著 者 ジェニー・バン・ルーベン・ハリントン
監修者 長岡半太郎
訳 者 藤原玄
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「ジェニー・ハリントンは、どの投資家よりも配当インカムがもたらすプラスの心理的・金銭的影響を理解している。本書では配当インカム投資の重要性とその方法を学べる」――ジム・リーベンタール(セリティ・パートナーズ チーフ・エクイティ・ストラテジスト)
「ジェニー・ハリントンは投資家に素晴らしい贈り物を提供してくれた。それは配当投資のお手本となるようなものである。何十年にもわたり投資家として成功しているハリントンが、株によってポートフォリオの利益と信頼できるインカムを獲得する秘訣を明らかにしている」――レベッカ・パターソン(投資ストラテジスト兼エコノミスト)
「ハリントンは少しの資本増価と、リスク調整後の配当に喜びを感じている。投資に行き詰まっている人や引退後に不安のある人は本書を読み、学ぶべきである」――ローベン・ファルザド(公共ラジオ「フル・ディスクロージャー」司会兼『ホテル・スカーフェイス』著者)
Dividend Investing : Dependable Income to Navigate All Market Environments
by Jenny Harrington
第2部 配当投資の実践
第4章 スクリーニング
第5章 配当を支払う企業を調査する
第6章 配当株のポートフォリオを構築する
第7章 減配に対応する
第8章 売りの規律
第3部 人々と株式のケーススタディー
第9章 何よりもインカムを求めるビル
第10章 ナショナル・リテール・プロパティーズ
第11章 キャロルはブローカーに「損はできない」と言った
第12章 H&Rブロック
第13章 ラリーとロリ、そしてアウターバンクス・レンタル・プロパティー
第14章 エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズ
第15章 二人のシェリー
第16章 アドバンス・オート・パーツ
第17章 正反対の性格のヘンリーとマリーアン
第18章 数多くの苦悩とバリュートラップに関する短編――ニューヨーク・コミュニティー・バンク、ルーメン、チェロキー
「知識への投資が最高の利息を生む」――ベンジャミン・フランクリン
私はドットコムのにわか景気が始まり、エネルギッシュなヘッジファンドが爆発的に増えた時期に投資のキャリアを歩み始めたので、どんな犠牲を払ってでも野心的なハイテクのグロース投資家になるべきだと思っていた。
すぐに投資の魅力と難しさに魅了されたが、経済的に不安定な家で育ったので、攻撃的なまでのリスクテイクに急激な吐き気を覚えた。二〇〇一年、ふとしたことから配当投資に出合ったとき、私は自分の心の奥底に響く戦略だと思った。つまり、安心かつ明確で安定した配当収入が、自分が投資で成功するために必要な自信を与えてくれたである。気まぐれな株式市場で何が起ころとも、配当がもたらす一連のインカムは投資口座に着実に振り込まれ、毎月信頼できる収入源になることを知って力づけられたのだ。
配当という信頼感が投資リターンと感情的な安心感という並外れた効果をもたらす配当インカムポートフォリオを運用するだけで、私は他人のお金を運用する自信が得られた。これは、彼らが懸命に働いて貯めたお金であり、収入源として用いることも、ポートフォリオのトータルリターンの一部として当てにすることもできるお金なのである。
人生の事柄と同じように、私は配当投資と安定したインカムがもたらす本当の価値を偶然発見した。二〇〇一年末、ニューバーガー・バーマンで働いていたとき、顧客が電話を掛けてきた。スティーブという名の連続起業家で、素晴らしい関係にある美しい奥さんや楽しいことが大好きな三人の息子たちと過ごす時間を何よりも増やしたいと考えていた。スティーブの資金はS&P五〇〇のような戦略で運用されていた。彼はこう言った。「ジェン、僕は五五歳である。引退の準備を始めようと思うので、インカムが必要だ。だが、引退にはまだ若すぎることは分かっている。だから、成長も必要だろう」
適切な解決策は、ポートフォリオ全体の平均利回りが五%になるように既存の株式ポートフォリオを配当利回りの高い銘柄に集中させることのように思えた。債券や優先株に投資する伝統的な方法論では、スティーブが長期的なキャピタルゲインを得るチャンスは限られる。だが、株式へのイクスポージャーを通じてインカムを生み出すことに集中すれば、その可能性は十分にある。私はこれを配当インカム戦略としてスティーブに説明した。この言葉は今日では一般的だが、二五年前にはほとんどの投資家の頭にはなかった。
