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『遅咲きトレーダーのスキャルピング日記
1年間で100万ドル儲けた喜怒哀楽の軌跡』
2015年4月発売/A5判 336頁
ISBN978-4-7759-7192-5 C2033
定価 本体3,800円+税
著 者 ドン・ミラー
監修者 長尾慎太郎
訳 者 井田京子
トレーダーズショップから送料無料でお届け
エドウィン・ルフェーブルの『欲望と幻想の市場』を彷彿させる本書は、先物のデイトレードで1年に100万ドルの利益を上げたトレーダーの浮き沈みや成功と失敗を内側から見せてくれる。この詳細な日誌のなかで、ミラーは安定的な利益を上げるために、ミスや計算違いや自滅的な行動といった地雷を避けて注意深くトレードしていく様子を、隠すことなく見せてくれている。本書には、2008~2012年にかけた彼のトレード日誌の一部と、2004~2011年にかけて彼が行った先物でのトレードのパフォーマンス(約2000日分の実際のトレード結果と分析)が掲載されている。
本書を読めば、筆者が毎日トレードをするという挑戦を続けることで集中と意欲、攻撃性の抑制、そしてトレードの場に行くこと(特に寝不足の朝であっても)の重要性を学んでいった過程を読者も経験することができる。彼が日々刻々と成長していく様子を日誌を通じてたどっていくと、彼がどのようにして自分の強みや弱みを理解したり、日々の目標を達成したりしなかったり、結果を分析したり、学んだことのすべて(スポーツやポーカーや人生で得た価値ある洞察を含めて)を先物のトレードに応用してきたかが分かるだろう。
もしあなたが仕事を辞めてフルタイムのトレーダーになることを考えているならば、本書はあなたがしようとすることを具体的に見せてくれる。彼の成功までの道のりは、有頂天と挫折が断続的に繰り返す困難に満ちたものだった。彼の念入りな計画と知性と献身をもってしても、トレードを始めた当初はみんなと同じように訓練不足と未熟さから損失に見舞われる経験をした。それでも彼は屈辱を味わったあと、そこから学び、やがて成功を収めた。ミラーの失敗が分かれば、あなたは彼が犯したミスを避けることができるだろう。
本書は、トレードの成功には単純にチャートを読む以外にも多くのことが必要だということを教えてくれる。それはトレードが数字をやりくりするだけではなく、マーケットやほかのトレーダーや自分自身との戦いだからだ。スポーツと同じで、勝利は優れた計画と練習と実行の賜物であり、自分のプレーができなければ負けは見えている。もしあなたがフルタイムのトレーダーでも、パートタイムのトレーダーでも、トレーダーになることを検討しているだけでも、著者の洞察に満ち、示唆に富んだ心の内をのぞくことで、勝者のトレードをするために不可欠な教えを受けることができるだろう。
「私は、ミラーが大勢のフルタイムのトレーダーを前にして、ライブトレードで利益を上げる様子を2日間にわたって見る機会に恵まれた。彼が教える手法は堅実で、何よりも安定的に勝つことができることは本書を読めば分かる。ミラーの生活に密着し、彼の実際のトレードと考え方を同時に見ることができる本書は、従来のトレード本の範疇をはるかに超えている。デイトレードを極め、実際に何年も成功を続けてきたトレーダーから直接学びたい人にとって、これは必須の書と言える。ぜひ読んでほしい」――ローレンス・コナーズ(『コナーズの短期売買戦略』『コナーズの短期売買実践』『高勝率システムの考え方と作り方と検証』の著者)
「私はミラーがトレードする様子を数年にわたって直接見てきたが、率直に言って彼は最高のトレーダーのひとりである。本書は啓発的であるとともに、成功したトレーダーの考え方を理解する助けになる」――スティーブ・デマレスト(MBトレーディング社長)
監修者まえがき 序文 はじめに
「レース」
パート1 始まり幼いころのトンネルの時代遅咲きの人生 最初の仕事 仕事を辞めない どん底から這い上がる 展望の変化 勝負をかけるチャンス
