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ウィザードブックシリーズ Vol.229

グレアム・バフェット流投資のスクリーニングモデル グレアム・バフェット流投資のスクリーニングモデル
「安く買って、高く売る」中長期投資の奥義

2015年9月発売/A5判 246頁
ISBN978-4-7759-7196-3 C2033
定価 本体3,800円+税

著 者 ルーク・L・ワイリー
監修者 長尾慎太郎
訳 者 山下恵美子



目次 | 著者紹介

「個人投資家」のための初めて開発された伝説的バリュー投資法
バリュー投資、初のシステム化
「安く買って、高く売る」――シンプル・イズ・ベスト!

 成功する投資の原理はとてもシンプルだ――「安く買って、高く売る。良い情報に基づく良い意思決定。ノイズを排除し、感情的な混乱を避ける。そして、リスクを減らす」。

 しかし、投資家は往々にして、最適ではない結果につながるワナに陥ることが多い――「群れの行動、感情的な投資、データではなくトレンドに従う、不必要なリスクをとる」。

 こういった間違った行動には共通の原因がある。それは、投資機会を見極めるための規律あるシステムが欠如していることである。

 本書ではCFP(公認ファイナンシャルプランナー)のルーク・L・ワイリーが、人々に見落とされている優れた会社と素晴らしい投資機会を見つけるためのフィルターを紹介する。これらのフィルターを使えば、リスクを低減しながら大きな利益が得られるうえ、景気低迷後の素早い回復が可能だ。

 豊富な経験と、幅広いリサーチ、そして健全な懐疑主義を基に、ワイリーは、会社の何を見ればよいのか、どういった条件を満たせばよいのか、そしてなぜそうした判断基準を使うのかを解説する。また本書では、株価が52週安値近くにある会社が障害を乗り越えて素晴らしいリターンを提供してくれたいくつかのケーススタディーも紹介する。5つの、シンプルではあるが重要なフィルターを使えば、ダウンサイドリスクを低減しながら、市場を上回る素晴らしいパフォーマンスを達成することができることを本書は教えてくれる。

 これら5つのフィルターをパスし、挫折の真っただ中にいる会社こそが投資に向く会社だ。しかし、こうした会社はウォール街では見落とされることが多く、彼らには愛されない。

 本書は、従来の戦略の殻を打ち破り、よくある過ちを避けたいと思っている中長期の投資家、マネーマネジャー、金融アドバイザーにとっての必読書だ。本書が提供する時代を超えた新しい戦略と考え方に従うことで、リスクを低減し、市場をアウトパフォームすることが可能になるのである。


著者紹介

ルーク・L・ワイリー(Luke L. Wiley)
公認ファイナンシャルプランナー、チャーター退職計画カウンセラー。オハイオ州シンシナチに拠点を置くUBSファイナンシャル・サービスのワイリー・ウェルス・マネジメント上級副社長。2012年、顧客の保持・獲得で7000人のUBSファイナンシャルアドバイザーのトップ10に選ばれ、ほかのウェルスマネジャー、ファイナンシャルプランナー、投資マネジャーたちに対する戦略指南を依頼された。彼の投資戦略と人生への取り組み方は、カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビの「逆だ、いつでも逆からやるんだ」という言葉に象徴される。52週安値近くにある会社のなかから魅力的な投資機会を見つけるという考え方は、セス・クラーマンの本からヒントを得た。


■本書への賛辞

「偉大な会社を安値で買うことは理論的には簡単だが、実際には難しい。これを可能にしてくれるのは、感情を排除して、一般大衆を無視し、本書が示す投資の道に従うことである」――パット・ドーシー(『千年投資の公理』[パンローリング]の著者兼公認証券アナリスト、ドーシー・アセット・マネジメント創設者)

「ルーク・ワイリーは、バリュー投資家の長年の疑問――いつ買えばよいのか――についに答えてくれた。このビジネスライクで一般常識に従ったアプローチは、安値圏にある偉大な会社を見つけるための貴重なツールだ。だれもが従うことのできる公式を使って、安く買って高く売る規律あるアプローチを、ワイリーは本書で提供してくれている」――メアリー・バフェット(『麗しのバフェット銘柄』[パンローリング]の著者)

