アレキサンダー・エルダー博士 ウィザードインタビュー
『インターネットトレーダーVol.2』

メディアワークス発行 聞き手=世良敬明


3つのMを伸ばす秘訣

Q 独自の売買システム構築に不可欠な要素とは何でしょうか。
A 株や先物の売買システムを構築するのは、決して容易なことではありません。売買判断のシステムは3つのMから成り立っています。マインド (Mind)・メソッド (Method)・マネー (Money) で す。マインドとは心理、メソッドとはテクニカル分析、そしてマネーとは資金管理を意味しています。これらは三脚の脚のようなもので、どれひとつ足りなくても、トレードに安定した成功を収めることはないでしょう。

Q その3Mについて、鼻体的に薯したのが『投資苑』というわけですね。3Mにはいつごろ、気が付いたのですか。
A15年前ぐらい前のことです。壁にガンと頭をぶつけたときです。これで目が覚めました。

Q それは本当のことですか!
A (質問には直接答えずに)私はトレードで損と利益を繰り返していますが、私が最良の教訓を得たのは常に大負けしたトレードからでした。だれでもトレードに勝てば「自分は天才ではないか」と感じるでしょう。しかし負けトレードでも同じように考えられるのです。

Q ということは、つまり……。
A 大きく損したわけですが、そこから大切なことを学びました。 失敗は貴重です。重要なことは負けトレードの原因を突き止め、修正して行くことです。

Q そういえば『投資苑』では、負けトレーダーとアルコール依存症の共通性について述べていましたね。
A これは「中毒」という意味で共通しています。その行為にのめりこんでしまうのです。例えば酒を飲んで歌って楽しむというよりも、酒におぼれて地べたに寝転んでいる人がいます。それでも本人は、非常に楽しい時間を過ごしています。同じように、おカネを稼いで楽しむというよりも、トレードの興奮におぼれてしまい資金を失ってしまう人がいます。そして次に考えることは酒を探す、つまりおカネを借りてまでもトレードを探そうとするのです。おカネよりも興奮を求めてしまう、その意味で負けトレーダーとアルコール中毒者は共通しているわけです。  最近では私の生活はトレードが中心になっていますが、精神分析医としての仕事も好きなので、患者を少数にして、今でも精神分析医の仕事を続けています。1カ月に5時間、忙しい時は10時間程度です。あるとき、かつてアル中だった人が診察に訪れました。若い時分からアル 中になったり治癒したりの繰り返しで、自分がアル中に逆戻りするのを恐れているとのことでした。私はそうした患者さんに、このように言っています。「どうぞ飲み続けてください。普段どおりです。何も変えてはなりません。ただし翌週、飲んだ後で必ずすべきことがあります。それは日記をつけることです。そして、その次の週にその日記を持って私のところへ来てください」  飲んだら必ず日記をつけてもらいます。私の診療室には、日記を書いてもらうためのノートが用意されています。もちろんペンもあります。そこから分かったことは、日記をつけ続ける人はアル中ではない、ということです。逆にアル中の人は自分の日記に怒り出して、善くのを止めてしまいます。なぜなら日記を善くとは、自分を鏡に映しているようなものだからです。  敗者は自分を振り返ろうとしません。つまりトレーダーがまずすべきこと、それはトレード日記をつけることなのです。そして優れたトレーダーとは、その日記から自分のシステムを増強できる人なのです。 トレード日記をつけると 敗者になる「可能性」が低くなる

Q 『投資苑』の中で、トレードの前に「自分は敗者である」と言い聞かせるとありましたが、この真意は。
A これは正確には、敗者となる「可能性」があるということです。私は私自身が敗者だとは思っていません。私は売買判断のシステムを持っています。そしてトレード日記を書き続けています。「こうしたものがなければ敗者となる可能性が非常に高い」ということを自分に言い 開かせているのです。  例えば、山を一生懸命に登っているとします。非常に険しい山道です。踏み外すと奈落の底へと落ちてしまいます。どうしたら落ちずにその道を歩くことができるか。 例えば、日を開いて足元を見る(日記をつけて自己分析する)必要があります。また信頼できて、使い心地の良い杖(売買システム)を持つべきでしょう。周りの美しい山々を見ながら歩くわけにはいかないのです。そして実際に私は落ちてはいませんが、そうした準備がなけれ ば、落ちてしまう可能性が高いのです。

Q どのようにトレード日記を活用したらよいのでしょうか。
A 例えば、たいていのトレーダーは日記を読み返してみると非常に感情的になります。この感情がトレードに役立ちます。日記を見て非常に幸福を感じれば、そのことで負けトレーダーになることはないでしょう。日記を見て自分自身を非常に反省すれば、そのことで負けトレ ーダーになることはないでしょう。毎晩、きっちりとその日のことを記すだけでなく、また自分のしたことがその後どうなって、何を学んだか、何をすべきであったか、そして今後どう変わればよいか書くとよいでしょう。 集団心理とは 恐怖におびえる人たちである

