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ウィザードブックシリーズ Vol.283

アセットアロケーションの最適化 アセットアロケーションの最適化
ポートフォリオの構築とメンテナンスのための統合的アプローチ

著 者 ロバート・カーバー
監修者 長岡半太郎
訳 者 山下恵美子

2019年6月発売
定価 本体7,800円+税
A5判 上製 702頁
ISBN 978-4-7759-7251-9 C2033

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著者紹介 | 目次 |  ◆立ち読みコーナー 監修者まえがき (本テキストは再校時のものです)

コンピューターにはできない最後の分野「アセットアロケーション」の極意!
アセットアロケーションで悩む投資家のバイブル!

紹介されました

聞いてわかる投資本要約チャンネル・タザキ様の『お金の名著200冊を読破してわかった!投資の正解』の「人生計画を考えたい人におすすめの8冊」に本書が掲載されました。(2022年7月)

本書は、投資ポートフォリオの適切なアセットアロケーション(資産配分)と、そのメンテナンスについて書かれたものである。そこで重要になるのが次の3つの質問だ。

  1. 何に投資すべきか
  2. どれくらい投資すべきか
  3. どういったときにポートフォリオを変更すべきか

著者のロバート・カーバーは、本書でポートフォリオ管理のための1つの統合的アプローチを提供することでこれら3つの質問に明確な答えを出している。複数のアセットからなる投資ポートフォリオを構築するにはどうすればよいのかをステップバイステップで分かりやすく説明するとともに、ポートフォリオを効率的にリバランスする方法についても提示している。ETF(上場投資信託)のようなファンドへの投資と、個別株への直接投資についても解説している。 本書の特徴は以下のとおり。

また、異なるリスク水準のアセットを組み合わせる方法や、投資家のリスク許容量に合ったポートフォリオの構築方法についても解説している。 本書は実用的な手法、経験則、テクニックが満載の包括的なアプローチを、具体的な例を示して詳細に解説している。読者対象としては、ポートフォリオをどう構築すべきか悩んでいるプロの投資家や経験豊富な個人投資家を想定している。


■著者紹介

ロバート・カーバー(Robert Carver)
独立した投資家でありトレーダーであり、作家でもある。10年以上にわたってロンドンのシティーで働き、2013年に引退。バークレイズ投資銀行でエキゾチックデリバティブのトレーダーとして勤務したのち、世界最大のヘッジファンドの1つであるAHLに移り、ポートフォリオマネジャーとして勤務。2008年の世界的金融危機を目の当たりにし、その前後も市場にかかわってきた。AHLではファンダメンタルグローバルマクロ戦略の構築や同ファンドの数十億ドルの債券ポートフォリオの運用に携わった。経済学の学士・修士号を修得。2016年には最初の本『システマティックトレード――独自のシステムを開発するための完全ガイド』(パンローリング)を出版。今は本書に書かれたメソッドを使って自身の株式・ファンド・先物ポートフォリオをトレードしている。

■目次

監修者まえがき

まえがき
 本書の読者対象
 用語について
 本書の内容

序論
 今日の投資
 本書を読まなければならない理由
 本書はまだ有効か

プロローグ―われわれは何を知っているか
 おそらく私たちが知らないこと――将来の平均リターン
 おそらく私たちが知っていること――類似性とリスク
 私たちが確実に知っていること――コスト
 私たちが知ることができるかもしれないこと――リターンの予測

第1部 スマートポートフォリオの理論

第1章 ベストなポートフォリオとはどんなポートフォリオなのか
本章の概要
幾何平均リターン
期待値
リスクと投資期間
コスト
実質リターン
困惑――絶対リターンと相対リターン
通貨
純粋に金融的な判断
重要なポイント

第2章 不確実性と投資
本章の概要
投資ゲーム
統計学的モデリング
不確実な過去
重要なポイント

第3章 最良のポートフォリオを見つける
本章の概要
ポートフォリオの最適化はシンプルに
不確実なリターンと不安定なポートフォリオ
なぜ将来は過去と同じではないのか
重要なポイント

