/1999年に住宅株は平均株価から乖離/金利と逆相関の住宅株/2000年のマーケットローテーション/住宅株と株式全体が再び連動/FRBのデフレ回避策も住宅株を押し上げ/住宅株のトレードオフ/日本の不動産は株式暴落から2年遅れで急落

第15章 グローバルに考える                              297
すべてのマーケットは相互に関連し合っている/為替レートが及ぼすグローバルな影響/新興市場/インターマーケットのセクター分析/静的ではないインターマーケットの原則/債券と株式の乖離/歴史を学ぶ重要性/株式ブームに続く10年の低迷期/インターマーケット分析とテクニカル分析/広い視点を持つ/インターマーケット分析は革新的なステップ/学ぶべきことはまだたくさんある

付録

■訳者まえがき

 パソコンとインターネットの普及は投資の分野でもそれまでできなかった多くのことを可能にしたが、そのひとつがグローバルなマーケットの動きを一望できるようになったことであろう。これまでのテクニカル分析の目はひとつのマーケットだけに向けられ、そこから利益を上げるためのさまざまなテクニカル指標が開発されてきた。しかし、そこで見落とされていたのは「すべてのマーケットは相互に関連し合っている」、すなわちあるマーケットで起きたことは別のマーケットに影響を及ぼすという重大な事実である。

 筆者によれば、1990年に初めてインターマーケットの分析を試みた著書を刊行したが、こうしたアプローチに対するテクニカルアナリストたちの反応は冷ややかなものだったという。しかし現在では、グローバルな株安の時期には全世界の株式がそろって下降し、もはや従来のグローバル分散投資などはまったく役に立たないことは常識となっている。また、日本株(日経平均)とアメリカの中期債(Tノート)が同じトレンドで動いているという事実も、インターマーケットの分析によってようやく知られるようになってきた。

 インターマーケット分析の基本的なマーケットは債券、株式、商品そして通貨市場であり、この4つのマーケットの相互関係を見るときの不可欠のテクニカルツールがチャートーである。なぜチャートを重視するのかといえば、それは、.船磧璽箸防修譴審謄沺璽吋奪箸瞭阿はファンダメンタルズの先行指標になっている、そして、同時に多くのマーケットのトレンドが見られる――からである。チャートを読むときに最も大切なことのひとつは、現在のトレンドがマイナーそれともメジャートレンドの変化なのかを判断することである。というのは、あるマーケットのトレンドの変化がマイナーなものであれば、ほかのマーケットのメジャートレンドも変化しないと予想されるからである。

 筆者によれば、一般投資家がインターマーケットのトレンドを分析するといっても、何もチャートの専門家になる必要はない。単純に言えば、各マーケットのトレンドが上昇・下降のどちらかが分かればそれで十分であり、大切なことはグローバルに考えることである。投資家がひとつのマーケットからグローバルなマーケットに目を向けるという複眼的な視点を持てば、インターマーケットに働いている複雑なトレンドもはっきりと読み取れるようになるだろう。

 本書の邦訳出版に際して、後藤康徳(パンローリング)、阿部達郎(FGI、編集・校正)、新田和子(装丁)の各氏には大きな尽力をしていただいた。心より感謝いたします。

 2005年4月

関本博英

■序文

 私は1990年に『インターマーケット・テクニカル・アナリシス――トレーディング・ストラティジーズ・フォー・ザ・グローバル・ストック・ボンド・コモディティ・アンド・カレンシー・マーケット(Intermarket Technical Analysis : Trading Strategies for the Global Stock, Bond, Commodity, and Currency Markets)』と題する著書を刊行した。その目的は、国内およびグローバルなすべてのマーケットは相互に密接に関連し合っていることを明らかにすることにあった。そして本書の主なテーマは、こうしたインターマーケットの相互関係を念頭に置き、広い観点からそれらのチャートを検討すべきであることをテクニカルアナリストの皆さまに再認識させることである。例えば、ドル、債券および商品(コモディティ)などのトレンドを見ないで株式の動きをどれほど詳細に分析しても、それは極めて不完全な結果に終わるだろう。本書では金融マーケットがその他のマーケットの先行指標として、そしてときには関連する各マーケットのトレンドを確認するものとして位置づけている。私の前著が単一のマーケットだけしか分析しないという従来のテクニカル分析の常識を覆すものだったので、その当時はこの新しいアプローチがテクニカル分析の分野ではたして本当に有効なのかと疑問視する声もあった。またそのようなインターマーケットの相互関係が実際に存在するのか、そうしたアプローチで将来のトレンドの方向が有効に予測できるのかという懐疑的な見方も少なくなかった。このようにグローバルなマーケットが相互に密接に関連し合っているという考え方は、これまでかなり疑問視されてきたのである。しかし、この10年間に状況は何と大きく変化したのだろうか。

