目次
監修者まえがき
はじめに――新たなる世界への旅立ち
謝辞
第1章 デジタル信号解析入門




目次


監修者まえがき                                     1
はじめに                                           4
謝辞                                               9

第1章 デジタル信号解析入門                      13
第2章 マーケットモード                          21
第3章 移動平均                                  29
第4章 モメンタム関数                            47
第5章 複素変数                                  57
第6章 ヒルベルト変換                            67
第7章 サイクル周期の測定                        81
第8章 SN比                                     113
第9章 正弦波インディケータ                     113
第10章 瞬時トレンドライン                       125
第11章 マーケットモードの見極め方               131
第12章 利益の上がるトレーディングシステムの設計 137
第13章 変換ツール                               151
第14章 有限インパルス応答フィルタ               165
第15章 無限インパルス応答フィルタ               175
第16章 遅延を取り除く                           195
第17章 MAMA――適応移動平均の基礎               205
第18章 エーラースフィルタ                       215
第19章 マーケットスペクトルの測定               229
第20章 最適予測フィルタ                         237
第21章 チャートの目視的理解の方法               249
第22章 標準的インディケータの適応化             263

エピローグ                                       275
さらに詳しく知りたい人のために                   277
用語集                                           279

 監修者まえがき


 この本を手にした読者の多くは熱心なテクニカル分析家か、トレーディング・シス テムの開発を手がけていることと思う。より優れた指標や売買ルールを日夜求め続け ていることだろう。そのようななかで、世界最高レベルのへッジファンドは、一体ど んなアプローチでコンピューターを利用しているのか、といった疑問は沸いてこない だろうか。だれが見ても理解できないような難解な式を駆使し、われわれには想像も つかないようなことをしているのだろうか。それとも、単純平均や20日高値といった 一般的な概念の範囲を超えていないのだろうか。
 この本は前者の方向に一歩踏み込んだものである。マーケットの分析においては、 手法を複雑化しても効果はほとんどないばかりか、かえって悪化した、といったこと はよくある話だ。しかし、エーラース氏の斬新なアプローチは明らかに違う。複雑な 式が連続して登場するものの、どれも的確かつ素直な応用であり、目的とその効果が 明確だからだ。エーラース氏自身が米国S&P500先物のトップ3に入るトレーディン グ・システムの共同開発者のひとりであることもその説得力を増している。
 この本には、高校、大学レベルの数学が随所に登場し、しばらくそれらから遠ざか っていた読者には手に余るものかもしれない。しかし、数式が理解できなかったとし ても心配には及ばない。素晴らしいことに、エーラース氏は重要なトレードへの応用 部分をEasyLanguage(システム記述言語)で記述してくれた。その解読に必要な EasyLanguageの基礎知識も記述されているので、Excelのマクロが理解できる読者であ れば、おそらくエーラース氏の手法を難なく自分のものにできるだろう。
 これからエーラース氏のシステムやさまざまなアイデアをわくわくしながら検証し ていくところである。この期待と興奮を読者にもぜひ味わっていただきたい。
 2001年11月
    パンローリング株式会社チーフアナリスト  柳谷 雅之