「優れた投資家になりたければ、一般大衆と考え方を異にし、人よりも良くなることが重要であるとルーク・ワイリーは言う。一般大衆と考え方を異にするには、心理をコントロールする必要があり、人より良くなるためには、規律ある理性に基づくプロセスが必要であることを本書は教えてくれる」――ハワード・マークス(オークツリー・キャピタル・マネジメントの会長兼共同創設者兼『投資で一番大切な20の教え』[日本経済新聞出版社]の著者)

「52週安値の公式に52分間投資し、ローリスクの投資哲学を学べば、人よりもはるかに賢明な投資家なれるだろう」――ドナルド・R・キーオ(コカ・コーラの元社長兼『ビジネスで失敗する人の10の法則』[日本経済聞出版社]の著者)

「本書に対する唯一の不満はタイトルがシンプルすぎることだ。本書は、ルールに基づく公式というよりも、長期投資の重要な要素を理解するためのしっかりとした枠組みを与えてくれるものだ。本書は、彼自身のリサーチと証券分析のコアとなる要素を組み合わせることで、新米投資家にも、経験豊富な投資家にも役立つ、完璧で読みやすいガイドに仕上がっている」――クリストファー・C・デービス(デービス・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー兼会長)

「成功する投資の基本は規律に従うことである。本書に書かれた投資の規律ほど、明快で理性的な規律はないだろう。あらゆる種類の投資家も、本書から得るものは多いはずだ」――ヘイウッド・ケリー(モーニングスターのグローバル・リサーチのヘッド)

「本書は、ローリスクで市場を打ち負かしたいと思っている投資家の心をわしづかみにする、よく考え抜かれた戦略だ。期待値は低いが、素晴らしいバランスシートとキャッシュフローを持ち、競争力のある会社を見つけることができる戦略に、異論をはさむ余地があるだろうか?」――ポール・D・ソンキン(『バリュー投資入門』[日本経済新聞社]の共著者)

「投資プロセスと成功する投資を見つける機会を向上させたい人にとって最高の書だ。概念を具体的な例を使って示しているので分かりやすい」――ミカエル・シェアン(タイム・バリュー・オブ・マネーの創設者、『The Investment Checklist : The Art of In-Depth Research』の著者)

「本書は、投資を始めたばかりの人や、もっと良いリターンを目指したい人にとっての必読書だ。本書は、バリュー投資のエッセンスをとらえ、読みやすい形で提供してくれている。“群れ”に従うことに失望した投資家向けの本と言ってもよいだろう。本書は投資の教科書ではなく、5つのステップに従って一貫した投資を目指す規律ある公式を提供するものだ。顧客のためにリターンの向上を目指し、市場で他人と差をつけたい金融アドバイザーにとってさまざまなヒントを与えてくれる本だ」――ロブ・クナップ(スーパーノバ・コンサルティング・グループの社長兼『The Supernova Advisor』の著者)



目次

(本テキストは再校時のものです)

監修者まえがき
はじめに
 ケーススタディー1――著者のプロフィール
序文
謝辞

第1章 52週安値戦略の公式
 1400ドルの本から生まれた52週安値戦略

第2章 群れの行動とバンドワゴン効果

第3章 フィルター1――競争優位性
 5つの競争力
 参入障壁
 ネットワーク効果
 切り替えコスト
 強力なサプライヤー
 代替の提供
 何を見ればよいのか
  ウエスタンユニオン(WU)
  ビザ(V)
  キャンベルズ(CPB)
  ファスターナル(FAST)
  ウォーターズ(WAT)
 まとめ
 ケーススタディー2――1980年〜2012年の1ドルの軌跡

第4章 投資家が犯しやすい5つの過ち
 過ち1――理性で判断するのではなく、感情を信じる
 過ち2――規律の欠如とオデュッセウスの約束
 過ち3――ハロー効果に無関心
 過ち4――情報過多
 過ち5――価値と親近性を混同する

