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目次

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監訳者まえがき    増田丞美       1

序文         デビッド・カプラン  7

1 私の知るギャンブラーたち        39

2 ポーカーの世界へようこそ        49

3 己を知り、相手を知る          65

4 はじめに                79

5 冒険家タイプ              121

6 攻撃的タイプ              141

7 共依存的タイプ             163

8 変人タイプ               177

9 感情的タイプ              205

10 自己中心的タイプ            223

11 一匹狼タイプ              255

12 マゾヒスト・タイプ           271

13 内省的タイプ              283

14 劇場型タイプ              303

15 うだつの上がらないタイプ        321

16 警戒的タイプ              343

17 勤労者タイプ              373

18 終わりに                397

監訳者まえがき

 本書の原題は、「ポーカー、セックスとダイイング」です。しかし、本書のどの部分を読んでも、性(セックス)の話も死(ダイイング)の話も出てきません。元々優秀なセールスマンであった著者は販売実績を伸ばすために顧客のタイプを分析し、それによって顧客に対する接し方を変えるという戦術を学びました。その後、ギャンブル(ポーカー)の世界に入り、人間を観察し、分析する目を養い、その経験をもとに著したのが本書です。
 また、著者によると、性と死に関係する仕事は、「人間の個性を拡大するための虫眼鏡の役割を果たしてきた」ので、人がそれらに接するとき最もその人の性質(本性が出る)ということだと思われます。それが、そのまま本のタイトルになっているようです。
 本書は、人間の心理について述べたもので、私たちが日ごろ、いろいろな分野で相手としている各々のタイプの人間の特性や性格についてのものです。これは、また、相場や賭け事に関係する人たちでなく、一般のビジネスに携わる人たちにも当てはまります。同書は、一般の人たちに共通する特徴をもとに、特定のタイプに分け、それらを分析しています。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」と言いますが、これは、自分自身と、自分が参加しているゲーム(相場、賭け事、ビジネスなど)にいる人間、自分の相手となっている人間の特徴を知る助けになります。相手の特徴を知ることは、その人間の行動のパターンが読めるわけで、これはゲームに勝つためには大切なことです。
 読者は不思議に思うかもしれませんが、カジノの世界から金融市場に鞍替えして成功した元ギャンブラーは意外に多いのです。その一人が
『カプランのオプション売買戦略』(パンローリング刊)の著者デビッド・カプラン氏です。氏は、ポーカーをやりたいがために、親の反対を押し切ってアメリカの名門大学を蹴り、州立大学に通ったほどポーカーに入れ込み、そして、大学時代には彼の右に出る者がいないほどの腕になっていたと言います。その後、ポーカーの世界から相場の世界に入り、オプション・トレーダーとしては全米でも第一人者になったのは周知の事実です。そのカプラン氏は本書の一読を薦めています。  人の特性、性格、技術水準を知ることがなぜ助けになるのか、その答えのヒントを『新マーケットの魔術師』に見てみましょう。

 「マーケットは、巨大なポーカーゲームのようなもので、相手の取引技術のレベルに注意を払わなければならないところなのである。(中略)私が世界第六位のポーカープレーヤーで、一位から五位と一緒にゲームをしたら、ほとんど勝ち目がない。ところが、もし私が極めて平均的なプレーヤーだったとしても、相手が平均以下だったら、勝つことができる。」(同書四〇七ページより)
 つまり、ゲームに勝つには相手のことを知ることが大切だということです。
 本書のサブタイトルには、「相場とギャンブルで勝つ法」とありますが、相場や賭け事に携わっている人だけを対象にしているのではありません。本書はいかなる業務、分野、職業に携わっている方たちが読んでも役に立つ本です。また、ビジネスマン、経営者、学生、家庭の主婦に至るまで、いかなる人たちにとってもためになるでしょう。なぜなら、私たちはいかなるレベルの社会にいようと、その社会はさまざまな異なる性格を持つ人間によって構成され、否応なしにそのゲームの参加者になっているからです。本書は、ゲームの参加者である私たちのさまざまな悩みを解決する一つの助けになってくれるでしょう。

 本書の翻訳にあたっては、前半部の「感情的タイプ」までを堀越修氏が、またそれ以降の後半部を坂本秀和氏に受け持っていただきました。ご多忙にもかかわらず、迅速に作業を進めていただきました。また、日本語に訳しづらい表現の散在にもかかわらず、見事に仕上げていただきました。お疲れ様でした。

  二〇〇一年六月

                                 増田丞美

序文 ――デビッド・カプラン

 私は一七歳のときからセミプロのポーカー・プレーヤーだった(セミプロという意味は仲間うちのゲームではずっと勝ってはいるのだが、ラスベガスのカードルームでプロとプレーするのは楽しみにやっているだけだからだ)。  私がポーカーを学んだ方法は古くさいものだ。最初に授業料を支払ったのだ。本は持っていなかったし、教えてくれる師匠もいなかった。年上の友人たちが教えてくれたが、その謝礼は(賭金をとられることで)支払ってきた。  私はポーカーが好きで、どの手で賭けるか降りるかを見極めるのがうまかったので、続けて勝つようになった。  しかし、私はポーカー版フォレスト・ガンプであった。ポーカーの攻略本を開くことも、手の確率を研究することもなかったし、戦略についても真剣に考えはしなかった。

 私はいくつかの自分なりのルールに従っていた。

  1. 悪い手を深追いしない
  2. 良い手にはしこたま賭ける
  3. 勝てる手ができる可能性が高くないならば、降りる
  4. ベットをコールするとき、ポットの全額がさびしかったら、降りる
  5. 時たまブラフして、ほかのプレーヤーには正直にプレーさせる