第4章 最良のポートフォリオを見つけるためのシンプルで、スマートで、安全な方法(コストは無視)
本章の概要
異なるリスク選好をどう扱うべきか
リスクウエーティング
ハンドクラフト法
ポートフォリオアロケーションに関する実務上の問題
重要なポイント

第5章 コストのスマートな考え方
本章の概要
コストはなぜ重要なのか
コストを測る
異なるETFのコストの比較
ETFポートフォリオの分散にかかるコスト
コストを比較するうえでの注意点
コストを削減するためのスマートな戦術
重要なポイント

第6章 分散の不確実な便益と確実なコスト
本章の概要
分散――どんなメリットがあるのか
分散すべきか
ETFと個別株のコストの違い
ハンドクラフト法か、均等加重か、時価総額加重か
指数のすべてを買うべきか、一部を買うべきか
任意の国に投資するスマートな方法
複数のファンドを買って分散することに意味はあるのか
重要なポイント

第2部 スマートポートフォリオの構築

第7章 スマートポートフォリオを構築するためのトップダウンアプローチ
本章の概要
なぜトップダウンアプローチはスマートな方法なのか
トップダウンポートフォリオ
ロードマップ
考慮すべき問題点

第8章 アセットクラス
本章の概要
どのアセットクラスに投資すべきか
アセットクラスはどのように分ければよいか
どれくらいのリスクに耐えられるか
アセットクラスのスマートな重み付け
小口投資家はポートフォリオをどのように重み付けし、アセットクラスへのイクスポージャーをどのようにとるべきか

まとめ

第9章 オルタナティブ
本章の概要
さまざまなオルタナティブ
純正なオルタナティブ
株式のようなオルタナティブ
債券のようなオルタナティブ
ETF投資家のためのオルタナティブ
まとめ

第10章 株式のさまざまな国や地域へのアロケーション
本章の概要
株式サブポートフォリオの構成
株式のトップダウンアロケーションのフレームワーク
まとめ

第11章 各国における株式のアロケーション
本章の概要
各国の各セクターへのアロケーション
セクター内での個別株へのアロケーション
倫理的な投資
まとめ

第12章 債券
本章の概要
債券の世界
債券へのイクスポージャーのとり方
債券のウエートの決め方――理論上
アメリカの投資家のための債券のウエートの決め方
イギリスの投資家のための債券のウエートの決め方
まとめ

第13章 すべてをまとめてみよう
本章の概要
例1――サラ(アメリカの機関投資家)
例2――デビッド(イギリスの投資家。資金50万ポンド)
例3――ポール(アメリカの投資家。資金4万ドル)
例4――パトリシア(イギリスの投資家。資金5万ポンド)
まとめ

第3部 リターンの予測

第14章 リターンの予測とアセットの選択
本章の概要
リスク調整済みリターンの予測はなぜ難しいのか
スマートな予測モデルを使ってポートフォリオを構築する方法
2つのスマートな予測モデル
トップダウンのハンドクラフトポートフォリオで予測モデルを使う
モデルを使わずにポートフォリオウエートを調整する方法
モデルがないときの銘柄選択
まとめ

第15章 アクティブファンドマネジャーは本当に天才なのか?
スマートベータは本当にスマートなのか?
本章の概要
アクティブファンドマネジャー
スマートベータ
ロボアドバイザー

第16章 リバランス理論
本章の概要
なぜリバランスが必要なのか
ウエートを調整するだけの価値はあるのか。あるとすればどれくらい調整しなければならないのか
ファンドや株式を丸々入れ替えるべきときと、入れ替えるべきではないとき
税金
まとめ

第17章 ポートフォリオのメンテナンス
本章の概要
毎年の見直し
外部イベントに対する対応
ポートフォリオの定期的なウエート調整
ポートフォリオのメンテナンスにかかる税金
リバランスの例
まとめ

第18章 ポートフォリオの修復
本章の概要
ポートフォリオの修復とは何か
ポートフォリオを修復する6つのステップ
修復するときの注意点
ポートフォリオの修復例
まとめ

