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内なる声を聞け
「汝自身を知れ」から始まる相場心理学

2012年6月発売/四六判 246頁
ISBN 978-4-7759-7163-5 C2033
定価 本体2,800円+税


著 者 マイケル・マーティン
監修者 長尾慎太郎
訳 者 井田京子


著者紹介 | 目次 | 関連書籍
◆立ち読みコーナー 監修者まえがき ・ まえがき(エド・スィコータ)第11章(本テキストは再校時のものです)

「自分自身を理解すること」こそがトレードを上達させる!

 トレーディングは、20%の知的な要素と80%の心理的な要素から成り立っている。
成功への第一歩は、古代ギリシャの格言である「汝自身を知れ」から始まる。素晴らしいトレーディングモデルを開発しても失敗に終わるのは、自分自身を理解していないからだ。最終的に成功を収めるためには、あなたのトレーディングシステムとあなたの感情を調和させなければならない。そのためには、自分の内面を見つめて、自分の本当の姿を理解し、自分に自信を持つことが絶対に必要になる。そうすることによって、トレーディングにおけてより良い判断につながり、それが高い収益をもたらしてくれるのだ。

 本書は、トレーダーにとっての内なる声(インナーボイス)を聞く手助けをしてくれるだろう。それさえできれば、システムの指示に従って、勝つための戦略をためらうことなく即座に実行に移すことができるようになる。
 マーティンは、通常のトレードでの判断を、感情という視点から検証し、行動のもととなる「自分の思いを感じ取る」手助けをしてくれる。ちなみに、トレーディングの行動のもととなる思いといっても、それはお金とはまったく関係がない場合がよくある。本書は、エド・スィコータやマイケル・マーカスといった伝説のトレーダーとのインタビューを通して、彼らがそのトレードを行った理由と自身の感情を統合して、日々、より良いトレードを行っていることを明らかにしている。また、本書を熟読すれば、読者にも必ずそういうことができるようになるということを教えてくれている。

●トレーダーも人間 楽しみを求め、痛みを避けるという人間が生まれながらに持っている資質がトレードにどのような悪影響を及ぼすのか
●長期間使い続けてもストレスフリーの戦略 あなた自身が受け入れ可能で、躊躇なく実行できるトレード戦略をどのように発見・開発すればよいのか
●子供のころから思い込まされてきたあるべき姿から自らを解放する――いつも正しくある必要はない トレードに正しさを求めるのは間違いであり、またトレードの目的は正しくあることではないということを理解することがなぜトレードを上達させるのか
●規律を守り、負けを認めることによって損失を減らす 自らの感情を理解しているトレーダーはどのように損失を抑えてパフォーマンスの向上に結びつけているのか

■本書への賛辞

「本書は、マイケル・マーティンがトレーダーとして成功するまでの道のりを、興味深いエピソードとともに紹介している。彼の下で、思考と感情のバランスをとるという重要で科学的かつ芸術的な洞察を得て、大きな成功をつかんでほしい」
――エド・スィコータ(『マーケットの魔術師』にも取り上げられた伝説的トレーダー)

「トレーダーのなかには、他人にトレード方法を教えることをしない人や教えることができない人がいる。また、教えることはできても自分ではトレードしない人もいる。ところが、マイケル・マーティンは経験豊富なトレーダーなのに教えるのも非常にうまい。マーケットで成功したい人にとっては、このまれな組み合わせは天からの贈り物と思ったほうがよいだろう。本書を何回も熟読して学んでほしい」
――ビクター・スペランデオ(『スペランデオのトレード実践講座』[パンローリング]の著者)

「新人トレーダーや未熟なトレーダーのなかには、損失を回復するために戦略を次々と変えていく人が多すぎる。本書でマーティンは、理想のトレーダーになる前に、まずは自分自身を理解することを教えてくれている。トレーディング業界に与えられた新しい贈り物とも言える本書を、ぜひあなたの本棚にも備えてほしい」
――マイク・ベラフィオーレ(『ワン・グッド・トレード[パンローリング]』の著者)

「本書は、裁量型のトレーダーやシステムトレーダーが十分に調べて検証したトレードプログラムを順守していても、ときどき起こる感情の起伏(恐怖や強欲やプライドなど)によって未知の領域に迷い込んでしまわないよう、トレーダーの身を守るための深い洞察を与えてくれている」
――ビル・ダン(ダン・キャピタル・マネジメント)



