著 者 ラリー・E・スウェドロー
監修者 長岡半太郎
訳 者 井田京子
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本書は投資と市場の仕組みに関する考え方を一変させる画期的な本になっている。著者のスウェドローは投資で成功しているだけでなく、多くの著書を持つベストセラー作家でもある。本書でスウェドローは個人投資家に向けて、なぜ一生懸命にやっと稼いだお金をドブに捨てるようなことをするのか、またあなた自身ではなく、なぜブローカーや証券会社やファンドを富ませるようなことを嬉々としてやるのかに疑問を呈し、そんなことは一刻もやめるように説き、勝者のゲームを始めるために確かで多くの証拠を、彼自身の経験に基づいて示している。
本書はまず、投資のより良い方向性を決める方法を分かりやすくだれにでもできるように説明し、次に市場を弱気相場が襲ったときに、多くの投資家が見通しを失い、恐怖と強欲から間違った判断を下すなかでも、前もって決めていた方針から外れない方法を紹介している。本書からは、以下のようなを学ぶことができる。
本書は、市場の実際の仕組みを説明し、読者の投資と市場に対するアプローチの仕方を変え、知識に基づいた賢い判断を下すための十分な知識を与えてくれる。これは、ノイズを切り捨てて生涯の富を築きたい個人投資家にとっての必読書であり、教科書である。
原題: Enrich Your Future : The Keys to Successful Investing by Larry E. Swedroe
「投資では『座ってないで行動しろ』というのが常識だが、スウェドローは、投資における正しい姿勢とは『行動しないで座っていろ』だということを実に多くの事実や証拠や検証から示してくれた。実際、常に買い持ちしておく「スウェドローファクター」は、今日の投資家が貯えを増やし、生活の質を上げる一番の近道と言える」――ロス・L・スティーブンス(ストーン・リッジ・ホールディングス・グループの創業者兼CEO)
「投資で破滅的なミスを避けるため、スポーツ界の有名エピソードなどを用いて賢い戦略と洞察あふれるヒントが学べる楽しい入門書」――バートン・G・マルキール(『ウォール街のランダム・ウォーカー』の著者)
「スウェドローは個人的なエピソードや市場の歴史を用いながら、有害な投資神話を楽しく打ち砕いている。投資家が持てる資源を最大限に生かすための賢くて勇気づけられるガイドブック」――エド・タワー教授(デューク大学経済学部)
「富を築きたければ本書を読もう。本書は読みやすいが、非常に深いリサーチに基づいた知恵の宝庫で、投資についてこれまでで最高の教えを提供してくれるだろう。スウェドローの教訓は、本書の価格の100万倍もの価値がある」――アンドリュー・ハラム(『ミリオネア・ティーチャー』『ミリオネア・エクスパット』『バランス』の著者)
「スウェドローは、彼の画期的な理論を金融の常識の扉に打ち付けた。リスクとリターンの関係からランダム性や行動ファイナンスまで、本書は最先端の理論を実践的なアドバイスにして紹介している。最前線の投資リサーチャー兼ライターがまた濃密で多くの人に役立つ作品を生み出した」――トビアス・カーライル(アクワイヤース・ファンドのマネジング・ディレクター)
「スウェドローの数ある著作をすべて持っているが、なかでも本書は私のお気に入りだ」――テイラー・ラリモア(『ザ・ボグルヘッズ・ガイド・トゥ・ザ・スリー・ファンド・ポートフォリオ』の著者)
「スウェドローがまた傑作を書いた。本書は自分で退職金口座を運用している人に特に勧める。著者は、単純で低コストの投資が唯一の必勝法だと教えている」――ジェーン・ブライアント・クイン(『ハウ・トゥ・メーク・ユア・マネー・ラスト』の著者)
「本書は、スウッドローの優れた知恵と洞察を集めたものだ。彼は今回も複雑な金融概念からシンプルで実行可能なアドバイスを抽出し、さまざまなエピソードを織り込んで、投資で成功するための核となる原則をいとも簡単に伝えている。本書は、経験豊富な投資家にとっても、金融の道を歩み始めたばかりの人にとっても必読書だ。筆者の金融の世界を解き明かすユニークな能力によって、本書は金銭的に安心できる豊かな将来を築こうとしているすべての人への貴重な指針になっている」――ビル・ショルタイス(『ザ・コーヒーハウス・インベスター』の著者)
「スウェドローは投資家に、最大の敵である自分から自分を守る方法を紹介している。彼は最も厳格な定量的研究から引用した価値ある事実や証拠を、分かりやすく、そして楽しく説明している。これは傑作だ」――マーティン・フリードソン(インカム・セキュリティース・インベスターの編集長)
「スウェドローの傑作。大変読みやすく、投資に興味がある人すべてにとって極めて重要な本」――アンドリュー・L・バーキン(ブリッジウェー・キャピタル・マネジメントのリサーチ責任者)
「多くの投資家が、分散と低コストと節税が成功のカギだと知っているが、実際にはほとんどの人がリターンを追いかける衝動に負けて個別株を買ったり複雑で高額な投資商品を買ったりしてしまう。本書では、優れた著者であるスウェドローが長期的な投資ポートフォリオを構築する方法や、お金にかかわる感情という難問に対処する方法や、人生と投資で勝者の戦い方をする方法を説明している。すべての投資家が読むべき本である」――トム・クック(トーキング・リアル・マネーの司会者)
