訳者まえがき 1 はじめに 9 謝辞 11 第1章 概要 13 1.1 ファイナンス理論の背景 14 1.2 資産価格における前提 15 1.3 数学的および統計的問題 16 1.4 数値解法 16 1.5 Excelの特徴 17 1.6 本書の構成 18 1.7 関連するExcelワークブック(付属CD-ROM) 21 1.8 ご意見・ご提案 22 第1部 Excelを使った上級モデリング 第2章 Excelの関数と各種機能 25 2.1 Excelのワークシート関数の使い方 25 2.2 数学関数 28 2.3 統計関数 30 2.3.1 Frequency関数の使い方 31 2.3.2 Quartile関数の使い方 34 2.3.3 Excelの正規分布関数の使い方 36 2.4 検索関数 38 2.5 その他の関数 41 2.6 ワークシート分析ツール 43 2.7 データテーブル 44 2.7.1 単入力テーブルの設定 44 2.7.2 複入力テーブルの設定 47 2.8 散布図 50 2.9 分析ツールとソルバーの使い方 54 2.10 セル範囲に対する名前の定義方法 56 2.11 回帰 57 2.12 ゴールシーク 63 2.13 行列の計算と行列関数 64 2.13.1 行列入門 64 2.13.2 転置行列 66 2.13.3 行列の加法 67 2.13.4 行列の乗法 67 2.13.5 逆行列 69 2.13.6 線形連立方程式の解き方 72 2.13.7 Excelの行列関数のまとめ 73 まとめ 73 第3章 VBA入門 75 3.1 VBAをマスターするとどんなメリットがあるか 76 3.2 オブジェクト指向言語としてのVBA 78 3.3 VBAマクロを書いてみよう 82 3.3.1 VBAサブプロシージャの簡単な例 82 3.3.2 対話型MsgBox関数 84 3.3.3 マクロを書く環境 86 3.3.4 コードの入力とマクロの実行 88 3.3.5 キー入力の記録とコードの編集 90 3.4 プログラミングの要素 94 3.4.1 変数とデータ型 94 3.4.2 VBAの配列変数 96 3.4.3 制御構造 99 3.4.4 反復操作の制御 101 3.4.5 Excel関数とVBA関数のコード内での使い方 104 3.4.6 プログラミング一般について 105 3.5 マクロとワークシート間での情報のやりとり 106 3.6 サブプロシージャの実例 112 3.6.1 グラフ 113 3.6.2 正規確率密度グラフ 118 3.6.3 ソルバーによる有効フロンティアの作成 122 まとめ 128 参考文献 129 付録3A Visual Basic Editorについて 130 付録3B キー入力を「相対参照」モードで記録する 137 第4章 ユーザー定義関数 141 4.1 簡単な売上手数料を求める関数 142 4.2 Commission(Sales)関数を作成してワークシートで利用する方法 144 4.3 複数入力値をもつ2つのオプション評価関数 146 4.4 VBAにおける配列の取り扱い 152 4.5 期待値と入力を配列で行う分散関数 154 4.6 配列を入力するポートフォリオの分散関数 159 4.7 結果を配列で出力する関数 163 4.8 ユーザー定義関数におけるExcel関数とVBA関数の使い方 165 4.8.1 ユーザー定義関数におけるVBA関数の使い方 166 4.8.2 アドイン 167 4.9 VBA関数を作成するメリットとデメリット 168 まとめ 170 付録4A 配列の取り扱い 171 付録4B 二項モデルによるオプション評価関数 174 練習問題 183 練習問題の解答 185 第2部 株式の上級モデリング 第5章 株式入門 193 第6章 ポートフォリオの最適化 197 6.1 ポートフォリオの平均と分散 198 6.2 ポートフォリオのリスク・リターン特性グラフ 201 6.3 ソルバーを使って有効フロンティアの各点を求める 203 6.4 有効フロンティアの作成(Huang and Litzenberger法) 207 6.5 制約条件付きフロンティア・ポートフォリオ 211 6.6 無リスク資産とリスク資産の組み合わせ 214 6.7 問題1――無リスク資産とリスク資産の組み合わせ 216 6.8 問題2――2つのリスク資産の組み合わせ 218 6.9 問題3――無リスク資産とリスク・ポートフォリオの組み合わせ 221 6.10 ユーザー定義関数(Module1) 225 6.11 3つの一般的ポートフォリオ問題のための関数(Module1) 