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ウィザードブックシリーズ Vol.154

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バリュー株トレーディング
――レンジ相場で勝つ

2009年6月13日発売
ISBN 978-4-7759-7121-5 C2033
定価 本体2,800円+税
A5判 ハードカバー 約342頁

著 者 ビタリー・カツェネルソン
監修者 鈴木一之
訳 者 関本博英


著者紹介 | 目次 | 関連書籍 | 読者のご意見   ◆立ち読みコーナー 監修者まえがき ・ まえがき ・ 序文 (本テキストは再校時のものです)

“四季報投資家”のバイブル!

PERは正しい使い方がわかる
大相場のあとのレンジ相場で確実に利益を確保する方法

 価格と出来高の分析に基づくトレード手法は、すでに実証済みのものである。20世紀前半にリチャード・ワイコフによって開 今後数十年間のアメリカ株は、新高値を付けたかと思えば数年来の安値に落ち込むなど、ジェットコースターのような激しい乱高下を繰り返すだろう。こうした激しい動きはまだ過去の事実にはなっていないが、18年に及ぶ長期の大強気相場が2000年に終了したあとを受けて、これからトレンドのない長いレンジ相場が続くのは間違いないだろう。こうした変動の大きいレンジ相場で相応の利益を手にするのは、それにふさわしい投資戦略を持っている投資家だけである。

この厳しい投資の現実をだれよりもよく理解しているのは、優れたファンドマネジャー兼投資教育家、そして著述家でもあるビタリー・カツェネルソンであろう。

彼は本書のなかで、前の強気相場で大きな利益を上げた従来のファンダメンタルズ手法に磨きをかけ、レンジ相場向けに改良したアクティブなバリュー投資法をあますところなく公開している。この本はちまたにあふれている単なるバリュー投資の解説書ではない。前の強気相場の名残である高水準のPERが続く厳しい投資環境のなかで、多くの投資家がリターンと資金の喪失に悩んでいるとき、本書は相応の利益を手にするための深い洞察とタイムリーな投資テクニックが盛り込まれた実践的な指南書となるだろう。

本書の第1部では、過去200年にわたる米国株式市場のヒストリカルな推移とパフォーマンスを分析し、長期の強気相場・弱気相場・レンジ相場をもたらした要因を検証している。続いてそうした長期相場を支配していた人間の心理、現在の米国株式市場が長期のレンジ相場に突入した可能性、このレンジ相場がどれくらい続くのか――といったことが詳細に検討されている。

そして第2部ではこうした現実を踏まえて、われわれ投資家はどのように対処すべきかという戦略が述べられている。具体的には優良企業の条件とその株式を適正な価格で購入するための方法、すなわち現在のレンジ相場に適切に対処するためのアクティブなバリュー投資の実践法が明らかにされている。こうしたアプローチのベースとなるのが、企業の質・成長・評価という3つの条件の分析である。

そして最後の仕上げとして、優良企業の株式の買いと売りの方法、それを成功させるためのリスクと分散投資の考え方に焦点が当てられている。


■本書への賛辞

「この本は著者の思考プロセスを通って、われわれにアクティブなバリュー投資というものを教えてくれる。従来のバリュー投資の本では保有株の売却は論じられていないが、本書ではこの問題も詳しく取り上げられている。理論的な話、実際のケーススタディ、常識に基づく観察という点で、ほどよくバランスがとれている」――
――『黒の証券』の著者デビッド・アインホーン氏


「本書を読むと、これからの株式相場は一本調子のトレンドを描くのではなく、激しい乱高下の局面が続くと予想している。こうしたレンジ相場では、優良株をどれだけ有利な価格で買うのかが最終的なリターンを決めるカギとなる。レンジ相場でこうした優良な割安株を手に入れるには、従来の考え方にとらわれないフレキシブルな分析能力が必要であり、本書にはそのための3つの条件が示されている」
――『バイ・アンド・ホールド時代の終焉』の著者エド・イースタリング氏


「不確実なこれからの投資環境のなかで、カツェネルソンの投資テクニックはその嵐を乗り切るものとなるだろう」
――『ヘッジファンドの錬金術』の著者ジェームズ・アルタッチャー氏



「優良企業の価値と、マーケットの変動がポートフォリオのパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのかといった2つの問題に焦点を当てた珍しい本だ。この2つの重要性を理解した投資家は、いろいろなマーケットの局面にもフレキシブルなスタンスで臨むことができるだろう。専門的な洞察が加えられた投資教育書と楽しい娯楽書という2つの面を併せ持つのが本書だ」
――『ギャンブルトレーダー』の著者アーロン・ブラウン氏


「この本を読むと、まるでカツェネルソンと話しているようだ。本書は深い洞察と旺盛な好奇心にあふれ、そして何よりも洗練されている」
――『まぐれ』の著者ナシーム・ニコラス・タレブ氏

「アクティブなトレーダーと長期投資家のどちらにも役立つ貴重な本である」
――ミニアビル・パブリッシング&マルチメディアの創設者兼CEOであるトッド・ハリソン氏

「勘と経験に基づくデイトレーダーやバイ・アンド・ホールドの投資家を問わず、企業の適正価値を見極めるスキルを持たない投資家はマーケットで生き残っていけないだろう。本書は企業の適正価値を分析し、それを踏まえた売買アプローチで利益を上げようというものである。ここにはマーケットのいろいろなノイズを排除し、長期投資の勝者となるためのスキルと戦略が盛り込まれている。強気相場と弱気相場は絶えず入れ替わっていくが、本書に示された投資のコツはどのような局面でも有効である。その意味ではあらゆるマーケットの局面で使える万能の投資ガイドだ」
――ミニアビル・ドット・コムやCNBCのファースト・マネーの定期寄稿者であるジェフ・マッケ氏