「私は、マーティンの言葉に支えられて生きている。私が書いた投資本の最初の章は、『テレビを消せ』というタイトルにした。現代は、ソーシャルネットワークによって、トレード戦略の先生を探したり、素早く学んだりすることが可能になっている。トレーディングは学ぶことができる技能であり、本書はすべてのトレーダーにとって素晴らしい読み物になっている」
――ハワード・リンゾン(ストックツイストの創設者)

「マーティンは、トレーディングで成功するために最も重要な側面を強化するためのツールを与えてくれた。耳と耳の間にある15センチほどの場所だ。偉大なトレーダーたちによる素晴らしい洞察とともに、本書はあなたを損益改善のための軌道に乗せてくれるだろう」
――ジョン・デルベッキオ(アドバイザーシェアズ・アクティブ・ベア・ETFのポートフォリオマネジャー)

「マーティンは、ベテランにとっても新人にとっても思慮深い本を執筆してくれた。しかも、心に残る内容を楽しくつづっている」
――アンソニー・スカラムッチ(スカイブリッジ・キャピタルの創設者で、『グッバイ・ゴードン・ゲッコー[Goodbye Gordon Gekko]』の著者)


■著者 マイケル・マーティン(Michael Martin)

原書

The Inner Voice of Trading
20年以上にわたって成功を収めてきたトレーダー。トレーダー・マンスリー誌の共同編集者も務めている。生まれも育ちもニューヨークで、現在はロサンゼルス在住。ザ・ハッフィントン・ポストやザ・ビジネス・インサイダーや、自身のブログであるマーティンクロニクル(http://martinkronicle.com)やバロンズ紙などで活躍。学生時代から商品先物トレードに興味を持ち、就職後も続け、大口ヘッジャーのための灯油と天然ガスの季節性モデルの作成、これをきっかけにウォール街で商品のトレーディングを始め、莫大な手数料を得るようになった。しかし、成功報酬ならばその数倍は稼げると考え、3年で証券会社を辞めて独立。マンハッタンからロサンゼルスに移り、CTA(商品投資顧問業者)を設立する。このころ、インクライン・ビレッジ・トレーディング・トライブに加入し、ロサンゼルスからタホ湖のエド・スィコータのもとに通い始める。また、ロサンゼルスにもトレーディング・トライブを設立し、その責任者となる。このころ彼はオータムゴールドでCTAランキング1位を獲得した。

■目次

監修者まえがき
まえがき
謝辞

第1章 序論
第2章 負けを認める
第3章 私が払った授業料
第4章 二人のトレーダーの進んできた道
第5章 常識とマーケットタイミング
第6章 感情の死角
第7章 あなた自身がブラックボックスになっている
第8章 レラティブバリュー戦略
第9章 損失の恵み
第10章 感情のスペシャリストになる
第11章 自分の内なる声を聞く

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■監修者まえがき

 本書はマイケル・マーティンによる「ザ・インナーボイス・オブ・トレーディング(The Inner Voice of Trading)」の邦訳である。内容の論旨は「トレードの結果を左右するのは一にも二にもメンタルマネジメントであり、そのためにはまず自分自身を知ることが重要である」というものである。一般に投資家は、資産運用においては客観的な安全や利益よりも主観的な安心を優先する傾向にある。ここで、「いや、そんなことはない」と読者が異を唱えられるのであれば、あなたは極めてまれな少数派に属していることになる。これまでに多くの学術研究が示唆していることであるが、身の周りにある各種のリスクに関して、ほとんどの人は法外なコストを払ってでも主観的な安心を買おうとすることが分かっている。例え、その行為が客観的にはまったく逆効果であったとしても。

 このように人間とはまことに弱く非合理的な存在であり、したがって逆に言えば、その欠点を克服できた人はトレードに限らず非常に有利な立場を手に入れることになる。このため機関投資家においては、そうした人間の感情の起伏がパフォーマンスに悪影響を与えることがないようにあらゆる工夫が凝らされているのである。だが、そうした組織的なサポートが得られない個人投資家の場合は、自ら意識してその問題を乗り越えるしかないが、近視眼的な結果を求めるという性向は、私たち人間が自然に持つたぐいのものである以上、それだけの自制心を発揮することは至難である。