はじめに――新たなる世界への旅立ち

十分に発達した技術はマジックと見分けがつかない
アーサー・C・クラーク卿

 この20年間でコンピューター技術は劇的に進歩した。今日われわれが日常的に使っ ているコンピューターの性能は、わずか30年前の国家防衛システム全体の性能をはる かにしのぐものである。それに比べると、トレーダー用ソフトウエアの開発は立ち遅 れていると言わざるを得ない。現在トレーダーが使っているツールといえば、紙と鉛 筆と計算機といった単純なものが大半だ。もちろん計算速度は格段に向上し、結果は カラフルで思わず見惚れてしまうほど美しい画像としてディスプレー上に写し出される。
 しかし、手順の効率が見直されることはなかった。今や、計算の相対的な重要性は 低下したと言えるだろう。なぜなら、情報がよりスピーディーにやりとりされるよう になるとともにマーケットの資本化が進み、マーケットのテクニカルな性質が根本的 に変化したからだ。今日、マーケットはますます変動性を増し、変動サイクルも短く なりつつあるのだ。
 本書はトレーディング現場に近代的なデジタル信号処理技術を導入することで、一 種のアートともいえるトレーディングに革命を起こそうというものである。デジタル 信号処理を応用することで、従来の問題を新しい視点で見つめ直すことが可能にな る。本書で紹介するきわめて効果的でこれまでとはまったく違った新しいトレーディ ングツールは、デジタル信号処理によって培われた新しい考え方があってこそ生まれ たものである。ハードウエアがこのまま発展を続ければ、新しいトレーディングツー ルの開発におけるデジタル信号処理の重要性はますます高まることになるだろう。言 い換えれば、デジタル信号処理の基本的な概念に精通したトレーダーこそが、変動の 激しい21世紀のマーケットを生き抜くことができるのである。
 第1章ではデジタル信号処理の基本について簡単に説明し、第2章ではランダムウ ォーク問題を一定の制約の下で考察することで、トレンドモードとサイクルモードに 対する基本的な概念を明らかにする。各モードに対応する指標は後章で説明する。第 3章および第4章では従来のテクニカル分析ツールを、陥りやすい欠点に重点をおい て紹介する。
 デジタル信号処理を効率的に行うための基本は、すべての計算を複素計算で行うこ とである。トレーダーのなかには複素変数にまったくなじみのない人も多いと思われ るので、第5章ではフェーザーの概念について簡単に説明する。われわれがよく目に する波形はアナログ波形と呼ばれているものである。アナログ波形はヒルベルト変換 を使って複素変数に変換される。第6章はそのヒルベルト変換について述べる。マー ケットサイクルの測定を行わずにシステムを使っても、ヒルベルト変換はほとんど役 に立たない。したがって、第7章ではいくつかのマーケットサイクル測定アルゴリズ ムを紹介するとともに、それらを比較検討する。
 第7章で行った比較検討によれば、マーケットサイクル測定にはホモダイン・ディ スクリミネータが最も適したアルゴリズムであることが分かる。したがって、第8章 以降ではこのアルゴリズムを使ってマーケットサイクルを測定する。第8章〜第12章 では、複素変数波形を基に開発した独特の指標を紹介する。SN比(トレーディングを 控えるべき時期を示す)、正弦波インディケータ(トレンドモードで間違った売買シ グナルを生じることなく、サイクルモードの変局点を予測する)、瞬時トレンドライ ン、マーケットにおける現在のトレーディングモードを自動的に把握するためのロジ ックなど。これらの指標を組み合わせて収益の上がる自動トレーディングシステムを 構築する。