「本書には強気相場でも弱気相場でもない難しいマーケットの局面で、個人投資家や機関投資家でもうまく対処できる方法が簡潔に述べられている。多くの株式投資の本では主に上昇局面で利益を上げる方法しか示されていないが、本書ではトレンドのないレンジ相場に対処するアプローチがこれまでとは違う観点から、しかもユーモラスに述べられている」
――大手ヘッジファンドであるシーブリーズ・パートナーズ・マネジメントのダグラス・カス社長

「読みやすく、しかもユーモアにあふれている素晴らしい投資本だ。しかも初心者とベテランのどちらの投資家にも役立つ。本書ではレンジ相場のアプローチとして主にアクティブなバリュー投資法について論じられているが、これは強気相場や弱気相場でも十分に使える。当社のニュースレターの購読者たちにも薦めたいね」
――モトリー・フール・インサイド・バリューのアドバイザーであるフィリップ・デュレル氏

「カツェネルソンは株式投資の世界に大きな貢献をしてくれた。広範な知識と実証で裏付けられたこのアクティブなバリュー投資法があれば、これからの長いレンジ相場も乗り切れるだろう。低いリターンと資金の永久喪失というリスクがある今の厳しい投資環境のなかで、本書にはその具体的な対処法が示されており、すべての投資家にとって福音となる」
――ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン証券のグローバル・エクイティ・ストラテジストであるジェームズ・モンティア氏

「カツェネルソンは2つの能力を併せ持つプロである。そのひとつは、マーケットのノイズを一掃し、市場平均を打ち負かす高いリターンを上げる優れたファンドマネジャー。もうひとつは、複雑な投資のコンセプトを分かりやすく説明してくれる投資教育家。本書は彼のこうした2つの能力が十分に発揮された素晴らしい投資本だ」
――モトリー・フールのヒデン・ジェムズ(Hidden Gems)ニュースレターのアドバイザーであるビル・マン氏




原書
Active Value Investing:Making Money in Range-Bound Markets』



著者紹介

著者/ビタリー・カツェネルソン(Vitaliy Katsenelson)
1994年に株式投資の世界に入り、現在はインベストメント・マネジメント・アソシエイツのファンドマネジャーとして、ファンダメンタルズ分析に基づいて機関投資家や個人投資家の資金を運用している。コロラド大学デンバー校経営大学院の非常勤教授を務め、またフィナンシャル・タイムズ、ダウ・ジョーンズ社のマーケットウォッチ、ミニアビル・ドット・コムなどに定期的に寄稿している。公認証券アナリスト(CFA)としてコロラド州CFA協会理事、リタイアメント・インベストメント・インスティチュートの理事も務める。コロラド大学でファイナンス論の学士号と修士号を修得、優等で卒業した。著者のウエブサイトは「http://ContrarianEdge.com」または「http://ActiveValueInvesting.com」。




目次

監修者まえがき まえがき
序文

第1部 将来の展望

第1章 はじめに――レンジ相場の到来
  あまり大きな期待を抱かないで、シートベルトをしっかりと締めよう
  レンジ相場を動物にたとえると
  長期相場と循環相場
  長期の強気・弱気・レンジ相場の違い
  100年以上の歴史を見ると
  長期的には株式が有利
  アメリカ以外でもやはり株式のほうが有利
  金はまた輝くのか
  金に対抗する金融商品
  大局的に見たときの間違い
  強気相場の高いリターンは次のレンジ相場で帳消しに
  短くなる投資期間

第2章 長期の強気・弱気・レンジ相場の心理
  幸福な強気相場
  悲しい弱気相場
  長期のレンジ相場とはどのようなものか
  強気相場とレンジ相場のボラティリティ

第3章 株式市場の数学
  キャピタルゲインの源泉――企業の利益成長
  キャピタルゲインの源泉――PER
  配当利回りの源泉
  なぜ強気相場のあとにレンジ相場が到来するのか
  PERはいつ底を打つのか

第4章 債券――株式のライバルとなる投資対象か
  債券投資
  レンジ相場ではアセット・アロケーションの重要性が低下

第2部 アクティブなバリュー投資法

分析論

第5章 企業の質
  競争上の優位性
  経営陣
  予想可能な利益
  健全なバランスシート
  フリーキャッシュフロー
  高いROC
  結論

第6章 企業の成長
  企業の成長の源泉――利益の成長と配当
  過去は過ぎゆく
  将来の成長の原動力
  配当
  利益成長は大切な条件

第7章 企業の評価
  牛乳屋テビエの評価法
  相対評価法
  絶対評価法としてのDCF法
  相対評価法と絶対評価法
  絶対評価法
  数学の間違い
  絶対PERモデル
  割引率モデル
  安全域モデル
  絶対PERモデルと安全域モデルの併用
  いろいろな分析モデルの併用
  低いPERのバリュー投資と高いPERのグロース投資のリターン比較

第8章 企業の質・成長・評価という3つの条件に照らした企業の分析
  3つの条件による企業の具体的な分析
  3つの条件のうち、ひとつだけをクリアした企業
  3つの条件のうち、2つをクリアした企業
  結論

株式の売買戦略

はじめに――投資のプロセスと規律の大切さ

第9章 買いのプロセス――求められるのは規律ある行動
  大切な投資のプロセスと規律
  長期的に考え、短期的に行動する
  新しい友のボラティリティを味方につける
  マーケット全体ではなく、個別銘柄のタイミングを計る
  現金は王様
  チャンスが来たら行動を起こす

第10章 買いのプロセス――逆張り投資
  逆張り投資とは
  そんな株式は買わなくてもいいんだよ
  ミスバスターになろう
  すべてを定量化し、逆張り投資家になろう
  タイムアービトラージ
  新しいアイデアを見つける
  自分でリサーチし、その結果を書き留めること