パート2 100万ドルのレースを記録する2008年7月の日誌より2008年7月4日(金) 礎 2008年7月5日(土) なぜうまくいったのか 2008年7月6日(日) ポーカーの効果 2008年7月11日(金) もう分かっただろう 2008年7月14日(月) 今日からは日中に日誌を書く 2008年7月17日(木) 時間外取引のバイアス、計画とトレード 2008年7月22日(火) 強みを生かせ 2008年7月23日(水) 教科書どおりの「トレンド日の翌朝」 2008年7月24日(木) マーケットのバイアス 2008年7月25日(金) 朝のトレード 2008年7月28日(月) ファウルにする 2008年7月30日(水) まだ仕事は残っている 2008年8月の日誌より 2008年8月2日(土) グレースの物語 2008年8月5日(火) FOMCの開催日 2008年8月6日(水) FOMCのあと 2008年8月7日(木) ブラインドとアンティと忍耐 2008年8月8日(金) 1回はだまされたが…… 2008年8月11日(月) リズムの変化 2008年8月13日(水) 2つのマーケットの話 2008年8月18日(月) トレンド日 2008年8月19日(火) とにかくプラスで終わればよい 2008年8月20日(水) ボラティリティ再び 2008年8月21日(木) レンジ、レンジ、ブレイク 2008年8月22日(金) 電話を持ったまま 2008年8月26日(火) 銀なのか、金なのか 2008年8月27日(水) ちょっと一息 2008年8月30日(土) 地表に向かって掘る 2008年9月の日誌より 2008年9月4日(木) ゾーンに入っている 2008年9月8日(月) 最高のパフォーマンスとはいかなかった 2008年9月9日(火) 2008年9月10日(水) 堅実なパフォーマンス 2008年9月11日(木) 午前中は攻撃、午後は守備 2008年9月12日(金) 楽しいことには…… 2008年9月18日(木) マーケットの恵み 2008年9月19日(金) 忘れ難い週 2008年9月23日(火) 最終ラップに向けてハードルを上げる 2008年9月26日(金) 「トレード」を手仕舞う 2008年9月30日(火) ここからが難しい 2008年10月の日誌より 2008年10月6日(月) 混乱の月曜日 2008年10月6日(月) 混乱後の分析 2008年10月7日(火) 仕事に戻ろう 2008年10月8日(水) 86%を回復する 2008年10月10日(金) 惨事を避ける 2008年10月15日(水) 休日 2008年10月17日(金) 7回表で見限る 2008年10月21日(火) グチャグチャ言うな、ドン 2008年10月22日(水) 壁にぶつかる 2008年10月23日(木) 立場が違うぞ 2008年10月23日(木) 虎の目 2008年10月24日(金) 防御的勝利 2008年10月28日(火) 地雷を避ける 2008年10月29日(水) 出遅れた 2008年10月30日(木) ファイナルテーブルにようこそ 2008年10月31日(金) 朝の強み 2008年10月31日(金) 10月のまとめ |
2008年11月の日誌より 2008年11月4日(火) 新しいゲームのようだ 2008年11月10日(月) 戦いだ 2008年11月12日(水) 冷えたエンジンを始動する 2008年11月13日(木) 急がないとやられるぞ 2008年11月15日(土) モメンタムの力 2008年11月20日(木) Bのゲームを管理する 2008年11月21日(金) トレードスタイルは問わない 2008年11月25日(火) 荒いペース 2008年11月26日(水) TICKの教え 2008年11月28日(金) 警告サイン 2008年11月29日(土) ゴールを調整する 2008年12月の日誌より 2008年12月3日(水) 針路を維持せよ 2008年12月6日(土) 「たったひとつの大切なこと」 2008年12月10日(水) だれのせいか 2008年12月11日(木) 復活 2008年12月12日(金) 今週をふり返って 2008年12月15日(月) すべきことをしたのか 2008年12月17日(水) 残りの2ストローク 2008年12月19日(木) そのときが来た 2008年12月26日(木) 目標1ドルの年 2008年12月29日(木) 年末の成績表 2008年12月31日(水) 今日は踊ろう