エピローグ

付録A――参考文献
付録B――コストとリターンの統計量
付録C――専門的なこと
用語集
参考資料
謝辞


■監修者まえがき

 本書は英国の大手ヘッジファンドであるAHL(Man Group)出身のロバート・カーバーが著した“Smart Portfolios : A practical guide to building and maintaining intelligent investment portfolios”の邦訳である。カーバーはAHLでの経験に基づいて、定量的な運用戦略の構築法について、以前に『システマティックトレード――独自のシステムを開発するための完全ガイド』(パンローリング)を書いている。それはシステマティック運用に関する驚異的に優れた解説書であり、この分野では機関投資家が読むべき唯一の一般書と言ってよいが、本書はさまざまな意味で今後資産運用にかかわるすべての人々が読むべき書籍の一つに挙げられると思う。

 株式や債券といった有価証券投資における近年の大きな変化の一つは、人間の裁量によるアクティブ運用の衰退である。前世紀までは、ファンドマネジャーやアナリスト、ブローカーといった狭いサークルの人たちだけが、発行体の情報への優先的なアクセスや、組織が持つ設備や立場によって、市場から利益を得る仕組みが成立していた。それは一般の投資家には手が届かない世界であり、したがって、彼らが高い管理報酬・成功報酬を取ってファンドや投資一任勘定を運用することは、理屈としては分からないでもなかった。

 しかし現在では、それはほとんど絵空事、砂上の楼閣にすぎないことが明らかになっている。まず、ごく一部の例外を除き、アクティブファンドの運用成績はその手数料にまったく見合わないことが、多くの学術研究で明らかになっている。また、インターネット後の情報伝播の民主化と手数料の自由化によって、投資ギルドの利権を守っていた構造は急速に破壊されてしまった。これは歴史的に不可逆的な変化であり、世界的なフェア・ディスクロージャー・ルールの導入や欧州におけるMiFID2(第二次金融商品市場指令)がその展開をより強固なものにしている。さらに実務家の観点から言えば、資産運用の世界でリアルタイムに進行している人間と機械(AI)との戦いにおいて、人間の生存は絶望的だ。どう考えてもアクティブ運用に未来はない。

 こうした動きを受けて、すでに北米では多くのバイサイドがアクティブ運用に見切りをつけ、インデックスファンドやスマートベータ、ETF(上場投資信託)にビジネスのかじを切っている。これらは結果として、各アセットクラスや運用スタイルのイクスポージャーを低コストで投資家に提供することになったが、同時に資産運用におけるアジェンダも、個別銘柄のピックアップや運用者の能力の選定から、アセットクラス間、もしくは運用スタイル間のアセットアロケーション(資産配分)の巧拙に移ることになった。つまり、資産運用で儲けられるか否かは、どのように銘柄や運用者を選ぶかではなくて、どのように資産やリスクを配分するかにかかっているのである。

 幸い、資産運用ポートフォリオにおけるアセットアローケションは個別銘柄やファンドの選定とは異なり、合理的で再現性のある方法論が存在する。本書は機関投資家だけではなく、一般投資家にも分かりやすく書かれた初めての解説書である。多くの方に読まれることを心から願うものである。

 最後に、翻訳にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。山下恵美子氏は正確な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。

 2019年5月

長岡半太郎

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■序論  今日の投資

 投資について書かれた本で私が最も好きなものの1つは、リチャード・オールドフィールド著の『Simple But Not Easy(シンプル・バット・ノット・イージー)』だ。投資が簡単であった試しはないが、投資はシンプルなものだ。

 25年前の投資家には選択肢がほとんどなかった。ほとんどの人はお金をプロのファンドマネジャーに任せるしかなく、マネジャーたちは専門知識を提供する見返りとして莫大な手数料を取っていた。リターンが高ければ、莫大な手数料を課されても問題はなかった。年間10%のリターンがあれば、マネジャーに対する2%の手数料は適切なように思えた。

