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ウィザードブックシリーズ Vol.305

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イェール大学流資産形成術 イェール大学流資産形成術
顧客本位の投資信託とは何か

著 者 デビッド・スウェンセン
監 修 長岡半太郎
訳 者 山下恵美子

2020年11月発売/A5判 486頁
定価 本体 2,800円+税
ISBN 978-4-7759-7276-2 C2033

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著者紹介目次

これを実践すれば、投資信託で利益を上げられる!
ついに日本にも到来する「顧客本位、受益者の利益を守る時代」のバイブル

 顧客本位でない投資信託のパフォーマンスは平均投資家のパフォーマンスを常に下回っている。こんな衝撃的な事実を、デビッド・スウェンセンは動かぬ証拠を持って、本書で突き付けている。高額な管理手数料を徴収したり、ポートフォリオに含まれるアセット(資産)の頻繁な入れ替えをしたりと、投資信託運用会社は自己利益を飽くことなく追求することで、受益者の利益を大いに損ねている。おそらく投資家にとって最も有害なのは、投資家の選択肢を限定してリターンを低減する秘密のスキームだ。例えば、自分たちの商品を優先的に売ってもらうために、金融サービス会社に支払う不必要な手数料や、最新情報を反映しない古い価格を提示する詐欺的な手法だ。また、ソフトダラーという機関投資家が証券会社から通信料や電子情報端末の使用料などを肩代わりしてもらう代わりに、手数料を多めに支払う取引慣行もそうだ。

 一般投資家が自己利益を追求する投資信託業界とかかわらずにすんだとしても、自ら苦難を招く場合もある。負けの銘柄を売って、勝ちの銘柄を頻繁に買うというよく見られる習慣はポートフォリオのリターンを下げ、税金を増大させる。これは投資家の熱意を打ち砕くダブルパンチだ。

 つまり、一般投資家にはいくら努力しても越えられない壁があるということである。

 そこで、スウェンセンが提案するのは、大勢の逆を行く投資法だ。株式を主体としたよく分散された「市場を模倣する」ポートフォリオは、困難を乗り越える勇気を持った投資家に多くの報酬をもたらす。スウェンセンは、投資家にやさしい顧客本位の投資会社であるバンガードやTIAA-CREF(米教職員保険年金連合会・大学退職株式基金)で、彼が提唱する逆張り投資、つまりそれは少数派の投資法であり、大勢に流されない投資法を実践することに限ると提案している。個人投資家が今すぐやるべきことは、アクティブ運用のファンドを避け(持っているのならば解約)、顧客本位の投資信託を買うことだ。これは、投資信託で成功する一番重要なことだ。

本書は、個人投資家が投資信託で資産を増大させるノウハウがぎっしり詰まっている!


著者紹介

デビッド・F・スウェンセン(David F. Swensen)
イェール大学のCFO(最高投資責任者)。140億ドルを超えるエンダウメントファンドを運用。彼の指導の下、イェール大学は過去20年にわたって年間16.1%という他の追随を許さないリターンを上げてきた。仲間や競合他社からの信望も厚い。1985年にイェール大学で職を得る前は、ウォール街で6年(リーマン・ブラザーズに3年、ソロモン・ブラザーズに3年)を過ごし、新しい金融技術の開発に携わった。ソロモン・ブラザーズでは、最初のスワップ取引として知られているIBMと世界銀行の為替取引を構築した。著書に『パイオニアリング・ポートフォリオ・マネジメント(Pioneering Portfolio Management : An Unconventional Approach to Institutional Investment)』(パンローリングから近刊予定)がある。TIAA(米教職員保険年金連合会)、ワシントンのカーネギー財団、ブルッキングス財団の受託者、およびホプキンス受託者委員会の財務責任者を務めている。イェール大学では、エリザベスクラブの一団体バークレイ・カレッジと国際ファイナンスセンターのフェローに就き、イェールの学部およびビジネススクールで経済学とファイナンスを教えている。
原題:
Unconventional Success : A Fundamental Approach to Personal Investment by David F. Swensen
Unconventional Success

本書への賛辞

「投資信託会社は、『業界全体で投資家から搾取する』というファンド業界の『壮大な失敗』を知的にかつ徹底して分析したスウェンセンの仕事を快く思わないだろう。アメリカで最も成功し最も誠実なマネーマネジャーであるデビッド・スウェンセンの手による本書は、投資信託に対するあなたの考え方をがらりと変えるはずだ。今こそ、彼が本書で提示するエレガントでシンプルなアドバイスに従うときだ」――ジョン・C・ボーグル(バンガードグループの創設者で元CEO)

「スウェンセンは最高だ! 常にパイオニアであり続ける彼の新作がついに登場した。聡明で実用的な投資アプローチならスウェンセンの右に出る者はいない」――バートン・ビッグス(モルガン・スタンレーの元チーフグローバルストラテジスト)

「伝説の機関投資家が、欠陥だらけの商品を個人投資家に提供する金融サービス会社と受益者の利益の衝突を暴露する。スウェンセンは、ETFを通して、または投資信託でない投資信託会社を通して、低コストで税効率の優れた市場を模倣するファンドを買うことを勧めている。本書はまさに個人投資家が資産形成するための基本書である」――バートン・G・マルキール(『ウォール街のランダム・ウォーカー』の著者)

「デビッド・スウェンセンは今日を代表する最高のエンダウメントマネジャーの1人だ。投資信託業界の犯した過ちの概要をまとめた本書は、投資においてより良い意思決定をするうえで役立つものだ」――マイケル・F・プライス(MFPインベスターズの業務執行社員)

「残念ながら、われわれの資産運用業界の底部には分厚い汚泥の層が存在する。本書はその汚い部分を見事なまでに詳細に描写したものだ。その醜さには度肝を抜かれるが、これは紛れもない事実である。資産運用業界に潜むワナを避け、そして大金を失いたくなければ、今すぐ本書を読むべきだ」――ジェレミー・グランサム(GMO会長)


目次

概説

第1章 リターンの源泉
アセットアロケーション
基本的な投資原理
マーケットタイミング
銘柄選択
税金に対する感度
課税の繰り延べ
配当、利息、キャピタルゲイン
本章のまとめ