 単純なルールだ。フォレスト・ガンプでも従える。学校に行くには余分な金が必要だったので、カード・ゲームで生計を立てていた。額に汗して働くのは嫌だったから、勝たねばならなかった。負ければ指の爪を汚して働かねばならない。勝たねばならなかったため、自分の立てたルールに厳格に従い、そうすることでプレーしたほとんどのゲームで勝利した。負けるにしても、損は儲けに比べればとても少なかった。
 私は学校を卒業するまで、ずっとポーカーを続けていた。  ほぼ二〇年たった一九九〇年、私はポーカーを再開する気になった。少し年を取り、(多少は)賢くなったからだろう、いきなりゲームに舞い戻るよりもポーカーについて書かれたものを読んで自分をリフレッシュする方がいいだろうと思った。  こうして勉強しているうちに、一流のポーカー・プレーヤーが採用している戦略は、先物やオプション関連の一流のトレーダーが使っているそれらと変わらないものがたくさんあることに気がついた。  この発見をニュースレターや『オプション・シークレット』(一九九三年刊)に始まる私のいくつかの著作の中に発表するようになった(ポーカーとゲームの理論とオプション・トレーディングの関係は私自身調べてきたし、これから議論するつもりだが、同じ原則は株式、先物などほかのタイプの投資にも当てはまる。実際、この章の後半部では「マーケットの魔術師たち」がどのようにこの理論をトレーディングに用いていることを論じる予定だ)。

 「マネー・マネジメントとギャンブルに関する研究によれば、プレーヤー側が有利になる可能性が九〇%まではねあがることが分かった。これはトレーディングでも起こるだろうと思う」

 「市場に参入する前にトレーディングの最高の機会を見定める必要があること、トレーディングに対しては辛抱が必要であることは周知の事実だ。しかし、驚くべきはギャンブル必勝法の古典『ディーラーをやっつけろ!』(エドワード・O・ソープ著、水島敏雄/楊盛洪訳、工学社)の中で、この事実の重要性がはっきりと強調されていることである。有利な状況を利用することの重要性は次のように論じられている。『本書の必勝法はプレーの間にデックの構成が変わり、それによって、状況がプレーヤーに有利になったり、カジノが有利になったりするという事実によるところが大きいのです。この利率は一〇%偏ることもしばしばで、場合によっては一〇〇%に達することもあります。(中略)コンピューター技術と数学理論の発展により、株価予測において劇的な発展が期待できます』(邦訳六七、二四九ページ)」

 実のところ、著者のソープはトレーディングにこういった理論が応用できることに気づいていた。

 「カジノと仲買人の間の類似は著しいものがあります。(中略)手数料はハウスの利益度に相当します。証券取引所はカジノそれ自体です」(同書二四八ページ)

 私はこの部分が三〇年前に書かれた本の中にあるのに驚いた。これこそ私たちのトレーディングの基本だからだ(ところで、エドワード・ソープは後にマーケット・トレーダーとして成功することになった)。オプション・トレーディングでは有利な状況を待って、それを的確に利用することによって、マーケットに対してかなり優位に立つことができるのである。これはソープの革命的な発見と何ら変わるところがない。  これと同じ理論が一九九二年に出版されたゲーム理論の本で論じられている。

 「話題を変えて株式市場に目を移そう。よく言われることだが、投資を分散しなさい。『全部の卵を一つの籠に入れてはならない』。分散投資をすれば並みの人程度にはうまくやれる。投資のエキスパートは市場を慎重に読み、最も変動の大きい株式(市場)を選んで多額の投資を行う。自分の基準に見合う株が見当たらなければ、何も手を出さない、加えて、投資家は何回もその評価を見直す。その意味は、損益が出てきたらすぐに手仕舞いするということである」(『賭けの理論とその他のトピックス』Gambling Theory & Other Topics、メイソン・マルマス著)

 「この正確なギャンブル必勝理論は今日のオプション・マーケットにも適用し得る。しかも、オプション・マーケットならよりいっそう有意義であるというのが私の主張なのだ」

 「トレンドラインや信頼できるチャートパターンがネット・トレーダー全員に利用可能になったことに加え、オプション・トレーダーはオプション・プレミアムの不均衡を利用することで相当な利益を得る。例えば、満期日が近づいたオプションのボラティリティの高さによって、トレーダーはオプション・プレミアムのタイム・ディケイを利用したり、市場が大きく動き出す前の低いボラティリティ(プレミアム・コスト)を利用して、利益を上げることができる」

 「プレミアム・ディケイを利用しようとするオプションの売り手にはもう一つ有利な点がある。トレーダーにはカジノのような『上限』があるわけではないということである。カジノに上限があるのは、それが利益を上げるために最も重宝な道具であると分かっているからだ。つまり、理論的には賭ける側に賭け金が十分にあるならば、賭け金を倍にし続けさえすれば結果的に勝つことができるのだ」

 「それゆえカジノは通常、賭け金に上限を設けているのだ。しかし、オプション市場では、最も大口のトレーダーだけにそのような制限が課されているにすぎない。九九%のトレーダーは何の影響もない(また資金豊富なトレーダーでもマネー・マネジメントの法則を適切に用いれば影響はない)」

 私は『オプション・シークレット』の中で、トレーディングとポーカーをいろいろな面で比較してきた。このような類推は、別に奇をてらったわけではなく、現に両者が多くの点で非常に似ているからだ。また、おそらくはいつ、どのような理由でトレーディングするべきなのかを明瞭にするのに最適だからだ(八〇〜九〇%のポーカー・プレーヤーは負けるのだが、プロのプレーヤーは時に負けることはあっても年間を通じては勝っている、というギャンブル・アナリストの主張はトレーディングにもそのままあてはまる)。

