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『相場師マーク・リッチ
史上最大の脱税王か、未曽有のヒーローか』
著 者 ダニエル・アマン
訳 者 田村源二
2020年1月発売
定価 本体1,800円+税
四六判 446頁
ISBN 978-4-7759-7261-8 C2033
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著者インタビューパンローリングチャンネルにリモート出演いただきました。 (20/10/07)![]() 掲載されました。ビジネスブックマラソン vol.5442に、本書の書評が掲載されました。(2020.1.27)
「先日起こった、アメリカとイランの緊張 状態も、本書を読めば、より理解が深まる」 ――土井英治様
米国経済誌フォーチュンが本書より引用し、カルロス・ゴーン被告の国外逃亡をマーク・リッチにたとえる記事を掲載しました。(2020.1.16) |
一方で、アメリカが禁輸国に指定しているイラン、南アフリカ、キューバや、その他発展途上国の独裁国と原油をはじめとする鉱産物の取引を行い、巨万の富を築きながらも、納税を免れたアメリカ史上最大の脱税王であり、最大の悪魔であり、売国奴!
冤罪を訴えるも、「国賊」と決めつけるアメリカ司法省から逃れるために、スイスに移り住む。17年後、熱心なクリントン支持と献金のおかげで、クリントン大統領の在職最終日に特赦を受けるも、メディアからのバッシングはやまず、帰国がかなわず、子供の死に目にも会えなかった!
ただ、メディアが流す「マーク・リッチ像」とは異なり、リッチはイスラエルとパレスチナの和平プロセスを支援したり、パレスチナ自治政府のための訓練プログラムを実施したりしている。また、アメリカの禁輸制裁国と取引をして、そこに住む貧しい国民たちを豊かにしたことも確かである。
偉大なトレーダーであり、売国奴であり、脱税王であり、最大の悪魔などとレッテルを貼られた、地球を相手に取引した謎だらけのマーク・リッチの真実の姿が明らかになる!
謝辞
第1章 まぎれもないキング・オブ・オイル 第2章 最大の悪魔 第3章 ユダヤ人の運命 第4章 アメリカン・ドリーム 第5章 目覚めた原油 第6章 イスラエルとシャー 第7章 マーク・リッチ社 第8章 アヤトラ・ホメイニとの取引 第9章 訴訟 第10章 ルディ・ジュリアーニの失敗 |
第11章 法を犯したことは一度もない スケープゴートが必要だった/はなはだしい過剰反応/リッチが犯した最大のミス/アメリカへ戻らなかった理由 第12章 マーク・リッチを捕まえろ 第13章 秘密交渉 第14章 成功の秘密―アンゴラから南アフリカまで 第15章 驚くべき貢献 第16章 私生活 第17章 キング・オブ・オイルの最期 第18章 特赦 第19章 マーク・リッチの未来予測 第20章 エピローグ―グレー・ゾーン あとがき――マーク・リッチ(一九三四~二〇一三)の遺産 |
リッチは約束した昼食の時間に遅れてやって来た。遅刻をあれだけ嫌悪していたのに。その日の朝は素晴らしい天気で、七八歳になるリッチもつい誘惑されてゲレンデに出てしまったのである。「悪癖はなかなかやめられない」。指のあいだに挟まれたキューバ産コイーバについてわたしが尋ねると、彼はそう説明した。数年前、健康に不安を抱えて一度禁煙したことがある。その陽光あふれる冬の日、リッチは昼食後にお気に入りのウイスキー、ジョニー・ウォーカーの水割りを楽しみ、体調はだいぶ良さそうだった。
これが最後の面会になりそうな気配などまったくなかった。だが、その年の六月二六日、リッチは脳卒中を起こし、ルツェルンの病院で他界した。そして、翌日、イスラエル第二の都市テルアビブの東方に位置するキブツ・エイナトの非宗教的な墓地に埋葬された。その傍らには、一九九六年に白血病で亡くなった娘のガブリエルが眠っている。
もしリッチがあの世で自分の死亡ニュースの内容を知ることができたら、きっと喜んだにちがいない。世界の主要メディアのすべて―『エコノミスト』から『ル・モンド』や『フィナンシャル・タイムズ』まで、『デア・シュピーゲル』からCNNや『エル・パイス』まで―が、彼の生涯と仕事について大々的に報じたのである。言うまでもないが、どの紙誌、放送局もみな例外なく、検事たち言うところのアメリカ史上「最大の脱税」の容疑でリッチが起訴されたことにも触れた。さらに、その他の〝汚点〟をいくつも列挙した。たとえば、あのアメリカ大使館人質事件の最中に敵国イランと取引して告発されたこと。そして、もちろん、数々の禁輸措置を巧みにすり抜け、あらゆる独裁者、暴君と取引し、人種隔離政策下の南アフリカに石油を供給したこともあった、という事実。リッチの物議を醸した取引―その多くは本書で初めて明かされた―に対する人々の激しい憤りによって、彼はずっと、まさに死に至るまで、暗い陰へと追いやられてきた。いや、それは死後も続いた。そう、言うまでもなく。