 そういった現実を踏まえると、私たちがトレーダーとして求めるべき最終形は、自分が精神的に落ち着いた状態で運用できる売買手法を知るということになる。筆者のマーティンはそこまでの道筋を本書によって示している。また、自分自身を知るということは、自分の弱さを知ってそれを受け入れ、等身大の生き方を見つけるということでもある。そして、それが成功への一番の近道なのである。

 2012年5月

長尾慎太郎




■まえがき

 本書は、トレーディングにおける思考と感情のバランスをとるという科学的かつ芸術的な挑戦に関して、深い洞察を与えてくれるものである。

 トレーダーたちは、ゾーンに達し、マーケットと一体化してその瞬間を生きることで、驚異的な利益を上げることができるなどと言う。しかし、それではまるでトレーディングをすることに何の苦労もないように聞こえる。実は、難しいのはその「瞬間」にとどまることなのである。もし我慢できなかったり、強欲や恐怖にかられたりすると、そのときの興奮から冷めて、再び過去や未来にとらわれてしまう。自分の感情と戦うということは、その瞬間にとどまるということを許さない。だからこそ、トレードで利益を上げることの障害になるのだ。

 マーティンは、本書で雑念を捨てて、精神と感情のバランスを保つことについて詳しく述べている。彼はこの点について、自身やほかのトレーダーの例を用いて説明している。このなかには、正しいタイミングで損切りすることの重要性も含まれている。

 トレーダーは、トレーディングの本質的な原則は理解している。勝ちトレードは保有し続け、負けトレードは損切りする。そして、リスクを管理し、ストップ(逆指値)を活用し、自分のシステムを使い続け、ニュースは無視する、といったことである。これらの原則を固く守り続ければ、普通はトレーディングも人生もうまくいく。ただ、多くの人にとって規則に従うことは必ずしも楽しいことではない。

 原則重視で生きていくためには、かなりの資質が必要とされる。だれでも高く買ってしまったり、安く売ってしまったり、永遠に続くように見えるウイップソウ(ちゃぶつき)に何度も見舞われたりしていると、不安な気分になる。著者は、成功のカギを握るトレーダー自身の性格について、興味深いトレーディングのエピソードを紹介しながら深い洞察を加えている。

 私が運営する「トレ−ディング・トライブ」を通じてトレーダーたちの相談に乗る楽しみのひとつに、賢くて意欲的な人たちと出会い、刺激し合い、経験を分かち合うことや、彼らが成長して成功をつかむのを見られることがある。ずっと以前にこのトライブに参加したマーティンも、こういうなかのひとりだった。

 彼の最初の印象は、いかにも東海岸出身の都会的で頼りになりそうなタイプで、気難しいタクシー運転手とコメディアンを足して二で割ったような感じだった。しかし、グループの活動が進んでいき、みんながそれぞれの仕事や人間関係に悩んでいると分かったときに、彼が兄弟のように共感を示し、笑い、苦しみ、泣いているのを何回も見るようになった。

 この活動を通じて、私は彼が人間としてより穏やかになっていくのがを見る機会に恵まれた。彼はそれまで以上に人々を受け入れ、自身は強くなり、自分の才能を周りの人たちに分け与えられるようになっていった。本書の行間からは、彼が今でも修行を続けていることが感じられるが、彼は今や自身の素晴らしい師であり、相談相手であり、書き手でもある。つまり、彼自身が本書のひらめきのもとになっているのである。

 マーティンがまえがきの執筆を依頼してくれたことを、私はとても名誉なことだと思っている。彼が本書を執筆したことと、あなたがこれを読むことを、ともに祝福したい。

エド・スィコータ(テキサス州オースティンにて)



■第11章 自分の内なる声を聞く

「真っ暗だから見つからない 開け放たれた扉の鍵が」――スチュワード・コープランド(アルバム「ゴースト・イン・ザ・マシン」の『暗黒の世界』より)

 トレーダーとして、聞き上手になると、トレーディングは劇的に向上する。聞くときは、言葉の文字どおりの意味だけでなく、なぜその言葉を選び、そのような話し方をしているのかを考えてほしい。このようにして相手の話を聞くと、心を開いて相手が本当に伝えようとしていることの意味を受け止めることができる。そして、このことは、自分の内なる声を聞く場合にも言える。

 ここでは情報だけではなく、その裏側にある感情や、話し手の動機も同じくらい重要だ。ときには、話し手(アナリスト、トレーダー、ポートフォリオマネジャー、中央銀行の幹部など)が自分自身の内なる声を理解していないため、自分が何を伝えようとしているのかが分からずに話している場合もある。人は感情に基づいて行動するが、知識に基づいて話をする――特に男性はそうだ。