 「ポーカーの初心者の最大のミスであり、賭け金を失うもととなるのはさまざまな手で勝負しようとしすぎることである。初心者は『アクション』を起こしすぎるし、いつ勝負したらいいのか、また降りたらいいのか、見分けがついていないのだ」

 「反対にポーカーのエキスパートは、自分にきわめて有利な手でしか勝負しない。自分のスタイルをほかのプレーヤーに合わせて変えることもあるかもしれない(タイトなプレーヤーにはルーズに、エキスパートに対しアマチュアのふりなどして)。しかし、通常、確かな理由なしでは『ポット』に賭け金を注ぎ込んだりしない。結局はカードが自分の有利なように配られ、よりよい手が来て、最高のプレーのチャンスを与えてくれると分かっているのだ」

 「これはトレーダーにも完全に当てはまる。初心者のトレーダーは普通、興奮し、『アクション』に加わろうとする。正しい計画もなしにポジションを取ろうとする。プロのオプション・トレーダーははっきりしたチャンスをつかまない限り手を出さない。ボラティリティが高いか低いか、オプション・プレミアムに不均衡はないかを見極めるために、オプションの安定性を分析し、マーケットのテクニカル・パターンやトレンドやファンダメンタルズ関連のニュースへの反応を分析する。その後、ボラティリティのレベルとテクニカルパターンを利用して、最適のトレーディング戦略を決定して、それに従ってトレーディング・プランを立てるのである」

 「十分な優位性や売買機会がなければ、トレーダーは模様眺めに徹する。日を改めるか、マーケットを変えれば、よりよい手が打てると分かっているのである」

                          ――『オプション・シークレット』


 研究を続けていくと、勝ち続けるポーカー・プレーヤーと一流のトレーダーとが使っている戦略には、ほとんど違いのないことが分かってきた。自分の古い「フォレスト・ガンプ式ルール」を振り返ってみると、トレーディングで使っていたマネー・マネジメントのルールとほとんど変わらないことに気がついたのだった。

    ポーカー  
  1. 悪い手は深追いしない。  
  2. 良い手には大きく賭けて、勝ち金を最大限に増やす  
  3. 勝てるチャンスを見極めるべく、自分の手を吟味する。  
  4. 賭け金がポットに十分なければ、賭けに参加しない。  
  5. ほかのプレーヤーに「素直に」プレーさせるように随時ブラフをかける。
    トレーディング  
  1. トレンドや価格不均衡、オプションのボラティリテイ・レベルなどによりチャンスが出てきた場合のみトレードする。  
  2. 「フリートレード」などを利用してトレードに勝ち、ポジションサイズを上げる。  
  3. マーケットのテクニカル・パターン、オプション・プレミアムのレベルなどを勘案してトレードが成功する確率を見極める。  
  4. リスク/リワードをトレードごとに考慮し、リスク/リワード・レシオと掛けの確率にのっとって、適正に資金をつぎこむ。  
  5. これは唯一、トレーディングではやろうとしてはいけないことだ。マーケットに対しブラフをかけることはできない。不幸にも、マーケットはいつだって「コール」を仕掛けてくるのだから。こちらがブラフするたびに勝利は相手に転がり込む。  リサーチを続けたおかげで、メイソン・マルマスの『賭けの理論とその他のトピックス』などの本に出合うことができた。同書は、最高のギャンブラーたちがいかにして「敵を打ち負かすような決定を重ねていくのか……(中略)この困難な職業で一流となるには何が必要なのか」(それらはとりも直さず、トップトレーダーになるために必要なスキルである)。
     同書の「自ら勝利を引き寄せるための戦略を刻々と移り変わる状況に適用する試案」の議論は、私が目にしたマネー・マネジメントの中で最高のものだと思う。著者は同書をして、「真剣にギャンブルに取り組むすべての人必読。本書の考察を読み込めば、極めて危険だが、報酬も多い職業で生き残り、成功を収めることは確かだ」と述べている。上記のことはすべてのトレーダーにも当てはまると言えよう(同じように、ジョン・フォックスの『ポーカーをしよう――仕事はおっぽり出して昼まで寝ていよう』(Play Poker ; Quit Your Job ; Sleep Til Noon)の最初の数章は、自分が最高のチャンスだと感じ、カード(マーケット)も最高のとき、いかに賭ける(トレードする)のが最適かを示している。この本を読めば少なからぬ利益を得ることができよう)。
     賭けの理論が極めて重要だと私が悟ったのは、二人のトップ・オプション・アナリスト、ジム・イェーツとケン・トレスターの論文を読んでからだった。ジム・イェーツはある記事の中で、ギャンブルとオプション・トレーディングを比較し、マネー・マネジメントとトレード・フィルタリングという重要な分野で、トレーダーはどのように考えを進めて行くべきかについての素晴らしい考察を行っている。ケン・トレスターは著書『コンプリート・オプション・プレーヤー』の中で、一章を割いてプレミアムを集める方法と、その優位性について素晴らしい議論をしている。トレスターによれば、オプションを「カジノの経営者のように機能させなければならない」のである。この議論によって、私は次のことに気がついた。それは、私の好む「ニュートラル・オプション・ポジション」では事実上、賭けの胴元であるかのようにトレードすることができるということである。
     「ニュートラル・オプション・ポジション」は、「時間価値」しかないアウト・オブ・ザ・マネーのプットとコールを売ることによって、原資産の先物市場が幅広いレンジ内の動きに終始した場合にタイム・ディケイによるプレミアムの利益を得ることを狙ったものである。「タイム・ディケイ」はプットとコール双方に対して、日々起こる。そして、このディケイはオプション満期日が迫ると急激に加速する。
     この売買方法の原理は、自分を「賭博場の胴元」とみなせば、よく分かるかもしれない。私たちは、事実上相場のいずれかの方向をとらえようとして、売りや買いのポジションを取っているトレーダーの双方から賭け金を取っているのと、同じである。相場は上がるだろうと思っているトレーダーがいる一方で、相場の下落に賭けるトレーダーもいる。相場が上がると思っているトレーダーは買いに回るだろうし、下ると思っているトレーダーは売りに回るだろう。私たちは、上下両方の方向に賭けられたその賭け金を取る「賭博場の胴元」である(これらの賭け金を上下半々に保つことによって「私たちの掛け金の釣り合いを取る」)。しかし、私たちには、ラスベガスの胴元でさえ利用できないような利点があるのだ。
     例えば、もし「胴元」がある賞金に賭けた賭け金を取り、それらの賭けのバランスを適切に取るなら、賭けをした人の半数は勝ち、半数は負けるだろう。「胴元」はこれらの賭けの半分を払い戻さなければならない。「胴元」はこれらの賭けの両サイドに対してオッズを設けることによって利益を得るのだ(賭けは両サイド半々に分かれ、「胴元」が六対五とオッズを告げたと仮定しよう。これの意味するところは、あなたがどちら側に賭けようとも、六ドルの賭け金に対して五ドルの払い戻しを受ける、ということである)。こんな訳で、「賭博場の胴元」がそれぞれの賭けに対して、六〇万ドル、合計一二〇万ドル集めたとすると、どちらの賭けが勝とうが、「胴元」は、一一〇万ドルを払い戻しても、手元に一〇万ドルが利益として残ることになる訳である。しかし、「ニュートラル・オプション・ポジション」では、(もし相場が予想した、あるいは「調整した」価格範囲内にとどまれば)「掛け金」の両方とも手に入れることができるので、上記の例よりずっといい。
     Tボンドの例を挙げよう。現在、Tボンドが一一五で取引されているとして、私たちは、今後相場は一一〇から一二〇の間で推移するだろうと想定した。そして権利行使価格一一〇のプットと一二〇のコールを売った。これらのオプションは、相場が一一〇を超えて下がるか、一二〇を超えて上がるかに「賭けている」ほかのトレーダーに対して売られたのである。私たちは、相場は右に掲げた価格範囲内にとどまるだろうという以外に、相場の予想はしていない。