最後の評価は間違いなく誇張でもなんでもない。一九七四年にスイスのツークという町に設立されたマーク・リッチ社(Marc Rich + Co. AG.)こそ、原油においてもスポット市場を実現して自由競争市場を創り出したのだから。そして、おもに外部から資金を調達して取引を行う、同社のハイリスク・コモディティ・トレードというビジネスモデルは、今日に至るまで無数のトレーダーの手本となってきた。
サンモリッツで最後に会ったときリッチは、自分が世界最大手の商品取引商社のなかに数えられるグレンコアとトラフィグラの事実上の創業者であるということに誇りをあらわにした。グレンコアはマーク・リッチ社の後身であり、二〇一一年五月に有名な秘密主義を捨て去り、公開会社となった。その当時、通信社のロイターはグレンコアを「聞いたことがないほど巨大な企業」と説明している。一方、トラフィグラのほうは、現在、大手石油商社のひとつであり、一九九三年、リッチ〝帝国〟の主要幹部のうちの二人によってルツェルンに設立された。
今日、グレンコアとトラフィグラの重要性をどれほど強調してもしすぎることはない。二社の年間売上高を合計すると四〇〇〇億アメリカドルにもなるのだ。GDP(国内総生産)がこれよりも少ない国が世界には一六〇もある。そのうえ、この二社が世界の商品取引に占めるシェアはかなり大きい。先進工業国のどの家庭にもグレンコアが何らかの形で係わった製品が必ずある、と考えてまず間違いない。
ブルームバーグはグラゼンバーグを世界三大企業家のひとりと位置づけている。トラフィグラのCEOを長いあいだ務め、二〇一五年に肺癌で亡くなったクロード・ドーファンの場合は、リッチのもとで初めて担当したのがボリビアでの亜鉛取引であり、その後、リッチの原油取引全体を指揮するようになった。いまもトラフィグラの重役のままであるエリック・ドゥ・チュルクアイムは、もともとはフランスの銀行パリバの行員で、ロンドンで長期間リッチの財務を取り仕切った。「彼らは全員、ビジネスをわたしから学んだんだ」とリッチは真顔で説明した。かくして、リッチ亡きあとも、世界の商品取引への彼の影響は、間違いなく何十年か続く。
世界市場の先行きについても、マーク・リッチはほかのだれよりも正確に予測できた。商品取引という道を歩きはじめた初っ端、原油取引に革命的変化をもたらしたとき、リッチはすでにそれを証明して見せたが、キャリアも終わりに近づいたころ、ふたたび将来の世界市場をしっかりと予測した。商品取引は相変わらず極めて重要だが、これからは原料を入手する力も決定的なファクターとなる、ということに―競争相手よりもずっと先に―気づいたのである。「われわれは原料の生産についてもより強大な支配力を持ちたいと思った。だから、鉱山、精錬所、製油所を買いはじめた」とリッチはサンモリッツでわたしに言った。「コモディティを売買するだけというのは、もはや成功するビジネスモデルとは言えなくなった」
もちろん、リッチの予測は的中した。近年、天然資源を求める闘いは急速にヒートアップしている。工業国の経済は原料入手力に完全に依存しているし、増大しつづける中間層、とりわけアジアでの激増によって、エネルギー、金属、鉱物への需要がどんどん膨れ上がっているのだ。世界の資源消費量は二〇五〇年までに三倍になる、と国連は予測している。
中国、インド、ロシアといった大発展を成し遂げようと奮闘する諸国は、文字どおり原料に飢えていて、みな例外なく世界経済が生み出す利益の分け前に与ろうと懸命になっている。そして、中国のコモディティ政策が如実に示してきたように、それは全世界に影響をおよぼしている。〝世界の中心の国〟という意味の国名を有する中国は、もうかなり前から原料を確実に確保できる国になろうと努めてきた。だから、いまも莫大な資金を投入してアフリカや南米の鉱山や会社を獲得している。と同時に中国は、レアアース(希土類)、マンガン、ボーキサイトといったコモディティ―いずれも現代産業に欠かせないもの―の先進諸国への輸出を制限している。二〇一四年の春にWTO(世界貿易機関)によって禁止された、そうした不公平な貿易慣行は、世界の商品取引において確執が生じていることを暴露してきた。そうした衝突は今後数年のうちに激化するはずである。
最後にもうひとつ、本書のなかで語られるマーク・リッチの物語からわれわれが学びとれることを挙げておきたい。それは、国益がかかっている場合、とりわけ石油や金属といった戦略的に極めて重要なものを確保できるかどうかというとき、どのような政治的色彩の政府であろうと、道徳やイデオロギーに目をつむる用意がつねにある、ということだ。
二〇一九年一〇月
ダニエル・アマン
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