 一方、勇者は独力でやることを決意し、株式ポートフォリオに直接投資した。しかし、スプレッドが大きく、ブローカーの手数料が高かったため、この選択肢もけっして安いものではなかった。特にポートフォリオを頻繁に売り買いすれば、手数料は非常に高いものについた。しかし幸いなことに、頻繁に売り買いするのにかかる余分なコストは、ファンドの管理手数料と同じように、株式市場の上昇によって相殺された。

 ほとんどの投資家は自国の市場に過剰に投資する傾向があった。外国市場の株式を買うよりもはるかに簡単なうえ、投資リターンは十分すぎるほど大きかったからだ。学術研究者はこれを「ホームバイアス」と呼ぶ。

 未亡人や孤児や神経質な人々は債券を好んだ。株式カルトに洗脳された弟子たちは、彼らの月並みなリターンを見てあざ笑った。学術研究者が提唱する債券と株式の混合ポートフォリオを持とうという人はほとんどいなかった。経済学の教授がポルシェに乗っていたのを最後に見たのはいつのことだろうか。

 ヘッジファンドのようなもっと難解な投資はどうかといえば、これは金持ちでコネのある人々のための排他的領域だった。

 あれから時代は明らかに進歩した。タイムマシンで、ウォール街やシティーの歩道を歩く投資家を現在に生き返らせたらどうなるだろう。摩天楼やフォーマルではなくなった服装以外に、彼らは何に気づくだろうか。

 最初に気づくのは、投資が以前よりもはるかに安価にできるようになったことだろう。技術革新や激しい競争のおかげで、ブローカーの手数料は以前よりもかなり安くなった。アメリカでは特にそうだ。しかし、一見素晴らしく思えるこの事実は危険でもある。市場評論家の絶え間ないおしゃべりとオンラインブローカーの優雅な広告は有毒な化合物だ。あなたをいとも簡単に不必要な売買に誘う。皮肉なことに、手数料が安くなったのは多くの人々による過剰売買のためだ。スーパーマーケットで半額セールが行われると、買い物客はショッピングカートがあふれるほど買い物をする。それとまったく同じである。

 もちろん、コストが安くなるのは良いことだ。最近ではファンドマネジャーの手数料も非常に安くなっている。今や、投資家たちが選ぶことができるS&P500やFTSE100のような指数に連動する安いパッシブファンドは山のようにある。パッシブマネジャー間の競争もアクティブ投資の手数料を低下させるのに役立った。

 ここまでは良いニュースだ。悪いニュースは期待リターンがこれまでよりも大幅に低下し、これまでよりも予測不可能になったことである。絶対コストは低下しているが、低いリターンのことを考えれば、コストはまだまだ高いのである。

 期待リターンはなぜ下がったのだろうか。インフレ率が大幅に低下したのも要因の1つだろう。インフレ率が下がったのは理論的には良いことだが、過去の高いインフレ率によって投資家は健全なリターンは生得権であると信じ込まされてきた。アセット価格が毎年上昇していくことを想定するのはもはや安全とは言えない。

 株価は25年にわたって右肩上がりに上昇してきたが、これまで大きく下落したときが2回あった。2001年のハイテクバブルの崩壊と2008年の株式市場大暴落だ。これに対して、債券はこの数十年にわたって上昇し続けてきた。これはリスクが低下したことを考えるとうなずける。しかし、これは長くは続かないだろう。本書執筆の時点では、多くの債券の利回りは非常に低いかマイナスに転じている。そして、避けられない金利上昇の恐怖に市場はおびえている。

 金融市場の動きを予測するのはこれまでも簡単ではなかったが、今ではさらに不確実性を増している。

 とはいえ、この数十年にわたる債券価格の上昇のおかげで、債券と株式の分散化ポートフォリオへの投資は過去25年にわたって成功してきた。市場では投資の選択肢が増えたため、こういったポートフォリオを買うのは以前よりもずっと簡単になった。特に1993年にETF(上場投資信託)という新しいタイプのパッシブ投資ファンドが登場してからはそうである。