第11章 買いのプロセス――グローバルな投資
  フラット化する世界
  会計基準の統合
  国境のないグローバル企業
  政治リスク
  アメリカの政治リスク
  自分の快感帯から出発する
  高成長国=有望な投資国ではない
  為替変動リスク
  どれくらいのお金を振り向けたらよいのか
  結論

第12章 売りのプロセス――ダーウィニズムの考え方
  株価が上昇したときに売る
  ファンダメンタルズが悪化したときに売る
  結論

リスクと分散投資

第13章 リスクのいろいろな考え方
  リスクとは何か
  ランダム性の特徴
  クロコダイルハンターとランダム性
  企業の質・成長・評価という3つの条件とそれらの相互関係
  株主価値の破壊要因の影響を予想する
  間違ったときのコスト
  結論

第14章 分散投資のいろいろな考え方
  すべての投資資金を賭けるな
  多すぎる卵、または多すぎるかご
  「心の会計」と分散投資
  株式ポートフォリオにおける心の会計とランダム性
  ランダム性を友にする

第15章 まとめ
  私は間違っているのだろうか
  強気相場
  弱気相場とレンジ相場
  債券投資
  やはり私は間違っていないと思う

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■監修者まえがき

 この書籍はバリュー株に関する真摯な投資法の研究書である。同時に20世紀を通じた100年間に及ぶアメリカ株式市場の歴史書でもある。
 著者は1900年以降の膨大なヒストリカルデータの分析に基づいて、過去100年間にわたる偉大なるアメリカの株式市場の軌跡をあまさず描き出し、そのなかから現代に通じるひとつの極めて重要な法則を見いだしている。それは、「長期の強気相場のあとには、弱気相場ではなく、長いレンジ相場が訪れる」というものである。  今本書を手にとられている方は、早速29ページの「図表1.1」をご覧いただきたい。そこには1900年以降のダウ工業株平均株価が描かれており、20世紀の100年間は実に全期間の半分以上がレンジ相場であったことが示されている。
 著者によればレンジ相場とは、株価が横ばいかトレンドのない相場のことである。動物にたとえれば、鶏、羊、あるいは「臆病なライオン」である(ブル、ベア、ピッグ、カモまで含めて株式市場にはたくさんの動物が生息しているものだ)。レンジ相場ではPER(株価収益率)の大幅な低下がもたらされる。

 レンジ相場の恐ろしさはそれまでの強気相場での手法がまったく通用しなくなる点にある。すなわち、強気相場の主役であった成長株は、その後のレンジ相場でも企業としての成長は続くのだが、そこではPERが大幅に低下するため、成長によるリターンだけでは株価の下落をカバーしきれない。本書の最初のヤマがこの辺りを詳述した部分にある。
 したがってレンジ相場では、キャッシュフローを潤沢に生む高配当企業を選び出し、株価の安全域を十分に確保した株式投資を心がけなければならない。この基準こそが本書が執筆された真の目的であり、そのための銘柄選択の条件を述べた部分が本書の二番目のヤマとなる。  著者であるビタリー・カツェネルソンは、1990年に共産主義が崩壊した直後のロシアから米国に移住してきた投資家兼著作家兼投資教育家である。自由の国アメリカで新たな人生のスタートを切り、株式市場の魅力に引き寄せられ、株式投資が好きで好きでたまらず、とうとうコロラド大学で株式投資に関する講座まで持つに至ったガッツあふれる人物である。

 原著のタイトルは“Active Value Investing”。直訳するならば「アクティブなバリュー株投資」となるだろうか。運用の世界では「アクティブ」と銘打たれたものは、グロース株(成長株)志向を標榜していることがほとんどである。地味な印象の強いバリュー株だが、著者はあえて本書を「アクティブな」バリュー株投資と名づけた。著者の意気込みがひしひしと伝わってくる。
 出版が2007年であるため、例の「100年に一度の経済危機」の洗礼を受けていないと批判されかねないが、とんでもない。著者は本文中ですでに2006年当時のアメリカ株式市場の異常な割高感を指摘している。そのうえで著者は、2002年から始まった現在のレンジ相場はおそらく2020年ごろまでは続くと予測している。
 超長期の強気相場が終わったアメリカは、オバマ大統領のリーダーシップの下で新しい時代を迎えようとしている。アメリカ国民が生来持ち合わせている楽観主義は、確かに一時的に打ちひしがれたように見えるが、しかしアメリカはいつまでもそんな地点にとどまっているはずはない。再びよみがえる日が来る。底値は例外なくバリュー株が決めるものだ。そして新たな成長株へとつながってゆく。その道のりを本書とともに模索していこうではないか。

 2009年5月
                         

鈴木一之



■まえがき

 私は北極圏に近いロシア北西部の都市ムルマンスクで少年時代を過ごした。スカンジナビア半島の根元に位置するこの港町は、暖かいメキシコ湾流のおかげで長い冬も凍ることがなく、北からロシアに入れるユニークな入り口となっていた。そこからわずか約30キロのセベロモルスクには北方海軍の基地があったため、ムルマンスクでは東西冷戦のときに米軍の情報が簡単に入手できた。アメリカの作家トム・クランシーの『レッド・オクトーバーを追え』(文藝春秋)では、ムルマンスクがレッド・オクトーバー(ソ連の最新鋭原子力潜水艦)の本拠地になっている。
 この町は港に沿って延びており、また近隣一帯にはいろいろな学術機関もあったことから、漁業や商船員向けの産業も栄えていた。私が小さいころは、大きくなったら商船大学か海軍士官学校に入るものと考えられていた。この2つの準軍事学校では生徒(士官候補生)たちは宿舎に住み、海軍の制服を着て厳しい軍隊の規律を順守し、海軍士官の命令には絶対服従が義務づけられていた(質問などは絶対にできない)。商船大学には8学年、海軍士官学校には10学年を卒業した生徒が入学することになっていた(その当時のロシアでは10学年の教育制度が実施されていた)。