パート3 レースのあとに――2009年の挑戦より抜粋2009年1月22日(木) ジェットコースターのような1日2009年1月11日(日) ジャズトレーダー 2009年2月10日(火) ゴミ箱行きの日 2009年2月11日(木) 日が昇った 2009年3月11日(水) 不愉快な時間 2009年3月11日(水) さらなる解説 2009年4月4日(土) 40歳以降の人生 2009年5月16日(土) すべての始まり 2009年5月16日(土) ほんの少し足りない 2009年6月17日(水) デンタルフロスをする理由 2009年6月25日(木) 夏の休暇の過ごし方
パート4 ジェリートレーダーの誕生起源メンバー選び メンバーのコメント 2009年8月19日(水) 「ノーカントリー」 2009年8月22日(土) チームワークと単純さ 2009年9月22日(火) 成功へのカギ
パート5 ジェリープログラムのあと――2010~2012年の日誌より抜粋2010年1月8日(金) ポーカーとトレードと集中2010年1月29日(金) 職場の安全 2010年4月18日(日) 人生の「、」に注目する 2010年3月25日(木) クビだ 2010年5月8日(土) 急落の分析 2010年9月21日(火) お金は眠らない
パート6 MFグローバルの破産2011年11月4日(木) MFグローバルという氷山に乗り上げて凍りつく種類の違うトレード 2011年9月22日(水) 勝利
パート7 上がったあとは……動いている物体は動き続けるマクロレベルのトレイリングストップ 百聞は一見にしかず
パート8 最後に
付録――日誌とジェリーで使用した略語と頭字語 |
ところで、読者のなかにはトレード手法について強い関心を持つ方もおられると思う。初めに書いておくが、著者のトレード手法はトレンド日の翌日にフォーカスし、DAXの動きやTICKおよびVIXを参考指標とする短期トレードであり、これと言って特に際立ったものではない。したがって、単にトレード手法だけを見た場合は、本書の価値や新規性は分かりにくいし、ミラーの成功の理由にも謎が残ることになる。
では、あの困難な年に、著者が安定的かつ高いパフォーマンスを残せた背景は何だろう? 一般にオペランド(操作される対象)としての投資戦略やトレード手法は、オペラント(操作する主体)としてのトレーダーや投資家次第で、その価値や有効性はどのようにでも変化するが、ミラーはこのメカニズムを潜在的に正しく理解していたのである。なお、投資におけるパフォーマンスは、①マーケットの状態、②投資戦略、③売買主体の状態――の3つの変数の共創によってもたらされるが、①はコントロール不能であるのに対し、②は選択可能、③は適応可能である。
一般に、初心者の投資家はまずは「儲かる銘柄」を知りたがる。だが、そのうちにそんなものはどこにも存在しないと分かると、次に、「優れた投資戦略やトレード手法」を知ることに一生懸命になる。しかし、どんなに優れた手法であっても、あくまでトレードする側の心理的・生理的な状態の管理とセットで語られなければまったく意味がない(同様に、トレーダーの心理だけを取り上げた解説も大した価値は期待できないことになる)。本文中に著者の残したトラックレコードの必然性を疑う読者の話が出てくるが、それはマーケットの状態と投資戦略の範囲内だけでモノを見ることに起因する誤謬である。ミラーの成果はけっして偶然ではない。彼は過去のトレード経験から、自分に適した心理的・生理的状態を発見し、それを維持する工夫を凝らした。彼の選択したトレード手法は凡庸なものであったが、それでも「オペラント―オペランド構造」をよく理解し、自身を適応させたことが成功を呼んだのだ。トレードの実践記録でこれほど顕著にこの重要性が見て取れるものは珍しい。読者におかれてはそのあたりを読み取っていただければ幸甚である。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の井田京子氏は分かりやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2015年3月長尾慎太郎
2つ目に、本書の『Chronicles of a Million Dollar Trader(100万ドルトレーダーのトレード日誌)』という題名は、私が先物のデイトレードで2008~2009年の18カ月間に200万ドルの利益を上げたときのことが書かれている(当時、私は1年間で100万ドルの利益を上げるという挑戦を自らに課していた)という意味では正しいが、私は成功について書きたかったわけではないし、読者が現在取り組んでいることをやめてまで、私のまねをするようなことはしてほしくないと思っている。本書を読み進めれば分かるとおり、私がたどったのは、ゴール達成など永遠にできないような気持ちになりながら、つまずきと失敗を繰り返し、血を流し、打ちのめされながら進んだ道のりだった。それに、最終的には目標を超える成果を達成したものの、その間は私自身も家族もある程度の犠牲と苦難を強いられた。