 ETFによって株式や債券、そして25年前には平均的な投資家がまったく気づかなかったほかの多くのアセットを簡単に買えるようになった。

 パッシブのETFは、高い手数料の割にはさえないパフォーマンスのアクティブファンドに比べるとはるかに安価だ。過去からのタイムトラベラーはアクティブファンドがまだ存在していることに驚くだろう。おそらく彼らはパッシブファンドの猛攻撃を生き抜いたのは少数のスーパースターファンドマネジャーだけだと思ったに違いないが、アクティブマネジャーがいまだに市場の70%以上をコントロールしていることを知ってショックを受けるだろう。高いリターンが約束されたが、これは本当にそういったプレミアム価格を支払うだけの価値があるのかどうか分からないでいる投資家たちを、アクティブファンド業界は眩惑させ続けている。

 またETFによっていろいろな国のイクスポージャーも簡単に取れるようになった。したがって、理論的にはホームバイアスは過去のものでなったはずだが、実際には自国の株式やファンドに安心感を抱く人々が多い。

 私はETFの大ファンだ。しかし、ETFには重大な欠点が1つある。それは、特定の証券のウエートが固定されている特定の指数(S&P500やFTSE100)にさらされてしまうことである。これらの指数は通常、時価総額加重だ。つまり、価値の高い株ほど大きなウエートが割り当てられるというわけだ。これが最良の重み付けかどうかは、学術研究者の間や業界内部で激しい議論が繰り広げられている。

 指数における株式の重み付けにはほかの方法もあり、ETFは最近ではそういった方法を採用するようになった。例えば、多くの国では均等加重ファンドを選択することができる。これは大きさにかかわらず、すべての株式が同じウエートを割り当てられるというものだ。

 最近ではファンドマネジャーの多くはスマートベータと呼ばれるものも提供するようになった。スマートベータはスマートが付く分少し複雑で、アクティブ運用とベータ(市場平均連動性)を得るために特定の指数に連動する運用の中間的な位置づけにある。スマートベータについては第3部で詳しく説明する。

 ETFには通貨ヘッジ型ETF、レバレッジ型(ブル型)ETF、インバース型(ベア型)ETF、ターゲットリタイアメントETF(定年退職する年に合わせて自動的に投資してくれるETF)、ロングショートETF(ロングショート戦略で運用するETF)、コモディティETF(コモディティ商品に投資するETF)、ボラティリティETF(ボラティリティ指数に連動するETF)などがある。見逃したものがあるかもしれないが、本書を読むころにはおそらくは新たな種類のETFが登場しているはずだ。

 このように選択肢が増えたことは良いことだが、過去からのタイムトラベラーはこのようにバラエティーに富んだETFが提供されていることに驚いて身動きもできなくなるだろう。おそらくは現在の考え深い投資家も同じように感じるはずだ。

 さまざまな国々の株式と債券に投資した高度な分散化ポートフォリオは以前よりも買いやすくなった。しかし、こうしたポートフォリオを入手する最良の方法はどんな方法だろうか。ファンドを買うのか、それとも個別株を買うのか。アクティブファンドに投資するのか、それともパッシブのETFに投資するのか。時価総額加重型のパッシブ運用か、あるいはオルタナティブ投資か。バイ・アンド・ホールドか、それともアクティブにトレードするのか。どれが最良の方法なのだろうか。

 また、高度に分散化されたポートフォリオとはどういったものなのだろうか。こういったポートフォリオには株式や債券、ほかのアセットはどのくらいの比率で組み込むべきなのだろうか。各国や各業界にどのくらい配分すればよいのだろうか。個別株に投資したほうがよいのだろうか。これらの選択肢にはコストと便益の間で必ずトレードオフがある。どれがベストなのだろうか。

 永遠に上がり続けるかに見えたブル相場という安心感がなくなった今、将来のリターンは以前にも増して不確実なものになったように思える。この不確実性をポートフォリオに組み込むにはどうすればよいのだろうか。