 インドの哲学者で神秘論主義者のジッドゥ・クリシュナムルティは、「相手の話を注意深く完全に聞くことができると、相手の言葉だけでなく、どのような気持ちで伝えようとしているのかも、部分的ではなく全体として分かる」(カリフォルニア州立大学バークレー校で1969年に行った講演「あなたが世界だ」より)と言っている。

 このような聞き方をするためには、全身で集中する必要がある。何年か前にアメリカ国立科学財団が、人は一日に6万の思考をすることが可能だという研究結果を発表した。これは、テレビの電源やソーシャルメディアにつながっていないときの話で、もしこれが「ただの雑音」だとしたらどれほど疲れることか想像できるだろう。これらの思考の大部分は無害な考えで、何の役にも立たない。しかし、それぞれがエネルギーと知力を消費する。そして、知力を消費すると、時間とともに心も体も疲労する。つまり、人を助けるはずの考えるという行為が、実際には貴重なエネルギーを消費しているのである。

 そのうえ、人の神経系は刺激に反応して思考や発想を生まれる。トレーディングフロアや家では、近くに少なくともテレビが一台はあって、音を発しているだろう。もしかしたら何台かのテレビが違うチャンネルを映していて、それぞれが雑音を発しているかもしれない。さらに、それぞれのチャンネルが臨時ニュースを流し、投資番組のゲストの話に合わせて最新の価格やチャートも映し出されているかもしれない。こうして書いているだけでも疲れてくる。

 これらの情報はすべて統計的には雑音で、無意味なものでしかない。ハイテクに詳しい美人キャスターが有無を言わせぬ口調でニュースを伝えれば、視聴者は重要かつ緊急なことに違いないと思ってしまう。最新情報を把握していなければ、世の中から遅れてしまうからだ。しかし、そうだとしても、それがあなたの損益に影響を及ぼすわけではない。

 点滅する画面やチャートや流れてくる株価情報やトップニュース(例えば、臨時ニュース――リンジー・ローハンが名字を捨てる、ダウ平均119ドルの下落)などはすべてあなたを楽しませるためにある。そのための娯楽情報番組なのだ。

 私は有料テレビを解約して4年になるが、もちろんまったく後悔していない。これらのサービスは、これがなくては生きていけないと視聴者が錯覚するように設計されている。しかし、これがなくても生きていけるし、率直に言って仏教や瞑想で言うところの「心猿」(https://secure.wikimedia.org/wikipedia/en/wiki/Mind_monkey)を抑えるためには、むしろないほうがよい。心猿とは猿が木から木へと飛び移るように思考があちらこちらに散る状態で、これに悩む人は落ち着きがなく、一瞬しか価値がないデータの気をとられてしまう。

 自分の行動をよく観察すると、あなたが行うプロの手順とは、実はある一つのトレードを仕掛ける前に知力を消費するようにする儀式だと思えてくるかもしれない。ただ、これは気持ちが良いことで、それが大切なのである。このとき、内なる声がコースから外れないようにするコントローラーの役目を担ってくれる。

 いろんなところから来たものでも理解できるようになることも学習の一部だが、自分自身を理解できていなければ、どれほどの知識があっても、だれから学んだとしても、頻繁に情報を入手したとしても意味がない。むしろ、知識は感覚を鈍くする。内なる声はすべてのことに疑問を持ち、常に「これは関連があるのか、重要なのか、今知りたいことに必要なものなのか」と問い掛けてくれる。これが新しい聞き方であり、それは他人に対してのみならず、自分自身に対しても適用できる。

 新しい聞き方を習得するということには、みんなとは180度逆に考えてみることも含まれている。教えてもらうことも大切だが、自分自身の内なる声を聞くということを学ぶことのほうがもっと重要だ。あなた自身の内なる声は、あなたが自由に使える最も重要なものなのである。しかし、それがうまくできるようになるためには、自分自身を信頼することを学ばなければならない。

 それには、瞑想やヨガの練習やひとりでの修行やトレーディングトライブが非常に役に立つ。もし聞くことを強制される(あるいは雑音を避けられない)と、気が散って心を静めることなどできないと感じるだろう。しかし、私の友人で師でもあるエリック・シフマンによれば、何カ月も何年も修行を積むことで、雑念を払って「ただそこにいる」ことができるようになるのだという。