3つ目は、ほぼ自伝に近い本を書けば、誠意を持って書いたとしても、個人的なエゴや自慢が入り込んでしまうリスクが多分にあることだ。しかし、トレードの世界でも人生でも失敗をもたらす最大の原因が性格的な欠陥だということは、成功したトレーダーならばみんな言っている。それにこの何年間か私にもたらされた成功の元は、失敗したことにあると思っている。このことをもう1回考えてみるだけでも、人生の秘訣がいくつか見つかるだろう。そのためには、成功と同じかそれ以上に失敗について書くという挑戦が待っていた。
4つ目は、純粋にビジネスとして、優れたトレーダーは書くよりもトレードに注力するほうがはるかに儲かるということだ。トレード本の著者ならばだれでも印税はお世辞にも多いとは言えず、むしろ本を出したことで生じる「雑音」を考えればほとんど割に合わないということに同意してくれるだろう。
そして最後に、教育的な意図で本を書いたとしても、トレードを本のみで教えるのは不可能だということがある。成果主義の分野に共通して言えることだが、トレードの成功には集中的な教育と、何年もの経験、そして変化し続ける金融市場という大海でかじ取りをしていくためにスキルを磨き、維持していく能力が必要とされる。このような理由から、私は長年本の執筆依頼を断り続けてきた。
このときはさまざまなことを考えた。これは私のトレード体験というノンフィクションを、『欲望と幻想の市場――伝説の投機王リバモア』(東洋経済新報社)――ワイリーが手掛けた本で、長らく最高のトレード本と言われている1冊――のような形で書くチャンスだった。現代では、リバモアの時代とはさまざまなことが変わっており、このなかには短期トレードの機会の大幅な増加、技術的な進歩、マーケットにアクセスの向上、規制緩和などが含まれている。また、これは何年間も密かに、だが熱心に準備を整えて大きな利益をつかみ、そのあとそれをマーケットに返上せずにすんだ珍しいトレーダーの物語を伝えるチャンスでもあった。投資家や有名人やプロの運動選手や宝くじの当選者がせっかく獲得したお金を、ときにはそれを得たのと同じくらいの速さでなくしてしまったという話はたくさんある。また、かつては「マーケットがあなたのお金を奪うことはありません」と請け合ってきたゴードン・ゲッコー(映画「ウォール街」の主人公)のような連中がいたが、今では趣向も新たなに「あなたが苦労して貯めたお金をブローカーが持ち逃げするようなことはありません」と請け合っている。
話し合いが進むにつれて、私の考えは「自分の話を書くべきか」ということから、「次の条件が整ったときのみ書くべき」だというように少しずつ変化していった。その条件とは、①トレードの成功は、教育と、経験と、忍耐と、集中と、意欲が正しく組み合わされば間違いなく可能だということを証明することができる、②私の足跡を残すことで、ひとりでも血まみれになって深みにはまる人を減らすことができる――ことである。
トレーダーにとって避けることができない痛みや苦難を考えると、トレードが自分の子供に最も就いてほしい仕事ではないということを、これまで何回も言ってきた。理由は、①ほとんどの小企業はうまくいかない、②ほとんどのトレーダーもうまくいかない――からである。つまり、トレードを始める人は、みんな最初から2ストライクとられてミスの余地などほとんどない状態でトレードを始めることになる。しかし、私は、①マーケットで大きな成功を安定的に続けることができるということに対してつゆほども疑っていない、②もしこの仕事のすべての特性を考慮したうえで、私の子供やそれ以外の人たちが私のあとに続くことを決断したのならば、私は全力で彼らの痛みを減らす手助けをする――とも言ってきた。そして結局、私は長年断ってきた本の執筆を承諾した。