228 6.12 マクロの作成(ModuleM) 231 まとめ 233 参考文献 234 第7章 資産のプライシング 237 7.1 シングル・インデックス・モデル 238 7.2 ベータ係数の推定 240 7.3 資本資産評価モデル 244 7.4 分散共分散行列 246 7.5 バリュー・アット・リスク(VaR) 249 7.6 ホライゾン・ウェルス 252 7.7 関連分布(例えば、正規分布と対数正規分布)のモーメント 255 7.8 ユーザー定義関数(Module1) 257 まとめ 259 参考文献 260 第8章 パフォーマンスの測定と要因分析 261 8.1 従来のパフォーマンス測定 263 8.2 アクティブ‐パッシブ運用 266 8.3 スタイル分析入門 271 8.4 単純な形のスタイル分析 273 8.5 ローリング期間スタイル分析 276 8.6 スタイル・ウエートの信頼区間 278 8.7 ユーザー定義関数(Module1) 283 8.8 マクロ(ModuleM) 284 まとめ 286 参考文献 288 第3部 株式オプション 第9章 株式オプション入門 293 9.1 ブラック・ショールズ式誕生に至るいきさつ 295 9.2 ブラック・ショールズ・オプション価格式 296 9.3 ヘッジ・ポートフォリオ 299 9.4 リスク中立評価法 301 9.5 簡単な1ステップ二項モデルによるリスク中立評価法 303 9.6 プット・コール・パリティ 305 9.7 配当 306 9.8 アメリカン・オプション 307 9.9 数値解法 308 9.10 ボラティリティと非正規分布に従う株式リターン 310 まとめ 311 参考文献 312 第10章 二項モデル 313 10.1 二項モデル入門 314 10.2 簡単化した二項モデル 316 10.3 JR二項モデル 319 10.4 CRRツリー 326 10.5 二項近似とブラック・ショールズ式 328 10.6 CRR二項モデルの収束 330 10.7 LRツリー 332 10.8 CRRツリーとLRツリーの比較 334 10.9 アメリカン・オプションとCRRツリー 336 10.10 ユーザー定義関数(Module0およびModule1) 341 まとめ 344 参考文献 345 第11章 ブラック・ショールズ・オプション評価式 347 11.1 ブラック・ショールズ・オプション価格式 348 11.2 ブラック・ショールズ式のワークシート上での実行 350 11.3 通貨オプションと商品オプション 352 11.4 オプションの「グリークス」パラメーターの計算 354 11.5 ヘッジ・ポートフォリオ 356 11.6 ブラック・ショールズ式の導出 360 11.7 ユーザー定義関数(MODULE1) 364 まとめ 367 参考文献 368 第12章 ヨーロピアン・オプションを評価するためのほかの数値解法 369 12.1 モンテカルロ・シミュレーション入門 370 12.2 正反対の変数によるシミュレーション 374 12.3 準ランダム・サンプリングによるシミュレーション 375 12.4 各種シミュレーションの比較 378 12.5 モンテカルロ・シミュレーションにおけるグリークスの計算 378 12.6 数値積分 380 12.7 ユーザー定義関数(Module1) 382 まとめ 387 参考文献 388 第13章 非正規分布とインプライド・ボラティリティ 389 13.1 代替的分布を仮定したブラック・ショールズ式 390 13.2 インプライド・ボラティリティ 393 13.3 歪度と尖度に対する適用方法 396 13.4 ボラティリティ・スマイル 400 13.5 ユーザー定義関数(Module1シート) 402 まとめ 407 参考文献 408 第4部 債券オプション 第14章 債券オプションの評価入門 413 14.1 金利の期間構造 415 14.2 利付債のキャッシュフローと最終利回り 417 14.3 二項モデル 419 14.4 ブラックの債券オプション評価式 420 14.5 デュレーションとコンベクシティ 421 14.6 表記法について 424 まとめ 425 参考文献 426 第15章 金利モデル 427 15.1 Vasicekの期間構造モデル 428 15.2 Vasicekモデルによるゼロクーポン債のヨーロピアン・オプションの評価 433 15.3 Vasicekモデルによる利付債のヨーロピアン・オプションの評価 434 15.4 CIR期間構造モデル 435 