 シフマンは、私の生涯のヨガの師匠であり、瞑想のコーチであり、友人でもある。私の知るかぎり、彼はトレーディングをしていないが、私が自己意識や自分自身を理解することを深めるうえで、最も大きな影響を与えてくれた。彼曰く、「賢くなればなるほど、自分が何も知らないことに気づきます」。そして、「自分が何も知らないことに気づけば気づくほど、あるひとつの情報だけに頼らないようにしようとします。頭の中にもインターネットがあるのだということに気づけば、そちらをオンラインの状態にできるようになります。つまり、頭の中のオンラインを稼働させるためにあらゆる努力をすることが、最も賢いことなのです」(2011年9月に著者が行ったインタビューより)。この言葉は、シフマンの偉大な著書『ムービング・イントゥ・スティルネス』(Moving into Stillness)のなかの教えに通じている。大切な決断を下すときは、10分立ち止まって、一息つく。そして、静かに座って宇宙に教えを乞うのだ。その後、「どこでうまくいかなくなるのか」「何か考慮すべきことが抜けていないか」と自問してみる。時間は常に味方であり、自分の内なる声を聞くためには静かな時間が欠かせない。

 自分ひとりで判断を下すことはあまり良いことではない。特に、リスク管理や、未知の要素が無限にあるトレーディングにおいてはなおさらだ。「頭の中の小さなハードディスクドライブに入った少ない情報に基づいて自分ひとりで決める代わりに、自分が持てるすべての力を使って宇宙に質問を投げかけてみてください。『心を静める』ことができれば、宇宙からのダウンロードが始まります」とシフマンは言う(2011年9月に著者が行ったインタビューより)。

 ジェフ・コルビンの『タレント・イズ・オーバーレーテッド』(Talent Is Overrated)を読んで、考えたことがある。トレーディングの世界では、教育が過大評価されている。しかし、ブラッドベリーとブレーブス著『イモーショナル・インテリジェンス2.0[Emotional Intelligence 2.0]』によれば、平均的な知能指数の人のお金に関するパフォーマンスは、高い知能指数を持つ人を何と70%も上回っているのである。この研究では、被験者のなかで自分の感情をリアルタイムで正確に認識できていた人は全体のわずか36%しかいなかったと結論づけている。つまり、全体の三分の二の人は、自分でも知らない感情に支配されていたのである。このことは、より良いトレーダーを目指す人にとって大きな意味がある。そこで、自分の気持ち――特に無意識のときの気持ち――が伝えようとしていることに気づくためのシステムが必要になる。この気持ちは、たとえあなたが気づいていなくても、あらゆる行動の裏側に必ず存在している。ただ、この無意識のシステムの結果を見ることはできても、それがどこから来たのかを知ることはおそらくできないだろう。

 マーケットの魔術師のひとりであるリンダ・ブラッドフォード・ラシュキも、トレーダーについてさまざまなことを語っている。「新人トレーダーには、考えることや決めることが多すぎます。……努力して……自分自身を雑音から解放してあげなければなりません。行動の指針を準備しておけば、ストレスを軽減できます。たくさんの変数が同時に出てくると、ストレスが過大にかかってしまいます」(2011年に著者が行ったインタビューより)。このマーケットの魔術師も、人生からストレスを減らすことができれば、より良い判断が下せると言っているのである。

 ラシュキはストレスについて「ストレスを常にチェックしておかなければならなりません。多少のストレスはパフォーマンスの助けになりますが、多すぎれば動けなくなります。感情は安定した状態に保っておかなければなりません。経験も助けにはなりますが、心が健康でなかったり精神が不調だと、集中力が下がります。そうなると経験ももはや役に立ちません」と言っている(2011年に著者が行ったインタビューより)。

 もし自分の感情について学ばないと、あなたが気づくか気づかないかは別として、結果は予想がつく。それならば最初から降参して自分の感情について知っておけば、トレーダーの道を進んでいくうえで大きな効果を実感できるだろう。

 三分の二の人たちが自分には分からない感情に支配されているということは、自分自身を理解することを深めればトレーディングのエッジのひとつが即座に手に入るということでもある。これはあなたの勝率を上げてくれるだろう。あなたのトレード相手は、たとえあなたがMACDが何の略かすら知らなくても、事実上「1対2の賭け」をすることになる。トレードの仕方すら知らなくても、あなたには大きなエッジがあるからだ。