第1部 アセットアロケーション

はじめに

第2章 コアアセットクラス
国内株式
米国債
インフレ連動債
外国の先進国株式市場
新興国の株式市場
不動産
本章のまとめ

第3章 ポートフォリオの構築
ポートフォリオ構築の科学的側面
個人の好みにフィットさせるアート的側面
投資期間
本章のまとめ

第4章 非コアアセットクラス
国内の社債
高利回り債
免税債
資産担保証券
外債
ヘッジファンド
LBO
ベンチャーキャピタル
本章のまとめ

第2部 マーケットタイミング

はじめに

第5章 好パフォーマンスの追っかけ
インターネットバブルに流れ込んだ投資信託
メリルリンチ・インターネット・ストラテジーズ・ファンド
投資信託の広告
チャールズ・シュワブの強気相場時の広告
パフォーマンスの都合の良い提示方法
モーニングスターの格付け
本章のまとめ

第6章 リバランス
リバランスの心理
1987年の株価大暴落後の投資家の挙動
インターネットバブルに対する投資家の反応
ポートフォリオアロケーションに無関心な個人投資家
リバランスによるリターン・リスク特性の向上
リアルタイムのリバランス
本章のまとめ

第3部 銘柄選択

はじめに

第7章 投資信託の市場に対するアンダーパフォーマンス
一般的な背景
投資信託のパフォーマンス
税金とファンドのリターン
本章のまとめ

第8章 投資信託が失敗する明白な理由
投資信託の手数料
販促手数料
ポートフォリオの銘柄入れ替え
本章のまとめ

第9章 投資信託のパフォーマンスを下げる隠れた要因
受託者責任と利益の追究
ペイトゥープレー
価格ゲーム
ソフトダラー
本章のまとめ

第10章 アクティブ運用ゲームで勝利するために
マネジャーの望ましい性質
サウスイースタン・アセット・マネジメント
本章のまとめ

第11章 ETF
ETF
ETFの売買
アービトラージメカニズム
市場の厚み
税効率
コアアセットクラスのETF
構造に欠陥のあるETF
本章のまとめ

終わりに

第12章 顧客本位の原則を無視した投信会社の偽計
自己利潤追求型の組織の構造と顧客本位の組織の構造
法律上と規制上の対応
本章のまとめ

付録1 投資損益の計測
付録2 アーノット、バーキン、イエによる投資信託のリターン調査

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監修者まえがき

 アメリカの大学における基金のなかでもイェール大学の運用基金は資産規模の大きさや卓越した運用成績によって広く知られているが、本書はそこでCIO(最高投資責任者)を務めてきたデビッド・F・スウェンセンが著した“Unconventional Success : A Fundamental Approach to Personal Investment”の邦訳である。本文中にもあるとおり、これは個人投資家が自らの資産形成を行うにあたって最も適切と考えられる方法(インデックスファンドを利用した受動的な資産配分)を提案したものである。この原書が発行されたのは十五年ほど前であり、こうした方法は当時のアメリカにおいても型破りなものとみなされていたが、その後の歴史は結果的にスウェンセンの主張が完全に正しかったことを証明している。

 さて、本書の後半では、(当時の)アメリカの投資信託業界に対する厳しい批判が展開されているが、この問題は時間の経過とともに現在では解決に向かいつつある。だが、日本の投資信託業界の状況はアメリカよりはるかに遅れており、残念ながら本書後半での指摘のかなりの部分がいまだにそのまま当てはまることになる。これについては、「そんなことはない」と主張する関係者も少なくないだろうが、この業界が本当に受益者のために行動してきたかどうかは、自分の胸に手を当てて考えてみればすぐに分かることだ。

 一方で、私たちは将来の経済的な安定のために個々人が資産形成を行う必要に迫られている。これは日本の社会全体として避けては通れない課題であり、投資信託はその解決に使える有力な手段の一つであるが、そういった社会的要請に積極的に応えようとする組織はいまだに出現していない。

 しかし、約1世紀前に魯迅が、精神を病んだ祖国の社会に対する深い絶望のなかで、それでも「絶望が虚妄であるのは、まさに希望と同じである」と書き、未来を信じて進むことの大切さを説いたように、利己的に見える投信業界のなかにも一縷の希望はある。

 2017年に行われた講演で金融庁の森信親長官は、投資信託全体のなかで個人の資産形成に適したファンドは1%もないと指摘し、今後は顧客本位の業務運営を行わない金融機関は淘汰させると述べて、監督官庁として断固たる姿勢を示し、関係者を震撼させた。このように投信業界にはこれまで自分自身の手で改革を行う自浄作用がなかったことはまことに不名誉なことだが、それを機に自社のレゾンデートルを問い直し、その在り方を変えようと考えている関係者も少なくないだろう。投信業界は低金利や競争過多による運用難によっても非常に厳しい局面を迎えており、今後は経営が立ち行かなくなる会社も出てくるはずだ。いやだからこそ、その焦土の灰のなかから真に顧客本位の資産運用組織が生まれてくるものと信じたい。

 なお、資産形成における投資資産配分については『アセットアロケーションの最適化―ポートフォリオの構築とメンテナンスのための統合的アプローチ』が、インデックスファンドの長所と利用法については『インデックス投資は勝者のゲーム―株式市場から確実な利益を得る常識的方法』(いずれもパンローリング)が非常に詳しい。参考にしていただければ幸いである。

 最後に、翻訳にあたっては以下の方々にお礼を申し上げたい。山下恵美子氏は正確な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。

2020年10月

長岡半太郎


第12章 顧客本位の原則を無視した投信会社の偽計

 顧客本位の考え方をせず、自己利益を追求してきた投資信託業界の欺瞞を証明する証拠は山のようにある。受益者に高いリスク調整済みリターンを提供するという運用者としての責任は、投信会社自体に大きな収入をもたらすということを目の前にすると、投資家のリターンはおざなりにされ、会社の利益のほうが優先される。