第5章 フィルター2――フリーキャッシュフロー利回り
 ケーススタディー3――52週安値戦略とその復活

第6章 恐怖と意思決定疲れが持つ力

第7章 フィルター3――ROIC
 複雑な指標
 時計の針を巻き戻してみよう

第8章 今回だけは違うということはない

第9章 フィルター4――長期負債対フリーキャッシュフロー比率
 長期負債対フリーキャッシュフロー比率の計算
 負債についての注意点
 長期負債対フリーキャッシュフロー比率の比較
  比較1――重機業界
  比較2――化粧品業界
 まとめ
 ケーススタディー4――バリューを考えるとき、誇大広告は信じるな

第10章 サンクコスト・バイアス、プライド、後悔
  フィルター1――長続きする競争優位性
  フィルター2――フリーキャッシュフロー利回り
  フィルター3――ROIC(投下資本利益率)
  フィルター4――長期負債対フリーキャッシュフロー比率
 タイミングの問題
 私の反証の旅

第11章 フィルター5――52週安値の公式とそれを反証する私の旅

第12章 −25%の直近12カ月のリターンを受け入れることの重要性

第13章 選択的知覚と確証バイアス

第14章 本書のまとめ
 フィルターのおさらい
  フィルター1――長続きする競争優位性
  フィルター2――フリーキャッシュフロー利回り(安全域)
  フィルター3――ROIC
  フィルター4――長期負債対フリーキャッシュフロー比率
  フィルター5――52週の安値
 あなたの役割

あとがき


監修者まえがき

 本書はルーク・ワイリーによる“The 52-Week Low Formula : A Contrarian Strategy that Lowers Risk, Beats the Market, and Overcomes Human Emotion”の邦訳である。ワイリーはプロのファイナンシャルアドバイザー(FA、ファイナンシャルプランナーとも呼ばれる)で、これまで多くの投資家に対して助言サービスを提供してきた。FAという職業は日本ではあまりなじみがないかもしれないが、米国では、財務活動にあたって自分のFAを持ち、適宜相談しながら進めるという仕組みがある。これは、一般に顧客の側で、たとえ自分の仕事については知識や経験を有していても、専門外の分野(例えば、医療や法的係争など、投資もそれに含まれる)において不用意に何を行えば失敗は必至である、したがって適宜専門家に相談すべき、との見識を持つ人が米国では一定数存在するからである。

 本書に解説されているとおり、正しい投資行動は人間が普遍的に持つ性向とはねじれの位置にあり、素人が付け焼刃で実行できるものではない。このため、避けられるリスクと得られる投資成果を考えればFAに支払う顧問料は十分割に合う。この点で言えば、悲しいことに日本では、情報や知識の提供といった形態をとるサービスに対し十分な報酬を支払うという習慣がないせいか、投資する際に費用を払ってFAなどの専門家に相談する人はまれであり、代わりに自分の感情で判断するか、無料で喋る営業マンの言うことを聞いて投資を行う。こうして、わずかの出費を惜しんだ見返りに大切な投資資金をむざむざドブに捨てることになる。まことに残念なことだ。

 さて、著者はFAとしての長年の経験に基づいて本書を書いたわけだが、これが素晴らしいのは、プロのFAの投資哲学を安価に学べるということだけではない。これまで定性的にしか語られてこなかったグレアム・バフェット流のバリュー投資について、実務的なスクリーニングモデルを個人投資家向けに初めて提示したことに大きな意義がある。ここで原書のタイトルは52週間(1年)の安値にフォーカスしたものになっているが、それに惑わされてはならない。この本の神髄はそこにあるのではなく、『賢明なる投資家』(パンローリング)に代表されるクラシカルなバリュー投資の考え方が、決定木構造のモデルに従って、3000銘柄のユニバースを25銘柄の投資対象に絞り込む定量的なプロセスとして明確化されているところにある。これによって、これまで裁量で行うよりほかに方法がなく、したがって経験と知識が必要とされてきた伝説的な投資手法は、だれもが機械的に実施可能な身近なものへと変化したのである。

 翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の山下恵美子氏は分かりやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。

 2015年8月

長尾慎太郎


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■はじめに

 月並みな投資家になりたい人はいるだろうか。高く買って、安く売ることに興味がある人はいるだろうか。あなたの信念や感情を裏づけてくれる情報のみを求める人はいるだろうか。株式市場が単なる博打で、超大金持ちだけがお金を稼げる場所だと信じている人はいるだろうか。

 これらの質問に対する答えがほとんど「ノー」の人は、本書はこれらと逆のこと、つまり、月並みな投資家ではなく、それよりもはるかに優れた投資家になることを達成するのに役立つものになるだろう。私の戦略に正しく従えば、月並みな結果に終わることはない。本書は、安値で買って高値で売ることを継続的に効果的に行うにはどうすればよいかを解説したものだ。また本書は、人生におけるさまざまな局面で、より賢明に考える人になるにはどうすればよいかについて解説した本でもある。

 私が本を書くことになるなど想像したことすらなかった。高校3年のとき、微積分の授業を2回取った。これは1学期に単位を落としたからではなく、数学の才覚があったからだ。教えられる数学は非常に高度なものだった。私は数学の先生になるだろうとさえ思っていたくらいだ。悲しいことに、高校時代に読んだ本は1冊だけ。英語の学力テストで平均以下の点数しか取れなかったのはこのためかもしれない。私は、アメリカン・カレッジ・テスト(アメリカの大学への進学希望者を対象にした学力テスト)でも平均以下の点数しか取れないような生徒で、サッカーをやらせれば汗だくになり、友だちがギャップで買い物をするときに、救世軍で買い物をするような子だった。若いときは、自分が本を読んでいる姿など想像できないような子だった。ましてや本を書くなど、想像をしたことすらない。

 一般的な社会通念に同調するような人間ではなかったので、これはそれほど驚くようなことではなかったかもしれない。テストの点数は並以下だったが、私には他人にない大きな長所が1つだけあった。学習意欲と、社会で広く信じられていることを反証しようとする内なる闘志を持っていたことである。普通の人だったらあきらめるようなことも、ずっと長く取り組んでこられたのはこのおかげだと思っている。

 私は軍人の家庭で育った。父が空軍に所属していたため、小さいときは引っ越しが多かったが、最終的にはフロリダに定住した。私は3人兄弟の長男だった。だから、何をやるにしても私が最初だった。発達過程の重要な時期に、クラスではいつも新入生だった。これは通常なら不利になるが、私は長男で兄がおらず、常に新しい友だちを作る必要があったため、私には特別な能力が備わっていった。心をまっさらにして、自分の意見やアプローチを自由に形成するという能力だ。両親が18歳のときに私が生まれたこと、父が機械工学の学士号を取った12歳まで救世軍で買い物をしていたことは、私にとっては神の恵みのように思えた。現状に逆らって何かをやることの価値は、両親が身を持って私に示してくれたものだ。両親は若くして結婚し、仕事をしながら大学を卒業した。すぐにリワードを求めないこと、1ドルの価値など、両親は社会における規範に逆らうような行動で、ほかと異なることの価値を私に示してくれた。

 バークシャー・ハサウェイのチャーリー・マンガーの書いた本を読んで、17世紀のドイツの数学者であるカール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビと彼の鉄則「逆だ、いつでも逆から考えるんだ」を知ったのは、ずっとあとになってからのことだ。後年には彼の鉄則は私のマントラになり、考える基礎になり、問題を解くときのアプローチ方法になるのだが、私はヤコビの言葉を人生の早いうちに本質的に理解していたのではないかと思っている。つまり、人生における難題の多くは逆から攻めたときにうまく解けるということである。これは私の歩んできた道でもあった。