これから、私の人生の旅に付き合ってもらうことになる。この旅は、立ち直ることができないほど深い絶望の谷から、空まで届くほどの勢いで伸びていく美しい竹まで、紆余曲折が多くなるだろう。また、さまざまな時期と場所も巡ることになるが、まずは初期の未熟だった時期のことから話そう。ときには涙の池を超え、自ら招いた傷を負い、集中と中断のせめぎ合いをうまくコントロールできないこともあったが、個人的な思いと、人生で本当に大事なことが何かを考えたうえで、私は再び戦いの場所に戻ってきた。そして、どんなときでも常に前進していた。
注意点をひとつ、本書を読むときに、前半を飛ばして、最初からいわゆる「竹」に成長した部分を読んでしまうのはやめてほしい。これは、それまでの時間や努力や恩恵が実を結んだところだからだ。トレーダーは本質的に性急で、すぐに本題に入りたがるということは分かっているが、パート1には、それ以降に必要となる基本的な情報が書かれている。
本書に書かれていることはすべて実話であり、金融トレードの世界である程度のことを成し遂げたことが記してある。これは、私のように恐ろしく不完全な人間でも、何年にも及ぶ極度の献身と準備と意欲に特別なチャンスが重なれば、どのようなことでも可能だということを示している。ただ、それよりもはるかに大事なことは、これは情熱と、謙遜と、涙と、勝利と、没収と、奮闘(人間らしさと完璧さを追求することの間でもがくこと)の記録だということである。トレードが人生を映しているように、人生もトレードを映している。一方で成功できる人は他方でも成功する可能性が高い。私たちの旅が終わるころに、それが人生に対する見方とトレードに対する見方をより深められていれば、本書の目的は達せられたと言ってよいだろう。
良いことも、悪いことも、醜いこともあるが、しっかりついてきてほしい。終わってみれば、衰えることのない神の恩寵によって、命という贈り物と同じくらい素晴らしい旅だったと思えるだろう。
さらに言えば、私はトレードだけでなく、コラムの執筆、トレード教育など複数の活動に携わり、個人的には時間と状況が許すかぎりみんなが自分で資金管理ができるスキルを身につけるべきだという強い信念を持っていたが、自分についてはいわゆる器用貧乏だと思っていた。そのうえ、トレードという仕事の本質を理解しない反対論者が、トレードなど無責任なギャンブルで、マーケットで一定以上の成功をおさめるのはまぐれでなければ不可能だなどと主張していることにイラ立ちが募り、「有言実行」を体現したいという気持ちが強くなっていった。
ただ、これらの目的と同じくらい重要なことは、このレースが意図しない結果を及ぼさないようにすることだった。このレースは金持ちになるためでもなければ、自己宣伝をするためでもない。金持ちになるためでないことは、本文で私のお金に対する考え方を読めば分かってもらえると思う。簡単に言えば、私たちは神から与えられた資産を一時的に預かっているだけで、金銭的な利益や損失は、自分やほかの人たちのために「時間」をもらうか使うという違いでしかないからである。また、私はみんながそれぞれの才能を最大限伸ばし、分け与える責任があるとも考えている。特に、自分たちの資産を効率的に増やして守るために信頼して託せる人が限られている時代においては、その責任を自分で負うしかない場合が多くなる。
世間では時はカネなりと言う。しかし、私はそれを逆にしてカネが時だと言いたい。例えば、トレーダーになって利益を上げれば、ドローダウンや低迷期、病気のとき、集中力や意欲を失ったときをやりすごす時間が手に入る。そして、何よりも大事なのは利益を蓄積することで、必要な資金をきちんと確保しておけば、人生に直接的に影響し、向上させることに費やす時間を得ることができる。その一方で、損失は単純に時計を巻き戻してしまう。少額の損失ならば、何日か戻るだけかもしれないが、ときどきある大きな損失(確率と統計と不完全な人間がかかわっているトレードという仕事において当然予想されること)はカレンダーを数カ月も戻してしまうかもしれない。私は何十年もかけてこのような考えに至ったが、それができたことで資産が急速に増えた時期も経済的に苦しかった時期も大いに助けられた。