瞑想すると、自分自身を理解する力が高まる。もし私が間違っていれば、仏教の発生よりも古い紀元前1800年から続いてきた4000年の歴史を無視することになる。自分自身をより良く理解できるようになれば、マーケットもよく理解できるようになり、最適ではないトレードに引きずり込まれることもなくなる。トレーダーにとっては、一日も長く生き延びることがカギとなる。また、トレーディングとは、良い銘柄や商品を当てるゲームではなく、同業者よりもうまく守るゲームだということが分かれば、優れたトレーダーになることができる。

問題 あなたのようなプロの商品トレーダーはリスクをとるのが好きなのではないのか。

答え 消防士が火が好きなように私もリスクが好きだが、だからといってリスクを好んでとるわけではない。自分の内なる声だけに耳を傾けていれば、リスクをうまく処理できるというだけのことだ。

 AQRキャピタルでチーフリスクマネジャーを務めるアーロン・ブラウンは、ある時点から個人のトレーディングだけに集中することにしたと語る。「あるときからエッジを気にしなくなりました。勘が鈍ったわけではないし、今でも利益は上げたいとは思います。しかし、トレーダーに必要なエッジがなくなってしまったのです。今の仕事では理論を重視することで役目を果たしています。レーザーのような集中力を失ったら、リスク管理をすべきではありません。最悪なのは、明日取り返せると思うことです。ポーカーで、アマチュアとプロの大きな違いは、72時間続けてプレーしてもプロはポットの500ドルにこだわる点にあります。そのような集中力がなければ、長期的に見て勝つことはできません。すべてのポジションに強いこだわりを持つことができなければ、トレーダーとして成功することはできないのです」(2011年3月に著者が行ったインタビューより)

 あるとき、ポール・チューダー・ジョーンズが失敗トレードで5%の損失を出し、その日の終わりに率直な感想を述べた。このときの彼は、資金のことではなく、自分の分析が完全に間違っていたことを気にしていたのだ。ジョーンズが最高のトレーダーである理由は、彼が感情面でも知識面でも打撃を受けているのに、まったく脱線しないことにある。彼は自分の欠点を認めて謙虚になり、プロのトレーダーにはこのような日が何度もあるということも分かっているのだ。この日は、顧客が何年も連続で倍増している時期のなかの一日だった。私は、率直さや謙虚さがない新人トレーダーに会うと、この仕事を長く続けていくことはできないだろうと感じる。それは、彼らが自分の内なる声を聞かないからだけでなく、それがあることすら気づいていないからである。

 CTA(商品投資顧問業者)のデビッド・ハーディングは、彼が設立したウィントン・キャピタルの成功について次のように語っている。「私たちは、さまざまなマーケットの膨大かつ雑多なデータを分析して、『賭ける』に値するパターンを探します。金融市場でよく見かけるような仰々しい売り言葉を並べる同業者よりもかなり謙虚な姿勢で臨んでいると思います。私たちは、自分たちがほとんど何も知らないことを自覚していますが、『ほとんど知らない』は『まったく知らない』とは違い、私たちはその小さな差だけに賭けます。これは科学の実験に少し似ていて、失敗もかなりあります。しかし、全体として見れば、損失よりも利益が多くなっています」(ニューサイエンティスト誌に掲載された「オピニオン」より、http://www.newscientist.com/article/mg20827895.000-hedgefund-philanthropist-physics-can-save-the-planet.html

 EQ(心の知能指数)を上げるための訓練に特化した企業であるタレントスマートのトラビス・ブラッドベリーとジーン・グレーブスの研究によれば、業績優秀な社員の90%はEQカードの会員で、自分の内なる声に関心を寄せる資質を持っていた。また、この研究では、彼らの年収がEQが低い社員に比べて平均2万9000ドルも多いことを発見した。人によっては、2万9000ドルの差は大きな違いではないかもしれないが、この研究はEQが一ポイント違うと年収に1300ドルの差が出ると結論づけている。

 この研究のポイントは、損失はある程度コントロールできるということにある。レバレッジを過剰に掛ければ小さな値動きでも深刻な事態を招くことになるし、株数や枚数が少なければマーケットが大きく動いてもさほどの影響はない。大切なことは、勝っているトレードに集中するのと同じくらいに負けているトレードにも集中することなのである。