 トレーディングにデジタル信号処理を応用する場合、必ず必要になるのがフィルタ である。デジタルフィルタの伝達応答を最も効率的に記述するツールがz変換である。 したがって、第13章ではz変換について説明する。デジタルフィルタとして最も一般的 なのが、有限長のインパルス応答を持つFIRフィルタと無限長のインパルス応答を持つ IIRフィルタである。第14章と第15章ではこれらのフィルタについて、短時間でフィル タを計算するための方程式を織り交ぜながら説明する。また章の最後に代表的な係数 を表にまとめた。第16章〜第18章では、より専門的なフィルタを紹介する。第16章で は遅延のない平滑フィルタ、第17章では独特のMESA適応移動平均(MAMA)、第18章で は非線形フィルタのなかで最も柔軟性が高く、有効なマーケットモデルとなり得る エーラースフィルタである。
 マーケットスペクトルを測定するのに高速フーリエ変換(FFT)を推奨する人もいる が、これは数学的制約を考慮していないために犯す過ちである。第19章では、FFTがな ぜマーケット分析には不適切なのか、その理由を説明する。この章を読むだけでも、 かなりの損失を防ぐことができるだろう。次の章では、まったく新しい独特の概念が 登場する。論理的に最適な予測フィルタを、フェーザー図を使って分かりやすく説明 する。
 この概念によって遅延のない移動平均の作成が可能になり、マーケットの変局点に きわめて近いタイミングでシグナルを出すことができるようになる。雑音は物理的な フィルタを通すだけでは除去しきれないが、これを独特の表示によってビジュアル的 に理解させてくれるのがこの概念である。信号をフェーザーで表示する手順について も丁寧に説明する。
 最終章では、RSI(相対力指数)、ストキャスティックス、CCIといった従来の静的 なテクニカル指標を、現在の市況にマッチさせるための特殊な手法を紹介する。これ らの指標について述べた一般概念は、その他の静的指標にも応用できる。
 本書で紹介したデジタル信号処理技術の多くは、物理科学の分野ではかなり以前か ら知られており、実際に使われてもきた。最大エントロピースペクトル解析(MESA) アルゴリズムは、もともとは石油調査のために地球物理学者によって開発されたもの だ。地殻変動調査からはごく少量のデータしか得られない。少ないデータから解を導 く必要に迫られた結果生まれたのが、このアルゴリズムである。
 私はこの手法をマーケットサイクル測定用に改良し普及させた。近年になって、消 費者向けエレクトロニクスの分野でもデジタル信号処理が応用され、CDやDVDなどの装 置が生まれた。また現在、ラジオ受信機にはアナログ部品は一切使われていない。そ して今われわれはこの技術をトレーディングの分野にまで応用しようとしている。デ ジタル信号処理が刺激的な新分野の技術であることは紛れもない事実である。特に、 テクニカル指向のトレーダーたちにとっては待ちに待った時代が到来したと言えるだ ろう。この技術を応用することで、伝統的な指標の多くは一般化され、その利用範囲 が広がると同時に、より精度の高い計算が可能になる。
 本書はこれらの技術を読者のみなさんに紹介し、より収益の上がる楽しいトレーデ ィングができるようにすることを目的としたものである。
 これまで数学を勉強したことがないトレーダー、あるいは数学の力をさびつかせて しまったトレーダーたちにとって、本書で紹介した概念の一部はまったくなじみがな いため、一読しただけでは理解しづらいかもしれない。概念の多くは関連性がある。 したがって、より深い理解を得るために本書は何度か繰り返し読むことをお勧めする。