15.5 CIRモデルによるゼロクーポン債のヨーロピアン・オプションの評価 438 15.6 CIRモデルによる利付債のヨーロピアン・オプションの評価 438 15.7 ユーザー定義関数(Module1) 440 まとめ 443 参考文献 444 第16章 期間構造のマッチング 445 16.1 対数正規分布に従う金利ツリー 446 16.2 正規分布に従う金利ツリー 450 16.3 BDTツリー 451 16.4 BDTツリーによる債券オプションの評価 455 16.5 ユーザー定義関数(Module1) 456 まとめ 460 参考文献 461 補遺――そのほかのVBA関数 462 予測 462 ARIMAモデル 464 スプライン 467 固有値と固有ベクトル 470 参考文献 471
本書を読むに当たり以下の3つの点をご注意いただきたい。
1つ目の点は、本書はパンローリング社のホームページからダウンロードできるエクセルファイルをダウンロードした上で本書を読み始めていただくことである。(http://www.panrolling.com/books/wb/vba.html)
そのためには必然的にインターネット環境を用意していただく必要がある。
2つ目の点は、ダウンロードしたエクセルファイルは原書に添付されているままの英語表記になっていることである。これは日本語表記にすることで元々のVBAの動作環境を破壊することがないようにという点から、敢えてエクセルファイルに手を加えなかった。
3つ目の点は、お使いのエクセルのバージョンによってはVBAや関数が完全には作動しない可能性があることである。ただし、関数やVBAのコード自体単体はそのまま使えることには変わりなく本書の内容を学習していただき、コードをお使いのエクセルVBAのモジュールに書き込んでいただくか、あるいはコピーしていただけば作動することを申し添えたい。
本書の内容は、資金運用のプロにとってはよく知られた内容ではあるが、これまでは各ファンドマネージャー、運用会社、コンサルタントなどのノウハウとして蓄積されているだけで公開されることはなかった。これをわかりやすい文書とVBAのコードで解説することはこれまでにないため、本書は極めて画期的である。
最後に本書が資金運用、ファイナンス、システムエンジニアの世界をより一層効率的なものとして技術発展に大いに役立つことを願うところである。
2004年11月
西麻布俊介
1.1 ファイナンス理論の背景
現代ファイナンス理論が経済学から分離して独立した学問として扱われるようになったのは、マーコヴィッツがポートフォリオ理論を発表した1952年のことである。マーコヴィッツは、期待効用理論に基づき個人投資家の選好をモデル化するとともに平均分散アプローチを確立し、リターン(資産の平均リターン)とリスク(リターンの分散)のトレードオフ問題を検証した。彼の理論は後のシャープ、リントナー、トレイナーらによる資本資産評価モデル(CAPM)――株式の期待リターンについての均衡モデル――へと発展する。CAPMは分散可能なリスクの測度としてベータを導入し、ポートフォリオを構築することで、トータルリスク(分散)における特定のリスク要素を最小化することができることを説いたものである。
1.2 資産価格における前提
ポートフォリオ理論は、個人投資家の選好に依拠しているが、この理論は資産のリターン分布についてある前提を置いている。例えば、株式リターンは対数正規分布に従うとというものである。あるいは、対数株式リターンが正規分布に従うといってもよい。最近になって、実務家たちは完全な正規分布から外れた場合の影響(歪度と尖度によって測定)について考察し、異なる分布(例えば、逆ガンマ分布)の使用を提唱し始めている。
債券は株式とは性格が異なるが、債券オプションの評価は短期金利がそのスタート地点となる。この場合、短期金利の対数正規分布性もしくは正規分布性を想定するのが一般的である。したがって、ファイナンス分野における分析では、全般にわたって確率分布の基本的性質を利用することができる。
1.3 数学的および統計的問題
本書の株式の部における数学的問題とは、一口にいえば最適化問題である。最適化にも制約条件が付く場合があり、その代表例がシャープの発案したリターンをベースとするスタイル分析である。この分析では、ベータは最小2乗法で線形回帰直線の係数(傾き)として推定される。
1.4 数値解法