 過去からのタイムトラベラーたちは頭が混乱して、タイムマシンに舞い戻ってドアを閉める。彼らは安心できる単純な過去に戻ろうと必死だ。

本書を読まなければならない理由

 絶えず変化し、より一層複雑になった多くの投資の選択肢からどれを選べばよいのか。こうした判断を下す投資家を手助けする本がこの20年の間にたくさん書かれてきた。こうした多くの本があるなか、なぜ私は本書を書いたのだろうか。そして、なぜあなたは本書を読まなけばならないのだろうか。

スマート――専門性がそれほど高いわけではなく、シンプルすぎることもない

 多くの本はポートフォリオの構築方法について2つの極端な考えに偏っている。1つは、ポートフォリオの構築は高度な数学を必要とするブラックアートであるという考え方で、もう1つは取るに足らない問題だが、どのくらい投資すべきかにかかわらず、小さなETFポートフォリオを買うだけでよいという考え方だ。しかし、実際にはそれほど単純なことではない。

 最良のポートフォリオを構築する標準的な方法は実際には複雑だ。しかし、そんなものを使う必要はないし、使えば危険な場合さえある。手持ち資金が数百ドル、あるいは数百ポンドしかない場合は少数のETFからなるポートフォリオを買ってもよいが、もっと多くのお金を持っている投資家にはもっと良い方法がある。

 前述の2つの極端なアプローチに対して、本書は「スマート」にやろうと考えている。過度に専門的でもなく、シンプルすぎることもない。関連する金融理論を直感的に理解するのはスマートだ。これについては第1部で説明しているので参照してもらいたい。正しい理論に沿った簡単な手法を使うのもスマートだし、シンプルな経験則を使って意思決定を行うのもスマートだ。本書には手法や経験則がふんだんに紹介されている。これらは実例を使って詳細に説明している。

 本書ではポートフォリオを構築するスマートなテクニックだけでなく、構築したポートフォリオを最も効率的な方法でリバランスする方法も提示している。ポートフォリオに株式を含まなければならないわけも理解できるようになるだろう。しかし、100%株式のポートフォリオではダメだ。スマートポートフォリオにとって最も重要な要素が分散化である理由についても説明し、さらに分散化する最良の方法についても説明する。

ポートフォリオの構築には1つの統合的アプローチを使うべき

 株式投資、アセットアロケーション、ETF投資、アクティブファンドマネジャーの選び方について書かれた素晴らしい本はたくさんある。しかし、投資家が本当に必要とするのは、ポートフォリオ全体で機能するフレームワークを持つ1つの統合的アプローチだと私は思っている。本書はそういったアプローチについて書かれたものだ。イギリスの投資家もアメリカの投資家も複数のアセットを含むポートフォリオの構築にこのアプローチを使うことができる。これらのポートフォリオはETF、アクティブファンド、株式、あるいはこれらのすべての組み合わせからなる。

 また、本書では株に直接投資すべきか、それともETFに投資すべきかを判断するうえでのシンプルなルールを紹介し、どのくらいのファンドや株を買えばよいのかも指南する。さらに安いパッシブのETFと高いアクティブファンドの比較方法も提示する。

 最良のETFはどのようにして選べばよいのか。いろいろなETFのコストとそのほかの特徴はどのように比較すればよいのか。最新のスマートベータETFは買う価値があるのか。インバース型ETF、レバレッジ型ETF、コモディティETF、通貨ヘッジETFの隠された欠点とは何なのか。ロボ投資にはお金を払う価値があるのか。十分な分散化を図るには何銘柄を買えばよいのか。そしてそれらの銘柄はどのように選べばよいのか。オルタナティブアセットには投資すべきか。もしそうならどのように投資すべきなのか。こういった重要な疑問についても議論する。