●ニュートラル・オプション・ポジション(110プット―120コール)
110プット上昇   (両オプションとも満期日に権利消滅) 120コール上昇
120コール権利消滅 110プット〜安全圏〜120コール 110プット権利消滅
                 市場価格
110 105 109 110   115    120 121 125 130

 たとえ相場がこの価格範囲を超えても、ポジションは利益になる可能性がある。その理由は、両オプションの時間価値が毎日失われるからである。この両オプションの時間価値の喪失が相当なヘッジ機能となる。さらに、必要に応じて、このポジションのバランスを取り直す「調整」の売買技術を活用することができる。
 リサーチを続けていたあるとき、私は一週間休暇をとった。一九九三年八月のことだ。熱帯の遠隔地で、電話もテレビもなければ、近くに街もなかった。私はジャック・シュワッガーの『新マーケットの魔術師』を持っていって読んだ。驚いたことに多くのトップ・トレーダーのプロフィールには、以前ポーカーやブラックジャックのプロだったと記されていた。
 ビクター・スペランデオ(トレーダー・ビク、マーケットの魔術師の一人)は、トレーダーになる前は熱狂的なポーカー・プレーヤーだった。「ポーカーでは、自分に勝算があるときだけ手を打ち、そうでないときは降りる。そうすれば、結局は負ける回数より勝つ回数の方が多くなるだろう。私は重要なカードの組み合わせはすべて記憶していて、ゲームでは非常にうまく立ち回ることができた。実際、トレーディングもポーカーも、ギャンブルというよりむしろ投機の要素を含んでいると思う。上手な投機とは、自分に勝算があるときにリスクを取ることを意味する。ちょうどポーカーで、賭けるべき手を知らなければならないように、トレーディングでは、いつ勝算が自分側にあるのかを知らなければならない」
 人が金融市場で失敗する理由は、損切りを素早くしないことだ。他に犯す過ちはトレーディングを仕事として考えないことだ。第一の最も重要なことは、資金を失わないということである。トレードに際して、私のアプローチは「潜在的な収益がいくらか?」ではなく、「潜在的な損失額はいくらか?」というものになる。第二に、利益と損失をバランスさせることで、安定的な収益を重ねるように努力することが必要だ。一度に大金を稼ぎ出すよりも、着実な利益の積み重ねの方がはるかに大切だ。第三に、最初の二つの目標を達成した場合に限り、さらに大きな収益を実現するために努力する。

 「富を築くには資金を保存することだ。そして、膨大な利益を手にするためには辛抱強く機会が訪れるのを待たなくてはならない」(ビクター・スペランデオ、『新マーケットの魔術師』邦訳版二七二、二八六ー二八七、二九三ページのまとめ)

 「彼はトレーダーになる前、ブラックジャックのプレーヤーだった。この二つはとても似ているからだ。トレーディングとギャンブルの両方で勝ち続けるのは、戦略と訓練の成果であり、運ではない。運は、短い間でしかその役割を果たさない。不利なインパクトはマネー・マネジメントをコントロールすることによって相殺しなければならない。ソープ氏の本である『ディーラーをやっつけろ』を読んだことがブレアー・ハル氏を相場の世界へと引き込むきっかけになった。その本は彼にブラックジャックの手法や、トレーディングとギャンブルの両方でいかに優位性を得るかについて教えてくれた。ブラックジャック、チェス、そしてブリッジでうまくいっているプレーヤーは大抵、トレーディングでもうまくやれる可能性が高い」(ブレアー・ハル、『新マーケットの魔術師』邦訳版三八一ページなど)