 今では「インターマーケットの分析」はテクニカル分析のひとつの主要な分野と考えられ、こうした考え方は広く認知されている。例えば、ジャーナル・オブ・テクニカル・アナリシス誌(2002年夏〜秋号)がマーケットテクニシャン協会の会員に対して、テクニカル分析の研究コースに盛り込むべき重要な項目について質問したところ、上位14の研究項目のなかでインターマーケットの分析が第5位にランクされたという。インターマーケットの分析はこの10年間に、ようやくテクニカル分析の主要な分野に仲間入りしたのである。

 前著で分析した1980年代

 前著では商品バブルの崩壊で始まる1980年代の10年間に焦点を当てた。商品バブルの崩壊は実物資産が急騰し、金融資産(債券・株など)が低迷していた1970年代の超インフレ時代が終了したことを意味する。1980年に商品相場が大天井を付けたことは、債券と株式の大強気相場を含むそれ以降の20年間にわたるディスインフレ時代の到来を告げるものであった。1980年代の最も重要な金融市場の出来事(1987年10月のブラックマンデー)は、インターマーケットが相互に密接に関連しているため、各マーケットの動向には常に目を向けていなければならないことを教えてくれた。1987年上半期の商品相場の急騰(そして債券の急落)は、同年下半期に株式が暴落するであろうことを強く警告するシグナルであった。それから3年後の(前著が出版された)1990年には、世界の金融マーケットは同年8月に起こったイラクのクウェート侵攻に反応し始めていた。全世界の株式は暴落し、金と原油価格は急騰した。それから13年後の2003年初めに世界は再びイラク戦争の危機に直面し、1990〜91年のマーケットの反応を再検討する必要に迫られた。歴史には繰り返す方法があると言われるが、それはインターマーケットの分野でも同じである。

 日本株バブルが崩壊した1990年

 1990年初めに起きたもうひとつの重要な出来事は、それから10年以上たった今でもまだ全世界に影響を及ぼしているものである。今から13年前に起きた(世界第二位の経済大国である)日本の株式バブルの崩壊は、それ以降に(各種製品やサービス価格が下落するという)デフレを引き起こした。この10年間に欧米各国の中央銀行は日本のこのデフレモデルを研究し、何としても自国経済にデフレトレンドを波及させないための努力を重ねてきた。本書に掲載されたいくつかのチャートを見ると、日本のこのデフレトレンドがのちにアメリカの債券と株式を乖離させた元凶であることが分かるだろう(2000年の債券高・株安)。

 2000年の3回目の株式バブル崩壊

 2000年3月10日に起きたナスダック株バブルの3回目の崩壊は、その後に数十年来の大弱気相場が到来することを示唆していた。S&P500の50%という下げ幅は1974年以来の大きな下げ幅であり、またナスダック株の78%という下げは1929〜1932年の大恐慌時代以来の最悪の記録となった。マーケットの歴史家はこの2つの時代の状況を詳細に研究して、そこから株式相場の将来の方向を予測するヒントを引き出すべきである。この2つの時代の状況を比較分析することは簡単ではないが、それぞれの暴落をもたらした経済的要因が大きく異なっていることだけははっきりしている。1970年代の株式暴落をもたらしたのはインフレスパイラルと商品相場の急騰であるが、1930年代の株式大暴落の原因は深刻なデフレだった。この2つの時代の状況はいずれも大幅な株安をもたらしたが、克服するのが難しいという点ではデフレのほうが深刻である。