 その当時のロシアでは徴兵制が実施されていたが、軍隊入りした兵士たちの報酬はかなりひどいものだった(これはけっして誇張ではない)。そのため、家から生活費を送ってもらっている兵士も少なくなかった。若者たちはこの2年間の兵役義務を刑務所での服役期間と考えていた(少なくとも私はそうだった)。1980年代後半のこうした兵役忌避は戦死に対する恐怖心というよりは(ソビエト・アフガン戦争はすでに終わっていた)、貴重な青春の2年間を失うことの悔しさ、古参兵からの虐待に対する屈辱感によるものだった。私の友達には兵役を忌避するため、精神病の仮病を使って精神病棟に入院した者もいた。 私の父と2人の兄はムルマンスクの海軍士官学校を卒業した。父はそこで27年間にわたって電気工学を教えていた。兄たちと私は海軍兵になりたいとはまったく思わなかった。事実、哲学者になりたいと言っていた長兄は技術工学技師になり、電気工学技師を目指していた次兄は今ではコロラド州デンバーで不動産ブローカーとして成功している。しかし、その当時のわれわれには準軍事学校に入るか、またはロシア赤軍に入隊するという選択肢しかなかった。私が8学年を終わるまでに法律が変わって、商船大学生は兵役免除が認められた(海軍兵学校の生徒は認められなかった)。しかし、商船大学に入学した私はいつ徴兵招集されるのかとびくびくしながら在学期間を過ごしていた(これ以外の選択肢はさらにひどかった)。
 父には2人の妹がいて、ひとりはモスクワで生涯を過ごし、もうひとりの妹は1979年に家族と一緒にモスクワからシベリアに移っていったということだった。長い間、私はこのシベリアの叔母やいとこたちがなぜわが家を訪れたり、連絡をくれないのかと不思議に思っていた。とても仲の良いわが家にとっては考えられないことだった。1988年夏に父はついに、この叔母はシベリアに行ったのではなく、アメリカに移住したという本当のことを私に話してくれた。この真実を知った私の最初の反応は彼女に対する怒りであり、とっさに「裏切り者」「スパイ」という言葉が口から出てしまった。
 今考えると何ともおかしいが、何しろ私は東西冷戦時代の落とし子である。小さいころの私たちは月に何度も映画館に連れて行かれ(まだビデオ映画はなかった)、アメリカ帝国の崩壊、ホームレスの群れ、リンチを受ける黒人たち、金持ちに搾取される貧しき人々、ハンバーガーで毒殺される人々(あとになってみると、この話はあながちまったくのウソではない)などに関するプロパガンダ向けのドキュメンタリー映画を見せられた。そこではアメリカ人はすべて洗脳された悪人で、わが母国ロシアの破壊を生涯の目標としているスパイとして描かれていた。そして現地調査旅行の一環として開拓キャンプを訪れた9歳のとき、ひとりの外国人旅行者がにっこりほほ笑んだ素直そうな私に風船ガムをくれた。それを見た開拓キャンプの先生は恐怖の叫び声を上げてそれを取り上げ、「毒殺されないでよかったね」と言ったのを今でも覚えている。

 ここでもう一度先の叔母に話を戻すと、父は私がこの叔母のことを「裏切り者」「スパイ」と呼んだことに少しも驚かなかった。そして父は静かに、高い教育を受けた叔母の家族はロシア国内のユダヤ人たちが受けていた目に見えない差別ゆえに、貧困な生活を余儀なくされていたと話してくれた。私の両親も私たち家族をこうした反ユダヤ主義の差別からいつも守ろうとしていたが、私も二流国民扱いなどをよく受けていたので、ユダヤ人であることは悪いことなのかと小さな子供ながらに薄々と感じていた。
 父によれば、地方当局に真相が漏れると取り返しのつかないことになると思って、叔母の本当の所在地は私たち兄弟にも話さなかったという。まもなく両親は職を失い、私たち兄弟は出国もできなかった(将来に海軍兵への道しか残されていないと考えると絶望的な気分になった)。父の妹のひとりがアメリカに移住したことが当局の知るところになると、もうひとりの叔母さんは裏切り者扱いされたという。
 しかし、1985年にグラスノスチ(ゴルバチョフ書記長が推進したペレストロイカ[改革]の重要な一環としての情報公開政策)が実施されると、数十年にわたって洗脳されてきたロシア国民にも徐々に真実が明らかになってきた。1980年代後半になると一般国民の間ではまだビデオは広く普及していなかったが、小さなビデオ映画館が至る所に出現し始めた。これらの映画館はアパートの地下などで営業し、テレビにビデオを接続しただけの単純なものだった。しかし、国有の映画館と違って当局から検閲されることもなく、何でも自由に見ることができた。ビデオテープが何回もコピーされていたので画質・音質はとてもひどく、また登場人物の声は一本調子だったが、変化に飢えていたわれわれにとってそんなことはどうでもよかった。主にアメリカ映画を何百回も見たわれわれの目にも、アメリカと資本主義はそれほど腐りきったものではなく、開拓キャンプの先生が言ったこととは裏腹に、小さな子供を毒殺しようとするようなアメリカ人などはいないことも分かってきた。
 こんなことはわずか数年前には考えられないことだった。1990年にあの「シベリアの」叔母さんからアメリカに来ないかと勧められたので、私たち一家はアメリカに移住することを決めた。父は私たち子供の顔を見て、「この国には未来はない」と言った。1991年12月4日に私たちはニューヨークに到着した。新しい困難なアメリカの生活(少なくとも当初は)が始まったが、ロシアを捨てたことはまったく後悔しなかった。ここアメリカには新しいチャンスがあり、それから現在まで私たちはアメリカを祖国と呼んでいる。この素晴らしい国に対する感謝の気持ちは生涯忘れることはないだろう。アメリカがなければ、本書の出版も実現することはなかったからだ。