 2001年6月
               ジョン・F・エーラース
               カリフォルニア州サンタバーバラ


 謝辞


 まずは、カール・ジェリネック博士に心より感謝したい。私が本書で述べた手法を 確立できたのは、ジェリネック博士と技術的な議論を重ねる機会を得ることができた おかげである。博士との議論を通じて、私はマーケット価格の確率密度関数がわれわ れのトレーディングモードに大きな影響を及ぼしていることをより深く理解すること ができた。その結果、収益を高めるトレーディング条件を最も的確につかむための手 法を実現しようと思うに至ったのである。また、ドナルド・H・クラスカ氏にも感謝 する。彼が原稿を細部にわたって厳しくチェックしてくれたおかげで、つい投げ出し たくなりそうな式の導出にも謙虚に取り組むことができた。そして、私の研究を支持 してくれた顧客と、同僚の励ましにも心から感謝する。
                        J・F・E  


第1章 デジタル信号解析入門

 コンピューターは役立たずだ。答えしか教えてくれないのだから。
                       パブロ・ピカソ


 まず、次のことにくれぐれも注意していただきたい。本書はトレーダーのために書 かれたデジタル信号処理の本であって、エンジニアのためのトレーディングの本では ない。とはいえ、多くのトレーダーが本書を見て、エンジニア向けの本だと思ったと しても無理はない。本書の主題であるデジタル信号処理は最先端技術であり、その背 後にある数学は学校で学んだものよりも格段に進歩しているだろうからだ。しかし、 学術的な説明は抜きにして技術をとにかく使えるようになりたいと考えるトレーダー のために、本書は実践的な目的にも応じられるようにしてある。本書では、原理の説 明をしているし、方程式の導出方法も示してあり、技術を実践するためのコンピュー ターコードも提供してある。このため、本書で学んだことはTradeStationや SuperChartsで使える平凡な指標といったものから、より高度な技術の足掛かりとなる ものまで、さまざまなアプリケーションに応用できるだろう。
 テクニカル分析指標は、一定期間について記述されることが一般的だ。例えば、 RSI(相対力指数)で使われる標準的な期間は直近の14日間のバーチャート(日足)で ある。5日ストキャスティックスや10日あるいは30日移動平均という言い方も一般的 だ。マーケットは常に変動しているので、指標の期間を固定してはならない。従来の 指標を最大限に活用するためには、正しい期間を選ぶことが重要である。そして、従 来の指標を現在の市況に適応させようとすれば、そのためのツールを開発する過程 で、精度、パフォーマンスともに従来のものを上回る新しい指標が見つかることだろう。
 デジタル信号処理はテクニカル指向のトレーダーにとっては刺激的でまったく新し い領域である。この技術を使えば、これまでに使われてきた指標の多くは一般化さ れ、計算もデジタル手法によって精度を増す。実はこれから述べるデジタル信号処理 技術は、物理科学の分野では何年も前から知られてきたし、実際に使われてもきた。 これらの技術を知ることで、より収益の上がる楽しいトレーディングを実現してもら うことが本書の目的である。
 物理的システムの多くには、連続的な時間関数として表されるアナログ信号が使わ れている。このような信号にはどの瞬間においても振幅が存在する。つまり、アナロ グ信号は無限数の振幅値を持つ。ところが、信号は周波数帯域幅が制限されると、遮 断周波数よりも上においてはエネルギーはほとんどなくなってしまう。いかなる物理 的システムも振幅を変えるのにはエネルギーを必要とする。ということは、アナログ 信号は振幅を瞬時に変えることができないということである。したがって、時間的に 近接した位置の振幅は同じような値を取る。信号は連続的アナログ信号以外にも、何 種類かの方法で表すことができる。そのひとつが、振幅成分を量子化し、次に量子化 が実行されるまでその振幅値を維持する方法である。振幅値は有限であるが、関数は 時間的に連続的である。これと対照的なのがサンプル値信号である。この信号は、振 幅値は連続だが時間成分がとびとびの値しか取らない。アナログ信号同様、この信号 の振幅値は無限に存在するが、その振幅値を取ることのできる時点は有限である。振 幅成分も時間成分も量子化したものがデジタル信号である。トレーディングで扱う データは一定の時間間隔(例えば、1日ごと、1時間ごと)でサンプリングしたデジ タル信号である。
 サンプル値信号はアナログ信号に一定時間間隔のインパルス列を掛け合わせて得ら れる。そのサンプリング信号は時間領域で次のように表される

