SP波動率利用売買

「その1」

SP波動率による天底探し

 本誌7月号8頁に,「p%天底利用リズム取り」は7月号では休載し,9月号に「その4」を掲載する,と紹介されました。しかしこの連載は中止し,今回から表題を改め,新しい指標としての比率SPについて書かせていただきます。「p%波動限界比率」の比率pの利用法についていろいろ検討しているうちに,pより利用価値が高い比率SPがあることに気がついたためです。

 SPは,「p%波動限界比率」のpと似た比率です。SPをある値に決めておけば,pと同様に,日足終値の天井と底を一意的に(誰でも必ず同じに)決めることができます。今後,回を追って紹介しますが,SPを利用して決めた天底は,数値的に(統計学的に)その性質を調べやすいため,ウネリ取りやリズム取りだけでなく,過剰反応の判定や異銘柄間サヤ取りにも利用価値が高いように思います。

 最初に,比率SPについて説明します。

 まず,SPを「売値の株価から買値の株価を引いた値を両者の平均値で割った値」と定義します。売値をa,買値をbとすれば,上記の定義は次式で表わせます。

     SP=(a‐b)/{(a+b)/2}    (1)

整頓して

     SP=2(a‐b)/(a+b)       (2)

 または百分率(%)で表わすなら,

     SP={2(a‐b)/(a+b)}×100%(3)

 上記のように定義すれば,売買結果の値洗いの段階では,SPがプラスなら利益になり,マイナスなら損失になります。(2)または(3)のSPを,必要に応じて「SP変化率」と呼ぶことにします。

 取引コストは片道約2%,往復約4%」といわれますが,これは,買値の2%と売値の2%が片道の取引コスト,その合計が往復の取引コストにほぼ相当するということです。(2)または(3)から,SP変化率が0.04(4%)以上になれば,いわゆる「手数料抜け」ということになります。比率の名前をSPとした理由は2つあります。第1は,これまで使ってきた「p%波動限界比率」の比率pと区別するためです。

 第2は,異銘柄間サヤ取りにおいて,スプレッド(spread)比率という指標があるそうで,銘柄Aの株価をa,銘柄Bの株価をbとすれば,次のように定義されています。

     スプレッド比率=(a‐b)/(a+b)(4)

(2)と(4)を比較すると明らかなように,記号の内容は違いますが,(2)=2x(4)となっています。そこで,今回から使用する比率をspreadの最初の2文字をとってSPと名付けることにしました。

 さて,売買の理想は,「底で買い,天井で売る」または「天井で売り,底で買い戻す」ことです。そこで,(2)または(3)において,SPをある値に決め,天井値をa,底値をbとしてみます。(2)を変形すると,底値からみた天井値および天井値からみた底値の大きさとして,次の2式が得られます。

         天井値:a≧b(2+SP)/(2‐SP)(5)

         底 値:b≦a(2一SP)/(2+SP)(6)

この(5)と(6)で天井値と底値を決めるSPを,「SP波動率」と呼ぶことにします。このSP波動率を使えば,次のように,日足終値の天底を決めることができます。

 いま,終値がある値で底をつけ,上がり始めたとします。次は天井をつけに行くことになりますが,直前の底値bに対して終値が(5)のaのように上がらなければ天井とみなさない,と決めます。逆に,終値がある値で天井をつけ,下がり始めたとします。次は底をつけに行くことになりますが,直前の天井値aに対して終値が(6)のbのように下がらなければ底とみなさない,と決めます。(5)と(6)に共通するSPをあらかじめ決めておけば,天底を一意的に決めることができます。必要な計算は,(5)と(6)における係数(2+SP)/(2‐SP)と(2‐SP)/(2+SP)に,bまたはaを掛けるだけです。きわめて簡単な計算なので,電卓片手に,昨年の本誌9月号とまったく同じ例題を使い,天底を決めてみます。