■序文

 投資本の読者が疑り深くなるのは当然である。何しろ書店の書棚には毎年、新しいタイトルの本がうずたかく積まれているからだ。そこから読む価値のある本と何の価値もない本を見分けるのはかなり難しい。私は株式投資に対して強い情熱を持ち、有望な投資のチャンスを探しているが、株式投資というものについては慎重な考え方をしている疑り深い投資家にために本書を執筆した。あなたが「株式投資は自分でやるよ」と思っている週一の投資家、または食事の時間も惜しんで1日12時間も株価を見ている私のような「相場が大好き」というプロの投資家のどちらであろうとも、本書はかなり有益であろう。ここに書かれているのは従来の常識的な投資コンセプトでありながら、今のレンジ相場でも十分に利益を上げられるように改良されたユニークな投資手法である。以下の「質問と答え」は、疑り深い投資家からの予想される疑問点とそれに対する私からの回答なので、どうか本書を読む前に十分に参考にしていただきたい。

疑り深い投資家(以下、投資家) あなたの言われるアクティブなバリュー投資は、従来の単なるバリュー投資とはどのように違うのですか。
ビタリー・カツェネルソン 私のアクティブなバリュー投資とはレンジ相場でも相応の利益を上げられるように、従来のバリュー投資法に必要な手直しを加えて改良したものです。ファンダメンタルズ分析に基づく投資法とは、株式相場の長期トレンドをとらえようとするものですが、株式分析と投資戦略は変化するマーケットの環境に応じてタイムリーに調整する必要があります。

投資家 あなたの言われるレンジ相場とはどのようなものですか。
カツェネルソン ジェットコースターを思い浮かべると分かりやすいでしょう。激しい株価の上昇・下降と横ばい、それに伴う興奮状態などが一定期間続いたあと、最終的には株価(そしてポジションの損益)がスタート時点とほぼ同じになってしまうような動きです。こうしたレンジ相場ではアクティブではないバリュー投資、バイ・アンド・ホールド、パッシブなインデックス投資などでは、ほぼゼロに近いリターンとわずかな配当しか得られず、いくら時間をかけても老後の蓄えを増やすことはできないでしょう。

投資家 レンジ相場とは弱気相場ということですか。
カツェネルソン 表面的にはそう見えるかもしれませんが、実際にはそうではありません。われわれは株式相場とは強気(上昇)と弱気(下降)の2つしかないという考え方からなかなか抜け出せません。しかし、20世紀のアメリカの株式相場を見ると、(5年以上という)長期相場の多くは循環的な上昇または下降局面を含むレンジ相場なのです。長期の下降相場は1980年後半から2003年までの日本株にように、高すぎる株価の崩壊に景気後退が追い打ちをかけたときにしか起こっていません。

投資家 アメリカの株式相場はそのようなレンジ相場に突入したのですか。
カツェネルソン はい、そうです。過去2世紀の株式相場の動きを見ると、すべての長期の強気相場(直近では1982〜2000年の大強気相場)のあとには、必ず長期のレンジ相場が続いています。そうしたレンジ相場とは、先の大強気相場に得られたリターンとその時間に対する払い戻し期間と言えるのかもしれません。

投資家 第1部の表題が「将来の展望」となっていますが、これはバリュー投資とあまり関係がないように思えます。その辺のことをもう少し詳しく説明してください。
カツェネルソン この本はこれから続くレンジ相場に対処するための実践的なバリュー投資のガイドブックですが、こうした投資戦略を自らの投資手法に取り入れるにはある程度の確信を持たなければなりません。逆に言うと、私は読者の皆さんにそのような確信を持たせる必要があります。そのために本書の第1部では、過去200年間の米株式のヒストリカルなパフォーマンスと長期の強気・弱気・レンジ相場について検証したのです。これらの相場を作ったのは人間の心理であり、それゆえに強気相場のあとにはレンジ相場が来る可能性が高く、現在はまさにこれから数十年は続くと予想されるそうした局面にあるのです。私は本書のなかで、このレンジ相場がどれだけ続くのかについてひとつのシミュレーションを示し、今後数年間には企業の利益成長率がGDP(国内総生産)成長率に及ばない理由を説明しています。

投資家 もしもこれから大きなトレンドのない循環的な上昇と下降、横ばいの動きを繰り返すレンジ相場が続くとすれば、われわれ投資家はマーケットタイマーになる必要があるということですか。
カツェネルソン そうではありません。私が言いたいのは、投資に対する考え方を根本的に変えなければならないということです。マーケットのタイミングを計ることではこうした局面を乗り切ることは難しいでしょう(まったく不可能とは言いませんが)。マーケットタイマーは株価や金利、景気などの短期予測に基づいて売買決定を下します。このやり方がうまくいくには、特に投資家の行き過ぎた心理が支配する株価の底と天井で2回の判断(買いと売り)が正確でなければなりません(そんなことはほとんど不可能です)。マーケット全体のタイミングではなく、個別銘柄の株価のタイミングを計ることが重要となります。