第1部 市場の仕組み――株価の決まり方と市場平均をアウトパフォームするのが難しい理由
第1章 株と債券のリスクとリターンを決める要因
第2章 市場はどのように価格を設定するのか
第3章 パフォーマンスの持続性――アスリートと運用会社
第4章 市場を継続してアウトパフォームするのが難しい理由
第5章 素晴らしい会社が高リターンの投資先にはならない
第6章 市場の効率性とピート・ローズのケース
第7章 安全性分析の価値
第8章 何を望むかは注意が必要
第9章 FEDモデルとマネーイルージョン
第2部 戦略的なポートフォリオにかかわる判断
第10章 トッププレーヤーでも勝てそうにないとき
第11章 偶然の悪魔
第12章 柔軟に考える
第13章 八方ふさがり
第14章 株は投資期間の長さに関係なくリスクが高い
第15章 個別株は投資家が考える以上にリスクが高い(立ち読みページ)
第16章 すべての水晶玉は曇っている
第17章 正しい見方は一つだけ
第18章 ブラックスワンとファットテール
第19章 金は安全資産なのか
第20章 高等生命体の懸念
第3部 行動ファイナンス――敵に会った、それは自分だった
第21章 「おまえはまだ真実を受け止められない」
第22章 リスクにはとる価値がないものもある
第23章 問題をどうとらえればよいのか
第24章 なぜ賢い人たちが愚かなことをするのか
第25章 戦わずして勝つ
第26章 ドルコスト平均法
第27章 パスカルの賭けと賢い判断
第28章 買い・保有・売りと保有効果
第29章 投資家の行動の原動力
第30章 経済的に不合理な配当株を好む投資家
第31章 投資における不確実性
第4部 投資でも人生でも勝つ戦いをする
第32章 二〇ドル札
第33章 投資家の最大の敵
第34章 弱気相場は必要悪
第35章 マッドマネー
第36章 ファッションと投資の愚行
第37章 セル・イン・メイ――金融界の占星術
第38章 高パフォーマンスのファンドを追いかける
第39章 足るを知る(立ち読みページ)
第40章 大きな石
第41章 二つの戦略の物語
第42章 信頼できるアドバイザーの見つけ方
結論
付録A 実行――推奨する投資ファンド
本書はバッキンガム・ストラテジック・ウエルスの調査部長であるであるラリー・E・スウェドローによる“Enrich Your Future : The Keys to Successful Investing”の邦訳で、投資で生き残り、成果を上げるための知恵について解説した入門書である。
スウェドローの著書では二〇一八年に出版された『ファクター投資入門』(パンローリング)が有名で、これはかなり衝撃的な相場書であった。今でもファクター投資について、一般投資家にも理解できるように分かりやすく説明できている書籍はほかにはない。
だが、それ以上に革新的だったのは、二〇〇二年に邦訳が出版された『間違いだらけの投資法選び』(パンローリング)である。私は当時、近しい人から、投資に関して読んでおくべき書籍は何かと問われ、『間違いだらけの投資法選び』だけを手渡したことをよく覚えている。そこでは、投資において必要なのは特異な技術や優れた感覚ではなく、単に客観的で合理的な判断と受動的な行動であるということが繰り返し語られていた。今でこそ、インデックス投資の優位性とアクティブ運用の欠陥は広く認識されているが、当時はそれを理解している人はほとんどいなかった。あれから二〇年以上が経過した今、スウェドローの主張が完全に正しかったことは明らかだ。彼のアドバイスに従った人ならば、他のあらゆる投資スタイルを凌駕し、十分な資産を築くことができたことだろう。
一方で、私自身はスウェドローの本に記された考え方の先進性と慧眼に感銘を受けていたにもかかわらず、間抜けなことにそれを実践することはなかった。まことに悔やまれることだが、いくら良いことを知っても実践しなければまったく意味はないということだ。
今回本書が出たことで、多くの人がこれを手にし、実際にスウェドローのアドバイスに従って、投資を実践されることを強く願う。将来を見越した資産形成が必要か否かは、人により違うだろうが、少なくともそれを手堅く実現するための正解はここにある。
刊行にあたって以下の方々に感謝の意を表したい。井田京子氏は正確な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。
2024年10月
長岡半太郎
この素晴らしい本を読めば、ラリー・スウェドローの下で投資について大いに学ぶことができる。そのなかのいくつかを見ていこう。まず、知識があり、勤勉な個人投資家は銘柄選びとマーケットタイミングで確実に株式市場をアウトパフォームすることができる。もしそれが信じられなくても、高給で高学歴のプロのマネーマネジャーは安定的に市場をアウトパフォームすることができる。それも信じられないだろうか。しかし、スウェドローは少なくとも過去に市場を打ち負かした人は、将来もそれができると説得力を持って語っている。もし彼の言葉を信じなくても、年金基金や基金や財団の投資委員会のような洗練された機関投資家は、長期的にたくさんの付加価値を与えるマネーマネジャーを雇ったり解雇したりする権限を持っている。スウェドローが紹介するプロが市場を打ち負かすさまざまな方法についてはこのくらいにしておこう。ほかにも、彼は投資に関するたくさんの重要なことを伝えている。例えば、①株は十分に長い期間保有すれば無リスクになることもある、②自分の勤めている会社が心から好きならば、その株を買い続けて大きな資金を作っていくことが低コストの賢い選択になる、③ドルコスト平均法は投資で成功するための秘訣である、④金を保有することでインフレリスクをヘッジできる、⑤弱気相場がなければ株式市場はパラダイスになる――といったことだ。まだまだ書くことはできる(それが本書だ)。つまり、本書には素晴らしい知恵が詰まっている。
