超刺激
著 者:ニクラス・ブレンボー
訳 者:伊藤和子
定 価:本体2,200円+税
判 型:四六判/336ページ
発売日:2026年10月
ISBNコード:978-4-7759-4316-8
スマホ、加工食品、SNS……その欲望、本当にあなたのものですか?
人類は進化した。
でも、ジャンクフードには負けた。
ポテトチップスをもう1枚。
動画をもう1本。
SNSをあと5分。
そして「もうやめよう」と思ったのに、なぜかまたポテトチップス。
いったい、誰が悪いのか?
私たちの脳は、進化の長い歴史のなかで、これほど強烈な刺激に囲まれることを想定していなかった。ところが現代には、自然界ではありえないほど「おいしい」「気持ちいい」「もっと欲しい」を詰め込んだ商品やコンテンツが、そこらじゅうにあふれている。生物学者が「超正常刺激」と呼んできたものが、いまや私たちの日常を取り囲んでいる。それが「超刺激」だ。
ジャンクフード、セックス、ドラッグ、SNS、ゲーム、スクリーン、さらには「理想のボディ」まで。私たちは毎日、脳の弱点をピンポイントで突かれている。
そりゃ、勝てません。
デンマークの科学者ニクラス・ブレンボーが、進化生物学や行動科学の知見をもとに、私たちの「もっと欲しい」の正体に迫る。動物たちの驚くべき行動から、人間を対象にした心理学実験、肥満や依存、ポルノ、SNS、ゲーム、身体イメージまで。さまざまな研究から、人間の脳と行動を動かすしくみをひも解いていく。なぜ私たちは、わかっていても誘惑に負けてしまうのか。そのしくみを知れば、私たちの日常も少し違って見えてくる。
そして今日も、私たちは「もう十分」と言いながら、ポテトチップスに手を伸ばす。
――知れば知るほど、人間ってちょっとおかしい――
目次
PART1 食べ物の超刺激
第1章 現代人の体重
第2章 空腹感をハイジャックする
第3章 白い黄金
第4章 ウサギ飢餓
第5章 スカイダイビングと食塩に共通するもの
第6章 アマゾンの森林からの健康アドバイス
第7章 ジャガイモダイエット
第8章 ダイナマイトからダイエット薬まで
PART2 性と薬物の超刺激
第9章 セックスとボトルの呪縛
第10章 至福の境地への近道
第11章 幸せの草
第12章 ドーパミン、それについてあなたが知るべきこと
PART3 スクリーンの超刺激
第13章 つながり(現実世界での)
第14章 果てしないスクロール
第15章 大きな池の小さな魚
第16章 化粧品から核兵器まで
第17章 ステロイドで理想のボディ
エピローグ 大きな世界の小さな人間
プロローグ 小さな鳥と大きな卵
鳥カゴの中に小さな鳥がいる。大きな卵をちらっと見て、「どうしようかな」というようにちょっと首をかしげる。そして、卵に跳び乗ろうとするが、どうにもうまく行かない。卵は鳥と同じくらいの大きさだ。鳥がその上に座ろうとすると、そのたびに卵がまわって、鳥は滑り落ちる。
数メートルほど離れて、その様子を見守っていた2人のオランダ人科学者は顔を見合わせてクスッと笑った。作戦成功。鳥はまんまとだまされた。
科学者の一人はニコラス・ティンバーゲン。彼はのちにこの実験や、これと似た数々の実験で、ノーベル生理学・医学賞を受賞することになる。だまされた鳥はミヤコドリ。読者は浜辺でこの鳥を見かけたことがあるかもしれない。背中の羽は黒く、おなかは白い羽毛に包まれ、脚とくちばしが赤いのが特徴だ。ミヤコドリは普通、重さ50グラム足らずの茶色い小さな卵を産む。ところが、ティンバーゲンらは、この鳥が実物よりもはるかに大きい卵を好むことを発見した。石膏で大きなニセ卵をこさえると、鳥はすっかりそれに夢中になり、自分が産んだ卵ではなく、ニセモノの卵を育てようとする。
産んだ卵の中で、いちばん大きな卵を大事にする本能があるため、とびきりでっかいニセモノに引かれるのだ。自然界では、大きさは健康の証。大きな卵は無事に孵化して、立派な成鳥になり、繁殖に成功する確率が高い。とはいえ、ミヤコドリのような小さな鳥が抱卵できる卵のサイズには限度がある。だが、ミヤコドリにはその限度がわからない。「大きいことはいいことだ」と信じて疑わないのだ。
石膏の大きなニセ卵は、ティンバーゲンがのちに「超正常刺激」、もしくは「超刺激」と名付けたものを示す好例だ。それは、動物が本能的に引かれるものをあり得ないほど誇張したもの。自然界に見られるものより大きく、鮮やかで、強烈な刺激だ。
超刺激はミヤコドリをだますためだけでなく、ほかの鳥たちにも使われてきた。たとえば、かわいい声で鳴くマダラヒタキ。体長10センチほどの小さな鳥で、緑がかった青色の小さな卵を産む。この鳥もミヤコドリのように健康そうな卵を大事にするが、決め手となるのは卵の色。マダラヒタキは鮮やかな色の卵を好む傾向がある。
そこで研究者たちは、石膏でつくったニセの卵にほんの少し青い絵の具を塗ってみた。それで十分。本物の卵よりもはるかに鮮やかな色をした、自然界ではあり得ない魅力的な人工卵が出来上がり、マダラヒタキはまんまとひっかかった。ミヤコドリと同様、自分が産んだ卵より、色鮮やかなニセモノを育てることに夢中になったのだ。
ニセ卵のような仕掛けをつくらずとも、もっと簡単にだませる鳥たちがいることもわかってきた。ある実験では、研究者たちはガチョウの群れの中に数個の真っ白なバレーボールを置いた。母鳥たちは大きくて白いボールに大興奮し、自分の卵をほったらかしにして、抱いて温めようとした。
鳥はそんなに利口ではないから? さあ、どうだろう。
著者紹介
ニクラス・ブレンボー(Nicklas Brendborg)
デンマークの科学者、作家。国際的なベストセラーとなった著書『寿命ハック』(新潮社)は30カ国語以上に翻訳され、英王立協会科学図書賞の最終候補に選出。同賞の最年少ファイナリストとなった。コペンハーゲン大学にて分子バイオメディスンおよびバイオテクノロジーの学士号と修士号を取得し、現在は分子生物学の博士課程に在籍。これまでにノボ ノルディスク・インターナショナル・タレント・プログラムやノボ ノルディスク・スカラーシップ・プログラムなどに選出されている。待望のポピュラーサイエンス・シリーズ第2弾となる本書は、2023年にデンマークでベストセラーを記録。こちらも世界各国で翻訳が進められている。
伊藤和子(いとう・かずこ)
早稲田大学第一文学部卒業。創刊時よりニューズウィーク日本版の翻訳、編集、ナショナルジオグラフィック日本版の翻訳に携わる。訳書に、『不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100』(CCCメディアハウス・共訳)、『進化心理学から考えるホモサピエンス』(パンローリング)などがある。