投資家 もう少し具体的に説明してください。
カツェネルソン 個別銘柄の株価のタイミングを計るというのは、先を見越して行動するということを除けば、これまでやってきたこととそれほど大きな違いはありません。タイミングを計るという表現が誤解を与えるようであれば、個別銘柄の「値決めをする(price)」と言い換えてもかまいません。具体的には、その銘柄が過小評価されているときに買い、適正な株価水準に戻ったときに売るという戦略をアクティブに行うことです。マーケットタイミングでは株式相場全体の水準を見て売買しますが、私の言う個別銘柄のタイミング(値付け)戦略では、マーケット全体のなかに存在する個別の投資チャンスを見つけるものです。

投資家 それはデイトレーダーになれということですか。
カツェネルソン そうではありません。しかし、楽な上昇相場とは違ってレンジ相場ではかなりアクティブに行動する必要があります。従来の強気相場のバイ・アンド・ホールド手法というのは、死んだとまでは言わないにしても、いわば昏睡状態のようなものです。それは「買うだけで売りを忘れた投資法」です。株式を買うときは規律のある行動をするのですが、そのあとは具体的な売りの規律もなしに単に買った株式を保有しているだけです(いわば死に別れるときまで保有しているようなものです)。そうした手法も長期の強気相場ではかなり有効であり、(買うだけで売らない)パッシブなインデックス投資でも儲けられます。PERがかなり低いところからヒストリカルな平均以上の水準まで上昇し、優良企業の株式は青天井に向かい、平凡な企業の株も上昇するからです。しかし、レンジ相場ではそれとは逆のことが起こります(PERはヒストリカルな平均よりかなり高い水準から極めて低い水準に向かうという、20世紀ではあまり見られなかったような動き)。私たちは1982〜2000年に経験した長期の強気相場の発想法から根本的に脱却しなければなりません。

投資家 本書ではそのためにはどうすればよいのかを示しているのですね。
カツェネルソン そのとおりです。本書の実践的な応用編である第2部では、レンジ相場における株式の分析とアクティブなバリュー投資戦略について述べています。例えば、株式の分析編ではこの投資アプローチの核となる企業の質(Quality)と成長(Growth)、評価(Valuation)という3つの条件についてかなり詳しく分析しています。このようにいわば三次元的な視点から企業とその株式を分析したあと、次はそれらの相互に関連した観点から体系的に検討していきます。こうすることによって、優良企業の条件と投資に値する株式といったものが明らかになっていきます。レンジ相場における企業の質と成長の条件についてはいくらかの調整が必要となりますが、一般的な株式分析法とそれほど大きな違いはありません。しかし、企業の評価の条件についてはかなり大幅な調整が求められます。

投資家 具体的に説明してください。
カツェネルソン 例えば、PERが低下していくレンジ相場では、適正な株価とその評価法が必要となります。相対評価法を使った場合、レンジ相場ではダマシの買いシグナルが出ることもよくあるので、絶対評価法も併用しなければなりません。レンジ相場では絶対評価法がかなり重要になりますが、これについては私なりの分析モデルと併せて詳しく説明します。

投資家 私がグロース投資家であるとしても、そうしたことが求められますか。
カツェネルソン もちろんです。長期のレンジ相場が続くと投資家は企業の利益成長率というものにあまり目を向けなくなります。高成長企業のPERは低PER企業に比べてかなり急ペースで低下していくからです。1966〜1982年のレンジ相場における高PERと低PERの企業の株価を調べたところ、初期のころは高成長企業のPERには200%ものプレミアムがつきましたが、そのプレミアム率は次第に縮小して1982年末には40%まで低下してしまいました。グロース投資家はレンジ相場のこうした特徴をよく理解しなければなりません。

投資家 でも、高成長企業の高い利益成長率はPERの低下を十分にカバーするのではないでしょうか。
カツェネルソン そんなことはありません。1966〜1982年のレンジ相場では低PERの株式は一貫して高PER株のパフォーマンスを上回っていたのです。

投資家 グロース投資家として、そうした状況にどのように対処したらよいのでしょうか。
カツェネルソン 高PER株の高い利益成長率と配当はPERの低下をある程度カバーしますが、これについては企業の評価の条件でいくつかの調整を加えています。

投資家 あなたの投資戦略は株価水準の変化に応じて変わっていくのですか。
カツェネルソン これからは「アクティブな買いと売りの投資家になる」必要があります。特に売りの大切さはいくら強調してもしすぎることはありません。保有株が事前に決めた株価水準に達したら必ず売らなければなりません。一般にそうしたときは多くの投資家が熱狂して株を買ってくるので、心理的には難しいかもしれませんが、本書では適切な売りの方法についても述べています。こうしたやり方は「ほかの投資家とは独立して考える逆張り投資家」になるというもので、こうした逆張り投資の重要性については1章を割いて説明しています(具体的にはマスコミの報道をうまく利用する、タイムアービトラージ、株式投資の一般常識を逆手にとって割安株を見つける方法、新しい株式アイデア――など)。強気相場に比べて大きなトレンドのないレンジ相場はかなり難しいですが、投資チャンスを広げるために海外のマーケットに目を向けるのも悪くはないでしょう(これについては第11章を参照のこと)。

投資家 分かりました。それならば、そのようなレンジ相場では株式を買わないほうがよいのでしょうか。
カツェネルソン 私はレンジ相場で相応の利益を上げるために本書を書いたのですが、ここで述べられている多くのコンセプトはほかの局面でも十分に応用が可能です。これらのコンセプトはレンジ相場向けに幾分手直ししたもので、コロラド大学デンバー校の学生たちに教えている実践的な株式投資法です。本書ではレンジ相場以外のどのようなマーケットの局面にも対応できるように、2つの章(第13章の「リスクのいろいろな考え方」と第14章の「分散投資のいろいろな考え方」)を付け加えました。