 「アプローチが完成したら、今度はマネー・マネジメントを行使して、マーケットが突発的に動いたときに足をすくわれないようにしなければならない。有利なトレードだとしても、それによってすべての資金を失うこともあるのを、肝に銘じておかなくてはならない。したがって、掛け金やトレードのサイズは、そういうことが起こる確率を低く保つのに足るものでなければならない」(ブレアー・ハル、『新マーケットの魔術師』邦訳版四〇五ページ)

 「マーケットの知恵は私たちよりもずっと大きい、と私は固く信じています。マーケットで決まる価格はものの価値を計る最高の尺度だと、私は思います。一般的な原則論を言えば、もしエゴを捨て、マーケットの語りかけていることに耳を傾ければ、とても大きな情報源を得ることができるのです」(ジェフ・ヤス、『新マーケットの魔術師』邦訳版四二四−五ページ)

 それからまもなく、私はポーカーやブリッジの元トップ・プレーヤーで、トレーダーに転進した人の数が尋常ではないことに気がついた。
 トレードのポジションサイズを変えることは、プロのギャンブラーが賭け金の大きさを変えるやり方と似ている。ブラックジャックやポーカーでは、すでに配られたカード、自分の手のうち、ほかのプレーヤーについて知っている情報などを基に自分がうまくいくであろう確率に従って、プレーヤーは自分の賭け金の大きさを変える。『新マーケットの魔術師』の中で、成功しているトレーダーはみんな、この原則に従っているのを見ても、この原則の大切さは明らかだ。事実、あるトレーダーは、自分の変更するポジションの大きさは一対一〇〇の開きがあると言っている。  私はポーカーの戦略とトレーディングの戦略の間にさらなる類似があることを、小品だが素晴らしい本、ジョン・マクドナルド著『ポーカー、ビジネス、戦争における戦略(Strategy in Poker, Business, War)』の中で発見した。

 「ビジネスの中心にはマーケットがある。マーケットの中心には売り手と買い手の関係がある……(中略)ゲーム理論が探求するのは(中略)この関係である。売り手と買い手はポーカーで一対一の勝負をするプレーヤーと全く同じ関係にある」

 この著述が私を本書(原題はPoker, Sex and Dying)へと導いた。本書はとりわけユニークである。私の読んだ本の中で最も影響力があり、トレーディングに鋭い洞察をもたらしてくれた。本書は、プロのギャンブル哲学が一流のトレーダーの哲学と何ら変わらないことを示している。この本は、ポーカー哲学に関する最高の本を探してギャンブラーズ・ブックストアを探しているときに薦められたのだった。  読み終えた後、私が驚いたのは、トレーディングだけでなく、ビジネスおよび生活一般のどれにも応用できるということだった。  最も心を動かされた部分は最初に自著『オプション・シークレット』で披露した。多くの場合、「ギャンブル」や「ポーカー」といった言葉は「トレーディング」に置き換えた。どちらでも当てはまるのだ。また、私が取り上げた箇所は本文中にもう一度本来の形で繰り返される。しかし、ポーカーとトレーディングの結びつきがどれほど強いか理解していただくために、以下の抜粋では引用部に手を加えている。

 A.私はマーケットもトレーディングも知りつくしている。だが何年も研究してきたのにいまだに儲からない。それはなぜだろうか?

 以下の引用は本書の中からだ。「ギャンブル」をすべて「トレーディング」に置き換えれば、啓発されるところがあるだろう。

 「ギャンブルは難しい。ある意味、すべての行為の中で一番難しいと言える。勝つためには強い確信を持ち、真剣に取り組まなければならない。ほとんどの人が勝てないのは自分自身を知らないからだし、知っていたとしても、自分の行動をコントロールできなければ勝てはしない。ギャンブルでは武器は自分自身だけなのだ。大多数の人間はただ自分だけを頼りにするということすらできない。その理由は多岐にわたるが、主な理由としては、自分勝手に作り上げた習慣や性格によって、自分が頼りにすべき資質そのものが曖昧になってしまっているからである。(中略)ギャンブルでは、自分でガイドラインを設定しルールを作らなければならない。まさに、自分が『神』になるのである。神になればルールなど簡単に変更できる。ただこう言えばいいだけなのだ。『こいつはうまくないな』」

 上記の著述は私の知るトレーダーの半数以上の敗因を表している。プロのトレーダーでもこうしたことで一度ならずしくじってきたのではないだろうか。

 B.不利な状況を利用しろ

 オプション・トレーディングでは、正しい判断をしてオプションを購入しても、遅すぎれば損をしてしまう。逆に、誤ったタイミングで、相場が不利な状況なのに売って儲けが出ることもある。時間価値のディケイがあるおかげで、スキルを得ることがどうしても必要になる。勝ち組と負け組を分けるのは、トレーディングの腕と知識、単にそれだけなのだ。  いい例がパイロット二人が空港から飛び立とうとしているシチュエーションである。両方とも同じ機種の飛行機に乗っているが、一人は天気予報をチェックし、激しい嵐と乱気流が迫っていることを知っている。そういうときに彼は飛行機には乗らない。もう一人は、台風の目に突っ込んでいく。生きるか死ぬかは運だのみである。  同じことがトレーダーにも言える。例えば、国家の動乱や財政破綻などの誤ったタイミングでトレードすれば、困難な状況に向け飛び立っていくのに等しい。同様に値動きがほとんどないときやオプション・ボラティリティが極めて高いときはトレーディングは極めて困難になる。飛ぶタイミングを選ぶパイロットのように、トレードのタイミングを選ばない手はない。オプションを好ましいタイミングで売り、テクニカル・パターンとボラティリティ・レベルが自分の得になるように購入すればいいのだ。
 母親がこう言っていたことを思い出す人はいないだろうか。「自分より恵まれない人たちを助けなさい」と。残念ながら、「トレーディングは地獄」である。決断が下手で知識のないトレーダーを利用する準備を怠らず、進んで利用しなければならない。高値で過大評価されたアウト・オブ・ザ・マネーのオプションを買ってくれるトレーダーには喜んで売りつけよう。彼らは「チューリップ・バブル」市場のうっかり者のちん入者なのだ。自分が訓練をつんだプロであり、もう宿題も終わっているなら、トレーディングで勝ち続ける一〇%のエリートになっていることだろう。