Q 『投資苑』では、デイ・トレード(日計り売買)はポジショントレード(長期売買)よりも難しいと義かれていましたが。その理由は何でしょうか。
A その理由は考える時間です。日足を使ったトレードであれば、夕食後にその日に起こったことを分析して計画を立てる時間があります。デイ・トレードでそのような悠長なことをしていたら破滅してしまいます。自信を持ってトレードするには判断する時間が短すぎます。

Q 最悪のトレーダーとは、どういった人たちでしょうか。
A そうしたトレーダーの多くを占めているのが学歴の高い人たちです。そして最悪のトレーダーとは、疑い深く優柔不断な人たちです。彼らは常に正しくあるようにしています。そして失敗を避けようとします。チャートを見て考えこんでいる問に、時間はいたずらに過ぎてい きます。マーケットは常に変化しているのです。

Q 『投資苑』は第1章を個人心理、第2葦を集団心理について書いています。この関連をどのようにとらえたらよいのでしょうか。
A 個人心理は先程お話ししたように計画を立てること、売買判断の系統図を作ることです。そして集団心理とは恐怖におびえる人たちです、独自の戦略を実行できず、誰彼なしに売買相談をする人たちです。こうした人は集団の一部であって、もはや個人ではないということです。  個人のトレーダーとして成長するに必要なこと、それは実践と知識です。知識を得ることができなければ、実践を繰り返しても無意味です。次につながらないからです。 教祖的トレーダーの言いなりでは、知識を得ていないことになります。 生まれながらにしての トレーダー

Q ところで、旧ソ連から米国に亡命したときまでのことをお伺いしたいのですが。
A 私はサンタト・ペテルブルグ(旧レニングラード)で生まれ、 バルト海沿岸のエストニアで育ちました。旧ソ連で民主化運動が起こると、私も傾倒していきました。しかし仲間が監獄に送られると、次は自分の番ではないかと感じるようになりました。そこで西アフリカ行きの戦艦に船医として乗り込み、その係留先のコートジボアールで、米国大使館に駆け込んで亡命しました。そしてコロンビア大学で精神分析学を履修して、そ こで教鞭を執るようになりました。それまではトレードの経験はゼロでした。

Q いつごろから亡命を考えたのでしょうか。
A18歳、そして20歳のときに計画を立てましたが、未遂に終わっています。そして23歳のときに成功したわけです。

Q 医者になろうと思ったきっかけは。
A 私の家族がみな医者だったからです。3世代前から医者という家系です。そして私が16歳のとき、家族に無理やり医学校に押し込められました。22歳で卒業し、そして研修期間を経た翌年、精神分析医となりました。

Q トレードに関心を持ったきっかけは。
A 26歳ぐらいのごろです、友人が貸してくれた株の本に夢中になりました。非常に素晴らしいものだと思いました。私は挑戦することが好きですし、ゲームが好きですし、リスクを好みます。その要素がトレードにはあります。

Q それは亡命の経験からきているのでしょうか。
A そうかもしれませんね。バック・グラウンドがトレーダーに適していたと思います。私は子供のころからカードゲームが大好きでした。おカネも賭けていましたし。

Q なるほど。そうした典型的な背景があるのですね。しかし、初心者のころは勝ったり負けたりが続いたということですが、なぜそこでトレードをあきらめなかったのでしょう。
A 私は基本的にあきらめるということが嫌いです。一度決心したことはやり通す、かなり頑固なところがあります。

Q 忘れられないトレードといえば。
A 89年のブラック・マンデーです。その前の週、私はたまたまシカゴにいました。ニューヨークの事務所から「株式市場が天井域にあるという指標が出た」との知らせで、私はOEX(S&PlOOオプション)のプットを5/8ポイントで買いました。そして金曜日にミニ・クラッシュがあり、プットの価格は9ポイントに、そして本番の月曜日の寄り付きは20ポイントで始まりました。

Q そうした成功が逆に不安になることはありませんか。
A そう思った瞬間に負けます。宝くじに当たったわけではないのですから。

Q いろいろな本を読んでトレードの研究をされたかと思いますが、お薦めの本はありますか。
A まずお薦めしたいのがエドウィン・ルフェーブル氏の『ReminiscencesofaStockOperator』(邦訳:『欲望と幻想の市場』東洋経済薪社)です。またマーク・ダグラス氏の『Disciplined Tra der』、ジョン・マーフィー氏の『Technical Analysis of the Futures Markets』(邦訳:『先物市場のテクニカル分析』きんざい)も良い本です。ラルフ・ビンス氏の本は、どれも資金管理についてよく書かれていて、お薦めです。

Q どれも有名な本ですね。
A 結局は、それを生かすも殺すも読者にかかっているのです。例えば『投資苑』にあるテクニカル指標は今でも十分機能します。しかしたいていの読者は、「ふんふん、なるほど」で終わってしまいます。実際に規律を持ってそれらを便うかというと、「それはまた来週」になってしまうのです。

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