本書は重要な本で、初めてスウェドローの本を読む人(投資経験があるのに彼の本は読んだことがない残念な投資家)にとっては少し読みにくいかもしれない。多くの神聖な牛が刺されている(多くの投資家が苦しんでいる、このフレーズには私の牛に関する格言も混ざっている)。具体的に言うと、あなたがこれから読もうとしている本は、私が前の段落で述べたことがすべて間違っていることを、かなり説得力を持って伝えている。実は彼の教えはそれらとはまったく逆で、これらを信じていると長期的な資産形成にかなり有害だと言っている。
このことは自分で調べることもできる。コメディアンのスティーブン・ライトは、一九八一年のアルバム「子馬を飼っている」のなかで、「辞書を読んだ。これはあらゆることに関する詩だと思った」と言っている。ライトに倣って辞書を最初から読んでもよいが、私は勧めない。話を戻すと、本書で伝えていることは、学者や実践者の論文を何百本か読んで理解すれば分かることだ。ただし、このなかには難解な数式も含まれている(必要かどうか分からないが)。しかし、その代わりに本書を二~三時間で楽しく読んですべてを理解することもできる。本書に出てくるのは、概念を理解するために必要な数字だけで、主に平均値や、重要なことと重要ではないこと、どの時間に何がどのくらいの規模で起こる傾向があるかといったことくらいだ。スウェドローは、何百本もの本格的な論文の数式を、分かりやすいエピソードに書き換えて伝えている。
彼の物語にも多少の数式が出てくることはすでに書いた。しかし、彼が伝えるエピソードは紀元前七世紀のギリシャ人が焚き火のそばで朗読したホメーロスほど難解ではない。ちなみに、本書で引用されている論文はかなり難解だが、スウェドローは難しいことを簡単にしたり、複雑なことをシンプルにしたりするために、その内容をエピソードの形で伝えている。彼は回帰分析や行列代数を用いる代わりに、ゲイロード・ペリーからシーシュポスまで幅広い例を使って説明している。これは学術的なファイナンシャル・アナリシス・ジャーナル誌には絶対に出てこない。
この素晴らしい本で、私が最も共感したのは第24章「なぜ賢い人たちが愚かなことをするのか」である(ちなみに、お気に入りの第二位は第35章で、CNBCのジム・クレーマーの番組を見るのは高くつくという警告だ)。理由は、賢いはずの私でもかなり頻繁にバカなことをしているからではない。確かに私はよくバカなことをするが、それは置いておこう。私が思い浮かべているのは、非常に個人的なことだが、二〇一八~二〇二〇年に定量的な銘柄選択を行っていた会社が有名な「バリューファクター」を信じて経験した恐ろしい時期のことだ。スウェドローは、過去のパフォーマンスが将来のパフォーマンスを示すものではないという証拠を次々と紹介している(ここは少し注意が必要なところで、スウェドローが言及しているのは、過去の積極的な銘柄選択やタイミングの選択が成功しても、それが将来を予測するものではないということ。特に、一般的な時間軸についてはそう言える。ただ、経済的に説明ができて、長期的・体系的に高パフォーマンスを上げるファクターを用いた「証拠に基づく」投資は別で、より魅力的かもしれないことについては私と同意見)。しかし、実はそれも正しくない。彼は、それも将来のパフォーマンスをマイルドに予測しているが、その符号が間違っている証拠を示している(調べた時間軸は主に三~五年。また、「マイルドに」という言葉が重要。もしどちらか選ばざるを得ないときは三~五年で負けたほうを選ぶのが勝ったほうを選ぶよりはマシだが、それもあまり信頼できる戦略ではないので、そこに財産を賭けるべきではない)。彼はこのことを投資信託やプロが運用する年金基金の運用会社を選択する話のなかで、幅広いリバランスのルールやさまざまなパフォーマンスの評価方法(例えば、ベンチマークとの相対的なパフォーマンス、生のパフォーマンス、さまざまなリスク調整後のパフォーマンスなど)を使って述べている。彼の言葉を引用しよう(それ以外にも、私は「資産クラスのパフォーマンスが悪い時期に新規ファンドが登場することはほぼない」という驚くほど控えめな一言も気に入っている。ラリー、もっと書いてくれ。そんなことはニワトリの歯ほど珍しい)。
結局、多くの投資家が同じことを何回も繰り返して違う結果を期待している。そして、彼らの多くがいったん立ち止まって、「過去のパフォーマンスに基づいて雇ったマネジャーが採用後にパフォーマンスが下がったのに、同じ基準で雇った次のマネジャーが高いパフォーマンスを上げると思うのか」と自問することもない。しかし、どうすれば何も変えないで、違う結果を期待できるのだろうか。私はこれまでこの質問を何回もしてきたが、答えが返ってきたことはない。ポカーンとされるだけだ。