自らを隔絶してみると、すぐにそのメリットとは別に、ひとりきりで挑戦することの難しさがいくつか明らかになった。1つ目は自分の行動を日々報告する義務がないことで、2つ目は同僚の助けがないこと、そして3つ目はトレードに対する理解がある程度の水準に達したことによって知り得たいくつかの重要な発見や経過をほかの人たちにリアルタイムで伝えたくてたまらなくなったことだった。そこで私は2009年の映画「ジュリー&ジュリア」の精神にのっとって、密かにオンライン日誌を書くことにした。ちなみに、この映画が公開されたのは、私が日誌を初めてから1年後のことだったが、彼女も個人的に具体的な目標を立て、その過程を成功も失敗もブログで世界に報告していた。映画のなかで、エイミー・アダムス演じるジュリー・パウエルは1年間、毎日メリル・ストリープ演じるジュリア・チャイルドのレシピに従って料理を作ることを決意し、自身を鼓舞し、成長を記録するためにブログを書くことにした。レシピのなかには、チャイルドが1961年に書いた『マスタリング・ジ・アート・オブ・フレンチ・クッキング(Mastering the Art of French Cooking)』に載っている料理も含まれていた。私がのちに日誌に書いたとおり、パウエルの投稿のなかには、怖いほど私の人生と似ている内容があった。
このようにして、私のレースの後半(およびそのあとの人生)は2008年7月からライブで詳細に記録されていくことになった。そして、それを何千人ものトレーダーが毎日読み、一緒にカウントダウンし、ドンミラージャーナルというサイト(http://www.donmillerjournal.blogspot.com、のちの http://www.donmillerblog.com)を通じて私と交流してくれていた。この日誌は私の挑戦の半分しか記録されていないが、後半の6カ月間とおまけの時期だけでも、150万ドルのレースとなった。ちなみに、本書執筆のために資料をまとめてみて、私は初めてその価値を認識したのだった。
まず、手始めに、2008年7月の初めての投稿を見てほしい。
私は、当初の計画では2009年の初めまで「姿を消す」つもりだったが、途中で考えが変わり、自分のトレードをまったく新しい段階に押し上げてくれた発見について公開し、日々の考えやトレードや結果をつづった正式な記録をつけることにした。これまでと同様に、トレード結果が良くても、悪くても、醜くても、トレード記録と合わせて公開していくつもりだ。
ただ、それまでの「公の」人生と同様に、新しいサイトもまったく派手なことをするつもりはない。そういうことは単に嫌いなのだ。私はただのトレーダーで、トレードにおいて倫理的な側面が最も大事だと考えている。私がトレードを公開する唯一の理由は、私の挑戦を見守ってくれる人たちに、私の個人的な見解を伝えることにある。さあ、心機一転、新しい挑戦の旅を始めよう。
私の日誌について、宣伝のたぐいは意図的に行わなかったが、そのもくろみはもろくも崩れ去った。小さな雪の塊が瞬く間に大きな雪崩になってしまうように、私のサイトもアクセス数が急増し、トレード系ブログの2つのランキングでトップ10入りを果たしてしまったのである。
なぜ、このブログがそれほどみんなの関心を集めたのかは、今でもよく分からない。テレビのリアリティー番組にあれほどの人気が集まるのはそのせいなのだろう。もしかしたら、私のサイトもNASCARレースで高オクタン燃料車が、衝突や死亡事故もある高リスク・高リワードのレースに挑むのを楽しむような感覚で見られているのではないかと思った時期もあった。しかし、フォロワーと交流していると、そのような人や、それよりもひどい人(私の意図や誠実さや実際の結果に異議を唱えて私を精神的に追い詰めようとする人たち)もわずかながらいたものの、ほとんどの人たち(何千人にも上る)は、信じられないほど応援してくれていることが分かった。そして皮肉なことに、目標を達成するためにはどちらのグループも必要だということに私はすぐに気づいた。そればかりか、今振り返れば中傷が私の決意を強めてくれたことは明らかで、そう考えれば彼らの重要性はさらに高まる。つまり、私はみんなに感謝し、幸運を祈っている。
また、ブログがときとともに変化していったことにも気がつくと思う。例えば、初期のころの投稿は先物トレードについて基本的な情報や見通しを詳しく述べるとともに、私のトレードを新しい段階に押し上げてくれた新たな「ひらめき」についても書いていた。しかし、何年かたつと、ブログの焦点はトレーダーの動機や、教育や、支援に変わっていった。抜粋した日誌の前後の状況は、オンラインのブログをアクセスして補ってほしい。