 C.私が過去に損をしたのはツキがなかったからだ

 本書で細かく議論されているように、ツキというのは短期間の道草なのだ。何の知識がなくても短期間にトレードを一回して儲けることならだれでもできる(実際に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に選ばれた、ダーツを投げて新聞紙に当てる「ダート・ボード・ポートフォリオ」の投げ手は年に何カ月もプロを打ち負かす)。しかし、トレードを重ねれば、カネは必ずプロの手に落ちていく。トレーディングもほかのあらゆるビジネスと同じく、発見し、理解し、情報を有利に利用する能力とハードワークが成功へと導く。しかし、自らの職能を二〇〜三〇年も研鑚してきた一流の人々がトレードを二時間学んだだけで、五分で決断し、月収一カ月分(それどころか、しばしば年収何年分も)をリスクにさらすのには驚いてしまう。自分の「本当」の職業ではやろうと考えもしないことを、トレーディングではなぜか簡単にやってのけるのだ。「ポーカー(およびトレーディング)はその複雑さ、やりがい、刺激、フラストレーション、儲ける可能性の高さで並ぶものがない」

 D.保険会社を見習ってトレードしなさい

 保険会社がいつも利益を上げているのはなぜか? その理由は数学、確率、「特殊状況」などの法則を自分たちが有利になるように利用しているからである。保証をしたい人も金額も、保険会社が選ぶことができるのだ。それゆえ、保険会社は「ゲーム」をしながら、その「ゲーム」を所有してもいるのであり、私たちがフィールドに入るだけで勘定や料金を取り立てることができるのだ。調査によれば喫煙者は年を取るほど死亡率が高い。だから、こういうタイプの人たちに追加保険料を課す。一方で、若く健康な人はリスクが一番低い。そのため料金は低く抑えられる。家族へ保険金を支払う可能性が比較的少ないからである。保険の分野は平等ではない。というのも保険会社がルールを作り、料金を課しているからだ。あなたのトレーディングでも同じようにしなければならない。

 E.物事は変化する

 アンダーソンが本書の中で述べているように「(略)より多くの情報(略)とさまざまなタイプのプレーヤーがポーカーのテーブルに集まり続けるだろう」。これはトレーディングにも全く当てはまることである。「(略)この国の経済的な様相は一九八〇年代に新しいプレーヤーたちによって一変された(中略)。テーブルにカネがたんまりあれば、間違いなく情報に秀でた狼が戸口に姿を見せるだろう」

 「『截拳道への道』(トレーディングで成功する秘密の探究)は完成形ではない。日ごとに変化して(いる)。(中略)『截拳道への道』(探究)にほんとうの終わりはない。その代わりにこの本は、ひとつのはじまりとなっている。そこにはスタイル(流派)も、レヴェル(水準)もない。とはいえ自分の武器を理解している者にとって、より読みやすい本であることはたしかだ。おそらくはこの本で語られるすべての理論に、例外が存在する――格闘技(またはトレーディング)の全体像を一冊の本で伝えることは、どうあっても不可能なのだ。ひとことでいってこれは、ブルースの探求がどのような方向にむかっていたかを伝える一冊なのである。(中略)わたしの希望としては、すべてが(中略)本書をひとつの起点にして、独自のアイデアを発展させていってほしい」(ブルース・リー著『ジークンドーへの道』、奥田祐士訳、キネマ旬報社、一九九七年、邦訳一〇―一一ページ)

 トレーディングは常に変化し続ける。マーケットは新しい機会を提供し、テクニカル・パターンもボラティリティ・レベルも変化する。マーシャル・アーツの格闘家のように、この変化に合わせて動き、自分が優位になるように利用しなければならない。突っ立っていないで攻撃をかわさなければならない。トレーダーは自分の考えを発展させ、以前には想像もつかなかったチャンスをつかめるよう常に努力しなければならない。

 F.90−10の規則

 「このルールとは、いかなるときも九〇%の人々の行動は一〇%の人々の優位を創り出すために行われている、という単純な事実だ」  90−10のルールは勝ち組のトレーダーと負け組のトレーダーを分けるようだ。長い目で見れば、九〇%の人は負け、一〇%の人が勝つ。ほとんどトレーディングを理解してない者、平均以下の者、平均の者、平均よりは上程度の者はすべて負け組だ。勝ち続ける一〇%がプロのトレーダーであり、そのトレーディング・プランは何年間も変わらないのである。これは私の好きなある理論に通ずるところがある。その理論は「細部まで完璧なトレーディング・システムをウォール・ストリート・ジャーナル紙に発表しても、ほとんどの人が修正したり、破壊したりして、素直に従いはしないだろう」というものだ。「本書を購入するポーカー・プレーヤーの大半はデータを即座に捨ててしまっていることだろう。そういう人たちにとっては、情報の価値はその情報を理解し、利用しようとする努力の多寡に左右される。周知の事実を確かめるためだけしか情報を使わず、あるいは、同意できない余分な部分は捨ててしまう人もいる。こうした九〇%の人々の行動が一〇%の人間に優位性を与えてくれるのだ」  うまく利用して一〇%になることだ。