こう指摘するのはスウェドローだけではない。別の例をランダムに挙げておこう。私が二〇一四年にファイナンシャル・アナリシス・ジャーナル誌に書いた「私がイラ立つことトップ一〇」という記事の第三位は「何も縛りがなければ、三~五年の結果で評価をするのはやはり罪なこと」だった。これは、スウェドローと同じことを、もっと短く、少ない証拠で辛辣に書いたものだ。勝者の運用会社(個別銘柄でも資産クラスでも「投資スタイル」でも)を三~五年の実績で選ぶのは間違っているだけでなく、ある意味逆の方法なのかもしれない。平均的に見て、これは負者を探す正しい方法とも言える(ただし、こちらも予測力はさほど高くないので大金を賭けてはならない)。もちろん、私がこれを書いたのは、三~五年の実績がかなり良かった二〇一四年だった。このようなことは、みんながうまくいっていない時期には書けない。そんなことをしたら、みんな目をむいてただの言い訳だと言ってくる。こんなことを大声で叫べるのは、過去三~五年にうまくいっているときに限られる。私もそうした。私の場合は叫ぶというより論じただけだが、心のなかでは叫んでいた。
そして、二〇一八~二〇二〇年になると状況は私たちが好む学術的なファクターベース戦略にとってかなり厳しくなった。これほどうまくいかなかった理由を正確に示すこともできる。歴史的な文脈で見ると、それがどれほどの痛みを伴い、私たちがチャンスだと思ったことがどの程度のものだったのかを測定することもできた。このときこそバルカン人くらい合理的な投資家、そして私たちも、バリュー投資を倍増させるべきだったのに、私たちはたくさんの顧客を失い、このチャンスをものにした投資家はほとんどいなかった。私たちの顧客である非常に洗練された人たちも例外ではなかった。洗練されていても関係ないというスウェドローの忠告を思い出してほしい(ナレーション 結局、それはとてつもないチャンスになり、次の三年間は非常にうまくいった。ただ、二〇二〇年末に想像したほどではなかったことは認める。二〇二〇年末に最高潮に達し、信じられないほど記録的なバブル――市場では不正確に「グロース株対バリュー株」と呼ばれていた――が約三年間、少しずつ下落し、合理的な戦略を続けたり増やしたりした人たちは報われたが、下落は緩やかだった。過去五年強の時期に最も似ているのは一九九九~二〇〇〇年のITバブルとその後で、このときは二〇〇〇年三月のピークから二~三年ですべて下げた。今回はまだ約三分の一しか下げていない[つまり、今の時点で三年分のパフォーマンスを確定すべきではない。それではそこそこの戦略にしかならない]。歴史的に例がないほど安いときは、わずか三分の一の下げでも複数年にわたる強気相場につながる可能性がある。しかし、まだ三分の一だ。残りの三分の二も下げてほしい)。しかし、みんなはまたしても逆を行き、最近うまくいった銘柄を増し玉し、明らかに魅力的と言わざるを得ない銘柄を手放した。世界がどれほどおかしくなったかを示す証拠は十分すぎるほどあった。私自身も良い時期に「悪い時期に自動的に売るな」と書いたし、一九九九~二〇〇〇年のよく似た状況を生き伸びて繁栄した人はやり方が分かっているはずだし、スウェドローが紹介する巨大かつ堅牢なリサーチでみんな買うべきものを売り、売るべきものを買っていることが分かっているにもかかわらず、ほとんどの人はこれらのことができなかった(だからリサーチが存在するのだろうが、そのとおりにするのは難しい)。少し厳しく聞こえるかもしれないが、これが私のいつもの言い方だ(私は成功よりも苦痛の比率がかなり高いことに誇りを持っている。投資家がスウェドローのような人の主張に耳を傾けてこのような間違いを避けてほしいという私の熱烈な願いを締めくくるには少し変かもしれないが、私が信奉する戦略で、スウェドローが提唱する構造的かつシステム的なポジションは、投資家が非合理的なことをしてくれなければ、長期的な魅力の一部か、全部を失う可能性が高い。投資家はみんなほかの投資家の非合理さから素早く、痛みなしに利益を得たいと思っている。しかし、残念ながらそううまくはいかない。もしかすると、すべてのことには奇妙な公平性のようなものがあるのかもしれない。良いことを続けるのが難しいほど、しつこいようだが、もしそれを続けることができれば長期的には良い結果を得られる)。
ここまで読んで、本書はただのニヒリズムで、投資における有害な神話を論破することを称えるだけのものだと思うかもしれない。確かにそういう部分もあるが、それ自体にも非常に価値がある。それに、スウェドローはニヒリズムだけでは終わらない。本書のほぼすべての章からは、「多くの利己的な専門家が勧めることをやっても勝つことはできない」という悲痛な叫びが聞こえてくる。しかし、その一方でこれは「勝つために勝つ必要はない」という励ましでもある。彼は、プレーしないことでたいていは勝てると説得している。しかも、そこには人生に関する良いアドバイス――プレーしないことでより裕福になり、安心を得られるだけでなく、人生の一部を取り戻すこともできる――も含まれている。
スウェドローの見方は単純だ。広く分散し、コストを低く抑え、原因が分かっていればパフォーマンスを追いかけたり、厳しいパフォーマンスから逃れたりしないということである。また、市場でタイミングを計ることもしない。市場を打ち負かそうとしないで、学者が発見し、業界の応用研究者が絞り込んだ「ファクター」に集中していればよい(スウェドローはやや乱暴だが、おそらく正しく、これらが「ベータ」になりつつあると挑発している)。この最後のアドバイスについて、彼に反論するつもりはないということだけ言っておく(洞察力のある読者ならば、私が世界水準の驚くべき利己主義であることに気づくだろう)。