スティーブは私が提案した方法論を気に入ったので、私たちは仕事に取り掛かった。さて、数年後、配当インカム戦略は爆発的に成長した。要するに、債券利回りが低下し、その後数十年にわたって低金利が続いたので、多くの投資家が安定したインカムの源泉を必要としたである。五%のインカムを確保する必要のある財団や、受益者にインカムと成長をもたらす責任を負っている信託は数多く存在する。だが、たいていの場合、配当インカム戦略は一般の人々にとっても合理的な戦略となる。
配当に注目した戦略に投資する個人は大きく二つのカテゴリーに分けられる。つまり、インカムを必要とする者とインカムを求める者だ。
「必要とする」カテゴリーに入る者たちは極めて具体的な目標に焦点を当てる傾向にある。つまり、通常は引退後のインカムを生み出すことや、自分たちのライフスタイルを支えるための追加の資金源としてインカムを生み出すことである。さらに面白いのが、ただ自分のポートフォリオがインカムを生み出すのを見たいという投資家も多い。株式市場のリターンが予測不可能ななかで、毎月配当による現金が振り込まれれば、不快な景色のなかでもかなり快適だ。
定期的にインカムを必要とする者たちについては、皆さんは「現金が必要なときにポートフォリオのポジションの一部を売ればいいじゃないか」と考えるかもしれない。答えはイエスであり、その論理は百パーセント正しい。だが、本書を読めば、心理が投資の重要な一部であることが分かるだろう。つまり、自分のポートフォリオに対する投資家の自信に影響を与え、株価さらには株式市場全体に影響を与えるからだ。
私は当初から配当インカムポートフォリオの実用的な価値を理解していた。だが、この戦略が感情面にもたらす効果の重大さを概念化するには驚くほどの時間がかかった。配当インカム戦略は順調なスタートを切った。だが、二〇〇六年にニューバーガー・バーマンを辞め、独自の戦略を追求するためにジルマン・ヒル・アセット・マネジメントに移った。そして、この戦略のユニークな価値を完全に理解したのは二〇〇九年三月五日になってからである。つまり、S&P五〇〇が六六六ドルと悪魔的な安値を付けるほんの四日前だ。当時、私は妊娠九カ月で、顧客たちに電話を掛け、市場が混乱していても彼らが落ち着いていることを確認した。
ゴールドマン・サックスのアナリストのトレーニングプログラムで忘れられないことがあった。「タフなときでも、顧客から隠れてはならない」。独立して三年も経過していなかったが、三〇歳そこそこの私に生涯の蓄えを委ねてくれた一握りの人々に対して圧倒されるような義務感と責任感を感じた。後にリーマンショックによる弱気相場として知られるようになる事態は一年前に始まっていたが、私ができる唯一賢明な行動は頻繁に、率直に、そして正直に顧客と対話をすることだった。
三月五日、S&P五〇〇は二〇〇七年一〇月に付けた高値から六〇%ほど低かった。私は次のように会話を始めた。「やぁ、大丈夫ですか。さて、すべて下落しています。次に何が起こるかまったく分かりません。これ以上下落したら、もはや『歴史が教えるところでは』などとは言えません」
そのような会話をした一人が愛する顧客のリックだった。リックの職業は産業インフラの設計管理で、ほどほどの金額の信託財産を相続していた。彼は一族の投資ポートフォリオを運用するために二〇〇二年に私を採用した。大学に通い始めた二人の子供がいたので、信託が生み出す一連の配当は彼の家族にとって好ましい追加の収入源になった。
七年後、世界が崩壊するかに思えた二〇〇九年、私は彼に電話をかけて次のように話しかけた。「やぁ、リック。大丈夫ですか。さて、すべて下落しています。次に何が起こるかまったく分かりません。これ以上下落したら、もはや『歴史が教えるところでは』などとは言えません。さらに一〇%は下落するかもしれせまん」
リックは丁寧に私の言葉を遮り、私のキャリアに最も大きな影響を与える質問をしてきた。「やぁ、ジェン。僕の配当は大丈夫だよね」
私は「えぇ、配当は大丈夫ですよ、ただ……」と答えた。
リックが次のように言ったことを今でもはっきりと覚えている。「インカムが無事なら、僕は大丈夫。心配しないで、大丈夫だよ」
私はその時点で配当インカム戦略を六年ほど運用していたが、そのときまで、この素晴らしい投資戦略のシンプルで重要な利点を十分に理解していなかった。つまり、配当によるインカムは感情面の安心感をもたらし、感情面の安心感は優れた投資行動を促し、優れた投資行動は長期的に優れたリターンを生み出すということである。