ポートフォリオの最適化問題を解くには、ポートフォリオの分散が必要であり、そのための数値解法が2次計画法である。スタイル分析でも2次計画法が用いられ、この場合はトラッキング・エラーが最小になるように銘柄選択を行う。一般には最適化の範疇には入らないが、線形回帰では残差(観測値と推定値の差)が最小になるように傾き係数を選ぶ。この場合の最適化は一般的な最適化とはタイプの異なる回帰分析であり、ベータは公式を使って求めることができる。
1.5 Excelの特徴
Excelはそのワークシートのもつさまざまな機能により、モデル構築のプロトタイプとして利用することができる。ワークシートのセルに入れられた計算式は、簡単に調べることができるようになっているため、本書では、各数式の途中計算式もできるだけセルに含めるようにしてある。また、ワークシートは、セルに入力したパラメーター値を変更するとそれに応じて結果が自動的に変化する「what-if」という優れた機能を備えている。
すべてのモデルと手法は、ワークシート上のみならず、VBA関数でも実行できるようにしている。このような2とおりの方式により、数値計算の結果が正しいかどうかのチェックが可能になるだろう。
1.6 本書の構成
本書は4部で構成されている。第1部ではExcelを使った上級モデリングについて説明し、続く3つの部ではファイナンス分野での応用について説明する。ここでは、株式、株式オプションおよび債券オプションに分けて説明していく。
1.7 関連するExcelワークブック
第1部 Excelを使った上級モデリング
第2部 株式
第3部 株式オプション
第4部 債券オプション
補遺
1.8 ご意見・ご提案
資料収集から執筆に至るまで十分な時間をかけ注意を払って執筆を行っているが、ご意見・ご提案、そして修正点や改善点などがあれば遠慮なくご指摘いただきたい。
連絡先 E-MAILはmstaunton@london.edu
■第1章 概要
今やワークシート上で簡単にモデル化することが可能になったことを、私たちは本書を通じて証明できたのではないかと思う。本書で扱うモデルは、1950年代初頭から1990年代の終わりにかけて開発された、株式から株式オプションや債券オプションにいたるすべての金融商品を網羅するものである。これらのモデルは、Excel用VBA言語で書かれた関数を用いて、Excelのワークシート上で実行できる。VBA言語で書かれたこれらのユーザー定義関数はいわばプログラムの移動ライブラリーのようなもので、どのワークシート上でも即座にしかも正確に呼び出すことができる。
本書の利用方法としては、単体で使うというよりも、この分野における従来のテキストの(こんなことは言いたくはないのだが)補足資料として用いるのが効果的である。本書では公式などの導出はほとんど行っていないが、モデルと手法はできるだけ最新のものを多岐にわたる題材について提供している。
ファイナンスにおける論理体系の発達を見てみると、1950年代のポートフォリオ理論に始まり、1960年代に入って資本資産評価モデル(CAPM)、そして1970年代のブラック・ショールズ・オプション価格式といったように、いくつかの大きな進展がみられた。こういった理論から解析的解法が導かれ、今では金融商品の価格計算は簡単に行えるようになった。この後の数十年にわたり、今度は数値解法が発達した。パラメーターの選び方によりいろいろなモデル化が可能となる二項モデルは、株式オプションや債券オプションの評価に必要な数値計算において中心的な役割を果たしてきた。現在、金融の世界では、理論よりも高率的な計算を可能にする手法の探究へと焦点が移ってきている。
ファイナンス分野を幅広くカバーし、上級モデリングに必要な高度なテクニックを本書で提供できることは、Excelそのものの機能をはじめ、Excelの組み込み関数やVBAのプログラミング環境がいかにすばらしいものであるかを証明するものである。ファイナンス全般にわたって、前提(対数正規性)や数学的問題(期待値)、数値解法(二項モデル)に共通性があることを明らかにできたのは、Excelのもつこういった高度な機能のおかげである。こうした共通性を強調するとともに、解説をできるだけ分かりやすいものにするため、本書では全体を通じて首尾一貫したシンプルな表記法を用いた。
ファイナンスのテーマを幅広くカバーする本を書くという私たちの目標は、チャレンジであると同時にチャンスでもあった。チャンスといった意味では、本書を書くことでファイナンス全般を概観する機会が与えられ、またそれを通じて、ファイナンスにおける重要な項目どうしの関連性を見いだすことができた。つまり、資産価格における前提にも、数学的問題にも、数値解法およびExcelによる解法にも、ファイナンス全般にわたっての共通性を見いだすことができたのである。これ以降の節では、株式、オプション、債券すべてに通じる、ファイナンス理論の背景、数学的問題、数値解法、Excelの特徴について紹介する。それに続き、各章のあらましを述べる。