 FXを50対1のレバレッジでトレードするとき、金額的な目標は表面的なものでしかない。本当の目的は頭を回転させることで、これは内なる声との内なる討論なのである。自分の本当の気持ちはなくなることがないのだから、それに従い、そこから学んでほしい。あなたの感情と気持ちは、あなたの行動を支配するご主人様なのである。これらは、あなたがすべてを学び終えるまでの長い道のりを導いてくれる。トレーディングも技術的なスキルだけでは、それなりのことしかできない。アナリストやほかのマネーマネジャーの話を聞きすぎると、判断を下せなくなってしまうことになりかねない。テレビに出演している人たちは、それぞれの人の意図に基づいて発言している。専門家やあなたが過小評価されていると思っている銘柄が値上がりしたり、過大評価されていると思っている銘柄が値下がりしたりする保証はどこにもない。PER(株価収益率)が20倍を超えていれば買わないというトレーディングルールに従ったら、素晴らしいチャンスを逃したかもしれない。ウォーレン・バフェットでさえ、PERが高すぎるという理由でマイクロソフトやアップルを買い損なった。自分の考えが正しかったことに「世界中の人もいずれは気づく」と思うのはあまりに傲慢だ。株や商品の価格はマーケットが決めるもので、アナリストが判断するものではない。価格は知るべきことのすべてを私たちに教えてくれるという事実を受け入れ、エゴを放棄して、頭の中もマーケットでも自然の流れに任せてほしい。

 価格を研究することで、自分の気持ちについても多くを学ぶことができる。仕掛け値に思い入れが強すぎると、チャンスも資金も失うことになる。仕掛けについて厳密に考えすぎるのはやめたほうがよい。不動産は売ったときに利益が出るのと同じで、証券も正しく売ることで損失を小さく抑え、トレイリングストップを活用することで、含み損を減らさないようにしていくことができるのだ。

 自分について学ぶ方法をもうひとつ紹介しておこう。仮に、あるトレードで大きな利益が出たとしよう。そのトレードの直後と、24時間後にどのように感じていただろうか。おそらく有頂天になったり、誇りに思ったり、賢くて勇敢な気分になるだろう。そしてどうするのだろうか。みんなに触れ回るのだろうか。ツイッターで知り合いに向けてつぶやくのだろうか。大きな利益を確定したあとの気分はどのようなものだろうか。だれに知らせたのだろうか。どのような反応を期待しているのだろうか。思いと結果は同じであり、結果を想像してから始めたら、目的はガールフレンドに自分がいかにすごいかを知らせるメールを送りたかっただけかもしれないし、両親に褒めてもらいたかったのかもしれない。結局、お金はそれほど重要ではなかったのかもしれないのだ。

 しかし、マーケットが大きく逆行したときに、あらかじめ手仕舞い戦略を決めておかなければ落胆したり失望したりするだろう。これが感情の裏側で、それにも対処していかなければならない。もし対処したくなかったり、それができなかったりするのならば、新しい「システム」や新しいルール、そして何よりもそれに対応するさらなるリスク管理が必要になる。あなたの内なる声は、対話するだけでなく、プラットフォームも決めなければならないのだ。もちろん、あなたが決めてもよいが、これまで述べてきたとおり、そう簡単にはいかない。心を静めれば内なる声にアクセスすることができる。なぜこれがそれほど重要なのだろうか。順を追って説明しよう。瞑想は、呼吸法を使って心を静める過程とも言える。そして、心はあなたの全般的な考え方を支配している。あなたの考え方はあなたの行動を支配し、あなたの継続的な行動を見れば、あなたがどのような人生を送るのかが分かるのである。

 ただ、すべてのトレーダーにとって正しい答えなど存在しない。あるのは、あなたにとっての正しい答えだけなのである。もし口座の資金を増やしたいのであれば、トレードがうまくいかなかったときの気持ちも受け入れなければならない。これらは完全に補足し合う感情で、どちらかだけを外すことはできないのだ。  本書でインタビューを紹介したり発言を引用したりしたトレーダーは、みんな知的で、賢くて、先駆的な人物ばかりだ。それぞれが異なるトレードスタイルを持っていて、それぞれの手法は、トレーダーの発達し続ける心の知能指数や意識レベルや自分自身への理解が進むことによって、発展したりある方向に向けて収束したりしている。そして、彼らはみんな自分の内なる声を直接聞いているのである。

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