二二年後、全体で五%を上回る配当利回りを生み出す株式ポートフォリオに投資するというこの戦略は当時と同様にまったく目立たないようだ。当時と今との違いは、当時はだれもこれに取り組んでいなかったことである。今日、インカムに注目した戦略は数多くある(安全なファンドが多いが、インカムを膨らませるためにレバレッジを掛けたり、過度にデリバティブを用いて隠れたリスクを抱えるファンドもある)。二〇〇一年に株式から多額の配当を得ようと思えば、REIT(不動産投資信託)か公益事業のファンドを買うか、少数のMLP(マスター・リミティド・パートナーシップ)を買えばよかった。だが、配当に焦点を当てたファンドはほとんどなかった。もちろん、二〇〇一年は米一〇年物国債の平均利回りが四・五〜五・五%もあったので、たいていの場合必要なインカムは債券で容易に賄えた。そして、ほとんどの個人投資家はこの方法論を基本としていた。
私たちの関係が二〇〇二年から二〇〇九年、そして今日まで進むなかで、彼の配当がもたらす実用面と感情面での安心感はリックがこれといった不安もなく大きな弱気相場を切り抜ける役に立っている(確かに、その点では彼は超人的である)。彼は二〇〇八〜二〇〇九年にS&P五〇〇の六〇%の下落、二〇二〇年には三五%の下落、そして二〇二二年には二六%の下落を経験している。その間、小規模でも厄介な急落も数多く経験している。彼は自分や家族のために常にインカムを確保できていたので、現金を生み出すために市場の底値で売りを迫られるようなことはけっしてなかった。そして、その知識から得られる安心感が、彼が株式市場の一時的な気まぐれを心配することなく自分の人生や仕事に集中するのに役立っている。
最初に有配株のポートフォリオを構築するというアイデアを授けてくれた連続起業家であるスティーブの場合、インカムは家族の重要な資金源となっている。スティーブは数年前に眠っている間に亡くなってしまった。あまりに若すぎる死だった。私は彼の妻のポートフォリオを今でも運用しており、四半期ごとのレビューで彼女の年間のインカムと引き出し額を示すメモを書くことが多い。次のようなメモが多い。「支出が少なすぎます。元気を出して、何か楽しいことを始めましょう」。または直近では彼女も年齢を重ねてきたので、次のように書いた。「あなたが心配しなければならないあらゆることのなかに、お金は入っていません。大丈夫です。人生での経済面はご心配なく」。配当は支払われ続け、家族の支出を支える役に立っている。
ポートフォリオ運用を出世や報酬を求めてインデックスを打ち負かすパフォーマンスを競うゲームだと考えているプロの投資家があまりに多い。だが、私はポートフォリオ運用は、現実の人々のために、物質的なものであろうが、心理的なものであろうが、実利ある結果を追い求めることだと考えている。私は顧客に「お金があっても安心できなかったら意味があるのでしょうか」と尋ねることが多い。快適な老後を送ったり、子供たちの人生を少し快適にすること以外に生涯をかけて貯蓄する理由などあるのだろうか。
自分の人生、そして願わくば他人の人生を有意義に改善できなければ、投資ポートフォリオなど月次報告書に印刷された数字にすぎない。そのような人生の改善は主に二つの形をとる。つまり、経済的安心感と心理的安心感である。
本書を読み進めるにあたり、リックの言葉を銘記しておいてほしい。「インカムが無事なら、僕は大丈夫」。リックは安定した配当によるインカムから経済面と感情面で快適さを得ているのである。
さて、さらに読み進めていただく前に、本書の原稿の七五%を書き終えるまで実際に気づかなかったことを指摘しておきたい。各章の初めに世界で最も偉大な投資家たちの言葉を引用している。それらの多くは過去に投資に関する一般的な会話のなかで聞いたことがあると思う。
引用した投資家や富の創造者のタイプもさまざまで、時代も異なるが、これらの引用には一つの共通点がある。それらはすべて行動に関するものである。世界最高の投資家たちの世界最高の投資アドバイスがすべて行動に関するものであることは興味深い。優れた投資対象の見つけ方でも、調査のプロセスでも、バリュエーションに関するものでもない。そのため、素晴らしい投資は素晴らしい行動と密接に関係すると結論してもよい。
さて、最後に一つ引用させてほしい。金融の専門家たちが二四時間三六五日「知恵」を提供するようになる以前、ルイ・ルーカイザーという人物がいた。彼はPBSで毎週投資番組の司会をしていた。一九九六年、彼はパイオニア・インベストメンツの創業者で、有名な投資家だったフィリップ・カレットにインタビューし、投資アドバイスで最も重要な部分は何かと尋ねた。カレット氏の答えは一言だった。「忍耐」
本書を通して、皆さんが年を取っても幸せで、豊かな投資家であり続ける役に立つ戦略やプロセスを見つけられることを願っている。