ちなみに、この日誌は私が個人的な考えをまとめるためのもので、そのままの形で投稿することが最も適切な助言になるということを念頭に置いて書こうと思っていた。何年か前にテレビドラマの「マッシュ」で、アラン・アーブス演じるシドニー・フリードマンがシグムンド・フルードに手紙を書く場面があったが、これは実はフリードマンの自己療法なのだった。同様に、私が日誌を投稿するのも、読者に向けて書いたように見えても、実際には自分に向けて、集中しろ、軌道から外れるなと声掛けする目的で書いていたのである。前出の『ザ・サイコロジー・オブ・トレーディング』のなかでも、スティーンバーガー博士は客観的に自分の考えを見つめる「内なる観察者」の存在が心のバランスを保ってくれると書いていた。私の「観察者」はたまたまキーボードを打つことができたということだ。つまり、もし私のブログを読む人がだれひとりいなくても、私はほとんど同じことを書いていたと思う。
本書に載せた日誌は、スペルミスを直し、簡潔にしたり明確にしたりするために多少書き直した部分はあるが、ほとんどは当時ブログに投稿したときのまま掲載してある。新たに追加したのは、S&P500のEミニの15分足チャートで(アメリカの取引時間のもので、15期間の単純移動平均線付き)、その日のマーケットの全体的なリズムが分かれば、値動きに関するコメントが理解しやすくなると思ったからだ。そのため、これらのチャートには、実際には投稿日前後を合わせて3日分の動きを含めている。ただ、これらは全般的な背景を示しているだけであり、このような限られた情報だけでコメントやトレード理由をチャートに正確に当てはめようとするのは無益だし危険なことである。理由は、①日誌はもともと自分のために書いていたもので、すべての行動の理由を細かく説明しているわけではない、②NYSE(ニューヨーク証券取引所)のTICKチャートや3LBチャート(3本新値足)などさまざまなツールを使っていたが、それをすべて本書に載せることはできない、③そのほかにもさまざまなテクニカル分析を使っていた、④アメリカの取引時間以外に、ユーレックスでのトレードに関するコメントもあるが、すべてのチャートを掲載することはできない、⑤マーケットと関係のない理由や優先事項、疲れて集中力が落ちていたなどの理由で、あとから考えればチャートを見てもトレード理由が明らかではないケースがある――などといったことが挙げられる。⑤については、生活をしながらトレードしていれば、分かってもらえると思う。いずれにしても、Eミニ(EミニS&P500先物、銘柄コードはES)チャートを見れば、どのような日だったのかはある程度分かってもらえるだろう。
日誌は、多くはその日の夜に書いていたが、日によってはトレード時間中に時間とコメントをメモすることもあった。本書巻末の付録に、当時のメモで使っていた略語と頭字語を載せてある。また、日誌のなかには特定のテーマについて書かれたものや、内省的なものもあれば(これらは週末に書いていた)、時間の経過とともに創造力が向上したことを示すものもある(このなかには、意欲と謙虚さを高めるための月末の資産残高のグラフも含まれている)。ちなみに、2009年初めからは、日誌の投稿に動画も使い始めた。もちろん、それは本書には掲載できないが、私のサイトで今でも視聴できる。文章については、小学5年生のときの文法の先生に謝っておきたい。この日誌には、文法的な「許容」(文芸作品などで許される逸脱、不完全な文章や主語の省略など)が見られるが、もともと自分の考えをまとめるために書いていた文章なので乱文は許してほしい。繰り返しになるが、この日誌は私が記録したことを「肩越しに」のぞいているだけだということを忘れないでいてもらえば、日誌も本書も意図を正しく把握できると思う。
最後に、短期的なマーケットデータを見るときは常に言えることだが、毎時間の「ミクロ」情報と、マーケットや人生のその日の出来事やリズムといった「マクロ」情報を合わせて見ることを強く勧める。マーケットのチャートと同じで、トレードも正しい流れのなかで見なければ意味がない。結局、大事なのはマクロとミクロの出来事をバランスよく見て全体像をつかむことであり、そうすればさまざまな時期における私の考えをよりよく理解してもらえると思う。
日誌を書くメリットは、いくら書いても書き足りない。私が最も効率的にトレードできた期間が、毎日トレードに関する考えを日誌につける規律を持っていたときだったことは間違いない。