 ただし、δ=インパルス関数
    T=インパルスの間隔

 フーリエ理論によれば、周波数領域における乗算は時間領域におけるたたみ込みを 意味する。つまり、時間領域において信号を掛け合わせることは、周波数領域におい て信号をヘテロダイン(混合)することと同じである。前述のインパルス列はパルス の時間間隔の逆数にあたる周波数で無限数の高調波を持つ。
 図1.1は周波数領域でのサンプリングを表したものである。図中一番上の(a)は周波 数帯域幅を制限された連続信号F(f)で、ある周波数を境に減衰を始める。真ん中の (b)はサンプリング信号のインパルス信号S(f)で、サンプリング周波数fsとその整数倍 の周波数で単色(非常に狭いエネルギー領域)のスペクトル線が現れる。周波数帯域 幅を制限されたこの信号をサンプリングしたものが一番下の(c)で、波形が部分的に重 なりあっているのが分かる。元波形は最初の周波数帯域のみならず、サンプリング周 波数とその整数倍の周波数の上側波帯および下側波帯としても現れている。サンプリ ング周波数の下側波帯が元波形のベースバンドと重なるのを防ぐには、周波数帯域幅 はサンプリング周波数の1/2以下にしなければならない。ナイキストのサンプリング定 理によれば、エイリアシングを避けるには元信号の1サイクルにつき最低2つ以上の サンプル点がなければならない。このため、サンプリング周波数の1/2の周波数をナイ キスト周波数と呼ぶ。
 エイリアシングは一種のひずみである。連続信号を1サイクルに2つ未満のサンプ ル点でサンプリングした結果として生じる。図1.2の2つの波形にこのひずみが見られ る。上の波形も下の波形もサンプル点は同じで、ドット(黒丸)で示してある。上の 波形のサンプル点の取り方は正しいように見えるが、実は同じサンプル点で1サイク ル内に4つのサンプル点を持つ下の正弦波も描けてしまうのである。同じサンプル点 なのになぜ波形が異なるのかは、上の波形のエイリアシングで説明がつく。上の波形 ではサンプリング間隔は1サイクルの3/4、すなわち1.5サイクルに2つのサンプル点 がある。これは1サイクルに最低2つのサンプル点というナイキストのサンプリング 定理に反する。
 トレーディングでは、何期間のバーチャートを採用するかは自由に選択できる。各 バーチャートがサンプル点であるとすると、サンプリング定理を満たすには、最も短 いサイクルを2バーチャートとしなければならない。実際は、最低5あるいは6バー チャートは必要だと考えたほうがよい。
 入力信号の帯域幅制限が不十分だと、本来は存在しないはずの周波数成分が、サン プリングされた信号のベースバンドのなかに間違った信号あるいは折返し雑音として 含まれてしまう。このため、データはあらゆる操作を行う前に必ず平滑化する必要が ある。平滑化を怠れば、不要な信号成分により計算に狂いが生じることになる。平滑 化を行うことで高周波成分は除去されるので、分析帯域幅のなかに含まれることはない。
 トレーダーのチャートに描かれる複雑な波形は、より原始的な波形を一定の位相関 係に基づいて足したり、引いたりしながら合成したものである。一定の位相関係を持 つ波形をコヒーレントな(干渉性を持つ)波形という。つまり、任意の位置における 振幅はこれらの波形の振幅のベクトル和として求められる。その信号波形は電気回路 における電圧に性質が似ている。信号の強さを調べるのに振幅を使うことはない。な ぜなら、振幅は波形内の場所、すなわち位相によって値が異なるからである。信号の 強度を測定する基準としては電力を使うのが好ましい。エネルギーは波形の振幅の2 乗に比例する。ちょうど、100ワットの電球を115ボルトで使ったときの消費電力は電 圧の2乗に比例するように。デジタル信号解析で最もよく使われるのは相対的電力、 すなわち電力比である。電力比はデシベルで表すと便利である。