行動は少なめに、コストも少なめに、すべてを少なめに考える。あとは、すべての卵を一つのかごに入れてはならない。最悪のケースを想定し、それが起こったときに運命をともにしないようにしておく(第27章「パスカルの賭け」)。もし市場を打ち負かしたいならば、行動ファイナンスとも合致する確実な証拠と学術的な発見に基づく方法を用いるか、リスクプレミアムを確保して行うことを勧める。そして、最後までやり切ってほしい。
それならば、スウェドローはこれらの教えを大量の学術的証拠や素晴らしいエピソードや例え話を飛ばして最初から書いてくれればよかったと思うかもしれない。しかし、それで信じることはできただろうか。おそらく無理だ。しかし、今ならできるはずだ。
クリフ・アスネス(AQRキャピタル・マネジメント社
マネジング・アンド・ファンディング・プリンシパル)
アメリカ人は高校で生物学を学ぶため、投資よりもアメーバについてよく知っている。投資はすべての人にとって明らかに重要であるにもかかわらず、アメリカの教育制度はファイナンスや投資の分野をほとんど無視している。大学の経営学部や経営大学院に入らなければ、それを学ぶチャンスはない。例えば、私の長女は素晴らしい高校に行き、学年一〇位以内で卒業した。高校で生物学を習った彼女は、アメーバについて知っておくべきことをすべて知っている。しかし、金融市場の仕組みについては何の知識もない。もちろん、市場価格がどのように決まるかも知らない。しかし、このような基本的なことも理解していなければ、知識に基づいた投資判断を下せるはずがない。
多くの投資家も似たような状況にあるが、そのことに気づいてすらいない人も多い。彼らは市場の仕組みを理解しているつもりだが、現実はまったく違う。ユーモア作家のジョッシュ・ビリングスの言葉を借りれば、「バカなことをするのは知らないからではなく、知っていることが間違っているから」。結局、個人投資家は自分の判断がもたらす結果を理解するための基本的な知識を持たないまま投資をしている。これは、知らない場所に地図もGPSも持たないで行くようなことだ。多くの投資家はファイナンスの正式な教育を受けていないため、広く受け入れられている常識(深く浸透して疑問を持つ人はほとんどいない)に基づいて判断を下す。
本書に書いてあることの大部分は、常識――賢くて勤勉な人ならば市場で適正価格でない銘柄を見つけることができるので、割安の株を買ったり、割高の株を避けたり空売りしたりできる――とは正反対の内容になっている。また、この常識は、このような賢い投資家は市場でタイミングを計ることもできる――強気相場が始まる前に仕掛け、弱気相場が始まる前に売ることができる――ともしている。これこそがアクティブ運用、つまり銘柄を選択してタイミングを見てトレードすることである。それ以外は非アメリカ的だという考えすらある。私の昔の上司の言葉を借りれば、「勤勉、努力、調査、知性は素晴らしい結果をもたらすはずだ。管理しないでプロの管理に勝るわけがない」。
これは世の中の多くのことについては正しいが(だから常識になっている)、市場を打ち負かすことは例外であり、そこにこの考え方の問題がある。もし努力と勤勉さが常に素晴らしい結果を生むならば、知性と能力があり、よく働くプロのマネーマネジャーのほとんどが毎年のように市場を打ち負かすことができないことをどう説明するのだろうか。市場をアウトパフォームしたとしても、ランダムな期待値を超えるパフォーマンスを維持できないのはなぜだろうか。大手のコンサルティング会社が将来の高パフォーマンスを上げる運用会社を特定できないのはなぜだろうか。
もし先入観なく論理と証拠に照らせば、その常識が間違っているだけでなく、最初から理にかなっていなかったことに気づくだろう(モッシュ・レビーは「アクティブ運用の死重損失」という記事のなかで、アメリカのアクティブ運用ファンドのパフォーマンスを評価し、アメリカ株のアクティブ運用ファンドで投資家が被った損失は年間二三五〇億ドルに上ると推定している)。実際、これは非論理的である。私は、本書で紹介するエピソードの単純だが魅力的な論理と、その理論を裏付ける証拠には圧倒的な説得力があり、読者はその正確さを認めてくれると確信している。かつては「地球平面説」や「天動説」が常識だったことを思い出してほしい。これらの例が示すように、常識が必ずしも正しいわけではない。言い換えれば、バカげたことを信じる人が何百万人いたとしても、それはやはりバカげたことなのである。
伝説はなかなか消えない。特に、それを権力層であるウォール街や金融メディアが維持したい場合は。そこで、本書では三つの目標を掲げる。一つ目は、市場の本当の仕組みを説明することである。そうすれば難しい概念も理解しやすくなる。ここではエピソードや例え話というなじみのある枠組みのなかで論理性を示し、投資の世界に関連させることで、この目標を果たしたいと思っている。エピソードのなかで論理を理解したうえでそれを投資と関連づければ、より明確になるはずだ。理論を支える証拠があればさらにそうなるだろう。