 資産運用の世界ではパワーバランスは自己利潤追求型の投信会社に圧倒的に有利に傾いているため、投資信託の投資家が投資目標を達成することはまずない。知識の豊富な金融サービスの提供者と無知な消費者が対立すれば、結果は火を見るよりも明らかで、ヘビー級のチャンピオンと50キロの虚弱体質の者が戦うようなものだ。個人投資家は第1ラウンドでノックアウトされてしまう。

 個人投資家が勝利するには、自己利益を動機とする会社を避け、自己利潤追求者とパフォーマンス追求者の対立を極力減らすかなくすような会社を選ぶことだ。顧客本位の会社の組織構造は、投資運用会社に受託者責任を遂行することだけに集中させる。さらに、顧客本位の会社の場合、成功報酬がないため投資家にとってはコストが安くなる。資産運用の世界では、顧客本位の会社を選ぶのが安全な道だ。

 自己利潤追求型の顧客本位の会社の世界では、会社のオーナーシップの性質と質によって違いが分かれる。その1つが上場企業と非上場企業の違いだ。非上場企業の投信会社は受益者の利益を推進することもできるが、上場企業の投信会社は普通は奴隷のように自己利益を追求する。もう一つの違いは、独立した運用会社と金融サービス会社の子会社の違いだ。独立企業も子会社も自己利益を追求しようとすることは同じだが、より大きな会社権限に奉仕する投資運用会社は資産運用だけを行う会社に比べると、はるかに大きな対立に直面する。

 SEC(証券取引委員会)が施行する規制も受益者の利益を守ることはできない。慢性的に人員不足で常に働きすぎ気味の市場の警察は常に後手に回る。彼らは人目を引くような問題にのみ対応し、解決策を講じ、骨抜きの改革を行うのがせいぜいだ。一方の業界は、新しく施行された効果のない規制と対立するのを避けながら、目標とする慣行を継続する方法を編み出す。最悪の場合、SEC は投資家に不都合な活動を促進するような逃げ道を作り出すこともある。SEC は投資信託業界の策略に付いていくことすらできない。

 SEC による情報の開示要求もまた受益者の利益を守ることはできない。自由市場の有効性を信じる企業文化に対し、情報の開示要求は規制当局にとって投資信託業界の悪い慣行に対する最初の、そして最後の防衛策だ。しかし、開示要求は何の役にも立たない。まず、開示文書を読む投資家はほとんどいない。たとえ投資家が何百ページにもわたる目論見書や、入手が難しい追加情報(SAI)、簡単に入手可能な年次報告書を注意深く読んだとしても、そういった情報をどう利用すればよいのかは分からない。投資家にとって残念なのは、SEC はあまり読まれない文書の開示を要求するだけで、ファンドマネジャーたちの悪い慣行の継続を助けているということである。表面的には情報は入手可能に見えるが、実際にはその情報を利用できない投資家は苦痛を感じるだけだ。

 個人投資家が取れる唯一の合理的な道は、自己利潤追求型の投資運用会社を避け、アクティブ運用の誘惑に負けないことである。今日の投資信託業界から自己利潤追求型の会社によって運用される資産と市場を打ち負かそうとする野望によって運用される資産を取り除けば、ほとんど何も残らない。投資信託は投資家をショッキングなほどの不利益にさらしながら巨額の料金を取っているのである。

自己利潤追求型の組織の構造と顧客本位の組織の構造

 リスク調整済み超過リターンを提供してくれるアクティブ運用の投資信託を見つけたいと思っている投資家の前には大きな障害が横たわる。ポートフォリオマネジャーの無能さと性質にかかわる障害もあれば、投資家の願望と会社の目標との対立にかかわる障害もある。投資家は、至るところで不十分な情報に基づいて難しい査定をしなければならないという問題に直面している。

 また、投資家は受益者の利益を優先的に考えてくれる組織構造を持つファンド運用会社を探すのにも苦労するが、前述の問題に比べれば苦労は少ない。自己利潤追求型投資マネジャーを調査するとき、注意深い投資家はファンドマネジャーの行動に注目し、一般公開されている料金表をチェックし、投資リターンを低下させる隠れた手数料はないか、キックバックはないかを調べる。事情通の投資信託の投資家は、投信会社の自己利益に対する姿勢と受託者責任の間には本質的な対立が存在することを知っている。顧客本位の投信会社の場合、投資家の目標を最優先することと会社の利益を生み出すことの間に対立は存在しない。顧客本位の投信会社を評価するとき、投資家は彼らの考えと投信会社の考えが一致することを知ることでまずは安心する。自己利潤追求型のファンドマネジャーは目標が一致しないことによる認知的不協和を起こすが、顧客本位のファンドマネジャーは受託者責任を全うするという1つの目標に向かうことができる。

 自己利潤に対する追求が消えれば、投資家を欺くこともなくなる。過剰な運用手数料もなくなり、12b-1手数料も消え、ポートフォリオの入れ替え率は下がり、資金集めもなくなる。顧客本位のファンド運用会社は自社商品を優先的に販売してもらうための手数料を支払うことはなく、マーケットタイマーと結託することもなく、ソフトダラーも使わない。顧客本位の会社と彼らの投資家との間の利害の一致は、自己利潤追求型の会社と彼らの投資家(被害者)との間の利害の不一致を打ち砕くだけの力がある。

 投資信託の受益者の視点から言えば、顧客本位の会社は彼らにとって明確な金銭的メリットがある。自己利潤追求型の会社は同じサービスに対して顧客本位の会社よりも多くの手数料を取る。利益を生み出すには、投資サービスにかかる基本的なコストを上回る手数料を課す必要があるのは簡単な算数を行えば分かる。顧客本位の会社の場合、ファンド会社の成功報酬に相当する分の手数料相当分もファンドの株主の利益になる。

 しかし残念ながら、顧客本位の投資信託の運用会社はほとんど存在しない。表12.1に示した資産が上位10社のファンド会社(2003年末現在)を見ると、4社が保険会社の子会社、3社が上場企業、2社が自己利潤追求型の非上場企業で、顧客本位の会社は1社のみである。所有者構造は投受益者が得られるリターンの性質と質に大きな影響を及ぼす。