 歴史的な話をすると、1デシベルとは、もともとは、電話信号を1マイル伝送した ときに損失する電力のことを指した(デシベルという名称はアレクサンダー・グラハ ム・ベルに由来する)。デシベルはベルの1/10である。ベルは電力比の常用対数をと ったものである。したがって、デシベルは10×  (P2/P1)で表され、得られた数値 に記号dBを添える。デシベルを用いることで信号レベルを理解しやすくなる。という のもデシベルは対数で表すため、大きな電力比を小さな値で表現することが可能だ し、デシベル(対数)の掛け算は足し算として計算できるため、計算が楽になるから だ。例えば、2×2=4は対数を使って次のように計算できる:Log(2)=0.3だから、 Log(2)+Log(2)=0.6で、これはLog(4)と同値である。主要な比をいくつか覚えておけ ば、それと電力比を比べることで電力比のデシベルがただちに分かるので便利だ。電 力比が2であれば、それは+3dBを意味する。電力比が1/2の場合は−3dBになる。つま り、電力比の逆数のデシベルは絶対値が同じで、符号が逆になるのである。比が1よ り小さい場合(しかし0よりは必ず大きくなければならない)、デシベルは負になる。
 また、電力を2倍にすれば3dBとなり、もう一度2倍すれば(最初の4倍)6dBとな り、さらに2倍(最初の8倍)するには3dB足して9dBにする。使う対数は常用対数な ので、電力比が10のときは10dB、100のときは20dBとなり、以下同様に算出できる。こ の知識を基にデシベルの使い方をもう少し詳しく見てみよう。あるフィルタの出力電 力が入力電力の1/2であった場合、フィルタの出力電力は−3dBである。つまりこの場 合、このフィルタの損失は3dBとなる。同様のフィルタをこのフィルタの出力側に接続 すれば、この合成回路の損失は6dBである。
 通常、フィルタの臨界点とされるのが−3dBである。振幅が最大振幅の70%まで減衰 した地点が−3dBで、これをフィルタの応答における電力半値点という。これは0.7× 0.7=0.5(電力比1/2)となることからも明らかである。フィルタの臨界点は遮断周波 数と呼ばれることも多い。遮断周波数以上の周波数成分は急激に減衰するのに対し て、それ以下の周波数成分はほとんど減衰しないからである。話を簡単にするため、 方形の応答特性を持つフィルタを考えてみよう。この場合、遮断周波数以下の周波数 はまったく減衰しないが、それ以上だとフィルタを通過できない。
 EasyLanguageは今、トレーダーの間で最も人気のあるコンピューター言語である。 したがって私は、コンピューターコードの作成にこの言語を使うようにしている。 EasyLanguageはPascalに似た言語で、トレーディング用の専門キーワードを含んでい るのが特徴だ。ほぼ英語と同じ感覚で読めるため、理解するのにほとんど苦労しな い。また、ほかのコンピューター言語への翻訳も簡単である。もちろん翻訳に際して は、ルールがあるのでそれを理解する必要はある。EasyLanguageでは、すべての計算 は最新のバーチャートを基に行う。例えば、Closeは最新のバーチャートの終値を意味 する。参照すべき数値は角括弧のなかに記述し、参照すべきバーチャートがいくつ前 のものであるかを示す。例えば、Close[3]は3つ前のバーチャートの終値という意味 である。0(ゼロ)も参照番号として利用できる。括弧のなかに0がある場合、最新 のバーチャートには参照すべきバーチャートはないことを意味する(未来方向の参照 はない)。もうひとつ例を示そう。2日モメンタムは、Momentum=Close-Close[2];  と記述する。コードの終わりには必ずセミコロンを付ける。分かりやすいように、私 はアクションを記述するときには、難解なTradeStationの関数呼び出しは使わず、常 に一般的に記述することにしている。そのため、本書で紹介したコンピューターコー ドはBASIC、C++に簡単に翻訳できるばかりでなく、エクセルのスプレッドシートにも 変換できる。


 キーポイント

■本書は、デジタル信号処理の全体像を把握したい人から、詳細なコンピューター コードを必要とする人に至るまで、さまざまな人がそれぞれの目的に応じて読めるこ とを目指した。
■本書でこれから紹介する数学的手法によって、斬新で独特の指標を作成することも 可能。
■従来の指標も、現在市況への適応化を図ることで改良することが可能。
■金融データのバーチャートの期間は変えられる。固定期間は計算には不適当。
■サンプリングしたデータを使って作業するのと、連続的なデータを使って作業する のとではまったく異なる。サンプリングしたデータは間違ったシグナルを除去するた めに必ず平滑化すること。


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