もしこの最初の目標を果たすことができれば、二つ目の目標である投資と市場の仕組みに関する考え方を永遠に変えることも果たすことができる。
そして三つ目の目標は、より知識に基づいたより賢い投資判断を下すための十分な知識を提供することである。
本書は、二つのタイプの読者を想定して書いた。一方のタイプは個人投資家で、もう一方のタイプはファイナンシャルアドバイザーである。投資のアドバイザーは、顧客が苦労して稼いだお金を無駄にして証券会社やファンドを肥やしたりするのをやめ、勝者の戦いをするよう説得するときに、本書のエピソードを役立ててほしい。
本書は四つの部に分かれている。第1部は市場の本当の仕組みや、証券価格の決まり方や、リスク調整後に高いパフォーマンスを上げるのが難しい理由などを理解する助けになることを意図している。第2部は、ポートフォリオを構築するときにカギとなる判断を下す助けになる。第3部は、人間の性質が投資の間違いにつながることと、知識を持つことが間違いを減らす助けになる。第4部は、勝者の戦いをする助けになる洞察を紹介している。
本書を読めば、勝つための戦略は実は単純で、エネルギーもあまりいらないということが分かる。つまり、この戦略は金銭的な目標を達成する可能性を劇的に高めるだけでなく、生活の質を高めてくれる(第40章「大きな石」参照)。今日の賢い投資家は、世界的に分散した「パッシブ運用」のポートフォリオを構築している。パッシブ運用の対象はインデックスファンドのみだと考える人もいるが、私はそれ以外にも証拠(意見ではなく)に基づき、透明性が高く、システマティックで再現可能な方法で構築されたファンドも含めている。ここでカギとなるのはシステマティックであることだ。ただ、システマティックに運用されるファンドを買うことは投資で成功するための必要条件でしかない。十分条件は、市場のノイズや、ウォール街や金融メディアのプロパガンダに惑わされないで保有し続けることである。
私の好きな言葉に、「教育費が高いと思うならば、無知になってみろ」がある。本書を読んで、ここで取り上げた問題をより深く理解したいと思ったり、知識を広げたいと思ったりしてくれたらうれしい。もし本書が楽しくてためになると思ってくれたならば、私は投資に関して、『ファクター投資入門』『間違いだらけの投資法選び』(パンローリング)の二冊を含めて一八冊の著書がある。これらは本書のテーマをより深く書いているだけでなく、ここでは取り上げることができなかったたくさんのことにも言及している。
ちなみに、本書で紹介したエピソードのいくつかは、『ワイズ・インベスティング・メイド・シンプル(Wise Investing Made Simple』にも出てくるが、すべてのエピソードとデータは更新されている。
個別株を買うと、素晴らしいリターン(次のグーグルが見つかるかもしれない)と悲惨な結果(次のエンロンになるかもしれない)という二つの可能性がある。しかし実際には、投資家はわざわざリスクをとっても悲惨な結果に終わる(投資家が簡単に分散できるリスクをあえてとって高いリターンを期待しても、市場はそれに報いてくれない)。つまり、個別株を買わないことが合理的な戦略になる。残念ながら、平均的な投資家はリスクを回避したいのに、そのようには行動しない。賢明さと経験よりも楽観性が勝って分散することができないからだ。
分散するほうが明らかに有利なのに、投資家はなぜポートフォリオを広く分散させないのだろうか。理由の一つに、ほとんどの投資家が個別株のリスクの高さを理解していないことがある。その知識不足を正すために、いくつかの文献を見ていこう。最初は、ロングボード・アセット・マネジメントによる「ザ・キャピタリズム・ディストリビューション(The Capitalism Distribution)」で、これは株の上位三〇〇〇銘柄を一九八三~二〇〇六年にかけて調べている。著者たちは、ラッセル三〇〇〇のリターンが年率一二・八%で、累積リターンが一六九四%なのに対して、個別株に関する次のような事実を述べている。
株を選んで買った投資家は、ほぼ五分の二の確率で資金を失い(対象期間に市場を一六九四%以上アンダーパフォームし、さらに累積インフレ率の一〇七%を失った)、約五分の一の確率で投資額の七五%とインフレ分を失った。ちなみに、指標をアウトパフォームする株を選ぶ確率は、三分の一を少し超える程度だった。
すべての株の平均年率リターンがマイナスなのに、なぜラッセル三〇〇〇のリターンがプラスなのか疑問に思うかもしれない。答えは、この指標の算出方法によるところが大きい。ラッセル三〇〇〇は時価総額で加重しているため、好調で株価が上昇している株の加重が大きくなる。同様に、不調で株価が下がっていれば、加重は小さくなる。それに加えて、年率リターンがマイナスの株は好調の株よりも存続期間が短くなるため、指標にマイナスの影響を与える期間も短くなる。
個別株のリスクの高さを示す好例をもう一つ紹介しよう。一九九〇年代の歴史的な強気相場でラッセル三〇〇〇は年率一七・七%のリターンを上げ、累積リターンは約四一〇%になったが、同じ時期のアメリカ株二三九七銘柄のリターンはマイナスだった。ちなみに、これは実質リターンではなく絶対リターンで、市場を四一〇%以上アンダーパフォームした)。また、この一〇年の累積インフレ率は三三・五%だったため、実質的な損失は三三・五%を超えていた。ただ、この衝撃的な数字でさえ正確ではない。それはこの期間を通して存続した銘柄のみが対象となっているためで、この数字には大きな生存者バイアスがかかっている。