投資家 あなたの言われるレンジ相場ではなく、長期の強気または弱気相場がスタートしたとしたら、どうすればよいのでしょうか。
カツェネルソン すべての投資戦略は「正しかったときの利益」を前提にするのではなく、少なくとも「間違ったときのコスト」を見込んで立てるべきであり、私の戦略もそのようなものです。私のアクティブなバリュー投資法では、そうした間違ったときの最低のコストを見込んでいます。それはレンジ相場や弱気相場においても、バイ・アンド・ホールドやグロース投資法よりも優れていると思います。再来の可能性がかなり低い長期の大強気相場でも、このアクティブなバリュー投資法はかなりのリターンをもたらしますが、バイ・アンド・ホールドや高ベータ株のグロース投資には及ばないでしょう。その少ない利益分はレンジ相場や弱気相場で損失を回避するための一種の保険料と考えてください。

投資家 あなたの言われるレンジ相場では、債券を買うというのはどうなのでしょうか。
カツェネルソン もう一度言いますが、アクティブなバリュー投資法では間違ったときのコストを見込んでいるので、強気またはレンジ相場、さらにはインフレを引き金とする、もしくはインフレと並行して進展する弱気相場においても債券よりも高いリターンを上げることができます。債券が株式よりも有利なときは、経済が深刻なデフレを伴う景気後退に突入したときだけです。そうしたときにデフォルトリスクのない国債は比較的安全ですが、社債はそうしたリスクがかなり高いので危険です。

投資家 この本は学術書ですか。
カツェネルソン いいえ、違います。私にはギリシャ文字や膨大な注釈、長ったらしい公式などで埋め尽くされた学術的な投資の本を最後まで読み通す忍耐力はありません。これはそうした本とはまったく違います。いくらかの公式は書いてありますが、ギリシャ文字もないし、そうした公式も7歳の子供でも理解できるほど簡単なものです。私はいつも株式の話や投資の本は本当に味気ないと思っています。私が大学で投資の講義をしていたとき、ちょっと間違ったことを話したら、生徒たちがコーヒーを持ってきてくれたことがありました。私は投資の話はできるだけ簡潔に、そしておもしろくしようと心掛けていますので、この本にもユーモアや実生活に関係した実用的な話題をいろいろと盛り込んでいます。

投資家 あなたの経歴を見ると、投資教育家、著述家、投資家といろいろやっておられますが、ひとつに絞るとすればどれですか。
カツェネルソン 投資家です。私は投資が大好きで、あらゆる決定に不確実さがつきまとう投資のすべてがよいですね。投資とはあまり情報のない状況で、ジグソーパズルの切り絵をはめ込んでいく知的な遊びのようなものです。株式投資において最も重要で難しいことは、自分の心理と絶えず戦っていくことです。マーケットとは永遠に到達できない完全さに向けての戦場のようなもので、ひとつのことを理解したと思ったらまた新しい問題に直面します。その意味では、マーケットとは人間が発明した最も屈辱的なメカニズムかもしれません。ここでは人々が真実を求めて永遠の対話を続けている。すべてのトレードには買い方と売り方という敵対するサイドがあり、時間はそのどちらが正しかったのかを決めてくれる。そしてよく理解できないマーケットの隠れたランダム性が勝負を決定するというおもしろさがあります。
 私は大学2年のときに株式投資で飯を食っていこうと決め、学部と修士課程では証券学を専攻しました。そして最後の仕上げとして公認証券アナリスト(CFA)の資格を取得し、今では予定どおり株式投資で生計を立てています。株式投資は仕事ですが、実際には有給の趣味のようなものです。私はついに世界でベストの仕事を手に入れました。家族や友人が許してくれるなら、私は毎日24時間株式投資に没頭しているでしょう(アメリカに移住してきたいきさつについては「まえがき」を参照)。

投資家 どのように株式投資を教育と著述に関係づけているのですか。
カツェネルソン 大学が私のために株式投資のクラスを設けてくれたので、仕事の一環として実践的でおもしろい講義を心掛けています。ここには学生という固定客がいます。

投資家 著述についてはどうなのですか。
カツェネルソン 投資教育に携わって数年がたったころ、株式投資について何か書いてみたいという強い情熱がわいてきました。私は株式投資に関して深い洞察や興味があることについてしか書きません。フィナンシャル・タイムズ紙や金融コミュニティサイトのミニアビル・ドット・コムに定期的に寄稿しているほか、ロッキー・マウンテン・ニュース、ダウ・ジョーンズ社のマーケットウォッチ、人気のマネーブログであるモトリー・フール、ザストリート・ドット・コム、リアルマネーなどにも記事を書いています。本書は株式投資家と投資教育家、著述家という私の3つのキャリアを集大成したもので、私はこの3つの仕事をすべて同じように重視しています。

投資家 レンジ相場について書かれた本はあまりなく、ましてやレンジ相場の投資戦略について書いた本はまったくといっていいほどありませんね。
カツェネルソン ほとんどの投資本では強気相場の投資戦略しか書いてありません。これはビジネス的な理由から仕方がないのかもしれません。書籍も売れなければビジネスにならないので、多くの投資本はすべての投資家が儲かる株価の上昇期、すなわち株式投資と投資本に対する人々の関心が最も高まる時期に出版されます。これが大きな落とし穴で、実際の株式市場では大きなトレンドのないレンジ相場がかなり長期にわたって続くのです。平均的な一般投資家にとってそうしたレンジ相場はあまり儲からず、おもしろくもないのですが、そうした投資家に甘んじている必要はないのです。私としては皆さんがこうした難しいレンジ相場の時期でも債券や現金に逃避することなく、強気相場と同じように株式投資を続ける忍耐力を持ってほしいのです。本書は上下の振幅の激しいこうした難しいレンジ相場から相応の利益を上げるための実用書なのです。

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■第9章 買いのプロセス――求められるのは規律ある行動
 大切な投資のプロセスと規律 (より抜粋)