 受益者の利益にとって最大の脅威となるのは、上場企業と金融サービス会社の子会社だ。上場企業の株主は利益を要求する。資金運用会社の親会社は子会社に利益に貢献することを求める。不幸なことに、利益に対する追求が投信会社を明らかに受容可能な状態から、合法かどうか疑わしい状態へ、そして非倫理的すぎる状態、そして明らかに違法な状態へと変化させる。こうしたケースは後を絶たない。投資信託の受益者と、親会社の利益を最優先する自己利潤追求型の会社の間には大きな隔たりがあり、その隔たりが利害の衝突を生む。

 自己利潤追求型の非上場企業も顧客と利害の対立はあるが、上場企業や金融サービス会社の子会社ほどではない。利益は上場企業にとっても非上場企業にとっても不可欠なものだが、上場企業の経営陣はさまざまな株主の要求を満たすために純利益を上げることに心を一つにして取り組む以外にない。これに対して、非上場企業の経営陣は自らが実質的な所有者であるため、非金銭的なことを優先するという選択肢がある。非上場の投資信託会社は、会社の利益よりも顧客の利害を優先させる傾向があるという証拠もある。例えば、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、2003年初めの投資信託スキャンダルのとき、非上場の三大ファンドファミリーは比較的行いが良く、上位10社に次ぐ利潤追求型の7社よりもマーケットシェアを伸ばした(ユカ・ハヤシ著「Big Fund Firms Post Strong Inflows: Fidelity, American Funds, Vanguard Increase Business Despite Industry Scandal」、ウォール・ストリート・ジャーナル2003年12月1日付け)。しかし、上場・非上場とは無関係に、自己利潤追求型の会社は、受益者のリターンを向上させる可能性はあるものの、結局は自己利益を追求する。ファンド運用会社の利益が増えれば、受益者のリターンは確実に減る。

バンガードとTIAA-CREF

 投資家にとっての朗報は、顧客本位の大きなファンドが2つ存在することだ。彼らは受益者の利益を最優先するという企業文化を持っている。2003年12月31日現在の長期運用資産が6150億ドルのバンガードと運用資産が2720億ドルのデビッド・スウェンセンが受託者を務めているTIAA-CREF(米教職員保険年金連合会・大学退職株式基金)は高い受託者責任基準に従い、ファンドマネジメントプロセスにおいて受益者の利益を最優先する(データの出所はモーニングスターと2003年12月31日付けのTIAA-CREF の2003 Annual Reports)。バンガードとTIAA-CREFは低コストの投資商品を提供することで、個人投資家にポートフォリオ構築プロセスのための貴重なツールを提供している。

 バンガードの組織構造は、会長兼CEO(最高経営責任者)のジョン・ブレナンによれば「独創的」で、受益者の利益を最優先できるような構造になっている。バンガードグループは自己利潤を追求しないので、ファンドの経営・管理業務、販売業務はアットコスト(受益者負担)が原則だ。さらに、バンガードの自社運用のインデックスファンドは投資アドバイスをバンガードが直接雇っている経験豊富な投資マネジメントスタッフからアットコストベースで受ける(バンガードグループ、Vanguard U.S.Stock Index Funds. Investor Shares and Admiral Shares. Prospectus [2004年4月23日]: B-18, B-25)。バンガードの低コストと印象的なスケールメリットは投資家の口座に対してのみもたらされるのである。

 バンガードは顧客本位の会社なので投資家はコスト面で有利なだけでなく、利害が会社経営陣の利害と一致するという利点もある。バンガード500インデックスファンドの2002年の年次報告書でブレナンは次のように述べている―「バンガードは私たち経営陣の利害とあなた方の利害が一致する組織構造になっている。私たちにはあなた方以外には仕えるべき顧客はいない」(バンガードグループ、Vanguard 500 Index Fund Annual Report、2003年12月31日)。投資信託スキャンダルのなかでほかのファンド運用会社の重役たちは自分たちのスキャンダラスな振る舞いに対して口先だけの言い訳をしたが、それより前にブレナンは「従業員は高い倫理的行動基準を満たし、受託者責任に応じなければならない」ことを強調して述べていた。ブレナンの言葉には真実味がある。なぜなら、従業員は利益を生まなければならないというプレッシャーを感じることがないからだ。  CREF とTIAA として知られる大学退職株式基金と米教職員保険年金連合会もまた顧客本位の組織で、顧客第一主義である。TIAACREFの資産の大部分は変額年金なので、投資信託運用会社の上位10社のリストには入らないが、この資産運用組織は個人に対する最大の確定拠出サービス提供者の1つである。表12.2に示したように、TIAA-CREF はフィデリティに次いで個人向け年金口座の運用資産が大きく、業界大手のバンガードとキャピタルグループを上回っている。

 TIAA-CREF の歴史は1918年にさかのぼる。カーネギー財団が大学教授の退職後の年金収入を増やすことを目的にTIAAを設立したのが始まりだ。昔は大学教授は大学を退職すると、上流階層を気取ってはいても貧困生活を強いられていた。初期のころのTIAAは従来の保守的な投資ビークルを提供し、資産は主として国債や鉄道債に投資していた(TIAA-CREF、「Company History」、2004)。

 アンドリュー・カーネギーが生んだTIAAにはイノベーションの歴史が息づいている。1952年、第二次大戦後のインフレによって額面の確定利付資産のリターンが下がったことを認識したTIAA はCREF を設立した。CREF は当時は世界初の変額年金制度で、今では世界最大の株式資産を有する。1970年代になるとCREF はポートフォリオを国際株に拡大した最初の会社の1つになる(TIAA-CREF、「Company History」、2004)。もっと最近では、CREF は極めてまれな不動産投資ビークルを提供するようになった。これによって個人投資家はよく運用された機関投資家レベルの不動産ポートフォリオを直接購入することができるようになった。TIAA-CREF はその歴史を通じて、参加者の利害を守ることにひたむきに取り組んできた。