ヘンドリック・ベッセンバインダーの論文「ドゥ・ストック・アウトパフォーム・トレジャリー・ビル?(Do Stocks Outperform Treasury Bills?)」が、個別株のリスクの高さを理解する助けになる。彼は一九二六~二〇一五年のNYSE(ニューヨーク証券取引所)、Amex(アメリカン証券取引所)、ナスダックのすべての上場株について調べた結果を、次のように述べている。
結局、ほとんどの普通株(七銘柄のうち四銘柄以上)は、その上場期間にTビルのリターンをアウトパフォームすることができなかった。ベッセンバインダーの調査結果は、ポジティブスキューがかなり大きいことと(宝くじのような分散)、個別株のリターンにはリスクが伴うということだった。また、パフォーマンスで上位八六銘柄(全体の三分の一%に満たない)が、全体の利益の半分以上を生み出していた。そして、上位一〇〇〇銘柄(全体の四%弱)がほぼすべての利益を生み出していた。一方、残りの九六%の株のリターンは、無リスクの一カ月物Tビルと同じだった。これはすごいことだ。株の投資家には大きなリスクプレミアムが存在する一方で、この調査ではほとんどの株のプレミアムがマイナスになっていた。この調査結果は、一つか、少数の個別銘柄を買ってリスクをとっても報われないケースがどれほど多いかを示している。しかし、このリスクは分散によって期待リターンを下げることなく回避できる。
ベッセンバインダーは、彼の調査結果が、分散度が低くなりがちなアクティブ戦略の多くがベンチマークをアンダーパフォームする理由を理解する助けになるとしている。彼はさらに、これらの結果は分散しないとベンチマークをアンダーパフォームすることを知りながら、「宝くじのような」結果に特に引かれる投資家が分散度の低いポートフォリオを正当化することに使われかねないとも言っている。そこで、ベッセンバインダーは、宝くじ的な投資の影響を次のデータで指摘している。最低十分位の株のなかで一カ月物Tビルのリターンをアウトパフォームしたのはわずか三一・五%だったが、それが最高十分位の株は五九・一%だった。
これまで見てきた研究結果は、ポートフォリオを分散することの重要な役割に光を当てている。分散は、投資で唯一のフリーランチである。しかし、残念ながら、ほとんどの投資家は目の前のごちそうに手を出さない。ベッセンバインダーは、こうも書いている。「これらの結果は、分散していないポートフォリオがベンチマークをアンダーパフォームするのは、大きなリターンを生み出すいくつかの株を買っていないからかもしれないという事実に目を向けさせる。この結果は、なぜアクティブポートフォリオ戦略(たいていはあまり分散されていない)のほとんどがベンチマークをアンダーパフォームする理由を説明する助けになる。パフォーマンスの低さは通常、トレードコスト、手数料、場合によってはマイナススキルとも言える行動バイアスによるとされている。しかし、ここまでの結果は、原因がコストや手数料や逆効果のスキルよりも、あまり分散されていないことのほうがアクティブ運用を低パフォーマンスにしている可能性が高いことを示している。
投資する銘柄数を限定することで、よりうまくリスクを管理できるという認識は、間違っている。
行動ファイナンスの分野からさらに説明すると、投資家はゆがみを好む。彼らは、パフォーマンスが低くなる可能性のほうがはるかに高くても、低い勝率を受け入れて次のグーグルかもしれない株を買う。言い換えれば、彼らは宝くじを買うようなつもりで投資しているのだ。もしあなたが間違いを犯したと自覚したのなら、賢い人を見習って、その間違いを正してほしい。
次は、投資の世界がいかに不確実性にあふれているかを理解することの重要性を説明する。この世界では、マイナスの結果を計算することはできず、推測することしかできない。また、不利な結果に終わる可能性を考慮し、投資計画に組み込んでおく必要がある理由も説明する。最後に、モンテカルロシミュレーションがいかに役立つツールかも説明する。
「知足者富(足るを知る者は富めり)」――老子(第三三章)
カート・ヴォネガットは、同業の作家であるジョセフ・ヘラーについて次のように書いている。「ヘラーと私はシェルター島で億万長者が開いたパーティーに参加していた。私はヘラーに『ジョー、このパーティーの主催者が君の小説『キャッチ22』がこれまで稼いだ金額よりも多くを昨日一日で稼いだと知ったらどんな気分かい』と聞くと、彼から『僕は彼が絶対に持つことができないものを持っているよ』という答えが返ってきた。私は『そんなものがあるのかい』と聞くと彼は言った。『もう自分は十分持っていると知っていることだよ』」
二〇〇九年、私はTIGER21グループ(超富裕層のための投資クラブ)に投資セミナーを依頼された。彼らのウェブサイトには、「TIGER21のメンバーは、超富裕層が互いに学びながら成功がもたらす問題とチャンスに対応していくことを可能にする信頼と秘密厳守のコミュニティーの一員です」と書いてある。
セミナーについて彼らから、金持ちがリスクについてどう考えているかと、どう考えるべきかについて話してほしいという要望があった。私は次のように答えた。