 G.自分自身を知りなさい

 「ポーカーは危険なゲームであり、カネ、エゴ、感情によって形づくられている。相手(マーケット)に対する情報を得て、洞察を加えるだけでは十分ではない。自分自身を知らなければならないのだ」  繰り返すが、これはトレーディングの際に最も重要なことである。市場の動向が正確に「分かって」いて、トレーディング・プランもあるのに、従えないということが何と多いことだろう。もちろん、強欲、恐れ、感情に阻まれたのだ。知識も計画も情報もすぐに無用になってしまう。

 H.トレードの最中には何も学べない

 「自分や対戦相手(マーケット)について学ぶのに最悪なタイミングは、賭け(トレーディング)に参加しているときである。情報は偏見にゆがめられてしまう。見たいものしか、あるいは見たくないものしか見ないときが多くなりすぎるのだ。賭けをすると、情報を受け取り、記憶する際、感情でゆがめられる。(中略)ポーカーのゲーム(トレーディング)ですぐうまくなりたいのなら、賭けに参加していない(ポジションを建てない)ときに集中するのがいいのである」

 トレードで損失を出してしまったとき(またはその直後)、トレーダーは自分の能力とトレーディング・プランに懐疑的になる。これが何度も続けば、トレーダーは自分の能力を疑って慎重になりすぎてしまう。ここでは一歩引いて、トレーディング・プランが誤りだったのか、単におなじみの損するトレードになってしまったのかどうか見直してみる必要がある。同様に、連勝した後には、「ルーズ」になりすぎて、トレーディング・プランを無視して、何をやっても優位に立てると思い込んでしまう。またここでも、マーケットに積極的に参加してないときに自分のトレーディング・プランを見直し続ける必要があるのが分かるのである(また、ジム・イェーツの記事もお薦めしたい。このギャンブルとオプション・トレーディングを比べた記事はトレーダーにとってマネー・マネジメントやトレード・フィルタリングの分野でどのように考えを進めたらいいかが示されている)。

 I.賭け金(ポジション)のサイズを変える

 トレードのポジション・サイズを変えることは、プロのギャンブラーが賭け金の大きさを変えるやり方と似ている。ブラックジャックやポーカーでは、すでに配られたカード、自分の手のうち、ほかのプレーヤーについて知っている情報などをもとに自分がうまくいく確率に従って、プレーヤーは自分の賭け金の大きさを変える。成功しているトレーダーはみんな、この原則に従っていることから見ても、これは大変大事なことである。事実、あるトレーダーは、自分の変更するポジションの大きさは一対一〇〇の開きがある、と言っている。
 ポーカーという代物とトレーディングは関係ないように見えるが、本書は私自身のトレーディングに最も影響を与えた書籍に数えられる。実際、本書の結びの部分を読んで私は自分のトレーディングと人生をじっくりと反省することとなった(トレーディングの用語を参考までに挿入してある)。
 人の性質(さまざまな市場)といったやっかいで難しい問題を扱うには、慎重さが求められる。絶対などというものはない。だれ(どの市場)にでも個性がある。どんな敵(市場)も危険性を秘めている。人の行動や反応はある程度正確に予測できるが、人(市場)が百パーセントどう反応するかということを完全に定義することはできない。洞察力や知識や理解は、パンドラの箱を作りだす。知識を得れば得るほど、理解が深まれば深まるほど、私たちはいかに知識と理解が不足しているかに気づかされる。学べば学ぶほど、私たちはただ氷山の一角に立っているだけでしかなく、皮肉なことにそこから先へは進めないかもしれないということを教えられる。専門知識は、それが与えられたものであれ進んで身につけたものであれ、ガラスの破片にも似ていて、扱いには細心の注意を要する。
 人間の精神(取引)には予想したり測ることのできない面が数多くある。経験(市場)が人にどんな成長をもたらすかを予想できる専門家などいない。愛、信条、希望、願望といった特質が持つ可能性や影響力はだれにも測ることも、定義することもできない。私たちにできるのは、そうした特質が身につくのを望むことだけだ。人生で確実なことが一つあるとすれば、それは不確実だということ。あきらめも変化も人生の一部。それにどう対処するかが、私たちの成功に結びつく。成功は神秘ではない。成功は簡単に定義できる。幸せや喜び、それが成功だ。幸せや喜びがなければ、成功と思い込んでいるものの正体を、いつの日か悟らざるを得ないだろう。結局、あなたがプレーするゲームが問題なのではない。問題はあなた自身だ。勇気をもって、人にやさしく、恐れずに幸せを見つけよう。そして、いつでもベストを尽くす。おのずと結果は明らかになるだろう……あなたのためになり、あなたの名誉となるような結果が。ベストを尽くす、それは人生でもポーカー(取引)でも勝者のあかしだ。

 J.カードを保持すべきとき、ゲームから降りるべきときを知らなければならない

 『ザ・ギャンブラー』から引用されたこの句は、プロのポーカー・プレーヤーにとって最も重要なマネー・マネジメントの原則の一つである。プロは、時期が悪いときにはカード・プレー(トレーディング)で勝つ可能性がないということを知っており、その場を耐え忍び、一歩引き、カード(相場)が自分の味方に変わってくれる時を待つことで満足する。プロは結局のところ、全体の一〇%から二〇%しかプレーをしない。しかし、けっしてカネ儲けという目標を見失うことはない。しかも、その目標を達成するために必要なありとあらゆることをする。プロは友だちを作ったり、自分のとる「行動」でスリルを楽しむために、そこにいるわけではない。勝つ確率が自分の側に来るまで待ち、そして来たるべき時が来れば、力を注ぎ、自分のトレードに精を出すのである。