 TIAA とCREF のCEO であるハーブ・アリソンは同社の価値を次のように述べている―「TIAA-CREF は特別な会社だ。私たちはほかにはない商品とサービスを提供してきた。私たちが提供する商品やサービスは参加者にとってより良いものになるように常に変化しなければならないが、会社の質はけっして変化してはならない。TIAACREFがほかと一線を画してきたのは、客観性、低価格、良質な商品、健全な資産運用、手数料を取らないコンサルタントを重視してきたからだ。私たちはこれからもこうした価値の向上に努めていく所存だ。会社スキャンダルに対する懸念があるなか、私たちはこれからも誠実さを持って顧客に向き合っていくつもりだ」(ハーブ・アリソン、CREF 年次総会の開会あいさつ、2003年12月15日)。

 TIAA-CREF の過度にアクティブなアプローチは、リスク調整済み超過リターンで見れば期待に達しないときもあるが、低コストで良質な投資商品を作ることに対する同社のレーザーのような集中力によって、競争の激しいタフなゲームで顧客が勝利する公算は高い。

金融サービス会社の子会社

 顧客本位の投資会社の対極にあるのが、さまざまな金融サービス会社の子会社だ。自己利潤追求型の資産運用会社に内在する標準的な利害の対立に加え、大きな金融サービス会社が運用する投資信託は個人投資家をさらなる危険にさらす。投資信託の資産は、金融サービス会社が運用する投資信託に属するものが多い。表12.3に示したように、利害の対立の多い資産を管理する三大企業がシティグループ、モルガン・スタンレー、メリルリンチだ。しかし、系列ファンドの資産額はフィデリティ、バンガード、キャピタルグループなどの大手独立系に比べると少ない。系列ファンドの上位5社の資産額はトータルで2340億ドルであるのに対して、独立系ファンドの上位5社の資産額は合計で2兆ドルだ。

 金融サービス親会社の自己利益を高めるために投資信託の資産が悪用されることはないのだろうか。親会社はクライアント会社が発行する有価証券の募集を引き受ける。募集が難しいことが分かった場合、募集を成功させるために子会社(投信会社)が証券を買う。クライアント会社は流通市場におけるパフォーマンスを気にする。募集後のパフォーマンスが悪い場合、おそらく子会社は株価をつり上げるためにクライアント会社の株式を買う。クライアント会社は敵対的買収で勝利するためには代理議決権が必要になる。あるいはコーポレートガバナンスで優位に立つ必要がある。おそらく子会社はクライアント会社を満足させるような投票をするだろう(金融サービス会社におけるマネーマネジメント業務とほかの業務との利害の対立は、代理投票という一見ありふれた行動においても発生する。2003年8月19日のSECのニュースリリースによれば、2003年3月15日、ドイツ銀行の子会社であるドイチェ・アセット・マネジメントは、同社のファンドが所有する1700万株につき、ヒューレット・パッカードによるコンパックの買収提案に反対の議決権を行使することを決定した。しかし、その後ヒューレット・パッカード経営陣はドイチェ・アセット・マネジメントの投資委員会に対して、最後の嘆願機会を得た。ヒューレット・パッカードがドイツ銀行と重要な事業上の関係があることを知らされた投資委員会は、合併提案に賛成する投票を行った。SEC はドイツ銀行が議決権行使を変更したことで受託者の義務を怠ったことではなく、顧客に対して事前に利益相反関係の開示を行うことなく議決権を行使したことに対して75万ドルの罰金を課した)。

 会社の1部門が実践的で事実に基づく投資の意思決定をしたいと思っていても、ほかの部門が顧客に迎合することを重視すれば、対立は避けられない。真剣な投資業務は総合金融サービス組織の下ではうまくいかない。

 どちらを選ぶか迷うという問題は投資信託業界の黎明期から存在する。「ジ・インベストメント・トラスト(The Investment Trusts)」というパンチの効いた論文を書いたのは、ステート・ストリート・インベストメント・コーポレーションの創始者でハーバード大学の財務部長であるポール・キャボットだ。この論文はアトランティック・マンスリーの1929年3月号に掲載された。キャボットは投資信託でよく見られる2つの問題を指摘する。1つは、顧客本位ではなく隠された動機によって運営されている点だ。もう1つは、ファンドに組み込まなければ市場性がなかったかもしれない株式の保管場所として使われる点だ。キャボットはさらに、発行会社が自分が引き受けたものを支配下のファンドに売るという慣行の危険性も指摘している。銀行やブローカーによって運営される投信は特にこの誘惑に陥りやすい(ポール・C・キャボット著「The Investment Trust」、アトランティック・マンスリー 268, No.3[ 1929年3月]: 404)。

 キャボットはNYSE(ニューヨーク証券取引所)委員会の前で、投資信託における問題の原因を次のように証言した―\深造気侶臟 ↓¬菊榁紊婆鞠宗↓6欲さ。彼は投資信託に蔓延する問題を明確にし、彼の主張を裏付ける証拠を提示しながらも、「広報活動と教育」という業界が好む解決法を提示した(おそらくは彼が考案した)。救済的な法律を作ったところで、有能な運営を妨げるだけで、一般投資家を守ることなどできないと彼ははっきり述べた(ポール・C・キャボット著「The Investment Trusts」、アトランティック・マンスリー268, No.3[ 1929年3月]: 405-406)。

 投資信託の問題に関するキャボットの強力な発言は、1940年の投資会社法の採択に関するSEC 理事であるロバート・ヒーリーの議会での証言に影響を与えた。キャボットの論文からの嫌になるほど多くの引用に加え、ヒーリーは投資信託を「ゴミ廃棄場」と呼び、刺激的な発言をした(上院銀行通貨委員会、Investment Trusts and Investment Companies. Part 1, 76th Cong., 3rd sess., 1940年4月2〜5日: 38-39)。最終的には、1940年の投資会社法は投資会社がその投資会社関連企業が引き受けた証券を買うことを禁じた。よく知られ十分に裏付けられた投資信託の問題点に対して、偏狭とはいえ直接に反応した投資会社法は利害の対立に対する解決法を示したと言えよう。