資産が相続したものでないかぎり、巨額の財産を生み出す一般的な方法は、多くのリスクをとり、たいていはそれを自分が所有する事業に集中させる。だから、典型的な富裕層は起業家として成功した人たちだ。つまり、彼らは本質的にリスクテイカーで、成功経験もある。そのため、彼らはリスクをとることに自信があり、それがリスクをとる意欲につながっていることが多い。しかも、彼らは巨額の資産を持っているため、リスクをとる能力もある。これらのことが組み合わさっているので、彼らはリスクをとり続ける。
しかし、リスクをとる能力と意欲は、投資の方針を決めるときに考慮すべき三つの点のなかの二つでしかない。三つ目は見過ごされることが多いが、リスクをとる必要性だ。ただ、大いに皮肉なのは、リスクをとる能力と意欲を最も持っている人たちこそ、リスクをとる必要が最もない人たちでもある。
必要なことを賄える十分な富を持つ人たちは、金持ちになる戦略と金持ちで居続けるための戦略はまったく違うということを理解する必要がある。一般的に、金持ちになるための戦略はリスクをとることで、たいていはそれを自分の事業で行う。しかし、金持ちで居続けるための戦略は、リスクを最小限に抑え、とるリスクを分散し、過剰な支出をしないことである。
私はTIGER21のメンバーの目標が金持ちで居続けることであり、その目標を組み込んだ新たな投資計画を立てることが重要だと話した。この計画は、金持ちから貧乏人に転落することは考えたくないという事実に基づいて立てるべきである。
適切な資産配分を決めるとき、投資家は富の限界効用、つまり、より多く期待リターンを上げるためにとるリスクと比べて、潜在的な富の増加にどれだけの価値があるかを考える必要がある。もちろん、お金は少ないよりも多いほうがよいが、ほとんどの人はある時点で、非常に快適なライフスタイルを達成する。そうなると、そこからさらなる富を得るためにさらなるリスクをとることはもう意味がなくなる。予期しない悪い結果で潜在的に被る損害は、さらなる富を得るメリットをはるかに上回るからだ。
投資家はみんな自分の効用曲線がどの水準から水平になり、急落し始めるかを見極める必要がある。その時点からは、さらなる期待リターンを求めて、追加的なリスクをとる理由などなくなるからだ。多くの裕福な投資家が、ジョセフ・ヘラーが語った知恵を持っていれば、破滅的な損失を簡単に避けることができただろう(あなたはマドフという名前を覚えているだろうか)。
もう十分だという時期を知ることの重要性は、次の例からも分かる。二〇〇三年のはじめに、私は七一歳の夫婦と知り合った。彼らの金融資産は三〇〇万ドルだったが、三年前には一三〇〇万ドルあった。彼らがこれほど大きな損失を被ったのは、資産のほぼすべてが株式で、それもアメリカの大型成長株、特にテクノロジー銘柄に集中していたからだった。彼らにはこの間、フィナンシャルアドバイザーがいたそうだ。このことは、良いアドバイスが必ずしも高いわけではないが、悪いアドバイスはほぼ必ず高くつくことを示している。
私は二人に、もしポートフォリオの価値が八〇%減ではなく、倍の二六〇〇万ドルになったら、生活の質が大きく変わるかと聞いてみた。答えはきっぱり「ノー」だった。私が、一三〇〇万ドルが三〇〇万ドルに減るのを見るのは非常に辛い経験だったはずで、眠れない夜もたくさんあっただろうと言うと、彼らは大きくうなずいた。次に私は、潜在利益が彼らの生活を大きく変えないのに、失敗すればこれほど辛い結果を生むようなリスクをなぜとったのかと聞いた。すると、妻が夫をパンチして言った。「だから言ったじゃない」
リスクのなかには、とる価値がないものもある。賢い投資家は自分の能力や意欲や必要を超えるリスクはとらない。そこで、自分自身に問うべき重要なことがある。すでに勝っていたゲームなのに、プレーし続ける意味があるのだろうか。
必要なものと欲望
すでに勝っていたゲームをプレーし続けてしまう理由の一つは、かつては欲しかったもの(人生を楽しむためにあったらよいが、必要ではないもの)が、必要なものに変わってしまうことにある。そうなると、とるべきリスクが増え、株の配分が多くなる。その結果、一九七三~一九七四年、二〇〇〇年~二〇〇二年、二〇〇七年~二〇〇八年、新型コロナ感染症危機、二〇二二年のようにリスクが現実になったときに問題が起こることになる。
教訓
リスクをとる必要性を考えないのは裕福な人によくある間違いで、特に大きなリスクをとって富を築いた人にその傾向がある。ただ、必要以上のリスクをとる間違いを犯すのは、金持ちだけではない。そこで、いくらお金があれば幸せになれるのかと考えてみてほしい。ほとんどの人は、その金額が思ったよりもずっと少ないことに驚くと思う。心理学者によると、食べ物、家、安全といった基本的なニーズを満たす十分なお金を手に入れてしまうと、資産が増えても幸福度に変化はない。これらのことが満たされると、人生の良いことや本当に大事なことは無料か安い。例えば、大事な人と公園を散歩する、自転車に乗る、本を読む、友人とブリッジをする、子供や孫と遊ぶなどといったことにあまりお金はかからない。そして、飲むのが一〇ドルのワインでも一〇〇ドルのワインでも、二人で食事をするのが五〇ドルのレストランでも五〇〇ドルのレストランでも、それで幸福度が大きく上がるわけではない。
次は、パッシブでシステマティックな投資が人生でも投資でも勝者の戦略であることを説明していく。