 1998年から全世界に広まったデフレ(デフレーション)という言葉は、1930年代以降に初めて聞かれるようになったものである。その直接的な発端は1997〜1998年に世界を震撼(しんかん)させたアジア通貨危機であり、それから5年もたたないうちに、このアジア発のデフレトレンドはアメリカを含む全世界の債券・株式市場に広がっていった。こうしたデフレトレンドの影響は、とりわけ過去40年間にわたって機能してきたインターマーケットの関係を大きく変質させた。多くのインターマーケットの原則は今でも有効に働いているが、それ以上に重要なことは、一部のインターマーケットの相互関係が大きく変化したことである。インターマーケットの分析は各マーケットの相互関係をベースとしているが、それはけっして静的な関係ではない。インターマーケットの相互関係もそのときの状況に応じて変化することもあるが、それはけっしてでたらめに変化しているのではなく、そうした変化をもたらしたはっきりとした理由が存在する。1990年代後半にインターマーケットの相互関係を変化させた主な原因は、全世界に波及していったデフレトレンドである。

 デフレのシナリオ

 私は1999年に刊行した『テクニカル・アナリシス・オブ・ザ・フィナンシャル・マーケット(Technical Analysis of the Financial Markets)』のなかに、過去数十年にわたって機能してきたインターマーケットの相互関係を歴史的に分析した1章を挿入したほか、「デフレのシナリオ」と題する新しい章を盛り込んだ。そこでは1997年半ばに始まったアジア通貨・株式市場の崩壊と、それが特に世界の商品市場(銅、金、原油など)に及ぼした深刻な影響について詳述した。世界大恐慌から数世代の期間を経て初めて、アナリストたちは(物価が緩やかに上昇し続けるという)ディスインフレの良き時代が(物価が下落するという)悪性のデフレ時代に取って代わりつつあることに気づいた。こうしたデフレの脅威に対してマーケットがどのように反応するのかが、今後5年間のインターマーケットの原則を決定する条件となる。商品相場が下落すれば債券は上昇するというのが通常のインターマーケットの相互関係であり、この2つのマーケットの関係は現在でもそれほど変わってはいない。しかし、債券と株式の関係は大きく変質してしまった。1998年には世界の株式が暴落し、安全な逃避先を求めて全世界の資金が米国債に流入した。これまでの常識に従うならば、(株式が下落して債券が上昇するという)こうした状況は異常であり、従来のインターマーケットの原則に照らすならば、この2つのマーケットの関係は一変してしまった。1981年から1997年まで続いたディスインフレは商品にはマイナスだったが、債券と株式には追い風となった。一方、1998年から始まったデフレトレンドは債券にはプラスに作用したが、商品と株式にとってはマイナスとなった。一般にデフレ時代には債券が上昇して金利は低下するが、こうした低金利は株式にはプラスとはならない。2001年1月以降の18カ月間にFRB(米連邦準備制度理事会)は一連の利下げを実施したが、それでも2000年から始まった株安傾向に歯止めをかけることはできなかった。

 1980〜1997年のインターマーケットの原則

 本書では1980年代の状況を概説し、なかでも株式の歴史的な大強気相場をもたらしたインターマーケットの相互関係の変化に焦点を当てている。さらに1987年10月の株式大暴落(ブラックマンデー)についても詳述しているが、それはインターマーケットの原則とそれを今の現実に適用するときに極めて重要な出来事であるからだ。一方、1990年の株安は私がちょうど前著を完成しつつあるときに始まった。本書では特にそれから13年後に起こったグローバルな出来事と関連付けて、この年の状況を詳しく分析する。従来のインターマーケットの相互関係は1994年の株安時期を含めて、1998年までは極めて有効に機能していたのである。