 このような原理は、トレーディングではどのように違うのだろうか。アメリカ市場は年に二〇〇日間(「私たちにとってのポーカー・ゲーム」)開いており、ほとんど無限の行動を取ることができ、またほとんど無限の売買機会が存在する。私たちにはポーカー・ゲームのような選ぶべき手が一つしかないということはなく、スイス・フラン、金、砂糖など最良の売買機会を提供する市場――それは四〇を超えるが――から一つを選択することができるのだ。  特別の状況や好機を適切に利用し、かつ最良の売買機会が発生したときにのみ売買を行うこと。これは、成功の確率をかなり高めるだけでなく、おそらくいかなる売買プランの中で最も重要なことであろう。  前述したように、エドワード・ソープは『ディーラーをやっつけろ!』の中で、時折、勝率をプレーヤー側に有利な方へ変えてしまうような「好機」が発生する、と述べている。同書では、株式市場でも同じ戦略が利用できると述べている。

 「カジノと仲買人の類似は著しいものがあります。……取引所のもろもろの仕組みはギャンブル装置です。……株はゲーム・ハウスの偶然装置が見せる任意性と同じ数学的性質を示します。コンピューター技術と数学理論の発展により、株価予測において劇的な発展が期待できます。本書の必勝法は(市場と同じように)プレーの間にデックの構成が変わり、それによって、状況がプレーヤーに有利になったり、カジノが有利になったりするという事実によるところが大きいのです。『この利率は一〇%偏ることもしばしばで、場合によっては一〇〇%に達することもあります』」(邦訳二四八〜二四九、六七ページ)

 ラスベガスでエド・ソープが三〇年前に用いて成功した同じ理論が、今日のオプションにおいて利用できる。そして、オプション市場にはこれよりもっと多くの優位性があるというのが、私の意見だ。  オプション・トレーダーはオプション・プレミアムの不均衡を利用することで相当な利益を得る。例えば、満期日が迫っているオプションの高ボラティリティは、プレミアムのタイム・ディケイを利用して利益を上げることができるし、また、大きな動きをしそうな市場のオプションの低ボラティリティ(プレミアム費用)は利益につながる。  プレミアム・ディケイを利用しようとするオプションの売り手には、さらに重要な利点がある。それは、オプション・トレーダーには、カジノが個々の儲け主に設けている「制限」なるものがない、ということだ。カジノが制限を設けている理由は、これが最も貴重なギャンブラーの武器であることを知っているからだ。つまり、賭け主が継続的に賭け金を上げていった場合、そして、その賭け主が十分な資力を備えているとしたら、理論的には、その賭け主は最終的に勝つことができるからだ。そのため、カジノは一般に賭け金の額に制限を設けている。しかし、オプション市場では、最も大口のトレーダーにのみ、そのような極端な制限が課せられている。そして、それはトレーダーの九九%には何ら影響を与えない(あるいは、適切なマネー・マネジメントを用いているならば大口のトレーダーにさえ影響を与えない)。  「カード・カウントのスキルに熟達した者(トレーダー)はプレーヤー(トレーダー)に有利になる強いカード(チャンス)が多いデック(マーケット)を見分けることができる。こうなると、スキルのあるブラックジャック・プレーヤー(トレーダー)は賭け金(ポジション)を上げる……また、カード・カウントに熟達した者(トレーダー)は大きく賭ける(ポジションを取る)前にデック(マーケット)が強いカード(チャンス)が増えるまで、待つのをいとわない.こういうプレーヤーが大きく賭けるのを嫌がるのは、負けるのが嫌なのか、虫の知らせがする場合である」(『賭けの理論とその他のトピックス』)

 本書の唯一の問題は絶版だということだった。出版社も著者も見つけられなかった。しかし、二年間の調査の結果、発見した本書の権利を交渉の末購入し、著者の同意を取りつけた。そのおかげで、私の顧客、ニュースレターの購読者、友人が利用できるようになった。読者のみなさんも私と同じくらい気に入って、トレーディング(および人生)の手助けになればうれしい。

 追記 ポーカーなどのゲームに共通して利用される戦略は、経済の分析、予測、戦略構築のための極めて重要な道具であるということが科学分野においても、ついに認証されることとなった。一九九四年一〇月、ノーベル経済学賞がチェスやポーカーなどのゲーム戦略に基づいてビジネスおよびトレードの理論研究を切り開いたとして、三人の経済学者に送られたのである。ゲーム戦略が経済分析の道具として極めて重要だと規定したのだ。
 デビット・L・カプランはオプション・トレーダーの第一人者であり、投資アドバイザー、著述家、ソフトウェア開発者、研究者としても有名。カプラン氏とその会社オポチュニティーズ・イン・オプションズ社は、オプションのリサーチとトレーディングを専門としている。オポチュニティーズ・イン・オプションズ社は数字の確率論やオプション・ボラティリティの不均衡を利用したオプション・ストラテジーを構築している。一九八四年以来、カプラン氏はニュースレター『オポチュニティーズ・イン・オプションズ』を毎月発行している。著書に『カプランのオプション売買戦略』(パンローリング)、『プロフェッショナル・オプションズ・トレーダーズ・マニュアル』、オプション・トレーダー向けの本格的指南書『ユージング・オプションズ・トゥ・オブテイン・ア・トレーディング・エッジ・オーバー・ザ・マーケット』、オプション・ボラティリティで優位性を得る方法について著した『ニュー・オプション・シークレット』がある。ビジネス向け、投資向け、出版物向けにオプション戦略に関する記事を多く著しており、投資セミナーや会議でも頻繁にスピーカーとしても招かれている。

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