 時間がたち、記憶が薄れるにつれ、投資信託業界は関連企業が引き受けた証券の購入の禁止を緩めてもらおうとロビー活動を始めた。1958年、SEC は投資会社が関連企業の引き受け証券の3%まで購入できるとするルールを導入した。さらに時間が経過し記憶もさらに薄れた1979年、SECは比率を3%から4%に引き上げ、最終的には1997年、「ファンド業界が劇的に成長し、引き受け業界の集中化が進み、ファンドと引受業者の提携が進み、比率をあまりにも低くしすぎた」として、SEC は比率を25%にまで引き上げた(SEC、Exemption for the Acquisition of Securities During the Existence of an Underwriting or Selling Syndicate, File No.:S7-7-96, 1997年7月31日:7)。SEC は一般投資家のニーズは無視し、投資信託業界の自己利益を重んじたのは明らかだ。

 今日の金融サービス会社傘下の投資信託の活動は、1920年代と1930年代の投資信託の問題を繰り返しているにすぎない。SEC の投資マネジメント部門の元職員のマーサー・ブラードによれば、「ファンドはゴミ廃棄場のようなもの」だ。元SECの弁護士であるエドワード・シードルは次のように言う―「あなたは取引を持ち掛けることもできるし、商品を放り出すこともできることを示せばよいのだ。あなたがこれをやればやるほど、顧客はあなたに引き寄せられる」。金融サービス会社の利害の対立問題については公開情報が不十分なため明確な結論を導くことはできないが、10万8000件のSEC の記録を調査したブルームバーグニュースは、投資銀行傘下のファンドはクライアント企業の株を不相応なほど多く所有していた、と結論づけた(デビッド・ディーツとアダム・レビー著「Wall Street's 'Dumping Ground'」、Bloomberg Markets、2004年6月: 40, 43)。投資信託の子会社のクッキー缶は親会社にとって抗しがたいほどの魅力があるのである。

 関連企業の引き受け証券の購入に関する制約は3%から4%、さらには25%と上昇していったが、この変遷を見ると規制当局のこの問題に対する対応には問題があることは明らかだ。第一に、ルールの範囲はこの根深い問題を扱うには不十分である。1940年の投資会社法とSEC は、引き受け募集の株式の購入、つまり発行市場についてのルールしか提示していない。総合金融サービス会社が流通市場を使って、投資信託の受益者を犠牲にして親会社のクライアントの利益を満足させる可能性は大いにあるわけである。第二に、ルールが有効なのはこの問題が一般投資家と規制当局の注目を浴びている間だけである。問題が一般投資家の理解を超えて複雑になれば、規制当局は問題を無視する傾向がある。問題が注目されなくなれば、規制当局は興味を失い、業界擁護者が優位に立つ。要するに、規制当局は業界が一般投資家を犠牲にして勝利する運命にあることを黙認しているということである。

高コストのインデックスファンドの運用

 自己利潤追求型の会社の代わりに顧客本位の会社を使うことで得られるアクティブ運用のコスト上の利点は測定が難しい。アクティブ運用の分野では、顧客本位の投信会社の数字上のエッジは、同一条件での比較ができないため不透明だ。徴収される手数料は、投資戦略、ポートフォリオマネジャーの質、パフォーマンス履歴、運用資産額、そのほかの特異な要素によって決まるからだ。自己利潤追求型の投信会社は、どんなバカげた理由であろうと、いろいろな理由を取り上げて手数料の違いを正当化する。

 しかし、インデックスファンドのマネジメントとなると話はまったく違ってくる。インデックスファンドとはインデックスに連動する成果を目指すファンドで、パッシブファンドとも呼ばれる。インデックスファンドの運用には特殊な戦略は不要で、スキルを持ったマネジャーも不要で、新聞ダネになるような成果を生むこともない。運用しているファンドが適切な規模に達すると、サイズは関係なくなる。アクティブ運用に比べ、パッシブ運用は非常にシンプルだ。 経済理論によれば、自由競争市場では一物一価の法則が成り立つ。つまり、同じ商品や同じサービスであれば、価格は同じということである。インデックスファンドの運用の場合、サービスプロバイダーは違ってもポートフォリオの運用手数料は同じか、ほぼ同じでなければならない。そうでなければ、合理的な投資家は資金を高コストのプロバイダーから低コストのプロバイダーに移すため、強欲な、あるいは非効率的なファンド運用会社は価格を下げるか、廃業に追い込まれる。

 しかし、インデックスファンドの世界では経済理論は通用しない。2002年のモーニングスターの調査によれば、57のS&P500インデックスファンドが市場標準とされるバンガードの年間手数料(0.18%)を上回っていた(データの出所はアメリカ消費者連盟)。非バンガードのインデックスマネジャーの年間平均の経費率は法外とも言える0.82%だった。20のインデックスファンドに至っては年間の経費率は1.2%を上回り、そのうちの1つのインデックスファンドの経費率は2.18%という度を超えた高さだった。高コストのファンドの運用資産は合計で570億ドルとかなりの額だった。

 高コストのインデックスファンドが評判の悪いバケットショップのものであれば、高コストのファンドを選ぶ者が悪いのであって、そんな愚か者はパッシブ運用のリターン以下の成果に対して高いアクティブ運用の手数料を支払うのは自業自得だ。そういった高コストのインデックスファンドのリストを見ると、モルガン・スタンレーとスカダー・インベストメンツという投資マネジメントの世界を代表する2社が含まれている。

 モルガン・スタンレーS&P500インデックスファンドをよく調べてみると、醜悪な事実が分かってくる。モルガン・スタンレーは3つのシェアクラスを発行している。クラスAシェアは販売時に購入手数料がかかるクラスで、投資額の5.25%かかることもある。クラスBシェアとクラスCシェアは条件付き後払い販売手数料という目に見えない手数料がかかる。そして、どのシェアクラスにも毎年恐ろしいほどの費用がかかる(モルガン・スタンレー、Prospectus for Morgan Stanley S&P500 Index Fund、2003年10月30日)。

 モルガン・スタンレーS&P500インデックスファンドには毎年0.50%の「運用手数料とそのほかの費用」がかかる(モルガン・スタンレー、Prospectus for Morgan Stanley S&P500 Index Fund、2003年10月30日)。これに対して、バンガードの場合、インベスターシェアの年間トータルの経費率は0.18%で、「長期投資家と大口投資家」に適用されるアドミラルシェアは0.12%だ(バンガードの目論見書、2004年4月23日)。モルガン・スタンレーの場合、販売関連手数料(12b-1)として、クラスAシェアには0.23%を課し、クラスBシェアとクラスCシェアには1.00%を課す(モルガン・スタンレーの目論見書、2003年)。バンガードにはそういった手数料はない。