 1998年とその後の状況の変化

 本書では1998年以降の各マーケットの出来事についても詳述しているが、この年は従来のインターマーケットの関係を大きく変化させた年であった。2000年春に起きた株式バブル崩壊までの各マーケットのさまざまな出来事をはじめ、それから3年間にわたる株安局面についても検討する。1998年以降の世界経済にとってデフレは最大の脅威となり、世界のマーケットは1990年代後半と21世紀の当初3年間には極めて密接な関係を見せた。その背景にはナスダック株バブルがはじける直前の時期に世界の株式市場でテクノロジー株が異常な水準まで買い上げられたこと、そしてその後のナスダック株バブルの崩壊と世界の株式暴落がある。このようにデフレが及ぼす影響はグローバルな規模に及ぶようになった。2000年以降に全世界の株式が総崩れとなったことは、(リスク分散のために海外市場にも投資するという)従来のグローバルな分散投資手法がもはや通用しないことを立証した。グローバルな株安の時期には、全世界の株式相場は密接に関連し合ってそろって下降する。こうしたことは1987年のブラックマンデーをはじめ、2000年以降にも何度も起きている。各マーケットのトレンドは本質的にグローバルなものになったというインターマーケットの現実がはっきりと露呈された。こうしたことは株式、金利そして通貨のトレンドはもとより、インフレとデフレのトレンドでも同じである。

 原油の役割

 1999年の原油価格の急騰は2000年春の株式暴落、それから1年後の2001年春に始まったアメリカ景気の収縮入りなど、一連の出来事の引き金となった。原油高は過去40年間に米経済を何回も不況に陥れた元凶であり、1999年もその例外ではなかった。FRBは原油価格の急騰による悪影響を抑えるため金融引き締め策を実施したが、これによって1960年代から続いてきた史上最長の景気拡大期は終了した。FRBの金融引き締めにより、2000年からは逆イールドカーブという状況が発生したが、これは歴史的に見ても株安と不況の到来を示唆するシグナルとなる。こうした状況はその当時のチャートを見ると一目瞭然であり、それは本書に掲載したチャートからもはっきりと読み取れる。残念なことに多くの経済学者やウォール街のアナリストたちはこうした歴史的な教訓を読み取れなかったか、または単純にそうした事実を無視していた。

 前著の内容と異なるもうひとつの重要な点は、インターマーケットの分析ではいわゆる「セクターローテーション」といわれるものが次第に重要性を増してきたことである。各景気局面に応じて異なるセクターの株式が買われることになる。1999年には石油株が最も大きく値上がりしたが、原油価格の上昇は一般に景気と株式にとっては悪材料である。読者の皆さんは本書から、1999〜2000年の危機的な時期にはどのセクターの株式が有利なのか、またナスダック株がピークを付けたあと、新しい上昇トレンドを開始したのはどのディフェンシブストックだったのかなどの状況を読み取られるだろう。

 金の復活

 金は1980〜2000年の20年間にほぼ一貫して下降トレンドをたどった。この時期はディスインフレの時代であり、また大幅な株高を背景に金投資のリターンが株式のリターンを大きく下回っていたからである。金は主に危機の時代に買われるため、株式が大勢上昇トレンドにあるときに金が注目されることはない。またこの時期は総じてドル高だったことも金の不人気に拍車をかけた。しかし、2000年にこうした状況は変化し始め、この年にそれまでほぼ20年続いた株式の大強気相場が終わりを告げ、7年間続いたドル高の時代も終わろうとしていた。この2つの要因が長らく瀕死の状態にあった金に火を付けることになった。それから3年間に金鉱株は最も高いパフォーマンスを上げた。興味あることに金価格が上昇し始めた2000年に、デフレに関する話題が次第に人々の口から出るようになった。こうした状況は金はインフレヘッジとしての役割しか果たさないと信じていた投資家を困惑させた。歴史が示すところによれば、金鉱株は1930年代のデフレ時代にも大きく値上がりしていた。金は歴史的に経済的な大変動の時代に価値保蔵手段としての役割を担ってきた。デフレ時代に金が人気化するもうひとつの理由は、FRBが景気浮揚に向けて緩やかなインフレ誘導のドル安政策を実施すれば金価格が上昇するからである。FRBは1930年代に続いて、2000年初めもこのようなデフレ阻止策を実施した。こうした景気浮揚策は1930年代には奏効し、それから70年後の今回も大きな効果を発揮しているようだ。