 ヤコビは「逆転の発想」を次のように説明している――問題を解くとき、まずは逆から考えて、逆から解いていくこと。望む結果を理解し、その結果に対する解を見つける代わりに、それとは逆の結果に対する解を見つける。例えば、健康になりたいと思ったら、あなたを病気にするようなプロセスを考え、それと逆のことをやる。富を築き、経済的に成功したいと思ったら、あなたが貧乏になるようなプロセスを考え、それと逆のことをやるといった具合だ。この批判的思考をもっとよく理解してもらうために、1986年にチャーリー・マンガーがハーバード・ビジネス・スクールの卒業生に贈った祝辞のなかから重要な言葉を抜き出してみたいと思う。

 チャーリーは卒業生に、成功するための方法ではなく、みじめな人生を確実につかむ方法について話した。それは、みじめな人生を確実につかむジョニー・カーソンの3つの処方箋を拡大したものだ。

  1. 信用できない人間になる。
  2. 何を学ぶにしても、なるべく自分で経験したことから学びとること。他人からはできるだけ学ばないこと。
  3. 苦境において二度三度と繰り返してもダメだったら、もうあきらめて屈すること。

 私はこの逆転の発想を私の結婚に適用してみた。どうしたら満足のいく結婚生活ができるかを考える代わりに、みじめな結婚生活を送る確実な方法を考えたのである。極端に言えば、結婚を確実に破綻させるにはどうすればよいかを考えたのである。あるいは、子供に尊敬されなくなるにはどうすればよいか、月並みな人生を送るにはどうすればよいか……といったことを考えたのである。このように考えるようになると、それが習慣になる。私は悲観主義者というわけではない。実際にはまったく逆だ。まず、否定的な結果を考え、それを基に正しい選択をしようと努力する。子供のとき、難しい迷路クイズに挑戦したときのことを思い出してみよう。迷路の逆からスタートすれば、その迷路を解ける確率は上がる。しかも、迷路の最初から始めた人よりも速く解ける。

 平均よりも多くの富を築きたいのであれば、まず平均に達する方法を考えて、そこから逆に考えていく。もしあなたが新入生で友だちをたくさん作りたいのなら、まずどうしたら友だちができないかを考え、そうしたことをやらないようにする。

 例を見てみよう。

 望む結果を思い浮かべる  生涯を通じて成功する投資家になりたい。

 逆を考える  投資家として確実に失敗する方法を考える。

 逆から解いていく  標準以下で失望する投資結果を保証してくれるような行動、投資の世界からのメッセージ、感情、投資戦略にはどんなものがあるか。

 これと逆のことをやる

 あなたが投資について強く信じてきた信念を否定するような研究を探す。生存しているかすでに亡くなっているかにかかわらず、悪い意思決定をすることからあなたを守ってくれるような、学べる人物を見つける。経済予測やアナリストの推奨は正確さに欠けるということを時間をかけて客観的に学ぶ。あなたの望む結果に悪い影響を及ぼすような人間のさまざまなバイアスを理解する。感情や情熱ではなく、ロジックと価値に基づく戦略を開発する。

 これは数年前に私が実際にやったエクササイズだ。顧客のために、家族のために、両親のために、将来の孫のために、どうしたら良くなるかを模索した。

 テストで平均以下の点数しか取れなかったほかの生徒と同じだったら、私は抵抗の少ない道を選び、最低限の努力しかしなかっただろう。しかし、学力テストで平均以下の点数しか取れなかったことがきっかけになって、これらのテストによって予測される私の将来を反証するにはどうすればよいかを真剣に考えた。学力テストは私の未来を映し出す鏡だった。行く末には、私が望むこととは逆のことが待ち受けていることを私は悟った。私は懸命に努力した。その結果、大学では、ディビジョンIのサッカーの奨学金を得て、優等生名簿に名を連ねた。そして、金融、経済学、不動産という3つの専攻を取った。私は自分の望まないものを知っていたので、人よりも懸命に勉強した。平均的な成績の平均的な学生にはなりたくなかった。大学卒業後も平均的なキャリアに甘んじる気はなかった。人よりも優秀になりたかったから。