表1は,「3402東レ」の1994年1月から8月までの日足終値のりリストです。SP波動率を5%としてみます。(5)と(6)におけるSPは5%の5を100で割って0.05とし,(2+0.05)/(2−0.05)=1.051および(2−0.05)/(2+0.05)=0.951と,あらかじめ係数を計算しておきます(係数の小数点以下の桁数ば,終値の桁数と同じにすると良さそうです)。

 リストの最初の終値は,1/4(1月4日)の584円です。この終値を,まず,底値または天井値の候補にします。リストの日付を追って終値の動きを見ますと,次第に高くなっています。リストの最初の日付以前の終値は分かりませんので,l/4の584円を目先の底値として,天井をつげに行くのかもしれません。

 電卓を使い,584xl.051=613.8(小数点以下l桁で十分です)円以上の終値を順に探します。1/10に624円になりました。ここで,1/4に底をつけ,底値は584円と決定します(表1のリストの1/4に●印,底値が決まった1/10に▲印をつけてあります)。

 今度は,624円を次の天井値候補にします。しかし,1/11に,天井値候補624円より高い625円になりました。この終値を,新しく天井値候補にします。このように,天井値候補が天井値と決定しないうちに,その天井値候補より高い終値があったら,その高い終値を天井値候補に置き換えます。逆に,底値候補が底値と決定しないうちに,底値候補より低い終値があったら,その低い終値を底値候補に置き換えます。625円が天井値になるには,625x0.951=594.4円以下に終値が下らねぱなりません。しかし,594.4円以下が見つからないうちに,1/21に天井値候補625円より高い645円になりました。天井値候補を645円に変えます。

今度は,645円が天井値になるには,645x0.951=613.4円以下に終値が下がらねぱなりません。しかし,1/31に650円,2/1に654円,2/2に660円,2/8に663円,3/1に668円,3/4に669円と,次々に天井値候補が高くなります。

 669円が天井値になるには,669x0.951=636.2円以下に終値が下がらねぱなりません。3/9に633円になりました。ここで,3/4に天井をつけ,天井値は669円と決定します(リストの3/4に○印,天井値が決まった3/9に△印をつけてあります)。

 以下,昨年の本誌9月号とまったく同じように天底を決めていきます。なお,3/9,3/31および7/27には,△と●が重なっています。この日に,直前の天井が決まりましたが,後でこの日の終値が底値と決められています。

 図1−1と1−2をご覧ください。「3402東レ」の日足終値(1992年の大発会から1994年8月31日まで)の折れ線の上に,SP波動率が3,4,5,6,10,15,20および25%のときの天底(○日印は天井,●印は底)を示したグラフです。

 横軸は立会年月日で,月初めの位置に月番号を書き,縦方向に点線を引いてあります。年番号(西暦)ば,いちばん下に書いてあります。縦軸は,終値で,切れのよい値で区切り,価格を書き,横方向に点線を引いてあります。

 図1−1の上から3番目のSP波動率=5%の図の途中,1994年1月以降が,表1の例題として使った部分です。

 図1−1〜1−2を,昨年の本誌9月号の図l‐l〜1−2と比べてください。SP波動率が15と20%の天井と底がひとつずつ増えていますが,それ以外は数も日にちもまったく同じです。

 今後,リズム取り,ウネリ取り,過剰反応の判定などの参考になるように,SP波動率で決めた天底の性質,それに基づくSP変化率の利用法や売買シミュレーション結果を紹介する予定です。今回は,その1例を紹介します。

 図2‐lと2−2をご覧ください。次のように作ったグラフです。まず,FAI信用銘柄(銀行,電力,ガスを除く東証l郡上場の貸借銘柄)739社の3年半(1992年l月から1995年6月まで)の日足終値を用い,いろいろな値のSP波動率で銘柄ごとの天底数を求めました。次に,天底数が多かった120〜130銘柄をSP波動率ごとに選び出し,8年半にこれらの銘柄に出現したすべての天広間のSP変化率をl%刻みで丸め,SP変化率ごとの度数〔出現回数)を棒グラフにしました。この図ぱ,SP波動率で決めた天底の統計的性質のl例です。いずれ,同様な図を含めて紹介する機会があるので,今回は図の説明を省略します。