 アセットアロケーションと景気の予測

 インターマーケットの分析は、アセットアロケーション(資産配分)と景気の予測でも重要な役割を果たしつつある。これまで株式は景気の先行指標であると考えられてきた。その典型例は2000年3月にアメリカ株が大天井を付けたときで、それから1年後の2001年3月にアメリカは景気後退に突入したと正式に発表された。このようにマーケットは将来を素早く先取りし、最高で6カ月先の景気トレンドを相場に織り込む。こうしたことは通貨、債券、そして商品でも同じである。とりわけ商品相場にはデフレやインフレのトレンドが早々と反映されるが、これはドルについても同じである。また債券相場には金利トレンドが素早く反映されるので、そこから将来の景気の強弱を予測することができる。このようにすべてのマーケットには景気と株式相場の将来のトレンドが映し出される。

 さらに重要なことは、インターマーケットのトレンドを分析することにより、どのマーケットで最も大きな利益を上げられるのかが予測できることである。例えば2000〜2002年のインターマーケットの分析からは、デフレトレンドが顕著になったこの時期には株式よりも債券のほうが有利であることはすぐに分かる。同じようにドル安が進めば、株式よりも金への投資から大きな利益が得られることが分かる。このようにインターマーケットのチャートを見ると、それぞれの状況に応じて有利なマーケットを見つけることができる(そして不利なマーケットを回避できる)。

 2002年末までのインターマーケットのチャートは、(金などの)実物資産が20年ぶりに(債券や株式などの)金融資産よりも有利になってきたことを示唆していた。また同じチャートは、景気低迷と株安の時期には住宅株が数少ない有望セクターであることを示していた。インターマーケットのトレンドを分析すると、REIT(不動産投資信託)と住宅株の上昇は45年来の歴史的な低金利と密接に関連していることが分かる。さらにインターマーケットのチャートは、2003年には過去3年間の債券有利の時期が終わり、再び株式が有望なマーケットになったことを示唆している。これは株式と景気は明るくなり始めたが、債券ブームは終わりに近づいていることを意味する。一方、ドル安と商品高は長期金利の上昇をもたらすが、こうした状況は低金利を背景に上昇を続けてきた住宅株にはマイナスとなる。こうした状況がいつ到来するのかをはっきりと予測することはできないが、インターマーケットのチャートを読み取ることができれば、将来の景気トレンドと正しいアセットアロケーションのマーケットが分かるだろう。

 チャートの重要性

 インターマーケットの分析は一見すると経済理論の分析のように思われるかもしれない。それが経済原則に基づいているという点では、ある程度まではそうであるとも言える。しかし、インターマーケットの分析は理論ではなく、各マーケットのトレンドとそれらの相互関係を読み取る作業である。投資による損益に経済理論はあまり関係がない。エコノミストはさまざまな統計を分析して景気とマーケットのトレンドを予測するが、チャーティストはマーケットそのものを見ている。ここが両者の大きな違いである。一般に経済統計は過去の出来事の記録であるが、マーケットは将来を映す鏡である。両者はちょうど遅行指標と先行指標のようなものである。そのどちらかを選べと言われると、ほとんどの人は先行指標のほうを取るだろう。テクニカル分析の本質のひとつは、各マーケット(および株式市場の各銘柄)の動きはそのファンダメンタルズの先行指標になっているということである。その意味からすれば、チャート分析は景気とファンダメンタルズの手っ取り早い分析法である。インターマーケットの分析でチャートを重視するのはこのような理由からである。

 インターマーケットの分析でチャートが重視されるもうひとつの理由は、同時に多くのマーケットのトレンドが見られることである。チャートは複雑な作業を簡単にしてくれるし、チャートを読むのにそれぞれのマーケットの専門家になる必要もない。必要なことはチャートのラインが上向きまたは下向きかを判読するだけである。また2つの関連するマーケットが同じ方向または逆方向に向いているのかを見ることも重要である。比較するチャートは金、債券利回り、ドル、ダウ工業株平均、日本株など、どのチャートでもかまわない。こうしたインターマーケットのトレンドを分析するとき、皆さんはチャートの専門家になる必要はない。各マーケットのトレンドが上昇または下降のどちらであるのかが分かればよい。必要なものは広い視野だけである。


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