 自慢話に聞こえるかもしれないし、履歴書を披露しているように聞こえるかもしれない。ある意味そうかもしれないが、これはあなたが考えるような理由からではない。私が本書を書くようになった経緯を理解してもらうために、私の経験を話すのである。私の考え方を理解してもらうために、大学で良い成績を上げたことを話すのである。なぜなら、こうした経験とそれに付随する事柄は、私が金融の世界に入ったときに効果を発揮したからだ。それに、こうした経験は私だけに限ったわけではない。あなたの知っている成功した人のことを思い浮かべてほしい。彼らのほとんどは現状に満足することはなかった。成功する人は成功する考え方を持っている人たちなのだ。彼らは逆から考え始める。つまり、そこに行き着くまでのプランを立てるのではなくて、行く手を阻むものを考え、そういった障害を回避するにはどうすればよいかを考えるのだ。潜在的な問題点を見つけ、それを回避するのである。しかも、彼らには熱意がある。意識的にやる人もいれば、本能的にやる人もいるが、彼ら全員に共通していることは、逆から考え、逆から問題を解決していくという手法なのである。

 ヘンリー・デビッド・ソローはかつて次のように言った――「大部分の人は静かな絶望の人生を送り、歌を胸に墓に行く」。彼が言わんとしていることは、活発に生きよ、ということだが、希望を持てとも言っている。しかし、希望は厄介な感情だ。経済学者は希望を、サンクコスト(埋没費用=失ったものを高く評価する)の認知バイアスと関連づけることが多い。あなたは自分の人生に、教育に、キャリアに、そしてあなたのポートフォリオに投資する。それは、その投資が豊かで実りある何かを、静かな絶望を消してくれる何かをもたらしてくれるという希望があるからだ。しかし実際には、あなたは明確な目標を持つことなく、目の前にある道を歩んでいくだけである。

 中学校になじむことがルールに従うことを意味するのなら、金融の世界は世界最大の中学1年生のランチルームだ。もちろん例外もたくさんある。このあとのページではウォーレン・バフェットにちなんだ話をたくさん読むことになると思う。この世には同じ銘柄を組み込んだ、同じアナリストが推奨する同じ投資信託を売っている何千人という男女がいる。

 それはなぜなのだろうか。ひとつには、それが簡単だからである。大学を卒業した人は、インデックスファンドや投資信託を推奨してリッチな生活をすることができる。インデックスファンドや投資信託を売っていれば安心だ。「IBMを買ってクビになった者はいない」というハイテク業界の格言があるが、これはテクノロジー株を買って現状に満足することを表しているが、これはもう何十年も前の話だ。しかし、この格言は今の投資の世界により当てはまるかもしれない。S&P500インデックスや最も評価の高い投資信託を買ってクビになった者はいない。S&P500インデックスを買っておけば安心だからだ。しかし、私がこれまで出会った金融のプロには健全な懐疑主義が欠けているように思える。

 ヤコビの言葉に加え、私の好きな言葉の1つは、ロナルド・レーガン大統領の言葉だ。彼は冷戦時代における米国とソ連の関係を、「信ぜよ、されど確認せよ(Trust, but verify)」と表現した。これは、物事がなぜそうなるのかを理解しようとする根気と熱心さがあるかぎり、それを信じてもよいという意味である。私は信じやすい人間だ。しかし、私はやるべきことはしっかりやる人間でもある。標準を下回るテストの点数を取ったことがきっかけになって自ら作りだした道を変える必要があると感じたこと、そして大学生活を通じて、一般的な社会通念を再確認することの価値を私は見いだした。あなたの目の前の道に闇雲に従う前に、時間をかけてそれを理解することが重要だ。それを選んだ背景にあるロジックを理解すれば、それを選んだことの欠点も見えてくるはずだ。

 金融のプロとして駆け出しのころ、私は世間一般の考え方に従った。私はアナリストたちが推奨する証券を売り、ヘッドラインに載ったり、ケーブルテレビに出てしゃべるのに夢中になったり、誇大広告を打つことに夢中になったりしたこともある。もっと掘り下げて調べて、疑問に思わなければならないときに、彼らに遅れまいと必死でついて行こうとした。しかし、やがて私は疑問を感じるようになった。アナリストやその商品は信用していたが、再確認するようになった。するともっと良い方法が見えてきた。