 また異なるリスク水準のアセットを組み合わせる方法、投資家の許容リスク水準に合ったポートフォリオを構築する方法についても説明する。

不確実性

 ほとんどの投資本でほぼ完全に見落とされている重要な要素が1つある。それは不確実性である。未来を予測するのは考えている以上に難しい。リターンのヒストリカルデータにはあなたが期待するほど便利なデータは含まれていない。本書ではリターンを予測するのがなぜそれほど難しいのかについて説明する。さらに、インフレ率が数十年にわたって下落するといったゆっくりと動く経済トレンドの重要性と、それによってなぜ過去は現在とそれほど大きな関連性がなくなるのかについても説明する。

 世界を不確実性という言葉で考えるようになって初めて、正しい意思決定を下すことができるようになる。例えば、アクティブファンドは手数料がパッシブベンチマークよりも高いにもかかわらずパッシブベンチマークをアウトパフォームする。しかし、それは運によるものなのだろうか、それともスキルによるものなのだろうか。本書ではこうした疑問に答えるためのツールも提供する。

 未来は不確実ではあるが、不確実性には度合というものがある。将来のリターンは予測しやすいものもあれば、予測しにくいものもある。例えば、アセットがどのくらいリスキーかとか、アセットのパフォーマンスはどのくらい類似しているかといった特徴は比較的予測は簡単だ。ポートフォリオを構築するときにこうした信頼のおける情報をどのように使えばよいかも示していく。そして、未来を予測するとき、システマティックな予測アルゴリズムと人間の直感をどのように使えばよいかも示していく。

コスト

 つい最近までほとんどの投資家はリターンの上昇ばかりを重視して、コストを無視してきた。しかし、今多くの人がコストの重要性を認識し始めている。ポートフォリオのリターンを上げるには、予測可能とは言え非常に不確実なリターンに頼るよりも、コストを削減することのほうがより確実な方法だ。コストをあまり払いたくない投資家にはパッシブのETFをお勧めする。

 これは良いアドバイスだが、正しい投資の意思決定をするうえでコストにはより重大な意味がある。まず第一に、正しい意思決定をするには正しいデータが必要だ。したがって、通常無視されるか隠されている目に見えないコストを含め、投資にかかわる真のコストを高い精度で計算する方法について説明する。第二に、コストが個人投資家と機関投資家に及ぼす異なる影響を理解する必要がある。第三に、コストと不確実な潜在的便益の間のトレードオフを考える必要がある。

 重要なトレードオフには、分散化のコストと便益や高い手数料を考えた場合、スマートベータファンドやアクティブファンドは買う価値があるかどうか、投資ポートフォリオのサイズを考えた場合、ファンドや株式はどのくらい買うべきか、がある。こうしたトレードオフについても議論する。

 さらに、スマートリバランス戦略を使ってトレード量を減らすことでトレードコストを削減する方法や、スマート実行戦略を使って各トレードのコストを削減する方法についても説明する。

本書はまだ有効か

 私が本書を書き上げたのは2017年の夏である。私が本書で述べていることが、本書が絶版にならないかぎり、2027年、2037年、そしてその先でも有効であることを願うばかりだ。例えば、さまざまなアセットクラスの将来のリターンについてはいくつかの仮定を設けているが、これらの仮定は私が示す結果を読者が簡単に理解できるようにすることが目的であり、任意な数値にすぎない(重要なのはリスク調整済み相対リターンなのだが、これらのリターンは予測不可能なので、さまざまな資産クラス間で同じであると仮定している)。ただし、私の出した結果は異なる仮定を使っても変わるわけではない。

 しかし、廃れていくものもある。例えば、いくつかのETFを上げたが、このなかには将来的にはなくなるものもあり、代わりにもっと良いファンドが現れる可能性もある。新しいETFをどのように調べればよいのか、またどういった特徴に注目すべきかについても説明する。ETFを選ぶうえでの詳細なアドバイスは参考資料のところで述べているので参照してもらいたい。

 本書で行った意思決定の多くはコストの多寡をベースにしたものである。コストはもっと高いブローカーを使えば違ってくるし、将来的にブローカーのコストが変われば違ってくる。そこで、異なる手数料を使った場合、私の結果をどのように調整すればよいかも説明している。

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