 ファンドの手数料を見ると大きく異なるのが分かる。モルガン・スタンレーの場合、短期保有は販売手数料と条件付き後払い販売手数料によってリターンが減少するので非常に不利だ。表12.4に示したように、バンガードのインベスターシェアの場合、保有期間が1年の場合は1万ドル口座では18ドルの手数料がかかる。これに対して、同じサービスであるにもかかわらず、モルガン・スタンレーのクラスBシェアの場合は653ドルの手数料がかかる。保有期間が10年の場合、販売手数料は投資期間にわたって分散され、条件付き後払い販売手数料は発生しないので、手数料の相対差は減少するが、価格差は拡大する。バンガードの標準口座の保有者が10年の保有期間に対して支払う手数料が230ドルなのに対し、モルガン・スタンレーのクラスBシェアの保有者の手数料は1791ドルだ。

 バンガードの超低コストのアドミラルシェアに該当する投資家の手数料はもっと低くなる。バンガードのアドミラルシェアの保有期間5年の手数料は68ドルで、モルガン・スタンレーの各シェアクラスの10%を下回る。インデックスファンドは低コストが投資家にとって有利なのは明らかだ。

 モルガン・スタンレーS&P500インデックスファンドは販売手数料を除いてもパフォーマンスは悪い。表12.5を見ると一目瞭然だ。2003年12月31日までの5年間において、モルガン・スタンレーのクラスAシェアのリターンは年間−1.28%で、クラスBシェア(−2.04%)やクラスCシェア(−2.03%)に比べると良い。なぜならクラスAシェアのリターンには販売手数料が含まれていないからだ。

 モルガン・スタンレーS&P500インデックスファンドのリターンは、防御不可能なその手数料体系によって、インデックスのリターンを下回る。5年間におけるクラスAシェアのリターンはインデックスを0.74%下回り、クラスBシェアは1.50%下回り、クラスCシェアは1.49%下回る。これに対して、コスト効率がよく株主にやさしいバンガードはインデックスをわずかに0.09%だけ下回るだけである。

 モルガン・スタンレーのS&P500インデックスファンドのリターンをほかのインデックスファンドのリターンと比べると、恥の上塗りになるだけである。ロイター傘下の投資信託データ・プロバイダーであるリッパー社が算出した30の主要なインデックスファンドを均等加重したインデックスを見てみよう。モルガン・スタンレーの3つのシェアクラスのなかでパフォーマンスが最も悪いクラスBシェアはその規模のおかげでリッパーのインデックスファンドのリストに名を連ねる。5年間におけるリターンがリッパーインデックスを年間で1.16%下回るモルガン・スタンレーのクラスBシェアは第4四分位にあるのは明らかだ。クラスBシェアよりも規模の小さいクラスAシェアとクラスCシェアはリッパーインデックスの規模基準に満たないためリッパーのインデックスには含まれない。しかし、クラスAシェアはリッパーインデックスを0.40%下回り、クラスCシェアはリッパーインデックスを1.15%下回ることからすれば、たとえこれら2つのシェアクラスがリッパーインデックスに含まれていたとしても、第4四分位に位置しただろう。これとは対照的に、バンガードはリッパーインデックスを年間で0.25%上回り、ほかのインデックスマネジャーを寄せ付けないほどのリターンを上げている(データの出所はリッパー社)。

 モルガン・スタンレーのインデックスファンドのリターンが悪いのは、1つには商品の劣悪さが原因だ。2002年10月30日付けのモルガン・スタンレーS&P500インデックスファンドの目論見書には、「ファンドのポートフォリオはコア・グロース・チームによって運用されている」と書かれていた(モルガン・スタンレー、Prospectus for Morgan Stanley S&P500 Index Fund、2002年10月30日)。しかし、法外な手数料を支払っているにもかかわらず、ファンドの最初の6年間は専任のマネジメントチームはいなかった。これは改善されて、2003年9月30日の目論見書では、「ファンドはインデックスチームによって運用されている」と補足された。モルガン・スタンレーのインデックスファンドの株主に対する数々の侮辱的待遇の1つがこれで解消された(モルガン・スタンレー、Supplement to the Prospectus for Morgan Stanley S&P500 Index Fund、2003年9月30日)。もちろん、小規模のポートフォリオの運用経験しかないモルガン・スタンレーの新米のインデックスチームが、時の試練を経たバンガードのインデックスファンドマネジャーに太刀打ちできるはずはない。

 モルガン・スタンレーを避けるべき長大な理由リストがあるにもかかわらず、ある顧客はぜひともモルガン・スタンレーのインデックスファンドに投資したいと思っているとしよう。まず投資家はクラスA、クラスB、またはクラスCのシェアクラスに類別され、今支払うのか、あとで支払うのか、今とあとで支払うのかという複雑な料金体系に直面する。例えば、クラスBとクラスCのシェアクラスの決定的な違いは、クラスBシェアは、株式を購入した月の最終日から10年後にシェアクラスを転換できることだ。クラスCシェアにはこの特徴はない(モルガン・スタンレーの2003年の目論見書: 19)。この複雑さはモルガン・スタンレーのファイナンシャルアドバイザーにとっても、顧客にとってももめ事の原因になるのは明らかだ。2003年11月、モルガン・スタンレーは、投資家を適切なシェアクラスに分類しなかったこと、投資家に特別セールス・インセンティブ(事前に定められた売り上げ目標を上回ったことに対してセールスマンに提供される報酬)について報告しなかったことといった不適切な販売慣行に対する損害賠償として顧客に5000万ドル支払った(トム・ラウリセラ著「Morgan Stanley Settles, but Woes Linger. Deal to Set Aside $50 Million for Clients Resolves SEC Charges, but Mutual Fund Probes Continue」、ウォール・ストリート・ジャーナル2003年11月18日付け)。