 そのもっと良い方法は改善に改善を重ねて、形が出来上がるまでに15年を要した。顧客と話し合い、専門家にも相談した。お金をかけてリサーチを行い、自分のお金を投資した。損をしたり、儲かったりしたが、すべては再確認という名の下で行ったことだ。私は投資のあらゆる側面を逆転させた。メカニカルな面や金融面だけでなく、私たちが投資の意思決定をときに影響を及ぼす感情面や社会的勢力に対しても逆から攻めた。絶え間なく続くこの探究の結果が、今あなたが手にしている本書であり、52週安値の公式の根底にある原理である。

 投資の本は五万とある。そのほとんどが一晩で大金が儲かりますよとビッグワードを並び立てる。短期間で桁はずれの利益が出ますよとでっちあげる。そのほとんどが、投資の「秘訣」をあなたに教えようとする。投資の本は私もたくさん読んだ。それらを分析した結果、私は次のような結論に達した。

 52週安値戦略はすぐに金持ちになれるようなものではない。だから私は大きな利益は約束しないし、約束する気もない。私があなたに約束できることは、投資機会を見つけるために一貫した戦略を持ち、リスクを低減することが、あなたやあなたの戦略にとっては有利に働くということだけである。逆から攻めること、そして、信用しても確認を怠らないことが良い結果につながるのである。この戦略に取り組むときには、自分で調べることを怠らないでもらいたい。私はこの戦略の独立したバックテストを2回行った。そのうちのひとつは、1980年からのデータを使って行い、結果は一貫性のあるものだった。つまり、上昇相場でも下落相場でも一貫して高いパフォーマンスを上げ、市場が大暴落したときも損失は少なく、回復も早かった。

 私は子供のころから、逆から攻めることの価値を理解していたように思う。あなたにも逆から攻めることの価値をぜひ理解してもらいたい。私が本を書くようになるなど思ってもみなかったが、私は人生と投資について1つのことを学んだ。それは、期待どおりになると思ってはいけない、ということだ。知り得ることを信じるほうがよい。

 本書は、心をオープンにして、しかし批判精神も忘れずに読んでもらいたい。投資に関しては、確実なことなど何ひとつない。私は人生の半分を賭してより良い方法を模索してきたが、本書でそれに最も近づけたのではないかと思っている。

 本書では、投資のメカニズムや52週安値戦略の基本となるフィルターのことだけでなく、投資家を間違った方向に導くバイアスや認知行動についても解説している。投資において良い意思決定を下すには、こういったバイアスや行動を克服し、本能ではなくロジックに従い、戦略に従い続けることが重要だ。私たちがなぜそういった意思決定をするのかを理解するための本はたくさんあるので、バイアスや認知行動についてはそれほど詳しく話すつもりはないが、投資における人間的側面を無視すれば、それは怠慢になるだろう。したがって、バイアスや認知行動についてもカバーしている。

 本書では、実際のパフォーマンスと独立したバックテストに基づくさまざまなケーススタディーを紹介している。このケーススタディーを読めば、52週安値戦略は優れたパフォーマンスを提供してくれるだけでなく、リスクを低減し、大きな損失を被ったあとの回復も早いことに気づくはずだ。30年間のバックテストについては私のところまで連絡してもらいたい(http://52weeklow.com/)。


■本書の関連サイト

 本書の関連サイトとして「http://52weeklow.com/」を参考にしてもらいたい。
 サイトには次のものが含まれている。

 ●エンピリトラージによる戦略のバックテスト結果
 ●モーニングスターによる戦略のバックテスト結果
 ●本書で述べた52週安値のスクリーンプロセスによって購入するのにふさわしいと思われる銘柄の月ごとのスクリーン。この月ごとのスクリーンは情報提供のみを目的とし、それらの銘柄を推奨するものではない。投資の意思決定を行うときには、公認の投資アドバイザーやディーラーに相談してアドバイスをもらうようにしてほしい。このサイトは突然閉鎖することもある。この点はご了承願いたい。


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