続いて理論体系の発展に大きく貢献したのが、ブラック・ショールズの株式オプション価格モデルである。これは、(リスクフリーな)ヘッジ・ポートフォリオの構築が可能なことを説いたものである。ブラック・ショールズ式は、その後マートンによって拡張され、連続配当を含むケース、さらにはコモディティや通貨オプションの評価にも適用できるようになった。オリジナルの公式の導出には物理学でおなじみの拡散方程式(熱伝導方程式)を解く必要があったが、後にはオリジナルの公式の導出に代わって、リスク中立評価法が用いられるようになった。
オプションは、リスク中立的な枠組みのなかでは統計的期待値として算出される。対数株価の正規分布は、それと等価な離散二項分布で近似することができる。したがって、オプションの期待値は、この二項分布に従うという仮定の下で計算される。
一方、オプションの評価では、リスク中立的な世界での期待値は二項モデルを使って計算することができる。二項モデルではパラメーターの選択が重視されることを、3つの異なる二項モデルの収束性を例にとって示す。このようなツリー構造を利用することで、満期前であればいつでも権利行使ができるアメリカン・オプションの評価も可能になる。
ヨーロピアン・オプションの評価には、モンテカルロ・シミュレーションや数値積分も利用できる。とりわけニュートン・ラフソン法などの数値解法を使えば、インプライド・ボラティリティの推定も可能である。
VBAプロシージャをいくつかまとめたものをマクロと呼んでいるが、マクロ=VBAと考えている人は多い。しかし、本書で用いるプロシージャの大部分はユーザー定義関数である。本書では、VBAを使ってユーザー定義関数を書くことや、ユーザー定義関数と行列関数をはじめとするExcelのワークシート関数とを組み合わせることがいかに簡単かを紹介していきたい。
Excelのアドインであるゴールシークとソルバーは最適化作業で用いる。これらのコマンドについても、VBAのユーザー定義関数やマクロを使えば自動化できることを紹介していく。Excelにはもうひとつ、あまり使われない関数がある。それが配列関数である(Ctrl+Shift+Enterで実行される)。本書では、配列関数をユーザー定義関数のなかで使っていく。また、二項モデルもユーザー定義関数のなかで使っていくが、効率を重視して、2次元配列(行列)ではなく、1次元配列(ベクトル)を用いていく。
第2章では、本書全般で用いる高度なExcel関数と各種機能について解説する。特に重要なのはExcelの配列関数である。また、行列操作にかかわる数学については特別に節を設けて説明していく。
第3章では、VBAのプログラミング環境の説明を行うとともに、VBAのサブプロシージャ(マクロ)の書き方をステップ・バイ・ステップで説明する。マクロによる繰り返し作業の自動化は実例を用いて分かりやすく説明していく。
第4章では、ファイナンスへの応用に重要な役割を果たすVBAのユーザー定義関数について説明する。特に、スカラー変数と配列変数は重要であり、VBA関数の入力変数として扱う場合、計算で使用する場合、および出力変数として扱う場合のそれぞれについて説明する。ここでも実例を使ってステップ・バイ・ステップで丁寧に説明していく。実例としては、ヨーロピアン・オプション(ブラック・ショールズ式)とアメリカン・オプション(二項モデル)を取り上げる。
第5章からは、応用に入る。この章では株式をとりあげる。
第6章では、ソルバーと解析的解法を用いたポートフォリオの最適化について解説する。この章以降、ソルバーはワークシート上で実行したり、マクロによって自動化して使ったりと、さまざまなケースで利用される。また、有効フロンティアの各点をExcelやVBAの配列関数を使って求める方法についても説明していく。ポートフォリオ理論の構築は、3つの一般化問題に集約することができる。これらの問題は本章だけでなく、あとの章でもたびたび登場する。
第7章では(株式)資産のプライシングについて見ていく。単一指標モデルとCAPMを出発点に、最終的にはバリュー・アット・リスク(VaR)にまで話を発展させていく。VaRでは資産の対数リターンは正規分布に従うことを前提とするが、これも本書ではたびたび登場するテーマである。
第8章ではパフォーマンス測定について述べる。初期に用いられていたシングル・パラメーター測度から、今日の代表的なモデルであるマルチインデックス・モデル(代表例がスタイル分析)まで順を追って説明する。本章で初めて登場するのが信頼区間という概念である。ここでは、スタイル分析で各資産のウエートを求める際に、どのようにして信頼区間が決められるのか説明する。