ツキが回っているときに賭けると、勝機がこちらに向かっているので、実際にはその賭けに勝っても負けてもなにがしかの利益は得られる。しかし、ツキが離れたときは勝機も去っているので、実際にその賭けに勝っても負けても損失となる
――デビッド・スクランスキー著『ザ・セオリー・オブ・ポーカー(The Theory of Poker)』

 アクティブな投資家はその生涯を通じて、何百回または何千回という投資決定を下す。もちろん、そのすべてが好成績につながるわけではなく、勝ったり負けたりする。われわれ人間はその決定プロセスよりも、結果に目を奪われがちである。人間の行動を見ても、簡単に分かるのは良いか悪いかという2つのどちらかでしかない。しかし、そのプロセスははるかに複雑で、目に見えない部分もかなりある。偉大な投資家の心の中では、ひとつの行動に至るプロセスと偶然(運)がはっきりと区別されているが、予知能力のないわれわれ一般人は偶然から学ぶことはほとんどない。したがって行動に至るプロセスを学び、そこから何を得るのかを知ることが重要となる。成功する投資家になるには、成功するプロセスとそれを順守する能力(または精神力)が必要なのである。

 数年前に出張したとき、少し時間があったのでカジノに行ってブラックジャックをしたことがある。そのときはツキがないと思ったので、負け金を40ドルまでとした。数時間楽しんで何杯かのドリンクを飲めば、もとは十分に取れるだろうと思った。私はあまり大きなギャンブルをしたことがなかったが(大きく儲けたこともない)、出張の数日前に地元の本屋の古本コーナーでブラックジャックに関する1冊の面白い本を見つけた。そのなかにトランプカードは正しくプレーすれば、カジノ側の優位性を2〜3%引き下げて0.5%くらいにできると書いてあった。

 40ドルの資金からできるだけ多くの利益を出すために、私は掛け金が最も少なくて済む場所を探した。少なく賭けて時間を稼げば、私からお金を奪うカジノ側の優位性を少しでも下げることができると考えたからだ。私が座ったテーブルには少し酔った品のない男がいて、彼は私に何回も「今日は給料日だよ!」と叫んでいた(実際、彼は100ドルほどの札束を握っていた)。私は本に書いてあったことを実行したが、うまくいかなかった。ツキはなく、40ドルの軍資金はプレーするたびに少なくなっていった。

 まもなく、その男は変な行動をとるようになった。ディーラー(カジノ側)のカード数が6、その男のカード数は18なのに、もう1枚のカードを引こうとしていた(運良く3のカードを引けば最高点の21になるが)。酔った男は自分のカードにあまり集中してはおらず、「ヒット・ミー(もう1枚)」と言ったのである。

 私はと言えば、「正しい決断」をすればするほど負けが込み、その男は「間違った決断」をすればするほど勝っていった。私の軍資金が乏しくなっていくのに、彼は利益を積み上げていった。彼の連勝とその大きな声や振る舞いに、何人かの野次馬が集まってきて「これはすごいや」などと話していた。黙って負けていた私にはだれも注目しなかった。

 しかし、この男にはギャンブルのプロセスというものがなかった。彼は酔って賭け事をしていたので、統計的な勝利の確率はかなり低かった(もっとも、とりあえずは勝っていた)。私は統計で武装し、すべてのプレーで勝率を最大限に上げようとしていたが(ツキがなかったので、損失を最小限に食い止めると言ったほうが適切かもしれな

い)、実際には負け続けていた。

 数時間後、無料の酒を何杯も飲んだこの男は、調子に乗って賭け金をどんどん増やしていった。結果は私の予想どおり、これまでの「給料」をすべてカジノ側に取られてしまった。一方の私はあるときに数ドル負けたが、その後にツキが回ってきてそれまでの負け分の多くを取り戻し、結局10ドルの損で済んだ。「これは大成功だ」。数杯のビールを飲み、数時間のギャンブルを楽しみ、しかも貴重なギャンブル(投資)の教訓を得たからである。

 その教訓とは、「結果よりもそれに至るプロセスに多くの時間をかけろ」というものである。もしも偶然というものがなかったならば、われわれのすべての決定は良いか悪いかだけの結果となる。そしてそのプロセスは最終結果だけで判断されることになる。しかし、投資(ギャンブルでも)には偶然が付き物であり、決定と結果だけしか見ないのは危険なことである。偶然から間違った教訓を引き出すこともあるからだ。

 少なくとも投資においては、「規律」という言葉の定義には2つの意味がある。

●ひとつは「ルールに基づく売買システム(体系的な投資法)」
●もうひとつは「それを順守するための自己規律」

 最初の定義を「株式売買のプロセス」、二番目の定義を「そのプロセスを順守するための自己コントロール」と言い換えてもよい。「規律ある規律」といったような表現で頭が混乱しないように、以下では最初の定義を「投資のプロセス」、二番目の定義を単に「規律」と呼ぶ。

 これまでは企業とその株式の分析に焦点を当ててきたが、以下の章では実際の株式売買のプロセスについて検討していく。私は投資のスタンスがあまり野心的でないほうが規律を持って株式売買のプロセスを順守できると思う。ブラックジャックをしていたあの酔った男には成功をつかむギャンブルのプロセスがなかったので、「カードをもう1枚」と言い続けていた。彼にとっては1時間に2回のビールを注文するという規律のほかには、規律を持って順守するギャンブルのプロセスがなかったのだ。たとえその日はブラックジャックで大きく儲けたとしても、(幸運の神がいたずらをしないかぎり)何十時間もプレーすれば、彼には勝てる(または損失を最小限に抑える)チャンスはまったくない。この男には成功に至るプロセスも、それを順守する規律もないからである。


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