 モルガン・スタンレーはSEC によってウォール街お決まりのダブルスピーク(矛盾する2つのことが同時に行われる)が認められ、過ちを認めることも否定することもなく損害賠償を支払った。モルガン・スタンレーが認めることも否定することもしなかった過ちのなかには、かなりの比率のクラスBシェアがモルガン・スタンレーのブローカーによって販売されたことが含まれていた。クラスBシェアは年間手数料が高く、投資家にとってはシェアクラスのなかで最も高いシェアクラスだ。事実、モルガン・スタンレーS&P500インデックスファンドの目論見書によれば、クラスBシェアは各保有期間(1年、3年、5年、10年)の手数料は開示文書に記載されているものよりも高い。ウォール・ストリート・ジャーナルは控えめな言葉で、「モルガン・スタンレーのブローカーは顧客をクラスBシェアに分類することでより多くを稼ぐことができた」と述べた。さらにウォール・ストリート・ジャーナルは、「投資家のなかには、確認書や月々の口座明細書を見るまで、クラスBシェアを購入したことを知らない人もいた」と述べた(トム・ラウリセラ著「Morgan Stanley Settles, but Woes Linger. Deal to Set Aside $50 Million for Clients Resolves SEC Charges, but Mutual Fund Probes Continue」、ウォール・ストリート・ジャーナル2003年11月18日付け)。

 5000万ドルの損害賠償の支払いにまつわるSECとのちょっとしたいさかいによって、モルガン・スタンレー自身のファンドが享受する有利な待遇に暗雲がたちこめた。モルガン・スタンレーは同社が作成した商品の販売に対してブローカーに高い手数料を支払っていたが、そのことを顧客は知らなかった。スティーブン・カトラーSEC 法律執行局局長は次のように述べた―「投資家にとって最も重要なのは投資のプロからバイアスのないアドバイスを受け取ること、つまり自分たちが受け取っているものにはバイアスはないことを知ることである。簡単に言えば、モルガン・スタンレーが顧客に特定のファンドを積極的に売っていたという事実を顧客は知らなかったということである」(トム・ラウリセラ著「Morgan Stanley Settles, but Woes Linger. Deal to Set Aside $50 Million for Clients Resolves SEC Charges, but Mutual Fund Probes Continue」、ウォール・ストリート・ジャーナル2003年11月18日付け)。モルガン・スタンレーのS&P500インデックスファンドを顧客に売りつけていたモルガン・スタンレーのブローカーは顧客をだまして高い手数料を取っていたのである。

 2003年11月の5000万ドルの損害賠償は、2003年9月にNASD(全米証券業協会)に200万ドルの罰金を支払った直後に発生した。NASDによれば、モルガン・スタンレーのディーラーは同社運用の投資信託の販売を促進するために「禁じられた販売競争」に参加した。これを非難し罰金について発表した報道発表によれば、「1999年10月から2002年12月までの間にモルガン・スタンレーは29の販売競争を実施し、ディーラーにブリトニー・スピアーズやザ・ローリング・ストーンズのコンサートチケット、NBA ファイナルのチケット、レーシングスクールの授業料、リゾート地への旅行券といった賞金を与えた」。モルガン・スタンレーは販売競争に会社として罪悪感を感じていたのは明らかで、広報への悪影響を避けるために、世間一般からこの販売競争を隠そうとした。モルガン・スタンレーはこの告発を認めることも否定することもなく、罰金の支払いに合意した(NASD の報道発表,「NASD Fines Morgan Stanley $2 Million for Prohibited Mutual Fund Sales Contest」、2003年9月16日)。

 モルガン・スタンレーのインデックスファンドにかかる異常に高い手数料に見られるように、自己利潤追求型の投資信託会社は時として受益者の利益を大きく損なうこともある。問題は、利潤追求型投資信託が受益者の利益を損なうに至った背景にはどういった市場の失敗があったのかである。根本的な問題は、巨大で洗練された金融サービス会社が十分な知識のない孤立した投資家と戦っていることにある。結果は火を見るよりも明らかだ。利益が優先され、投資家は負ける。 投資信託のディレクターは個人投資家を助けてはくれない。顧客本位のディレクターならインデックスファンドの運用に関して公正な手数料を設定するはずだ。12b-1手数料を課すこともないだろう。インデックスファンド資産の運用を、バンガードのような良質なサービスを提供する低コストのプロバイダーに依頼するだろう。これに対して、モルガン・スタンレーの従業員やその取り巻きなどの金融サービス会社指向の連中は、モルガン・スタンレーが無知な顧客を犠牲にして法外な利益を得られるような契約を積極的に推し進める。盗みは、たとえSECが容認したガバナンスのマントを着ていても、盗みなのである。

 アクティブ運用のポートフォリオの場合、投資信託のディレクターは、運やスキルによって市場を打ち負かすリターンを上げられるという空しい期待を抱いて、市場を上回る手数料を正当化する。インデックスファンドマネジメントの世界ではそういった正当化は許されない。モルガン・スタンレーのS&P500インデックスファンドのディレクターは、不当な販売手数料、12b-1手数料、法外な運用手数料の累積効果で、受益者が得られるリターンはむしばまれ、競合よりも確実に下がることを知っている。自己利益が受託者責任に優先するのである。

 機関投資家向けファンド運用の世界では、投資運用サービスの買い手と売り手は対等だ。サービスの買い手の機関投資家は売り手の新産運用会社を注意深く観察し、徹底したデューディリジェンスを行い、互いに納得のいくような契約条件を交渉する。最終結果がどうであれ、機関の運用責任者は少なくとも公正に戦うことができる。

 個人投資家の場合、政府は立場の非対称性を法律や規制で正そうとする。しかし、二流ボクサー(政府)がマネーマネジメント業界のヘビー級チャンピオンにかなうはずはない。たとえ政府はマネーマネジメントの世界で投資家をだますような不正を認識しても、法律上あるいは規制上の対応はゆっくりで、非効率的だ。1つの不正を解消する法律が施行されても、業界は反撃に打って出て、戦いに勝つ新たな手段を見つける。政府が介入しても、個人が率先して何かをしても、投資信託会社の強欲さに打ち勝つことはできないのである。


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