第9章からは、株式オプションに応用して説明していく。株式の対数リターンが正規分布に従うことを前提に、ヘッジ・ポートフォリオの構築方法について詳しく述べる。ヘッジ・ポートフォリオは、ブラック・ショールズ・オプション価格式の基本となる重要な概念である。ブラック・ショールズ・オプション価格式は、オプション価値をリスク中立世界におけるオプション・ペイオフの割引期待値としてとらえたものである。本章ではオプション価値のこの解釈方法についても説明する。
第10章では二項モデルについて述べる。二項モデルは、対数株価に対して想定された連続正規分布の離散近似と見なすことができる。二項モデルは満期前の権利行使にも対応可能で、そのためアメリカン・オプションの評価にも使えるため、オプション評価の代表的な数値解法として用いられる。二項モデルはパラメーターの選び方で違ってくるが、ここでは3つの方法を紹介する。そのひとつであるLeisen and Reimerツリーはあまり知られていないが、収束性と精度の2点でほかの標準的なツリーよりも優れている。ワークシートの実例では9ステップ・ツリーを用いるが、ユーザー定義関数はステップ数がいくつに増えても簡単に適応できる。
第11章では再びブラック・ショールズ式に戻って、その拡張性(通貨オプションや商品オプションの評価にも拡張できる)と資産価格に設けられた前提に対する依存度について見ていく。
第12章では、ヨーロピアン・オプションを評価するためのブラック・ショールズ式に用いる統計的推定量の代替的計算方法を2つ紹介する。そのひとつがモンテカルロ・シミュレーションで、もうひとつが数値積分である。これらのアプローチは本書で扱う比較的簡単なオプションを取り扱う場合よりも、複雑なオプションの取り扱いにおいてその本領を発揮する。
第13章では資産の対数リターンが正規分布から外れた場合(すなわち、分布が正規分布とは異なる歪度と尖度をもつ場合)に、オプション市場で観測される、いわゆるボラティリティ・スマイルについて説明する。また、ヨーロピアン・オプションの価格に内包されるインプライド・ボラティリティの効率的な算出方法についても述べる。
第14章からは、債券オプションに応用して説明していく。債券価格は株式価格とは異なる性質をもつが、数学的問題や評価に用いる数値解法には共通点が多い。ゼロクーポン債価格に基づく期間構造を定義するとともに、短期金利を二項モデルを使ってモデル化することで、ゼロクーポン債のキャッシュフロー評価手法として利用する方法についても述べる。
第15章では、2つの代表的な金利モデルであるVasicek and CoxモデルとIngersoll and Rossモデルについて述べる。また、ゼロクーポン債価格とゼロクーポン債オプションの解析的解法と、利付債オプションを評価するための反復法についても解説する。
第16章では、短期金利を二項モデルでモデル化することで、ゼロクーポン債価格の任意の期間構造にマッチングさせる方法について述べる。よく使われるBlack-Derman-Toyの金利ツリー・モデルを(ワークシートとユーザー定義関数の両方を使って)構築し、構築したツリーがゼロクーポン債のヨーロピアン・オプションとアメリカン・オプションの双方の評価に利用できることを示す。
最後の補遺はユーザー定義関数のパンドラの箱ともいうべき章で、本書で扱ったファイナンス分野での応用説明とは直接関係はない。とはいえ、ARIMAモデルやスプライン、固有値などを計算するための便利な関数が満載で、ツールボックスとして重宝するに違いない。
関連するワークブック――AMFEXCEL(第2章)、VBSUB(第3章)、VBFNS(第4章)
関連するワークブック――EQUITY1(第6章)、EQUITY2(第7章)、EQUITY3(第8章)
関連するワークブック――OPTION1(第10章)、OPTION2(第11章)、OPTION3(第12章)、OPTION4(第13章)
関連するワークブック――BOND1とBOND2(第14章、15章、16章)
関連するワークブック――OTHERFNS
ホームページは、www.london.edu/ifa/services/services.html
または、 www.business.city.ac.uk/irmi/mstaunton.html
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