日誌のなかには、トレードテクニックについて教育的なことを書いたものもあるが、本を読んだだけでトレードを効率的に学ぶことは単純に不可能で、そんなに甘いものではない。それは例えて言えば、映画の「トップガン」を見て飛行機の操縦を学ぼうとするようなことだ。専門的な訓練は、育成に特化した質の高いプログラムに任せるべきだろう。ちなみに、そのようなプログラムのひとつがパート4で紹介するベータ版「ジェリー」トレードチームのビデオだが(トレーダー養成プログラムを記録したもので、収益の一部は慈善団体に寄付される)、もちろんほかにも信頼できるプログラムはある。本書に、特定のプログラム(ジェリープログラムを含めて)が最も優れていると主張する意図はまったくない。
私は、著者の誠実さと記録の信頼性が最も重要だと思っているため、本書ではトレードの資料を独自の方法でまとめてある。例えば、読者がある出来事を正しく把握するためには、具体的なパフォーマンスをマクロレベルとミクロレベルの両方で示すことが重要だと考えた。そこで、私が先物トレードを始めた2001年末から2011年10月31日までの10年間のデータもそのような形になっている。理由は3つある。まず、私の日誌は、その多くが2000年代後半に書かれたもので、そのパフォーマンスはパート2~パート6でミクロ的に分析していくが、それと同時に全体像――①すべてのトレード口座、②先物トレードを始めたころの状況(このなかには、多くの人が学習段階で被る「学費」とも言える損失や、本業とのバランスがとれないことによる損失、パート1で取り上げる高すぎるトレードコストなどが含まれる)――も示す必要があると考えた。2つ目に、全体像を示しておけば、うっかり良い結果が出た資金や期間ばかり選び、悪い結果を無視してしまうリスクを抑えることもできる。そして3つ目に、すべてを開示することは、ときに透明性を欠く業界において単純に正しいことだからである。
さらに、ブローカーの取引明細でさえ改竄が可能な時代において(2012年のPFGベスト社の事件など)、掲載したパフォーマンスのデータの有効性を確保するため、私は出版社に本書の内容に関する宣誓供述書を提出した。図らずも業界のリーダーと呼ばれる立場にある人は、誠実さと責任において高い基準を自らに課す必要がある。もちろん、私たちはいずれ神の前で責任をとることになるが、神は私が虚勢を張っているかどうかや、本の売り上げや、ブログの読者数などつゆほども気にしてはいない。大事なのは恥じることがないということなのである。
最後に、基本的なことだが、この日誌は「過去のパフォーマンスは、必ずしも将来のパフォーマンスを示すものではない」ということを念頭に置いて読んでほしい。これが素晴らしい結果についてもそうでない結果についても事実であることは、本書を読み進めれば分かる。
竹と同じように、トレーダーの仕事にも「地下」で成長する時期があるし(私の場合はそうだった)、成熟期に近づけば成長が鈍ることもある。幸い、金融市場のトレードは、後述するとおり、チャンスが開けたときはそれを最大限生かし、それがないときは損失を最小限に抑えるということに尽きる。金銭的な報酬が一定額ずつ支払われる仕事と違い、トレーダーの収入のピークはチャンスが開けた短い時期に集中する。トレーダーの報酬は、何年間も心身を整え、何百回もの失敗や傷を負いながら金メダルをもたらす3回転ひねりができるトレードの「体操選手」になったときに、やっと手にすることができる。しかも、それは身体が必要な能力を失ったり、ほかの人生を選びたくなったりするまえでなければ遅いのである。
私はこのようにして歩んできた。それまでに、何百回もの骨の折れる経験を重ね、そのあとにも捻挫程度のことはあった。後者には、2010年5月の「フラッシュクラッシュ」(株価の一時的な急落)や、2011年のMFグローバルの破綻や、個人的な決意(それまで蓄えた利益を温存し、人生とトレード利益以外の収入のバランスをとること)なども含まれている。
詳細な日誌からトレードに関する洞察を期待して本書を読んだ人が、失望しないことを願っている。そして、より良いトレーダーになりたくて手に取った本書で、トレードと人生の関係を知ることになっても驚かないでほしい。
竹やチャンスやトレード日誌について書く前に、まずその始まりについて、若いころの恵みや障害も含めて書いておきたい。
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